魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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17章 魔法少女と四国大戦

569話 犠牲と歓迎

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 ネイファ・リンカは夜明けまで倉庫に入り浸っていた。
 目の前には影が渦巻いている。コレはネイファの操る影である。

「ご苦労様です。」
影に一言労りの言葉をかけると、そこに手を突っ込む。

「人体に影響はないのか……それ。」
「ないといえば嘘になりますが、通常はありませんよ。わたしも使う影に危なっかしい機能があると思ってるんですか?」
「いちいち鼻につく言い方はやめろ。敵を増やすだけだ。」
「生憎、わたしに味方は必要ないので。」
「この関係はあくまでも協力関係で押し通すわけか。」
エディレンは肩を竦めて壁に背をつけた。

「そろそろ始めますか。今日で、帝国は終いですねぇ。」
「本当の終戦か。余の目にも焼き付けておこう。人の歴史の終わりというものを。」
「貴方が見るべきはその先の未来では?神は過去になどとらわれないと思っていましたが、思い違いでしたかな?」
「うるさい。」
意外にいいコンビをしている。ネイファとエディレンは示し合わせるわけでもなく、重要資料をそれぞれ影と空間にしまっていった。

—————————

「なんだ、これ。」
帝国に逃げ帰ってきた、僅かな兵力。

 首都リリスミアは、半壊状態になっていた。

 それは事実上であり、表面的には大きく崩れてはいない。しかし、化け物たちの徘徊はそれだけで国民の精神を大きく削ぎ、帝国から逃げ出したい気持ちが膨らむのだ。

 彼らが目にした光景は、もう取り返しのつかない状況に陥った帝国だった。

「やめろ!くっ、くるな!」
家に居れば安全の可能性も高いというのに、わざわざ逃げ出して遭遇する。そして殺される。

「に、逃げろっ、外だ!」
対して、家にいたとしてもものによっては侵入してくる。窓を割って、空いた腹を満たすため。

 何の意味もなく逃げ帰ってきた、役目を果たしきれなかった彼ら騎士に何かできようはずもなかった。帝国府に向かう足取りは、次第に重くなる。
 ただ絶望に顔を歪めていた。

「風…………?」
そんな嫌な空気を、一瞬だけ紛らわす風が吹いた。

 しかし気づく。これは、人工的なものだ。より大きな絶望を運んで、襲いくる。
 砂塵を纏った嵐のように、帝国をボロボロにすることとなる。

「紙……紙が降っている……?」
それは異常気象などではない。困惑を含んだ声を発した後に、視覚を働かせた。

 騎士らは悟った。

 本当にもう、ヘルベリスタ帝国は終わるのだと。

「なんの、何の目的があってこのような非道をするのだ……!…………いや。違う。我々も、同じく等しく、非道なのだ……」
そんな中、帝国民は彼らの存在に気付いた。

 助けてくれ、と。もう何の力も残っていない彼らに命を決して叫び声を上げた。

 『たった1%、希望を残しておきました。もしここで生き残った騎士たちが、英雄にでもなれば。もしや騎士国家が生まれるやもしれませんねぇ』

 ネイファ・リンカは、夜明け前にそう言った。

『けれど、大きすぎる絶望を前にすると、何も考えられなくなる。たとえそれが、皆で押せば倒れるハリボテだとしても』

 悪魔のような笑みを浮かべて言っていた。

 下がり切った帝国の威信の、僅かな希望も断たれた。国民も、騎士も、等しく理不尽に背を向ける。国民は目の前の背に石を投げつける。
 怒りの矛先をぶちまける。

 人は醜く、どうしよもなくなった時には同じどうしようもない人間に八つ当たりをする。

 コレで絶望のピースは揃った。
 化け物と、不満と不安と、国民の怒りと、帝国へ感じる理不尽。
 最後のピースを埋めて、この壊すためのパズルを完成させる。

 大空を覆うように、画面が映し出された。

—————————

「面白いくらいに、国民が荒れていますねぇ。ちっとは騎士も動けばマシでしょうに。」
「それをさせないよう仕向けた其方が言ってもな。」
帝国府のてっぺん。人が立ち入れないはずの屋上ですらない屋根の上で、エディレンの風魔法が舞う。

