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18章 魔法少女と神の使徒
580話 魔法少女は報告される
しおりを挟む最近、何か働きすぎな気がしてきた。何かしないと落ち着かないし、何かしすぎても後々影響が出てしまう。
しかしそれでもやることは勝手に舞い込んでくる。
「それで、報告って?条約とか、その辺りの話?」
「そうだ。」
緑茶を啜りながら、真面目な顔でフィリオは頷いた。
ここはフィリオの家。私は呼び出されて、件の戦争の事後報告的な話を聞かされることになっている。
「気に入った?それ。」
「ほどほどだ。」
と言いつつも、お付きのメイドさんが空いた湯呑みに茶を入れていた。
「その人、新しい人?」
「古くから付いていた使用人が、隠居してな。代わりにと親戚を送ってきた。」
「カルロッテと申します。以後お見知り置きを。」
「よろしく。」
そのまま私にも湯呑みを用意し、緑茶を注ぐ。私は空に氷を追加した。
「今朝方、フェルから手紙が届いた。」
そう言って取り出したのは、紙束。このまま本にできるのではないかという量。
これは、うん。手紙ではないね。
「先日数日に渡り行われたラミア合衆国との会談の結果、ヘルベリスタ帝国の処遇が決定した。」
「おお。」
「王国が主導で戦争に向き合ったことから、主導権はこちらグランド・レイトで行うこととなった。」
「つまり、植民地的な?」
「少し違うな。」
そのまま淡々とした口調で、答えを告げていく。
「占領地として、現在は一旦政治的、経済的に国家の継続が不能と判断し、一時グランド・レイト王国が実権を握り、政治をコントロールする。目安は、今後10年以上と考えられている。」
「あー、そういうこと。」
心に前世の教科書開く。歴史の。
これあれだ、第二次世界大戦だ。
まぁ、世界は違くとも同じ人間が考えることなんだし、同じ道に行きついても不思議はないかな。
「王国の独断でないことを示すためにも、逐一合衆国との会議を行うことも決まっている。それと、一部権益の引き継ぎも行われる。帝国が植民地にしていた国々も含めて。」
「つまりおこぼれと。ラミアは自分の国に戦火がかからないように支援して、プラスであまり物をもらっちゃおうっていう腹づもりだったわけね。」
「大体、そういう認識で構わない。」
緊張の糸が緩んだように、談話室備え付けのソファに体を埋めた。
「ようやく、戦争のかたもつきそうだ……これからは、時間をかけてゆっくり復興と政治の回復に努めればいい……」
「フィリオ、お疲れだね。」
「まだこれから疲れなければならない。こういう場合、国の方針は大体分断されるものだ。大方、統一派と革新派だな。」
日本でも聞いたことのあるふたつの単語。言葉の意味的に理解はできるけど、細かい意味までは知らない。
「前者は、そのまま王国に統一としてしまい力をつけるという派閥だ。これは、他国からの軋轢が深まることが予想されるが、その分国力は上がる。後者は、此度の戦争の反省を生かし、戦争を生まないための平和主義を貫く新たな国づくりを目指す派閥だ。」
「こう聞くと、明らかに後者の方が魅力的だけど。」
「実態がどうであれ、帝国を下した王国が更に帝国を取り込んだ。その事実だけで威嚇には十分だ。その後、さらに力を蓄えることも可能だろう。」
「まぁ、確かに。」
冷静に、堅実に、事実を述べる様は実に領主らしい。取り繕う感じがないところも、好感が持てる。
親しみやすい領主っていいね。
勝手に親しくしてる私が心で言う。
でも、こういう態度を見ているとやっぱり領主なんだなとは思えてくる。
「それで、何が疲れるの?」
「前に話しただろう。俺は国内を、フェルが国外を。これが現在のスタンスだ。」
「つまり、その統一派と革新派をまとめるのがフィリオの仕事なわけね。」
「正解だ……」
疲労がもうのしかかっていた。私にはかけるセリフのレパートリーなんて「がんば」「ファイト」くらいしかないため役立たず。フィリオは、眉間をつねって誤魔化した。
