魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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18章 魔法少女と神の使徒

588話 隣に立ちたい

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「なっなに、何するんですかぁぁぁぁぁ!?」
「舌噛みますよラビアさん。」
軍服を身に纏った少女、百合乃は鬱蒼とした森を全く感じさせない走りを見せていた。ラビアを背負って。

「本来、そこの指定席は空なんですよ?そこを、譲ってるんです。感謝してほしいくらいです。」
理不尽な一言に苦言を呈す余裕もなく、ぶんぶんと頭を縦に揺らしながら背負われていくラビア。

 ここまで至ったのには、わけがあった。


 意識を失った後。目を覚ましたのは、馬車の中だった。独特な揺れは感じない。あのお尻が極限まで柔らかくなりそうな……腰が悲鳴を上げるような振動はなかった。

「目は覚めましたね。」
覚めましたか?ではなく、もっと他人行儀な話し口。どうやら、馬車の中で寝ていたようだった。

「これだから、貴方には会いたくなかったのですけどね。国王がどうしてもと煩かったの。」
凛とした佇まい。一度戦時中に見た。ラビアだ。

「らび、あさん……」
「声、掠れていますけど。」
飲みますか?と、水の入った筒を渡してきた。

「毒なんて、入ってませんよ。」
百合乃の手から筒を奪うと、蓋を開けて少し飲んだ。飲み口をさっと拭いてから、それを百合乃に手渡した。

「これ、飲めってことです?」
「飲まないのなら、私が飲みますけど。」
「飲みます。」
好意は素直に受け取る。空もそう言うだろうと、一応の信頼を持って水に口をつける。

 潤った。舌に染み込み、喉がなり、更に空を欲した。体の6、7割が水分というが、それも真実味を帯びるような喉の渇きようだった。

 そこで初めて、喉の渇きを自覚した。

「愛の力とは凄いのですね。」
「……水、ありがとうございます。これは返したほうがいいです?」
「いえ、流石に他人の飲んだ水筒を受け取る趣味はないですから。」
「それ、遠回しにわたしがこれを飲んだことに引いてます?」
苦笑で返して、沈黙が訪れる。

「百合乃さん、でしたっけ。青柳百合乃。日本人。」
「ラビアさんは、名前は?」
「ラビア・イニシスです。」
「日本の名前を聞いてるんです。」
「夕陽技千種。夕陽に技で夕陽技、千の種で千種。貴方より、少し年上らしいということは分かります。」
そう言って、視線を寄越した。

「千種さん、お願いがあるんです。」
「嫌です。あと、今の私はラビアですから。」
「何も言ってないです。あと、どっちでもいいです。」
「真似、しないでもらっていいですか。」
ジト目を送った後に、まるで予知でもしていたかのように、当然だと言わんばかりに話をしていく。

「どうせ、空さんの居場所の特定でしょう?」
「心でも読めるんです?」
正解だった。己の心が読まれていないかと、一瞬ヒヤッとする。

「私のスキルは予知以外ありません。貴方がわかりやすすぎるだけですよ。」
「わたしの愛、そんなに強かったです?」
照れて言った。照れるところではない。

「少し調子が戻ってきているようね。」
「あの、その堅苦しいのやめません?空にはもっと柔らかかったような気もしますけど。」
「空は命の恩人ですから。」
「……じゃあ。」
「だからこそ、貴方に居場所は教えられません。」
なんで、と追求する前に言葉が紡がれる。

「この状況、最低限はお教えしますので。それを聞いたら、帰ってもらいます。」
国王に代わって、ラビアが説明をすることとなった。

 王都の状況。周囲の状況。それらを、雑に説明された。紅銀髪の冷静な佇まいからは想像できない、適当さ。

 ラビアは興味のあるものにはとことん力を入れるが、ないものはとことん適当だ。
 ぶっちゃけ、ノストラダムスで婚約相手の未来を見ているのも事実作りで結婚しないための方便だ。

「……ラビアさん、もっとしっかりしている印象があったんですけど。」
「偏見で物事の判断しないほうがいいですよ。」
「ほらー、捻くれてます!わたしにだけ捻くれて千切れそうです!」
「千切れません。」
「千切れます!」
会話が斜め四十五度あたりをふらつき始めたあたりで、ラビアがため息を吐く。

