魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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18章 魔法少女と神の使徒

590話 君のために

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「空は、山脈より少し西側の位置におりますね……」
グロッキー状態のラビアは、百合乃の背の上で呟いた。

「わっかりました!」
「ちょ、スピード!スピードは落としてください!」
そんな叫びは聞かれず、全速力で王国を駆け回る。

 直線距離で言えばそれほど離れてはいないが、鬱蒼とした森林に阻まれている。
 しかし、北の森林と東の森林の間にはほんの少しだけ隙間があり、山脈に繋がっている。そこから沿っていけば、時短になる。
 急がば回れとはこのこと。

「今は、何が起こってるんです?もう少し詳しく知りたいんです。」
ダッシュの間。暇つぶしをするように声をかける百合乃。

「……今の私に、聞かないでもらっても……?」
「ジェットコースター苦手なタイプですか。」
こんなものジェットコースターが好き嫌いとかそういう次元じゃない。なんていう言葉を吐けたなら質問にも答えられる。

 百合乃におぶられている状況。支えられているのは脚の付け根。そこを中心にすると、中心から離れた頭はその分揺れは大きくなって、グワングワンと脳が揺れる。

 これをあと、どれだけ耐えればいいんだろう。王国も合衆国も帝国も、世界全部が危険だとか、もうどうでも良くなってきた。
 実感のある恐怖の方が怖い。

 変わる景色で気を紛らわせようと景色を目で追っていると、突然動きが止まった。

「着きました……か?」
「いえ、何かいます。」
現在は山脈の半分くらいだろうか。魔法少女は壁を展開し、その壁の辺りにいる未来を見た。

 これでも頑張った方だ。
 あまり先の未来は見えなくなっている。魔法少女が切り捨てて、未来が不安定になっている。ちょっとしたことで改変されて、形がバラバラになる。
 風が吹けば桶屋が儲かる。バタフライエフェクト。そういった類の状況。

 ラビアは視線を彷徨わせて、ある一点に向いた。

「……使徒です。」
「使徒です?」
当然の疑問に、当然のように返す。

「神が力を与えた、神国の民。未来では、世界の全てを焼き尽くしました。」
「世界の全て…………っ!」
百合乃は何かに気づいたように目を見開いた。しかし、答えを口に出す前に炎が飛ぶ。

「全てを燃やします!絶対に当たらないでください!」
理すら燃やしてみせる、凶炎が目の前に迫っていた。ごうごうと激しさを増すそれがぶわっと目の前に広がる。

「縮地!」
百合乃の姿は炎の中に消えていった。

「百合乃っ!」
「こっちです。」
しかし、思ったような絶望は訪れなかった。炎はどこかへ飛び去り、声は後ろから聞こえた。

「へ?」
「ラビアさんって意外と変な声出るんですね。」
「……どういう原理なのかしら。」
振り返った先の少女を睨むように見る。

「知りません。勝手についてきたスキルですし。」
惚けた顔をしているが、本当に分からなさそうだ。

「それより、あれなんです?」
少し汗ばんだ様子の男が、木の影から手を伸ばしていた。

 所詮は素人。避けられさえすれば、周囲が燃やされるというデメリットはありながらも戦闘は可能だ。

「あんな素人、舐めないでください。」
また、その場から消えた。その時には敵の目の前に移動しておりマジックのような曲芸に目を見張る。

 そこからは早かった。
 抜刀したサーベルを振ると、見えなかった気配を感じられるようになり、その直後衝撃が四散し5名の死体が出来上がった。

 うぇ、と心底嫌そうな言葉と共に血液を振り払う。

「その……抵抗とかはしないのですか。」
「向かってくるのはこっちを殺す気でいる敵です。容赦する方がわたしは馬鹿だと思いますけど。」
それでもやっぱり嫌そうに、鼻をつまむ。