「コーヒー、いる?」
「以前、止めたのは空だ。」
「飲み過ぎを注意しただけ。カフェインは時々キメといたほうがやる気出るし。」
「どこ情報なんだ、それは。」
「私印の信頼情報サービスだけど?」
「世界一信頼できない社名だな。」
私に対するイメージはどんななんだ、とツッコみそうになったけど、ブーメランだと言われる未来が見えたのでやめにした。
私は学ぶ女だからね。藪蛇にならないように、話は簡潔に。
「で、どういうふうにまとまったの?」
「大筋はさっき語ったような内容だ。帝国の法改善が優先されている。最高司令官として王国からは正騎士長ヒビア・リーブ、合衆国からは守英団拾肆彗から拾二彗アウィリー・アイリーが名乗りをあげた。」
「……ヒビアさん、自分から志願したの?」
意外な人選に、言葉をつい漏らしてしまった。
帝国にあれだけ嫌悪感を抱いていたヒビアさんが、自分から帝国の地に踏み出すなんて、ちょっと意外。
「就任決定の際、『己の否定するものの実情も知らず、無為に捨て去るのは愚弄だ。正しく責め、正しく裁く。それが私のゆく道で、救われた理由だ』と言っていたそうだ。」
フィリオの瞳は、私が何かしただろと詰問したいような意図がこもっていた。それに気づいてあげる私じゃない。
「まぁそれはそれとして、アウィリー・アイリーってなに?人?」
「ソラは戦場で会っているだろう、拾肆彗の英雄に。そのうちの1人であり、5名いる最古参のうちの1人でもある。ひとつの役職を、2名で担っているという。」
「特殊だね。それも、その紙に?」
「事細かに、抜け目なくな。」
そのおかげで、これを記憶する羽目になる。そう言って、気分晴らしに緑茶を一杯。そして即座に、補充!
なんというスピード!私でなきゃ見逃しちゃうね!
「話を戻すぞ。……この3名を司令官として派遣し、今後の方針を固めていく。それぞれ現地でその国のあり方を見て、実際に政治を執っていく。重要な任だ。それにあたって、まずは無理矢理帝国に元首を立てて不戦条約と完全降伏を誓うリリスミア宣誓を行わせた。」
「行わせたんだ。」
「そもそも、この3名はもう帝国へ派遣されている。」
「仕事が早いことで。」
少々の驚きは感じるがこの時代の配達スピードを考えて、これは4日前に届け出されたものだと予想できる。すでに動いていても不思議はない。
「この説明、あとどのくらいかかりそう?」
「簡潔にまとめても、あと一時間以上はかかるな。」
「帰っていい?」
「いいわけないだろう。」
「なら、それ見せて。原本見るのが手っ取り早い。」
「面倒になって、途中で放棄する未来しか俺には見えないんだがな。」
「なら、それはフィリオの目が腐ってるだけだから心配いらないね。」
戯言で間を埋めて、直接手紙という名の書類の束をたばっと奪う。
「私には記憶念写があるから、余裕なんだよ。」
地龍魔法で土を作り、その土を物質変化で紙に変える。そこに見た記憶をそのまま写し込むという作業を繰り返す。
「これは……」
「驚くのも無理はない。目を慣らしておけ。」
さしものメイドさんも、これにはびっくり仰天だったようだ。
「おっけ、念写終了。あとで読んどく。」
「……本当だろうな?」
「あー、ほんとほんと。」
「…………もう、好きにしろ。」
どうやら、フィリオの悩みの種は尽きないようだ。誰のせいかは、ワタシシラナイ。
「門までついていってやれ。」
「はい。仰せのままに。」
胸に手を当て、小さく敬礼。私は、連れられるままに屋敷を出ることになった。
———————————————————————
もう秋ですね。涼しいです。季節の変わり目というのはどうにも不都合も多いようで、慣れない花粉やらなんやらの相乗効果で体調不良は踊り狂ってこんにちはしています。
まぁ、そんなに酷いものではないので無視していただいて結構です。
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