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18章 魔法少女と神の使徒
583話 魔法少女は対峙する
しおりを挟むあの訓練を続けて、数日が経つ頃。その頃にはだいぶ熟練してきて、結構うまくいってきている。
特殊な使い方をしていると通常能力も上がるもので、当初の目的は達しているような気もする。
私、センスあるかもね。
なんて自惚が生まれるくらいには、上達していた。
「重力の縄。」
体を縛り付けるような、不可視の拘束技。私で実践済みだけど、これがまたうざいことうざいこと。
他にも、重力の鞭やら重力のトラップやら、色々できるようになった。
例えば、地面に足をつけた瞬間重力がなくなってふわふわしたりとか。
いつ報告が来てもいい……なんて言わないけど、これで四神からの連絡で慌てふためくような事態にはならない。
今回は百合乃達を連れてくなんてしない。未来の私は、ネイファと相打ちになって百合乃は死んでしまった。今回はネイファとある程度の関係は築いておいたけど、多分意味はない。
危険に晒す行為はしたくないし、神の使徒はパズールには入れさせない。
頭の中に地図を描く。
「左に帝国、上に神国。右に合衆国。まぁ、左右は置いといて、上の国境を渡らせないかが鍵か……」
頭を悩ませる。これでも、訓練と一緒に地理やらなんやらを学んでいるのだ。
現在、暇をしている四神は交代で各国の調査や偵察をしている。帝国を視察している魔神によると、神国との繋がりを断つために教会を無くしているらしい。
正義を置きたいのなら、そこを突いてきっかけにするだろう。建前を作るには回りくどくしなきゃいけないから、時間はまだ取れる。
神国から最短の合衆国と王国の境界には、山脈が連なっている。ここからの侵略は無理だし、回り込んでも合衆国との戦争になりかねない。
王国に侵攻しようとしても、途中で森に当たる。これは燃やされるだろうし関係ないか。
「なんにせよ、対策は必須かぁ。」
発動していた重力魔法を全て解除すると、ぐっと空に腕を伸ばす。
重力の範囲、広まっては来てるけど……だからといって世界を覆って持続……なんて規格外な能力でもなければ、ある一点においては街すら難しい。
ほんと、時間が惜しい。買いたいくらい。
けど、現実は大抵その逆を選んでくる。
目の前に門が開いた。
「あいつら、遠慮もクソもない!今すぐ来い魔法少女!ボクらだけじゃ手に負えない!」
「え?」
私の左腕が掴まれ、引っ張られる。つんのめるように門をくぐり、私は見覚えのない景色をその目に写した。
「ここは……王都と神国の境界線。」
答えたのは魔神だった。私は左腕を掴まれて、宙ぶらりん。
「燃えてる……?」
「そうだ、燃えてる。」
思考が遅くなり、ぐるぐると糸を巻くように絡まり停止する。
建前のためにまだ動けないんじゃ………………そうか、そうだ……結局、何したって燃やすのは変わりはしない。今回の戦争の後処理に対して不満を見せて、なんてわざわざ遠回りなことする必要ないんだ。
建前なんて、そもそも必要なかったんだ。
目の前には、ただ世界を燃やすことに夢中になった神国の国民や信徒が駆け回っていた。
「戦争なんてものじゃない。国ごと賭けた全面戦争。向こうは、今回の戦争なんて米粒に見えるほどの人数がこの争いに加わっている。」
魔神の瞳には炎が映っていた。
「キミの予言は当たっていた?」
「……分かってたけど、ここまでとは思わなかった。体感してみると、すごいんだね。」
そんな安っぽい言葉が出てくるだけだった。結局、当事者になっても分からないことだらけだ。
「これ、やばいよね。」
「やばくないように見える?」
「見えないね。」
「キミが言う通りの対策をしていて良かったよ。ボクの中のキミの評価は鰻登りだ。」
そんな言葉とは裏腹に、魔神の顔は険しい。掴まれた腕を軽く振り払うと、簡単に放してくれる。空中歩行で着地した。
「私達はこれを打破して創滅神を倒すんだよ?この程度、ちゃちゃっとやんないと。」
「簡単に言うな。」
ジト目が向けられる。そうは言われても、事実なんだから仕方ない。
「注文してたアレ、出来てるよね?」
「一応、ね。」
そうして取り出したのは、ひとつの球体。範囲バフとでも言えばいいのか。それを、私にも向けられる。
「これはエディの相殺とボクの魔法とルーアの魔力吸着と霊神の防御がかかっている特注品だ。大切に扱ってもらえる?」
「っ、そう言うなら投げないでほしいんだけど。」
球体らしく放物線を描いて私の手に収まる。
「これを通して魔法を使え。そうすれば、あの神炎に対抗できる魔法に様変わりだ。」
「ありがと。一旦、あそこ封鎖しようか。」
「それはキミに任せる。」
「ま、やれるだけやるよ。他の四神によろしく。」
昔の私なら、知っていながら「みんなは?」とか言っていたことだろう。けど、そんな捻くれは一旦捨て置いた。
他の3柱……3人も、今は頑張ってるに決まってる。私の予想が少し外れてるのもこの奇襲の原因ではあるから、私が背負えるものは背負おう。
振り返ることはなく、遠く離れた戦場へと急いだ。見渡せるような位置に静止する。
私の進む先を阻む、神の炎。
神が相手?なら、こっちは未来の神候補だ!
