魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

文字の大きさ
上 下
601 / 681
18章 魔法少女と神の使徒

573話 魔法少女は戦後報告

しおりを挟む

 戦争が終わって、1日が経った。
 騎士達は準備を整え、今度は大手を振って道を歩く。凱旋というやつだろうか。みんな、顔つきがシャキッとしている。

 終戦したのだから、国に帰るのは当たり前。
 初めよりだいぶ少なくなってしまった。喜べばいいのか、悲しめばいいのか、どうするのが正解かなんて分からない。

「戦争なんてやらない方がいいよね、やっぱり。」
この状況を見て、確信したようにつぶやく。

 私だってやりたくてやってるわけじゃないし、わざわざこんな人が死ぬだけの争い起こしてどうするっていうの。

「これ、歩いたらあとどれだけかかるの……?」
最後列を歩く私と百合乃は、見えぬゴールに顔を顰める。

「私達、先帰っちゃダメかな。」
「別に、いいんじゃないです?わたしたち、特に国の騎士でもないですし。勝手に参加しているだけで。」
「まぁそうだよね。従う必要とかないか。」
一旦止まり、距離が空くのを確認する。

 こうやって、列から離れて側から見ると結構壮観だね。

 浅い感想を抱きながら、空間魔法を使う。

「何してるんです?」
「いや、ルーアの座標転移パクろうかと。」
「いいんです?」
「商標登録とかされてたら別だけど。」
「魔法にそんなんないですよ。」
「だからやってんの。」
適当に弄り、いい具合になるのを待つ。

 遥か遠く天の上からツッコミが聞こえてきた気がする。我のアイデンティティを奪うでない!って。

 ちなみに、四神は現在イグルに滞在している。ルーアはお疲れで帰宅したらしい。
 あれ、天の上にいないじゃん。

「いけるんです?」
「やればできる。かもしれないとだけ言っておく。」
「つまりできないかもしれないと。」
「そういうことは言わなくていいんだよ。」
私を総動員しながら、できる限り最善を尽くす。

 座標転移の何がむずいかって、日本地図を見せられて自分の家をピンポイントで突き刺せって言ってるようなものだ。
 ほら、むずいでしょ。

 自分のいる座標を確認して、その次に転移する場所の座標も確認。セットしてそこに座標ごと移動させる。
 座標っていうのを箱に見立てて、箱の位置を移動させる、すり替える感覚。

「お、これいけるんじゃない?」
「いけます?」
「いけるいける。」
ゆっくり、並々水の入ったコップをそっと置くようにして発動する。

「『座標転移』」
視界が白くなった。

—————————

「あれ、ここって……」
初めに聞こえたのは、百合乃の声だった。

「ん……ちょっと離れてるけど、王都の周りだね。」
「パズールに帰るんじゃないです?」
「いや、報告しないことには何も始まらないでしょ。私、またいちいち戻ってくるのとか嫌だし。」
どちらかというと、やろうと思ったら先にやっておきたいタイプの人間だ。思い立ったが吉日というように、即日行動が私の理念。

「よし、行こうか。」
「ですねぇ。」


 数十分、森の中を歩き続けてようやく見えてきた王都の巨大外壁。まるで、巨人の侵攻を止めるために作られたようなサイズ感。
 どう作ったか聞きたいくらい。

「はい、ギルドカードです。」
「同じくです!」
門番さんに見せ、謎の道具で鑑定した後に通される。ギルドカードは身分証明書になるなから、他の街に行くにも便利。

「冒険者って、名前だけ借りてやる人もいそうだね。登録料とか取ればいいのに。」
「そしたら、初心者が入りずらいからじゃないです?貴族が遊びで金だけ流すかもしれませんし。」
「異世界あるある、金でランク買いがち。」
地味に繋がる会話を、なんとなく繋げながら王都に入る。久々な気がする。

「ずっと帝国府でメイドやらされてたから、疲れたぁ!なんか開放感っ!」
「メイド?今メイドって言いました?!」
「言ったよ?けど見せないよ?」
「なんでですぅ!」
「それが悪化するから。」
私に手を伸ばす百合乃を指した。確かに、と納得した顔をした。

「さすがに、今日は馬車で行くか。」
私に突撃したまま静止した百合乃は置いておき、タクシー代わりの馬車を呼び止めた。


「ふぅ!爽快です!」
街中。道路のように、馬車路が設置されているここ王都は、多くの馬車が二車線の道を颯爽と走り抜けている。

 異世界に道路。車じゃないから、こういうのも地味にぴったりくるよね。

 馬車の窓から顔を覗かせ、王城まで一直線に進む。

 最初は怪訝な顔をされたけど、王城を近くで見てみたいって言ったら一応納得してもらえた。

「まぁ、もう見飽きたけど。」
「なにがです?」
「なんでも。」
そんな風にがったがったと、馬車は私達を連れて行く。

 あれ、馬車止まった……?

