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18章 魔法少女と神の使徒
576話 魔法少女はちょっと休憩
しおりを挟む「ただいま!我が家っ!」
両手を上げて、久々の自宅に感激する。
いや、一応百合乃を連れてくために来たには来たけど。そういうのじゃないっていうか。
分からない?なんか、会社の昼休みに家に一回寄るのは帰宅判定にならない感じ。私社会人じゃないけど。
そういう空想は傍に置き、この気持ちを堪能する。
この広さ、そして畑と花畑。隅々まで、よく手入れされている。
トートルーナさんとクルミルさん、しっかりやってくれてるんだ。
仕事ぶりに感心しながら、自宅玄関へ向かう。
「そう言えば、ツララちゃん忘れてますね。」
「最近思うんだよ。私、ツララのこと甘やかしすぎてるって。」
「ですね。」
否定のひの字もない、思いっきりの肯定。事実だから反論はしづらい。
「自分の交友関係を広げておいてもいいのかなって。その予行練習的な。」
「でもあの集団、行き先王都ですよ?」
「王都だね。というか、もう着いてる。」
脳内に広がる王都内縮図が広げられた。
「なっ、なんでわかるんです?」
「いや、普通に分かるように魔導具仕込ん出るだけだけど。」
「それ、ヤンデレ系の彼女がGPSつけるアレじゃないです?」
「ちゃんと許可は得てる。」
流石にそんなストーカーまがい、犯罪臭漂う行為はしない。しないよ?
私はツララには元気に育って欲しいからね。
……ちゃんと、生活していけるようにしないと。
「空?」
「ん?なんでもない。」
百合乃から視線を外して、前を行く。
「ツララは今フェロールさんに保護されて、ラビアみたいな状態になってる。あ、今度ラビアにも挨拶に行こうか。」
「……空?さっきからテンションが妙です。」
「百合乃こそね。」
あっけらかんと言い放ち、我がツララの安全を確信しながら自宅の扉を開いた。
ただいま!我が家!
目に入るのは、私が作った家。埃は落ちていない、丁寧な仕事ぶり。左に曲がれば、リビングがあり、右に曲がれば物置と浴室がある。奥に進めば会談があって、その横にトイレやら、上がれば皆んなの部屋。
「ただいまー。」
「……ただいまです。」
声を張る。と、ぱたぱた……というより、もっと急ぎというか、強い音。
「………………っ!」
左側のドアが開け放たれた。喜ばしいような、不安そうな、そんな顔のクルミルさんがいた。
「ただいま。」
もう1度繰り返した。
「おかえりなさい、ソラさん。」
—————————
「ごめん、なんか色々急に。」
「本当ですよ。急にいなくなって、来てはいなくなって。妖怪かと思いました。」
トートルーナさんが言った。ちょっと不満げに。
「私人間だけど。」
「知ってます。」
メイド服がシワになるのも厭わずに、肘をついて呟いた。
「私の使用人なのになんでこんなに口悪いんだろうね、このメイド。」
「わたしはクルミル様の使用人なので。」
「過去形にしろ。」
「命令形をやめてください。」
どこからどう見ても、使用人と雇い主には見えない2人の会話。
ま、なんか勘違いしてるみたいだし言っとくか。
「別に、私は口悪いことについて咎めてはないよ。全然それでいてもらって構わないし、仕事してもらえればいい。その仕事だってぶっちゃけ給料以上の働きされてるわけだし。」
そうとだけ言って、キッチンへ行く。
「空~どこに?」
「昼ごはん。」
「昼ごはんは場所じゃないですよ。」
分かっていて、そんな鬱陶しい返しをしてくる。
「いつの間にこんな捻くれ人間になっちゃったんだろうね。」
最初の頃も、それはそれで鬱陶しかったけど。
「何作るんです?」
「最近寒いし、あったかいもの。」
「あったかいものですか……グラタンでも作ります?」
「そんなおしゃれな……作り方知らないよ?」
「わたしに任せてください!」
胸を張る百合乃。私と違って、ある胸を張る。
「なら、わたしは食器を並べますよ。」
「あ、お願い。」
「クルミル様は、今日どうしますか?食べていきますよね!」
「分かりました。お邪魔させていただきます。」
