魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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18章 魔法少女と神の使徒

577話 魔法少女は従業員

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 朝目が目覚めて、私はいつもの感覚を味わう。
 やりきれなさと、腹の中に渦巻く靄のような何か。あの話を聞いてからというもの、私は心の奥底で何かを抱えてしまっている。

 吐いても吐いても、出るのは水分と二酸化炭素だけ。吐き続けたくても、余計に絡まって、苦しくなって、酸素を求めてしまう。

「顔、洗うか。」
ひとしきり悶絶したところで、しょげた顔に喝を入れてやろうと部屋の戸を開けた。

「トートルーナさん……」
「リビング、掃除しておきました。部屋の掃除は自分でしてくださいね。」
「そんくらいやってるって。」
「そうだといいんですが。」
言葉とは裏腹に、優しげな声だ。

「というか、なんでここに?」
「起こしに来たんです。クルミル様に、迷惑をかけないようしっかり、と言われましたから。仕方なく。」
「はいはい、かわいいかわいい。」
「揶揄ってるんですか……」
メイド服の端を握り、少し恥ずかしそうに俯く。

「あ。朝ごはん食べたら、ちょっと出かけるから。」
「ユリノさんには?」
「話さなくていいよ。どっちみち、勝手に着いてきそうだし。」
「でしょうね。」
トートルーナさんは分かってましたと言うような顔で踵を返した。

「朝ごはんの用意しますので、少々待っていてください。」
「たのしみだなー。」
「クルミル様がここで働いていなければ…………」
ギリっと歯を食いしばった。弱い犬程よく吠えるってやつ?

 いや、吠えてはないね。逆に黙ってる。つまり逆説的にトートルーナさんは強い犬……?

 そんな新しい説まで現れてしまった。

『いや、まず犬じゃないでしょうに』
当たり前のツッコミをされた。

「ちょっと、走っとこうか。」
階段を降りたトートルーナさんの背中を見送り、小さな声を出す。私は部屋に戻った。

 私のこの雑魚い体。それをなんとかするには、魔法少女服の力を一旦抜く必要がある。
 相手にするのは創滅神。その創滅神が作った装備で戦闘とか、馬鹿げてる。

 ま、やれるところまでやらせてもらうけどね。

 ということで、私は装備一式を部屋に置いてその辺の服屋で見繕った軽装を身につけた。
 そして現在、庭。

「鑑定眼使えないから、どうなってるのかわっかんないね。」
ぐっと伸びて、体育の準備体操を思い出しながら、体をほぐす。

「走るかぁ。」
やる気は未だに行方不明になっているが、私は理性の力で走り出す。

 目標は朝ごはんができるまで。庭を回る。飽きれば、少し外も走ってみたい。
 この足で、初めて。

 風呂以外であの服を脱いだことがないこの半年間。空間魔法や重力魔法があるおかげで、少しは安心して脱ぐことができる。

 そして、十分後。

「はぁ………死ぬ、まじ、やば……死ぬ………ぁ……み、ず……肺…………」
頭に浮かぶ単語を羅列し、よろよろになりながら走る私の姿が。

 こんなの、普通に戦闘したら一瞬でノックアウトなんだけど。魔法少女服なしでの戦闘とか不可能なんだけど!