「すみませーん、ここから先は一般馬車は規制されていて通れないので。ここで降ろさせていただきますね。」
「あ、はい。」
厳しい規制に阻まれて、停車した馬車から降りることになった。

「面倒だけど、こっから歩こうか。」
払うもの払った私は、王城のだいぶ前でそれを眺める。

 どうせ、向こうから勝手に捕まえに来てくれるだろうからいいけど。

「空と王城デートまで後少しです。」
「王城デートなんて存在しないよ。」
「それを存在させるのがわたしたちです。創造しましょう、物語を!」
「大層な話してるとこ悪いけど、早く行きたいんだけど。」
百合乃を吹き飛ばす勢いで背中を叩く。少しつんのめり、怒ったように頬を膨らませた。

「わっかりやすくて助かる。」
苦笑しながら、いつもの道を通っていった。王城の周囲には堀があり、中に水が流れている。橋を渡って、門を進む。

 いつもお疲れ様でーす。

 両脇に待機されている、目つきの怖いおじさんに目だけ向けてねぎらいの言葉を心で伝える。テレパシーでも持ってれば伝わるだろう。

「待て。」
しかし、そんなもの伝わるわけもないし、素直に通してくれるわけもない。たくさん門番さんがいる中で、対応する人が同じなんで偶然はあまりない。

「私だよ私。」
「唐突なワタシワタシ詐欺が始まりましたね。」
「詐欺なんて言い方よくないよ。」
百合乃はなんか笑ってる。ツボが分からない。

「ギルドカード、見せればいい?」
と言って渡すのは、私のCランクとかいうそこまで高くないランク。というか、最近の履歴もないから怪しいだろう。

 私だけ、ランク値限界突破しちゃってるのにね。
 でもあれ、ランク判定には関係ないんだっけ?

 話を全然聞いていないので思い出せない。

「少々、そこで待っていなさい。」
「はーい。」
間の抜けた声で返事を返し、その態度に地味に眉間に皺が寄る。

「適当ですね。」
「まぁ、ガッチガチで行くよりマシでしょ。」
「ですかね。」
百合乃は視線を外し、ぼーっと門を見つめる。

「デカいですね。」
「でかいね。」
「すごく、大きいです。」
「それは違うやつ。」
いけない言葉を窘めていると、人の気配が戻ってきた。

 ひーふーみ……み?なんで3つ?

 疑問を抱えながら、その疑問が近づくのを待っていると。

「フィリオ?」
「どうしてお前たちがここにいるのか、問いただしたいところだが……」
少し低い声。しかしどこか、優しさを孕んでいる。平均より高めの身長から見下ろされ、一拍置いて頭に温もりを感じた。

「生きていてよかった。」
その言葉を聞いた時、頭を撫でられているのだと理解した。

「……何してるの?」
「見て分からないか?頭を撫でている。」
「なんで?」
「この人、ソラちゃんのこと本当は大好きなのよ。」
後ろから、もう1人分の声が聞こえてきた。百合乃ではない、もっと柔らかくて包容力のある声。

「フェロールさん……」
「フェルにはさんを付けるのか。」
「フェルって略すんだ。初耳。」
そう誤魔化した私の頭を、今度は強めにわしゃわしゃしてきた。やめてほしい。

「ていうか、なんでフェロールさんがいるの?ここ、王都でしょ。」
フィリオの肩からちょこんと顔を出す仕草は可愛らしい。けどそれはそれ。

 この2人、やっぱめっちゃ仲良いよね。

「戦争時は、他国間がピリつく時期でもあるの。だから、不用意に外交しようものなら後ろから刺されちゃうこともあるのよ。」
「怖いこと言わないでよ。」
「だから、そうされないためにも一旦王都に残って、できる作業をしているの。」
「じゃあ、なんでフィリオが?」
少し視線を上げて、フィリオの顔を見る。

「第一は、各街の領主が集う会議に出席するためだ。戦争という一大事に、何もしないわけにもいかない。」
「ほんとはネルに会いたいだけじゃない?」
「……………」
黙りこくってしまった。図星だろう。

「空さん空さん、あそこになんか可愛らしいお姉様がいますけど……」
「フィリオの妻。嫁?まぁいいや。ネルの母親。百合乃の思うような人じゃない。」
「あら、その娘ははじめましてね。じゃあ、こんなところで立ち話もなんだし、一旦客間にいきましょうか。」
手をぱんと叩いて、小首を傾げるわざとらしい仕草。どこか吸い寄せられるというか、ペースを乱される雰囲気に当てられつつ、誘われるがまま王城に向かうことになった。

———————————————————————

 ひっさしぶりのフェロールさん!さすが他国との交易や協定、条約などを結ぶ外交官。
 存在が外交チートです。

 フィリオも久しぶりですね、そういえば。
 あの時の、王都は初めて行く時くらいからもう覚えてません。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い

竹桜
ファンタジー
 主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。  追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。  その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。  料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。  それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。  これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...