魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

文字の大きさ
上 下
619 / 681
18章 魔法少女と神の使徒

589話 魔法少女は急展開

しおりを挟む

 冬が近いせいもあって、昼でも肌寒い。そんな中、私は熱い熱いと言いながら消火活動に徹していた。
 冬は物が乾燥するから、燃えやすい。

 みんなも火の元注意だよ!

「なにやってんだろ、私。」
ネイファの襲撃後、燃やされてしまった王都からは無意識の絶望が漂っていた。

「いや、私いい子じゃないから。サンタさん絶望のプレゼントとかいらないから。」
軽く手首を振って、ないないと呟く。

 さぁてご覧ください、この惨劇を!

 右向けば燃えた家々!左向けば燃えた家々!正面は焦げた道路!後ろも道路!

「私の仕事増やすなっ!」
実際、もう消火からだいぶ経ってしまった。小規模で済んではいるものの、だいぶの損害だ。

 またボランティアかぁ……
 生きてればだけど。

 学園を思い出す。ネルも思い出す。安否が危ぶまれる。

「なんか、手のひらで踊らされてる感あるなぁ。」
こうやって色々考えているのがバカらしくなるような、そんな言葉を吐いて、報告に向かうのだった。


「ネイファが侵入?」
魔神は状況監視をしながら、耳だけを傾けて言葉を返す。

「そう。それで、燃やされちゃった。」
「ちゃった、で済む話じゃないとボクは思うけどな?」
覇気がこもった、嫌な気配が充満しだす。

 いや、これ私のせいじゃないでしょ。ね?ほら、ネイファがくるとか想定外だし、都合もいいし。万々歳だよね?

「復興は王都民でどうにかなるとしよう……防衛も順調。希望の演出と絶望の演出の下地もできているし、キミはじっとしていてほしい。」
「ほんとに、上手くいく?」
「創滅神はそうそう、チャンスを見逃すようなバカじゃない。最大の絶望の瞬間が来る機会を今も狙っているはずだ。」
そう語る魔神の顔には、あまり自信らしき表情は感じられない。

 魔神もずっと働かせっぱなしだし……そろそろ、休んでもらいたいんだけどな。
 私ばっか文句言って、四神はやってるのに。

「ねぇ、監視交代……」
魔神の姿が消えた。

 え……なに、これ。

 嫌な予感は的中した。
 でも、これは前段階なのかもしれない。

 僅かに残った理性が、冷静さを引っ張り出してきた。私の体は、ゆっくりと動いて様子を探り出す。

「魔神!?っ、魔神、ヴァルディート!ヴァル!」
どんな名称で言っても、返事はない。答えてはくれない。その瞬間、ポケットが揺れた。

『作戦は全て放棄だ!全員、死ぬ気で生き残れ!』
「魔神……?」
ポケットの通信機の、緊急連絡の機能だ。私が戦時中に使ったのと、同じ機能。

『災厄が始まる……ボクらは大きな勘違いをしていたんだよ!どうして、未来は変わらないと勘違いしていた?ボクらは未来を変える立場だったのに』
魔神の叫びの中には、轟音が時折混じる。

