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18章 魔法少女と神の使徒
584話 魔法少女は一旦避難
しおりを挟む「ふぅ………………はぁああああああ!」
周りに誰もいないことを確認してから、私は全身全霊全力で叫び声を上げた。まるで魔物の咆哮だ。
「こわっ!あんなの、ミスって擦っただけでおしまいじゃん!ジ・エンドさよならあの世行きだよね?」
というか、私そもそも1回死んでるけど。そういうツッコミは無しの方向で。
「このプレッシャーを毎回受けるのは結構……」
ため息と一緒に頭に手を当てる。
「一旦、こっちと向こうで分けるか。」
全員隔離は無理という判断のもと、一旦の打開策を講じる。
魔神に言われた通り、塞いじゃおうか。
ラノスを収納し、隠れていた空壊輪も回収した。バレずに2キルもできたんだから、言う事なしだ。
軽く肩を揉みながら、集中力を高める。ステッキを地面に当てる。
左に山、右に山脈。後ろに森。川が流れているけど、どうせ蒸発させられるから壁にはならない。
だから、神炎だけに特化した壁を生む。
「地龍魔法……!」
ごっそりと魔力が抜けていく。けど、躊躇わない。どっちつかずの対応は逆に空回りする。
何のために溜め込んだ魔力なんだよってね。
戦争の後から貯めた魔力球の数は10個。時間もなかったし、それだけ集められただけマシ。
これを使い切る前に、神国はどうにかしたい。
使われる力に比例しない土壁の高さ。そりゃあそうだ。何キロあると思ってる。ベルリンの壁とまではいかなくとも、そのくらいの壁を生まなきゃならない。
「手ぇ、貸してやるよ。」
突然聞こえてきた声。その瞬間に膨大な魔力が流れ込んできた。
「……なにしてんの、蓮。」
「魔力送ってんだよ。俺の魔力はお前より上だ。もちろんステータスもだ。」
「なに?自慢するだけなら帰ってよ。」
「働いてんだろうが、進行形で。」
実際、魔力の流れが早くなり壁の高さは現在1メートルに接近していた。
「それ、私魔壊病にならない?」
「専用のスキルを使ってんだよ。」
「へぇ。」
便利なスキルだ。ちょっと欲しいとも思ったけど、私は消費が主だから使い所がない。
ま、たまにはいい仕事するじゃん。
そこからは早かった。10分もしないうちに魔力は尽きて壁は3メートルをゆうに超えた。
戦争の時、土壁作っといて良かったと思った。経験は、突然活きてくる。
「さてと。どのくらい、こっち側入っちゃってんのかな。」
「お前がチンタラしすぎなんだよ。」
「だったら蓮がやったら良かったじゃん。大変なんだよ、こっちも。」
足に力を入れ、跳躍する。前世の私……というか、人間なら不可能な跳躍力で壁に登る。
「ま、このくらいやればそうそう入ってこれないよね。」
残りは全て四神に任せることにした。
だって、ここまでやってあげたんだから休みたい。
私は踵を返して、壁から降りた。その際に、少しだけ細工をした。
「戻るよ。」
「戻るったって、どこに?」
「私達が戻れる場所とか、ひとつしかなくない?」
馬鹿にしたような視線を上げて、蓮の背中を叩いた。
「……ってぇな。」
「攻撃目的ではないから。」
ほら、と指を差す。そこは、イグルだった。
「お前も、大概チートだな。」
「そりゃどうも。努力の賜物です。」
チートであることは認めつつ、しっかり自分の頑張りも押し出すスタイル。なんか、努力を無視されんのってムカつくし?