 確かに、血液の独特の匂いは嗅いでいたいような匂いではない。
 何やら、地面で炎上を始めた神炎で早々に火葬で葬送する。

「空は、これを止めるために必死だったんですね。」
絶対に燃えなさそうな石を投げ込んだ。溶けるように燃え尽きた。

 こんなものが王都に放たれようものなら、人なんて紙切れと変わらずに破壊され尽くすだろう。
 神に挑むなんて、荒唐無稽な世界に踏み込んだ魔法少女を想い、拳を握る。

「差し詰めなんでも溶かす炎ってとこです?……こんなの、空だけの問題じゃないです……」
俯き気味に、潤んだ瞳で呟いた。

「早く、行きましょう。手遅れになる前に。これを知った空が、何の対策もなく戦闘をするとも思いませんが。」
まるでゲームの攻略サイトでも見ているように、何とか解決案を見出してくる。

 それがギリギリなのは、肝が冷えるからやめてほしい。

「ですね。」
「やっぱり、歩きません?」
「嫌です。」
「歩きたいのですが。」
「ダメです。」
有無を言わさず、百合乃はラビアを背負っていった。

 また、並行移動ジェットコースター耐久戦が始まる。


 走り続けて、山脈の終わりも見えてきた。遠目に長い壁も見え、ここがゴールだとクラクラする頭がほっと安らぐ。

 道中も、使徒は多く攻めてきた。
 斬っても、斬っても、被害が大きくなるばかりでキリがない。このままでは、王国崩壊も時間の問題そうだ。

「まだ、終わらなさそうです。」
百合乃は、再度ラビアを下ろした。その辺りの木にふらつきながら、手をつく。

「誰です?わたし、勘はいいんです。」
ぱちぱちぱち。乾いた音、おそらく拍手が聞こえてくる。

「何がしたいんです?」
警戒と苛立ちを混ぜたように声を張る。

「創滅神が下さった御力をここまで防いでみせるとは、圧巻だったぞ。」
木の影から、人間が現れた。初老の男性だ。

「罪人に名乗る名は無いが、誰に殺されたかも知らず死に行くにはもったいないものを見せてもらった。」
「だから、何の話です?」
怪訝な目を歯牙にもかけず、男は笑った。

「アズリア神国教皇、ゼビエンだ。」
「冥土の土産だ」なんて言って、押し売りのように語った。

「そんな土産要らないので、返品をお願いします。」
「なら、そのまま死んでもらうぞ。」
炎が舞った。ノーモーションからの攻撃。

「木葉舞っ!」
「ほう、剣技の動きで避けるか。」
その炎の軌道の先には、ラビアがいた。

「……なんで、こうまた不運は私へ向かうのでしょうかね……」
小指には、指輪が。

 炎はラビアが寄りかかっていた木に直撃し、炎上。避けられるはずもなかったラビアは、真逆の木に背をつけていた。

「小賢しいな。」
「こっちも無視してもらっては困りますっ!」
魔断と衝撃断のこもった剣が振る。ゼビエンは、炎の剣を持ってそれを防いだ。

 一瞬の疑問と共に、危機を即座に察知し剣を押す勢いで飛び退いた。
 空中では天震の圧で移動をコントロールし、太陽で姿を隠すように飛び上がる。

「魔刃!」
遠距離の動きに転じ、攻撃を繰り出す。

「温い!」
「そうです?そうでもないですよ!」
今度は、衝波の反動でドロップキックを喰らわせた。もちろん、これはブラフ。

 仮定未来眼で、最低限の未来は見える。

「俊刃。」
炎の壁が張られる。そう分かっていればあとは簡単。それより早く攻撃し、アウェイ。遅れて炎が出現した。

「っ、神の使徒に傷を……」
晴れた視界の奥には、肩から出血するゼビエン。見事的中した。

「さ、終わらせましょう。こんな馬鹿げた戦いは。」
不幸しか生まないこんな悪戦。止めなければならない。

 そして、もうひとつ。全てを解決しようとする魔法少女の行動も、止めなければならない。
 自己犠牲なんて、誰も望まないのだから。

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 思ったより、早めに終われそうな気がしてきました。
 ……多分、後日談とかでめちゃくちゃ話数食うと思いますけど。
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