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17章 魔法少女と四国大戦
568話 魔法少女は終戦の目覚め
しおりを挟む私は、少しの寝苦しさに起こされた。
「…………ここは……?」
完全に寝ぼけた声。自分でも分かるそのふにゃけた声で更に意識をはっきりさせ、半目だった目を開ける。
「……百合乃。」
思わず頬が緩む。百合乃は私の方に顔を向けながら、寝落ちしたように(いや、実際してるのか)頭をベッドに乗せていた。
寝苦しさの正体、これか。
「ずっと一緒にいてくれた……のかな。まぁいいや。寝かせてあげよう。」
小さく漏らし、ゆっくり布団から降りる。ついでに、百合乃の体にその布団をかけてあげる。
多分、あそこから運んできてくれたんだよね。ちょっと寝るつもりだったけど、結構寝てたね普通に。
窓から溢れる光から、もう早朝は超えているだろうという事実が伝わってくる。
「さて、どうなったことやら。」
戦場を頭に思い浮かべ、ぐっと背伸びをした。
終わってるといいけど。
「……空ぁ、です………?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「いえ、全然……わたしこそ寝ちゃって……くんくん、空の匂い……いで。」
百合乃の頭には私の手の側面。ベッドに頭を埋めながら、顔に触れるシーツに鼻を擦り付ける。
「なにやってんの。」
「空の香りを堪能してます。」
「何してるかじゃなくて理由を聞いてんの。」
「疲れたので栄養補給ですぅ……ソラニチウムの摂取をしないとわたしは死にますぅ。」
「今までどう生きてたのよそれ。」
せっかく厚意でかけてあげた布団も、温もりを感じるためとかいって抱きしめ始めた。
そろそろ引っ叩こうかな。
布団を回収しながらそう思う。
「ねぇ、今どんな感じ?」
「外出れば分かる感じです。」
「そんな感じ求めてない。」
「じゃあどんな感じです?」
昨日……いや、今日まで戦争していたとは到底思えないノリの会話。でも、そっちの方が私達らしい。
「ま、何にしろご飯も食べたいし食糧庫から何か持ってくるかぁ。」
「わたし作りますよ?」
「そ?なら、お願い。じゃなくて今の戦争の状況について聞いてるんだけど?『朝ごはん>戦争』になってるけど大丈夫?」
「朝ごはんより大切なことはありませんから。」
まずは元気勇気やる気です、と朝っぱらから元気いっぱいに立ち上がる。百合乃は朝ごはん食べなくてもいい気がする。
「待ってくださいよー。」
「はいはい。」
玄関に向かう途中で、百合乃は私の肩を掴んでくる。鬱陶しい。いつも通り玄関を出る。異様な静けさを感じた。
これ……大丈夫な感じ?
これがどういった静寂なのかが図れず、何となく不安に駆られる。
「大丈夫です。行きましょう。」
百合乃は肩を握る力を強めた。固まっている肩をほぐしてくれている。
「ほぐすなら、今は足でしょ。」
「空はセクハラすると怒るじゃないです?」
「確かに。」
ぷふっ、とつい笑みが漏れる。そこで、表情筋が引き攣る感覚がするのに気づいた。
そういえば私、あんまり笑わない気がする。
百合乃をお供に、中心部へ進む。閑散とした村には、再建の目処はたっていない。というか、勝手に利用させてもらっている形なので、これから国王とかと会談しなきゃいけないんだろうか。
『そしたら大統領みたいな人にも会わないとね』
『あぁ、言っていたな。エインミールが』
『あんなのが13人とか、会いたくない』
『気になる~』
私達も活発に動き出し、ギャーギャーと騒ぎ出す。
そろそろ、四人にも体作ってあげてもいいかもね。
『お、私専用の体?』
『その場合意識どうなるの?』
オンオフ切り替えればいいでしょ。
そう言ってこの話も切る。
「ここ、中立都市とかにしてもいいかもね。」
元帝国、王国、合衆国の三国が交わる街。それぞれから1文字ずつ取って、ラグル中立都市。うん、響きもいい感じ。
「ん?」
ふと、気配を感じた。それも、大量の。そして何かを煮込んだような匂い。野菜、肉、醤油?