 寒さのせいか、肺が冷えてズキズキと痛い。気管が突き刺されるような痛みを感じる。

 流石に、脳から危険信号が出された。ゆっくりペースダウンし、歩きながら外周を回る。急に止まるのは良くないって、学校でやった気がする。

「これだから、持久走とか、嫌いなんだよ……」
決して早くないペースで10分。先が思いやられる。疲労で棒のようになった足を揉み込み、だらりと地面に横たわる。

「魔法少女服って、すごいんだなぁ。」
今更、そんなことを実感した。

 すごいことは今まで分かってたけど、やっぱりアレに命救われてるよ。

 こればかりは、創滅神に感謝しなければならない。いや、やっぱりやめよう。アレに感謝すると、拒絶反応が出る。

 痒くなった肌をかいた。

「三日坊主ってすごいね。3日も続けられるなんて。」
1日も持ちそうにない私は、羨望の念を込めて言った。

 でも、やらること、やんなきゃ。

 未来の私が背を押すように、私は前に突き進む。

「ソラさーん、ご飯できましたよー!さっさと食べちゃってください!」
しかし、その前にご飯。

—————————

 足の痛みを感じつつ、お腹が満たされたまま外出する。行き先は、カフェだ。

 流石にオーナー(笑)の私が顔を出さないのもあれだ。一応、社会人として。

「なんか、この街歩くのも久しぶりだね。」
なんとはなしに、感慨深くなってきた。

 なぜか立地いいんだよね、あの物件。
 中古でも、あの安さは破格だ。まぁマリンさんがまけてくれたんだろうけど。

「やっぱり、配色バグってるでしょ。」
何度も抱いた感想を再度抱く。これは何回見ても落ち着かない。

 久しぶりにクリームソーダでも飲もうかな。甘味を求める私がいる。

 扉を開くと、チリンチリンとベルが鳴る。ちゃんとつけているらしい。

「いらっしゃいませー!少々お待ちくださぁい!」
女の子な声がした。ティリーだ。

「あっ、オーナー……じゃなくてソラさん!?今お席を……」
「え、いや…‥並んでる人いるでしょ。」
しれっと私を立場で優遇しようとするティリーに、ジト目を向けておく。

「ほら、早くオーダー取りに行って。呼んでるよ。」
向こうのテーブルから声が聞こえてくる。

「で、でも……」
「でももなにもないでしょ!新人じゃあるまいし……あーもう!私出る!」
客の目を引きながら、私は厨房の方に進んでいく。

「テレスさんお邪魔します!そしていらっしゃいませー!」
接客の仕事とか手伝い以外でしたことないけど、なんとなくやれば魔法少女パワーでどうにかなる。それが魔法少女。予備の制服を、ローブを脱いで着る。

「オーダーお伺いいたします!」


「あぁ…………疲れた。」
昼休憩。椅子に腰掛けながら、天井を見る。

「来る人が来ればいいかなって思ってたけど……なんでこんな繁盛してるの……?」
疑問を口からこぼす。

 自分の店が繁盛しているのは嬉しいけど、だからと言ってそれと同じくらい面倒。

「なんとか捌ききれました……」
ティリーがクタクタの様子でこの休憩スペースに入ってくる。

「お疲れ。」
「ソラさんも、助かりました……この時間帯、1番きついので。あとは閉店まで耐えるだけなので、なんとか。」
「じゃ、私はあがらせてもらうよ。あと、注文いい?」
「ここで、ですか……はい。いつものですね。」
休憩したいだろうに。ティリーは、テクテクと力を振り絞るようにその場を去った。

 労働環境、見直したほうがいいかもなぁ。

 ティリーさんに手渡されたクリームソーダを片手に、ぼんやりと思う。
 この辺りは、テレスさんと要相談だ。


 流石に無銭飲食するのも気が引けるので、いつも通りにお金を支払う。働いた分の給料は、結局毎月商業ギルド経由で回ってくる。ギルドカードには、たんまりお金が溜まっているはずだ。

「明日くらい、四神のとこ行こうかな。神国についての話し合いもあるし。対応、しておかないと。」
神炎を対処する手段も、今のうちになんとかしなければならない。

 別に、私は世界を守るヒーローになんかなりたくないんだけどね。
 仕方ない。それが副産物というなら、素直に受け取っておこう。

 もう全てを終わらせた気で、制服を脱いだ。ティリーさんに「やっぱり可愛いですねその服」と言われた。ローブを着た。

 店を出て、「ありがとうございました」というテレスさんの声を聞いた後少し曇る空を見上げる。

「雨、降りそうだな。」
早足で、家に戻った。

———————————————————————

 次回あたりから、そろそろ本題に差し掛かっていきます。途中で王都にも赴きますが、まぁ、観光ではないので。
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