「はい、どんどん飛ばしちゃってくださいよ。」
「今やっている。」
「早く最後の絶望を届けなければならないんですから、ちゃっちゃとしてくださいよ、まったく。使えませんねぇ。」
いちいち棘のある言葉に刺されながら、風を起こす。痛みも慣れれば心地いいこともある。と思わないとやってられない。

「はぁ……其方の回収した資料、全部出せ。」
「何ですか、カツアゲですか?」
「少しは素直に言葉を受け取れ。」
「仕方ないですねぇ。じゃ、終戦放送はわたしでやっておきますね。」
簡単に言ってのけ、宣戦に使ったものと同じ映像投影の魔導具を光らせる。影を使ってハッキングした。

「あー、あー、テステス。」
音声が機能しているかの確認も行なって、ネイファは帝国を見下ろす。キャスケットに水色髪の少女が、帝国中に映し出される。

 声が、帝国全土に響き渡る。

「こちら、神国軍副機卿兼指揮官を務めさせていただいているネイファ・リンカと申します。」
キャスケットのツバを軽く上げ、明日は雨でも降るのかという言葉が発せられる。棘が、1本たりとも見当たらない。

「悲しくも、此度の戦は我々帝国が敗北を喫してしまいました。帝国軍及び派遣された神国軍は壊滅と言ってもいい損害を負い、皇帝ディティー・ヘルベリスタは敵将の手によって討たれました。繰り返します。帝国軍及び派遣された神国軍は壊滅と言ってもいい損害を負い、皇帝ディティー・ヘルベリスタは敵将の手によって討たれました。」
反応はない。上から見下ろし、見える人々の顔は呆然と生気が抜けていた。もう死ぬ以外の道が残っていないような、何もできない虚無感に苛まれているような。

「我々が捜索に出たときには、遺体は消え、これだけが現場に残されていました。」
手には帝剣、そしてティアラ。どちらも、帝国を象徴するもの。

 しかし、そんなものはどうでも良かった。他人の絶望など知りはしない。
 神のためになれば、それでいい。創滅神様が死ねと言うなら、死ぬ所存だ。
 帝国は、創滅神にとって害虫なのだ。

 だから、潰れるべき。

 ネイファは次に、悪魔のような純真な笑みを湛えた。最後の絶望が肉薄する。

「ですが、このまま降伏してグランド・レイト王国とラミア合衆国に帝国の権益を譲れば、今徘徊している化け物どもを駆逐し、国民を救出することを誓う条約を結ぶそうです!」
国民の心を代弁するように、手を組んで喜ばしそうに笑う。

「どうしますか?アズリア神国としては、条約に則って参戦しただけですが、帝国は違うでしょう。降伏して平和を望むか、立ち向かって滅びに向かうか。」
手を差し伸べるように、選択を与える。

 皇帝はいない。帝国も信用できない。
 目の前に迫る危機を排除すると言う王国。王国の手が入れば、ここは王国領となり守られる。
 どちらがより良い手なのか。

 愛国心が薄れ切った国民には、ほとんど一択の選択だった。

「選択の権利を握る皇帝は今、この世にいない。つまり、貴方がたが全てを決定する権利を持っている。どうか、懸命な判断を。」
映像は消え失せ、残った朝特有の静けさが戻ってくる。

「言っておきますが。」
「トイレか?」
ちょうど資料を撒き終えたエディレンに拳を振るうネイファ。簡単に避けられる。

「今の、余を殺す気だったな。」
「殺す気でしたし、そりゃあ。」
拳を引っ込めると、今度こそ言葉を口にする。

「わたしは誰かの味方でも、敵でもない。ただ神の下にある。なので、貴方と敵対する可能性もあるわけです。」
「何が言いたい?」
「いえ、何も。忘れてください。」
目的は達した。そう言うように、踵を返した。

「帰りますよ。わたしたちの目的は終わったんですから、残る理由もないです。」
暴動や反発の制御。完璧に終えた仕事の成果を土産に、魔法少女の待つイグルの方向を見る。

「コイツは、やばいかもしれないな。」
聞こえないように、言葉を噛み締めた。

———————————————————————

 気分的にもそろそろ日常回をしたいところですけど、もう物語は終盤。あと100話以内で終わらせたいなぁと考えています。
 書きたいことはありますけど、ぐだぐだしすぎず終わるならこの辺りかなと。
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