これって百合乃が見つけた醤油の匂い?
遠くを見てみる。目を細めると、まばらに燃え尽きた薪の跡があり、鉄鍋が吊るされていた。底についた煤や中の焦げ、食べカスが目に入った。
「洗うの大変そー。」
「アレは頑固ですね。日本の科学技術をもってしてようやく互角な感じです。」
「義両親の家で七輪使うけど、あれ洗うの大変なんだよね。油とか魚の皮がこびり付いたのとか。」
「義両親……?まさか、空、結婚を前提にした彼氏が……?!」
「いないよ。私の引き取り相手。しなかった?私の過去の話。」
してても楽しい話でも何でもない。私の人生の汚点であり、その血が流れてることを今でもちょっと嫌ってる。
「過去がどうであれ、空は空です。わたしは今の空を見て好きになったんですから、前を向きましょう。」
「ほっへふかむな。」
両手で頬を押さえられ、そのまま百合乃の手によって視線を無理矢理前方に向けられる。
「よく見てください。あれは、今の空が守ったものです。」
鍋の周り。そこには、笑い疲れたかのように眠りこけた、安心し切った騎士達の眠った姿だった。
でも、ちらほらは起きてる気配も……?
さすがはプロ。いくら何でも、一気にはしゃぐことはしないらしい。
「ほとんどの帝国の騎士は、あの後倒したそうです。」
「あとは仕上げだね。」
「仕上げ、です?」
「ネイファのほう、まだ終わってないでしょ?」
私はポケットに入っているはずの通信機を手に取る。ボロボロのローブに入っていたそれに魔力を通す。
『そろそろかと思いました』
人を小馬鹿にするのが天職のような声が聞こえてくる。それと一緒に、コンコンという音も。
「今どこ?」
『彼氏の浮気を疑うような彼女みたいな質問はご遠慮願いたいです』
「オッケーあんたが頭おかしいことが分かったよ。」
魔力供給を止めてやろうかと考えたが、せめて報告くらいしておこう。
「ディティーは殺した。その証拠に私の手にはディティーのティアラと、剣がある。」
『その戦闘に疲れ果てて現在、というわけですね』
「正解だけど癪だからやめて。」
話していると体力を奪われる。早く切りたい。
『仕方ないですねぇ。今、そっちに影をやったのでその2つを渡してください』
「……なんで?」
『はぁ……これだから三流は。いいですか?事実死んでいたとして、この状況になにもしないということが皇帝の死は揺るがぬものになるわけですが、証拠がないのも事実』
「シュレディンガーのディティーってとこ?」
箱の中の猫を頭に浮かべ、何となく理解する。
『だから事実を確定させる。そういった意味を持たせるわけです。死人に口なし、言いたい放題言えるというわけですねぇ』
「そうだけど、言い方ないの?もっとさ。」
『それじゃあ、早くしてください』
ブツっと音声が切れる。
ネイファめ……私が切るのはいいけどネイファに切られるのはなんかムカつく……
「どうしました?」
「その剣、貸して。」
「はい。」
あっけなく手渡される。
「いいんだ。」
「わたしのものじゃないですし。」
特に何か思う様子もない。私も、ティアラをステッキから取り出した。
この影、どんな風にしたらこんなになるんだろうね。影には魔力が通らないから、練習しようにもできないし。
唐突に現れ、目的を達すると消える。どういう仕組みなのやら。
「あとはネイファが何とかするらしいし、私達は朝ごはん食べようか。」
「らじゃーです!」
心地よい静けさの中を、私と百合乃は進んでいった。
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突然何のやる気も出なくなる病気にかかったcoverさんです。ほんとに何もやる気にならず、寝る気にもなれないしぼーっとする気にもなれず、モヤモヤを募らせている現在です。
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