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17章 魔法少女と四国大戦
565話 魔法少女と終わりの宣告
しおりを挟む「何を…………何をしたァ!」
まるでライオンが吠えるように叫んだのは、ディティー。ヘルベリスタ帝国皇帝、ディティー・ヘルベリスタだ。
「斬ったんだよ、情報を。」
「そんなことができようはずな……」
「出来るんだよなぁ、それが。百合乃ならね。」
回れ右で振り返り、私の横に並んだ百合乃は仁王立ちをして笑っている。右腕に刺された剣の傷は、まだ痛そうに血を流している。
「お返しですよ!やったりました!」
「はいはい落ち着いて。」
私は百合乃の肩に触れ、再生創々で切断されたディティーへの存在感と腕を元に戻す。
「冥土の土産に教えてあげるよ。」
重力世界に押しつぶされ、悲痛な呻きを上げるディティーを見下し、言った。
「百合乃のサーベルは特別性でね。ディティーと情報操作を切り離した。それだけだよ。」
何事もないように話す。
まぁ、これはこの状況だからこそできた手段だけど。空間操作と一緒で、切り離すには同じ空間に同時に存在させなきゃいけない。継続使用させる、そして今さっきまでそうしていた。
本来だったら、私1人で行って百合乃が後から。そういう考えもあった。
でも、あのディティーだ。見えない相手への対処法くらい確立してるかもしれない。
ここで成功させなきゃ、ここまでの立案を手伝ってくれたラビアにも、お膳立てみたいな形にさせちゃった騎士達にも、申し訳が立たない。
車も戦車も飛行船すらない時代だ。戦争形式は白兵戦となる。そんな危険に身を投じてくれたんだ。だから私も、念をを入れる。
「ディティーは最初に、百合乃を派手目に倒させた。それで、百合乃はやられたものだと勝手に思い込んでしまった。」
思い込みって悲しいね、なんておどけた風に言ってみる。
百合乃は完全に舞台から去ったものとさせた。私が、百合乃がやられたみたいな演技したのもそのため。
詳しい方法は、私の時間稼ぎで察してほしい。
「どうする?降伏して、今までの侵攻の理由とか転生者を集めてた理由とか、全部吐いちゃう?」
「それなら、死んだほうがマシだな。」
「死のハードルどうなってんの。それ。」
百合乃と私は、サーベルとラノスをそれぞれ構え直す。
普通の相手だったら、油断しちゃうかもしれないけど、この状況だとまだ緊張の糸が張られたままだ。
ディティーってやっぱ、やばいなぁ。
「空、これどうするんです?」
「さぁ。捕虜にするにも強すぎて捕まえとくなんて無理でしょ?殺しちゃうしかないじゃないの?」
「朕の前で朕をどうするかの物騒会談を始めないでほしいな。」
重力に潰され、両手両足を突いているというのに余裕を持った声を出す。
「流石に騙されないよ。」
「そうだろうな。こんな姿、一方的に負けている以外ないからな。」
1度立ちあがろうとし、それでもやはり無理だと気づいてやめた。
私の目標って、なんだっけ。
右手に収まるラノスを見る。
そう、ディティーを倒すこと。
でも倒すって何?殺すのか殺さないのか。
一般的に見て、殺すべきだ。あの洗脳まがいの言葉を見ていれば分かる。殺すのが正義だ。
正義の裏は正義。前も似たようなことを言った。
でもそれは違う。
正義か悪か、私じゃ決められない、決めようとしないからそういう言葉が出る。
ひとつ正義を決めたら裏には悪しかない。だから、悪を生み出す覚悟がある人間だけに、正義を語る資格がある。
今の私は、覚悟ができた。
「正義って我が儘の究極系みたいなものなんだよ。私はディティーが悪だと信じる。今日で、長い帝国の歴史は幕を閉じる。」
「空、なんかかっこいいです!」
「なんかってなによ。」
目を輝かせている百合乃に、軽くそう返事をした。
「いいだろう。朕が悪になってやる。しかし、正義や悪というのは免罪符にはならないぞ。」
「知ってるよ。」
「そうか、それを含めて覚悟ができているのか。そうか!ソラはなかなかに才能がある。」
「そりゃどうも。」
淡白な言葉くらいは添えておき、断頭台にでも立たせるように死を近づけさせる。
「私がやりましょうか。」