「これから、どうする?」
「さぁね。こっから先は、私の未来にはあんまり頼れないから。未来を作っていかないと。」
「未来を作る……か。まるで主人公みてえだな。」
「ま、ぶっちゃけこんな世界の存亡を賭けた戦いに首突っ込んでる時点でみんな主人公ないしヒロインでしょ。」
ほら、魔法少女って主人公っぽいでしょ?と言ってぴーすでもして棒読みする。
「俺は主人公になるつもりなんかねぇ。んなもん、キラキラした勇者様にでもやるよ。」
「それは同感。」
面倒そうに捨てられたセリフを掬って返した。
私が進むのは主人公の道じゃなくて、私の道だから。
私達が捨てた『主人公』という役職を誰かが背負ってくれるなら、それはそれでいい。都合がいい。
私は世界のストーリーの脇道を渡る。渡りたい。
『そういうの、主人公しか言わなくない?』
だまらっしゃい。
忘れたわけでもなく、雨降ってるのに傘差してないのがかっこいいと思ってる中学生と同じような私の思考の弱点を的確につけるのは、同じ私だからだろうか。
「蓮は手伝ってくれるんだよね?」
「神を殺して、日本に帰す。これが条件だ。破ったら、殺す。」
「はいはい、殺されたくないしやるよ。」
前にも一度確認したようなことを、再確認する。頼もしいことだ。
「お前、笑うんだな。」
「そりゃま、人だし。」
そうやって誤魔化しながら、確かに笑ってることに気づいた。
異世界に来て、色々私変わった気がする。
あの時、ふと頭の中に浮かぶのは嫌な記憶。人生の大半を嫌な記憶が埋めているんだから仕方ない。
目を閉じてもぐるぐる渦巻いていた。
だけど、今は違う。
大切ができて、守りたいものができて、過去と決別して、最後にぶん殴ってやりたかったけど、中指立てれたしいいや。
人らしくなれてるような気がしてきた。
だから新しい私を作ってくれたこの世界を変えるために、通信機を握る。
「キリがついたら戻ってきて。会議を始める。」
—————————
一時撤退。言い換えれば逃げ帰ってきた私達と四神。イグルの私達の(勝手に使っている)家の定位置で、会議が始まる。
「今の状況、どんな感じ?」
「其方の壁で、一応防げてはいるようだ。」
人神は冷静に言った。でも、一応。完璧ではない。
「神炎の威力は思っていた以上だ。確かに、余のようなただの神もどき1人では対処できない。」
「協力が必要って、素直に言わないのが可愛いわよねぇ。」
不満そうに、人神はそっぽを向いて無視をきめた。
「ボクはキミの存在がいて良かったと心から思っているよ。異端でこの世の枠を越えたキミだからこそ、創滅神は面白がったようだけど……」
「手中に収めることはできなかった。そういうことかの?」
ルーアがクスッと笑った。
「つまり、エディはこう言いたいんだ。『創滅神は其方に任せるから、残りは余たち四神に任せろ』ってね。」
「なんだ?ここには余の敵しかいないのか?」
「完全に奇襲でなかった分、余裕が大きいからボクらに任せてもらって構わない。」
「そうさせてもらう。」
不服そうな人神だけを置き去りにして、話はどんどん進んでいく。
「あの数だから、時間はかかるかもしれないけれどぉ……それと、避難誘導の処理もお願いねぇ。」
「避難誘導……?」
「我の結界とミュール殿の力で、創滅神から観測されない地を作った。」
ルーアは意外と笑うらしい。私に勝ち誇った笑みを浮かべてみせた。神なのに、大人気ない。
「私、そんなの頼んだっけ。」
「あれば有利になると、我が勝手に思ったのだ。神龍含め、龍をいくらか派遣した。」
「へぇ、気が効くじゃん。」
多少の予想外はあっても、ここまで上手くいきすぎていて逆に怖い。
慢心しないようにしないしないと。
「ここまで露骨に下地敷かれちゃ、乗んないわけにはいかないね。」
四神全員が私を見る。
「私が創滅神を殺す。当初の目的とは変わっちゃったけど、まぁ、創滅神と会うってことには変わりない。」
転生してすぐの私を思い出す。この世界の神にあってみたい。そう言って天に手を伸ばしたかつての記憶。
今のばした手には、ラノス。
「やってやろうじゃん。ぶっ飛ばそう、クソッタレの神を。」
———————————————————————
本当に、終わりが見えてきましたね。約2年間投稿して、最近は休みが多くなって……色々ありましたけど、寂しくなりますね。(←まだ2ヶ月くらいは続くことを知ってる人間の言葉)
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