「賄いとでも思って食べていって。」
「泊まっていってくれてもいいんですよ?」
「それはわたしが2人きりの時間がなくなるのでやめてください!」
乱入した百合乃のせいでややこしくなる。けど、こういうのもいつも通りの日々を感じられてちょうどいい。
これからもっと大変なんだし、このくらい、ね。
ちょっと休憩。そのくらいはいいのではないかと、ターニングポイントを渡った今回の私は、この時間を満喫する。
「完成です~!」
キッチンに現れたのは、グラタン用の皿に入った4つのマカロニグラタン。
材料はマカロニと牛乳ととりもも肉、玉ねぎとキノコ、その他調味料だ。
玉ねぎは、なぜか庭に植っていたのでそれを使った。どうやら、クルミルさんがやっていたらしい。
家庭菜園というか、プロがやるから栽培感が強い。
塩を入れたお湯でマカロニを茹で、その間に具材を小さくカットし、あとは炒めて調味料入れてマカロニ入れて……あとはクッ○パッドで。
「我ながらいい出来です!」
そう宣言しているうちに、トートルーナさんが全てを食卓に運んだ。
「じゃ、食べようか。」
「ですね。」
私達も食卓に参加する。当然のように隣を陣取る百合乃、正面にクルミルさん、隣にトートルーナさん。
「いただきます。」
それぞれのタイミングで、それぞれのスピードで。グラタンを掬って食べる。
「ん、いけるねこれ。」
「いけるってなんです。」
「あーはいはい、美味しいよー。」
「投げやりです。」
「一体何ならお気に召すのさ。」
百合乃はやけ食いするようにかき込んだ。私はそっと冷水を机に置いた。数秒後に腕が伸びてきて、掴み取った。
「火傷しました。」
「そりゃね。」
舌を伸ばして、イタタと言葉を漏らす。
「他にかける言葉はないんです?」
「ないんです。あ、クルミルさんも大丈夫?変なものは加えないように監視してたけど、口に合う?」
「えぇ、とても美味しいです。」
「今度、わたしが作りに行きます!」
「トートルーナさんはうちの使用人でしょ。」
「束縛される言われもないですが。」
騒がしい食卓。それでもどこか心地よさを感じて、いちいちこういうことを考える思考ごと冷水で胃に流す。
「ご馳走様。」
「はやっ!……って、空?どこ行くんです?」
「部屋。」
「もうです~?団欒しましょうよ~。」
「1人でして。」
「それは哲学です?」
「そうそう、だから1人で団欒の意味を探ってて。」
「もっと静かに食べれないんですか。」
トートルーナさんの揺れるサイドアップを視界に入れつつ、皿とスプーンとコップをそれぞれシンクに置いておき、水に浸す。
「トートルーナさんってクルミルさんの前だとバカになるよね。」
「いきなりなんなんですか……」
「ほら、初めて会った時なんて慌ただしすぎて、ねぇ。」
「慣れました。」
「トートルーナは、まだ緊張してるんですよ。こういうところも、可愛いところですけれど。」
クルミルさんは微笑んで、トートルーナさんの肩を揉んだ。
「にゃなっ、なにを……?」
「ふふっ。」
「じゃ、ごめんけど洗い物よろしく。」
揉まれまくって、可愛らしい悲鳴をあげているのを背でスルーして階段に向かう。
「どーしよっかな、これ。」
私は、誰にも聞こえてないことを確信したように呟いた。見ているのは、スキル欄。
統一神化
この単語が、異質を放っている。他のスキルとは違い、簡単に触れることが許されないような代物だ。
皇帝と戦ってみて分かった。
確かに勝てはした。しかし、皇帝は1人の人間でしかない。
それでも天は遥か遠い。
これを使う日が、来るのだろうか。
心を鎮めて、思い返す。私の身に沁みた過去を。私から見た未来を。
———————————————————————
きっと明日は変わらずに来る。だから、迷って迷って、苦しんだとしても選択しなきゃいけない。
その選択がいつくるかも分からないのに。
この空さんの苦悩を分かりやすく説明しますと、日程のよく分からない学力調査みたいな感じです。
あいつら、知らぬ間に来週とかになってるんですよ。
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