「本当に、空は愛されていますね。」
「愛してますから。ラビアさんも、ため息なんて吐いてると婚期が遠のきますよ?」
「…………体調は良くなったのでしょう?もう、帰っていただいていいのですよ?」
「嫌です。」
「浮気はよくありません。」
「これは尋問です。」
往生際の悪さに観念したように、ここにいることだけは黙って受け入れることにした。無論、居場所なんて言うつもりもない。

「気が変わるまでい続けます。」
「変わりませんよ。」
「人って簡単に気持ちは変わるんです。でも、一度変わった気持ちは固く結ばれるんです!」
どこか宗教じみたその発想に気圧されながら、「わかりましたわかりました」と分かっていない代名詞を呟く。

「空は貴方を、危険な目に合わせたくないんですよ。」
「分かっています。」
「その願いを無視してまで、貴方の願いを叶える必要があるのですか?」
「……分かりません。」
百合乃の視線は下に、自分の手に向けられた。この手で守りたい相手がここにはいない。この手は引かれて、守られるだけ。なんと情けない。

 助けられた日から、好きになって。一緒にいて、更に好きになって。だから、守りたくて。
 あの思い詰めて、いやに振り切った姿を見ていたら、もう次はないかもしれないと、次は無いんだと思い知った。

「分かりません……けど、このままじゃダメなのは分かります。だから、こうして頼んでるんです。」
「……このままじゃダメ、ね。」
馬車の車窓の外を見た。一度未来で見た限りでは、ここら一体は消滅する。

 魔法少女が未来を捨てた後のことは分からない。もう、何が正しいかなんて知りようがない。

 魔法少女が救われる未来は、なんなんだろうか。

「ラビアさんは、なんで生きているんです?」
「それは、死ねという意味なのかしら?」
「違いますよ。」
少し頬を膨らませ、機嫌を損ねたような声音になる。

「生きている意味……」
痛い所を突かれた。一度瞑目する。

 今もまだ何者にもなりきれない。惰性と後悔の絞り汁のような存在。それがラビア自身が認識する『夕陽技千種』という人物。

 『ラビア・イニシス』という本来生まれてくるべきだった少女の代わりに生まれてしまった千種には、自分の生きる意味が分からなかった。

 沈んで、後悔して、死んで。
 生まれ変わってどうするのか。後悔と安堵の気持ちのまま死なせてほしかった。

 でも、生きてしまった。生き返ってしまった。
 自分で死ぬ勇気もなく、生きたいと思ってしまって、命を救われたことにも感謝した。
 どの感情が正解なのか、いまだに分からない。

「わたしはあります。」
答えを取り繕う前に、思考をシャットさせるように遮った。

「わたしは空を守りたい。空と大切を守りたいんです。それがわたしの生きてる意味で、生きる意味。」
「生きる、意味……」
そういうことか。ラビアは心の底で納得した。染み込むように、ゆっくり心で受け止めた。

 生きる意味。だから、やりたい。生まれた感情は、全部正解なんだ。

 その生きる意味は、自分のためじゃなくていい。ラビアだって、動物達が無駄に死ななくてもいい世界を作りたい。そういう願いはあった。
 そんな大それた夢が生きる意味でもいい。そう言ってくれているような気がした。

 かもしれないなんて可能性はいくら考えたってキリがない。そんなこと、時を何度も超えて予知をしたラビアだからこそよく分かる。

「生きる意味、ですか。……いいですね、それは。」
「いいんです!」
「好きよ、私は。貴方のそういうところ。」
「告白は受け付けてません。」
「そういうところは嫌い。」
ひとしきり、笑ってやった。心にあったモヤを吹き飛ばすくらいには笑ってやった。

「それが生きる意味だっていうなら、空にとっても良い結末になるかもしれないものね。」
「ということは、です……?」
「少し待ってて欲しいのだけど。予知をしてくるから。」
悪戯っ子に戻ったような気持ちで、今度は自分の生きる意味を探すために百合乃の言葉を承諾した。

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 いや、そのですね?戦闘したかったんですけど、指が勝手にこんなことを打っていましてね?
 次回はちゃんとしますんで……
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