「ありがとう。でもいいよ。」
百合乃の気持ちだけを受け取り、それを心の底に置いておく。お留守番だ。
私に、明確な殺人という記憶を持たせたくない。そんなとこだろうね、多分。
「反撃って言うのもなんだけど、お返しはさせてもらうよ。きっちりね。」
指を鳴らす。理由はなんとなくかっこいいからだ。
「ぐっ…………ここまでリアルに死を感じたのは初めてだ。」
「そう。」
重力を強める。徐々に徐々に。圧縮機にでもかけるように。
「反撃はしないの?」
「今、手が動かせるように見えるか?」
「見えないね。」
手を離したきり、地面と縫い付けられたような紫色の悲しい剣。もうすぐ、使い手が消えるのだ。
「じゃあ記念にわたしがもらってあげましょうか?勝戦記念です!」
「何記念にしようとしてんの。」
「ははっ……いいではないか。くれてやろう。」
そんな豪快そうな言葉とは裏腹に、声は掠れ始めていた。
「わたしサーベルしか初期装備ないので、こういうザ異世界の剣っていうの憧れありました!」
「そう……その感想は後にとっておいて。」
今から殺す相手の剣を見て嬉しそうにするというなんとも微妙な空気を肌で感じながら、意を決する。
「もう2度と会いたくない。」
「朕はしぶといんだ。いつかまた、転生でもして会おうか。」
血が広がった。蚊が叩き潰されて血が飛び散るように、辺りには赤く黒く、人を不快にさせる能力を持つ温かい液体が広がった。彼女は最期まで、笑ったまま。
ディディーが言うと冗談に聞こえないんだよ。
「終わりましたね。」
「終わったね。」
百合乃は、少し陰った月明かりを見上げた。それは変わらず輝いている。
「これでお終いだ。」
血の湖の真ん中に浮かぶティアラ。それだけを回収して、踵を返す。墓なんかは作ってやらない。
また帰ってくるって言ってたしね。
今度は敵ではないことを信じて、百合乃と共に私達は帰ろうとして。
「あれ………足が……」
ふらついた。百合乃が縮地で私を支え、なんとか事なきを得る。
「空っ!皇帝の怨念です……?!」
「違うって。ただ、疲れただけ。」
スマホの充電が切れるように、足に力が入らず倒れる。体と意識のパスが切れる。自分の体が別物のように思えた。
「ちょっと、やす、ませて。」
疲労に身を委ねるように私は意識を手放す。すぐに回復するだろうし、少しくらいいいだろう。
私は勝ったんだ、何も失わずに。手札を残したままに。
—————————
アイディンに残っていたのは、無数の雪原と多くの勇者だった。
ツララとオリーヴの勇敢さに感化されたのか、雪上組の騎士や防衛組の騎士にも大きな勇気を持って戦闘に挑んだ。
善戦により、向こうの兵は撤退した。
3000強いた騎士は3000弱まで減ってしまったが、それでも十分な活躍と言える。
「主、大丈夫……?」
「信じましょう。ソラ様は我々を信じ、任せてくれたのですから、こちらも信頼で報わなければなりません。」
2人は、アイディンで待つエルゼナたちの元へ確かな歩みで戻って行った。
—————————
一方、残りの村では。
「なかなか呆気なかったの。」
「数が数だからな。」
ルルサールでの防衛を任された2名。1番侵攻の少なかった村ではあったが、それでも強力なことに変わりはなかった。
それを、見事制圧してみせた。
アルタイン、カヌル、コールの3村も、拾肆彗や騎士団の力でなんとか防衛を続けており、本陣であるイグルもまた、総騎士長レイアードの手腕によって見事防衛を継続していた。
そこには、魔科学部の作る魔導具の助けが大きかった。
多くの人間が魔科学、そして魔法という見下してきた格下の存在だと思っていたものに対して関心を持った。
ひとつも落とされた村はない。危うかったところもあれど、この長く短い間を耐え抜いたのだ。
終戦は近い。
———————————————————————
よく考えてみれば、いくら異世界でまだ整備されていないことを鑑みても軍の数少ないですね。
帝国は精鋭を揃えたと言うことで2倍前後、王国も他の村の防衛も考えて3倍前後くらいはあってもいい気がします。
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