「重力世界。」
ここから、目に見える距離は約10キロメートル。周辺に見える、燃え移った炎は一瞬にして姿を消した。
「……っ、やっぱ、きつぅ。」
そう苦し紛れに声を出した頃には、重力世界はもう解除されていた。
これが私の訓練の賜物。持続時間より、こっちをとった。だから私は特殊な技ばっかやって、尖った術を身につけた。
一瞬だけ、波動のようにして重力を展開した。私の世界にはいらない炎は消えて、鎮火は無事に終えた。
「きつい、けど……成功っ!」
自分の膝を殴って、鼓舞した。地面にゆっくりと下降して、今度は駆け抜け始める。
「神だか使徒だか信徒とか!どうでもいいんだよ!私は私の力で、勝たせてもらう!」
神を討ち滅ぼすために磨いた技で。勢いのまま、走り抜ける。視界の奥には赤い煌めきが。
怖い……けど、そうも言ってらんない。これのために私は今まで準備を重ねてたんだし。
突然やってきたくらいで、それを拒んでたら神とか勝てるわけないし。
「いたぞ、異端者だ!」
「……ぁっ!」
声の主を特定する前に、私の視界を赤色の塊が支配した。
こんくらいじゃくたばってやらないよ。
「ファイアサークル!」
球体に魔力が流れ込み、耐神炎防壁が出来上がる。この魔導具を、適当に神核とでも名付けよう。
数は……神炎の魔力阻害うっざ!
過去の私は、何の準備もなしにこれを食らっていたと思うとご愁傷様としか言葉が出てこない。
「ぐぁっ!」
「ぬぁ!」
でも、私は準備をしてきた。私を取り囲む使徒は、何かに襲われたように地を舐める。
「中継地点を用意してやれば、阻害は無駄なんだよね。でしょ?」
炎が止み、焦げついたような濁った空気を凝縮したエアリスリップで吹き飛ばす。ついでに使徒も吹き飛ぶ。私の左手にはラノス、右手にはステッキ。
「統率も取れてないクソ陣形乙。」
「な、やめろ……化け物!神の力を前に……」
虚勢を張っているのか、慣れない口調を使っているのか、馬鹿らしい。ふっと、笑ってみせる。
震えてる震えてる。
「でも、こんな雑魚でも許されるチート能力とか、ズル。」
一瞬、重力世界を生む。そこで鑑定眼を使うと、見えないものが見えてくる。
「神炎の効果ね……攻撃無効、防御無効、耐性無効に物質の性質無効、万物焼却……チートがすぎて怖いって。」
私は苦笑を超えて呆れかえる。
「突然一般人が神レベルとか、冗談じゃない。」
まるで私の努力を笑っているような気がしてきて、無性にムカついてきた。
「あんたはただの一般人っぽいね。市民を殺すのは躊躇われるけど、進行してきてる時点で敵だから。今の私、敵を選んでられるほど余裕ないから。」
左腕に握られたラノスからは、かつて創滅神を封じた力と同じレベルの溜め込まれた力がこもっていた。
これが私の秘策、神核。
パァァンッ!と言う弾ける音と、鮮血が散った。
———————————————————————
突然の展開。
というか、無理矢理連れてきた感しかないですね。
私も、時間を買いたいです。そして手直しと執筆をしたいです。
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