 なんなの、この急展開……

 何をすればいいのか分からない無力感に、歯痒い思いをする。

『いいか?ボクらの誰一人でも欠ければ、幸せな未来なんてやってこない!絶対生———』
機械音がツーとなって、言葉は途切れた。

「そうか……」
嫌な予感の正体に、嫌なタイミングで気づく。

 あの未来では、私達の動きが遅かった。弱かった。悪かった。だから、最低限の最悪で絶望が訪れた。
 今は違う。準備して、使徒は追い払える。

 その前提があったから、『簡単だ』だなんて思えた。

 簡単だったなら、もっと難しいものを用意すればいい。そんな準備、創滅神ならしているはずだ。
 未来でも見たはずだった。底意地の悪いあの神を。

「なんでもっと早く気づかなかったんだ……私!」
自分の鈍感さに嫌気がさしてくる。太ももを殴った。

「王国が危ない……」
のろのろと、ふらつく足取りでイグルの家を飛び出した。

—————————

 魔法少女側、圧倒的劣勢。

 霊神、人神、『神の使徒』と交戦。
 龍神、使徒との連戦。使徒は移動を開始した模様。
 魔神、神の雫と交戦。
 魔法少女、移動開始。

 創滅神、手駒の移動を開始。絶望のカウントダウンを始める。

 百合乃及びラビア、全力疾走中。

—————————

 とりあえず、防壁の前にやってきた。一部が焦げつき、焼失して凹んでいる部分もある。さすが、神の炎。普通の壁なら、紙切れほどの障害にもならないだろう。

 登るための跡も確認できており、だいぶ侵入されているなと我ながら驚くほど冷静に判断する。

 ここで焦っても、一銭の得もないしね。

「神国の人達、いない……?」
感知は、炎の影響か使えない。半年間培った実践スキルをフルで使って、気配を探る。

「っ!」
私は、今まで出したことのない最大速度でステッキを振り抜いた。

「おぉ、これを防ぎますか。ミスソラ。」
嫌な声が鼓膜を震わす。中学生くらいの男が、私にマグロを斬る刀のようなものを壁の上で振り下ろしていた。

「お仕置き、されてるんじゃないの?」
「緊急時だったので、見逃してもらいましたよ。」
刃がついているというのに、手のひらでポンポンと弾いている。痛くないのかな。

「私、殴られたことまだ恨んでるからね。」
「そうですか。」
「ウィリー、だよね。確か。」
「あいつ、余計なことを吹き込みやがったんですか。」
はぁーあ、とため息ともあくびともつかない息を漏らす。

「創滅神様の命令により、ミスソラ。あなたを地獄へご招待いたします。」
「その招待届け、不参加で提出したいんだけど。」
そんな間抜けた会話が戦闘の合図となった。

 今の私はあの頃の私とは違うから……いける?

 不安は膨らむが、やらないわけにもいかない。
 創滅神を相手取るなら、こんな雑魚に負けるわけにはいかない。

「以前より早いですね。」
「そりゃどうも。」
重力世界をノータイムで展開する。

「体が重い……?」
「確か、こうだっけ!」
ウィリーの隙を見逃さない。左手にステッキ、右手にラノス。ラノスの銃口でウィリーの腹を殴りつける。

「……がっ!」
異常に痛がり、そのまま発砲。壁の上に乗っていたウィリーは、転げ落ちる。

「体内の魔力を暴走させて痛みを誘発する。へぇ、やればできるものだね。」
追加で、使う機会を失っていたアレをマガジンにセットし直した。

「ファイアブースト。」
壁の外、その下に落ちたウィリーに立て続けに撃ち放つ炎弾。通常弾の方が使い勝手もいいし、大量生産もできる。

 コピーをコピーって、なんか変な感じ。

 かろうじて避けられるが、避けきれずに右肩にヒット。

「僕に傷を僕に傷を僕に傷を僕に傷を!」
「うわ、やべこいつ。」
神速と同じような速度で迫り、私に斬りかかる。でも、直線攻撃に反応できないほど、今の私は雑魚じゃない。

 あの頃より、私は技量の方を上げたからね。先輩のおかげで、体術もあるし。

 ラノスの背で左側に受け流し、ついでに足を払う。それでも踏ん張ってくるので、一旦離れて炎弾をかます。

「死ね、僕の体を傷つけた愚者が!」
「責任転嫁すんな!」
それを追うスピードは尋常じゃない。さすが、神が遣わした本物。でも、こいつはやっぱり雑魚らしい。

 それに苦戦してる私が言ってもなんだけどね!

 ここまで上手く戦えているのは、向こうに意思があるから。私を舐めてるから。だから、攻撃を与えられた。
 もう、次からガチでやらないと無理だ。

「バレットブースト!」
パァァンッ!という音を4度響かせ、しかしそれは切り捨てられる。トライアングルを描くようにして。

「ま、もう一弾は別方向だけど。」
ウィリーの背後に、空壊輪。

「効くかっ!」
その気配をいち早く察知し、回転の勢いと共に銃弾を弾き返した。ブーストしてるのに、よく弾けるものだと感心しながらウィリーの体にステッキを当てる。

「トール。」
ばちばちと魔力を迸らせ、強烈な電撃が流れる。それを、間近で確認した。

「ちょっと向こういって……て?」
「まだ、終わらない……」
手首を掴まれた。

 え、は?……まじ、まだ動けるの……

「終わらせない!」
腕を強引に引かれ、頭突きを喰らう。ディディーにやった技を、今度は私が受ける。そのまま、蹴りが腹に入る。

「ぐふっ……っ!」
更に、自分で作った壁に背中を打ちつけた。魔法少女服の防御がなきゃ即死の一撃。

「仕切り直しだ、ミスソラ。」
刀を私に向けて宣言した。

———————————————————————

 ウィリーとか、覚えている人います?私はもちろん忘れていました。
 なんか、キャラ名をメモしたアプリにウィリーの姿がいたもので。そしてこんな急展開になりました。つまり、思いつきです。

 やったれいったれcoverさん!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

処理中です...