魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

文字の大きさ
上 下
622 / 681
18章 魔法少女と神の使徒

592話 好きだから

しおりを挟む

「空あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、まっ、まぁぁぁぁっ!?」
2人の叫び声が空中を切り裂いていた。目の前……下には魔法少女がいた。

—————————

「結構、苦戦でした……」
木陰で一息吐くのは、軍服をパタパタさせる百合乃。彼女の視線の先には、一体の死体が映っていた。

 胸には紫色の剣身を持つ、薄いが何よりも硬い剣、帝剣が刺さっていた。

 ここまでの戦いを振り返り、ぷひぃーと豚みたいな音で深呼吸を繰り返した。

 仮定未来眼で未来を予測し、何とか最後に人差しすることができた。向こうは、こちらの武器をサーベルだけだと勘違いしてくれていたから、何とか勝てた。

「敵に塩を送られた気分です。」
納得していないような、少し不服さを孕んだ顔つきで目を細めた。

「あれは、皇帝の剣ね。」
「よく知ってますね。」
「未来で何度も見ました。今となっては、もう訪れることのない過去。」
「かっこいいこと言いますよね、ラビアさん。」
「別に、さんは要らないわ。面倒でしょう。」
何か気にするわけでもなく、心からそんなふうに言った。

「なら、私のことは百合乃でいいです。」
「最初からそれですが。」
「まぁ、改めたよろしくっていうことです!」
「やたらテンション高いの、何なんでしょう。」
冷めたラビアと対照的な百合乃のコンビは、でこぼこな関係で繋がっている。対照だからといって、別に百合乃が温かいわけではない。

「もう、休憩は終わりにしましょう。」
ラビアはよっこらしょと、老人のようなセリフを吐きながら立ち上がる。実質30代後半なのだから、しかたない。

 百合乃も続けて立ち上がると、身を屈めて背を向けた。ラビアは一歩下がった。

「早くしないと、空が危ないです。」
「その、もうおんぶは……」
「危ないです。」
「私の方が危ないですが。」
そんな抵抗も虚しく、ラビアは百合乃の背に乗せられ新型ジェットコースターを体験することになった。


 かくかくしかじかあり、2人は空の姿を発見した。したはいいものの、なんか地面に這いつくばってる。
 よく分からない男の子がそこに現れる。

 どういう状況か、一切の理解が及ばなかったが、とりあえずこれだけは分かった。

「斬りましょう。」
「判断が早すぎません?」
「判断と新幹線は早いほうがいいです。」
「それは漢字違いの『はやい』では。」
百合乃専属ツッコミマシーンと化したラビアは、その定位置に収まりながら陰に潜む。バレたら、色々不味そうな状況だ。

「でも、放っておいたら空死んじゃいますよ!」
百合乃はなりふり構わず飛び出そうとする。

「せめて、特攻以外の方法にしませんか。」

 そして冒頭に戻る。

 魔法少女との戦闘に夢中になっている男の子から離れた位置で空高く飛び上がり、隙をついて斬った。なにやら苦戦していたので、出し惜しみはせず断絶で斬り裂いた。
 すると、見事に頭と体が分断した。

 叫ぶと同時に魔法少女はこちらを振り向き、理解する前に百合乃のダイナミック抱擁によって意識を飛ばされた。

 こうして、百合乃と魔法少女は再会した。

—————————

「空?目、覚めましたか?」
心配そうに目を細めた百合乃が、魔法少女の視界にいの一番に飛び込んだ。

 一瞬、身を捩ってこっちに寄ってきた百合乃から距離を取った魔法少女。あの、抱擁の瞬間に感じた確かな恐怖が身に染み付いていた。

「……ウィリー、どこいった……?」
「ウィリー……?か、どうかは分かりませんけど、そこに。」
指を差した先には、見せられないよ!が付きそうなそれはもうグロテスクでスプラッタなワンシーンが切り取られていた。

 具体的に示すならば、とりあえず首の断面が綺麗にこんにちはしており、あたりに物々しい赤黒い血液が浸透して土を染めていた。
 今もまだ、ゆっくり血が滴っており、ポタポタとまるで部分的に生きているように……

「気持ち悪っ!」
一瞬で背中を向け、手を口で抑える。あわや、虹が出るところだった。

「大丈夫です……?」
「だいじょばない!ぜんっぜんだいじょばない!」
胃液が食道まで昇ってきたところで、薄く涙目になりながら叫ぶ。

 さすがの魔法少女も、ここまでえげつない死体を生み出すこともなければ、ここまで多量の血液を目にすることも稀だ。

「というか、なんで百合乃……」
なんとか立ち直り、記憶から消し飛ばさんとばかりにファイボルトで肉片すら残さずに焼却しながら尋ねた。

「空が心配で心配で……」
何かを貼り付けたようなぎこちない笑み。

 横を向けばラビアが、苦い顔で明後日を見た。

「ねぇ、バラしたのラビアでしょ。私の居場所、普通分かるわけないもんね。バラしたでしょ?」
「いえ、バラしたとはとんでもない。少し、口を滑らせただけに過ぎないわ。」
「それを世間一般ではバラしたと言うんだけどなぁ?」
転生者が3人揃い、する会話ではない。

 百合乃を見る。どこか、一歩引いているような気もする。普段なら、ところ構わず抱きついて……
 いや、それはもうきたな。そう思って頭を振る。

 でも、少し様子がおかしい。

 百合乃が数歩魔法少女に歩み寄った。一歩、魔法少女は下がった。

「空。」
「……なに?」
トーンがいつもより低く感じた。いつもの声なのに、いつもより重い。

「もう、こんな危険なことしないでください。約束です。」
「それは、しかねるなぁ……」
そりゃあそうだ。守りたいものを守るために、大切のために戦っている。

 ……今回は、その守りたいものに危険を負わせてしまった。したくない、させたくない。そう思っていたのに、後悔したのに。

 ぎゅっと、小さな手を握りしめた。

「戦争が終わった後も、空、変でした。ずっとどこか、変に覚悟を決めたような、変に諦めたような、もう、死ぬ覚悟をしたような顔を……」
尻すぼみになっていく声に比例して、百合乃の目さ涙を流させる。

「どうして、どうしてっ!近くにいた、わたしに、わたしにぃ、相談のひとつもしてくりぇなかったんですぅ!」
呂律が回ってないながら、強く意志をぶつけた。その勢いのまま、魔法少女に飛びこんだ。

 これを突き放すほど、魔法少女はできた人間じゃなかった。
 やっぱり、死にたくない。そう思った。思ってしまった。

「もうっ、もう!もう!絶対に離しません……今回はもう、許しません……」
「ごめん、百合乃。」
「許しません……許しませんっ、……っ、っ…」
堰を切ったように泣き始め、水溜りでも作る勢いで涙をこぼして、なすりつけて、流して。

「ごめん。」
「もう、会えないかと……っ!死んじゃうんじゃないかって……!」
ずっと堪えてきた分が、今になって全て出てきたみたいに、涙が止まらない。

「ごめん。」
それ以外、魔法少女にはかける言葉がなかった。百合乃が泣くのを、ただ目の前で見ているだけ。

 ぽんぽんと、優しく殴りつける。

「わたしを、頼ってくださいよ……辛いなら辛いって、言ってくれなきゃ、わかりません……!」
「…………」
魔法少女は言葉を飲み込んだ。

 長い静寂が流れる。寂寥とは違う、温かみのある時間。でも、言葉はない。

「言わないなら、わたしが言います。」
涙も引いて、赤みが増した目元の百合乃は言った。

「好きです。わたしは、空と出会った時から今まで、ずっと、ずっと空が好きです。大好きです!」
「知ってる。」
短く答えた。

「いつも何だかんだ助けてくれるところも、優しくしてくれるところも、悪戯しても許してくれるところも!たまに冷たいけど、そこも、全部、全部全部ぅぅ!大好きぃぃぃぃ!」
悲鳴を上げるように、何度か裏返りながらも、その言葉を形にしてみせた。

 だから、伝える言葉はひとつだけ。
 魔法少女は、最初からこの答えを持っていた。

———————————————————————

 思いつきで千変万化するこの物語、百合乃が真面目に空さんに好意を伝えたことがないということに気づき、告白させました。
 ちなみにあのセリフは、考えていたものでも用意していたものでもなく、頭にいた百合乃さんが叫んでいたので、場を用意して書いてやりました。

 coverさん、やっさしぃー。

ラビア「私は一体何を見せつけられているのでしょうね」(一番の被害者より)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...