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17章 魔法少女と四国大戦
564話 魔法少女と終戦決戦 3
しおりを挟むあれから10分近くが経過した。
時間が経つにつれ、ジリ貧という現実を押し付けられている。
私は防戦一方になり、苦戦を強いられていた。
「どうした?初めの威勢は冗談だったと?」
「その荒っぽい姿、帝国民が見たらどう思うかな……?」
「今は関係あるまい。」
一振りのはずなのに、二振りよりより強力で素早いように見える剣の動き。左から迫ってきたと思った時には、背後を取られて逆を斬られている。
「どんな身体能力してんの…………」
斬られた部分に手を当てる、嫌な温もりを感じて、表情を歪めた。
私の使える魔法、効きそうな魔法を選定しよう。じゃないと、無駄撃ちすることになる。
トールと地龍魔法、流星光槍は確実に効く。その他が微妙……
ネイファから習った影の操作は……一か八かすぎる。
結局考えはまとまらない。
あと5分以上もこの戦闘を耐える必要がある、その事実だけが私を突き刺す。
「っ、殴りとか蹴りとかいい加減にしてよ……」
「ならば剣戟に変えるか?」
「それもそれで嫌だから、ぜひ勝手にやられてもらって。」
靴の金属の重みを感じながら、バックステップで距離を空ける。しかし、強い踏み込みで簡単に詰められてしまう。
「こんなもの攻防とは呼ばんぞ。」
「うっさい!」
一気に顔を近づけてきたディティーの顔面に頭突きを喰らわせ、ステッキで思い切り腹を突いてやった。さすがに怯んで、動きが止まる。
よし、今のうちに。
レフを投げ、ライトで照らす。
「なんだ、このおもちゃは。」
光が反射していくのを見切り、ほとんど姿勢を変えずに光を避けていく。
光を避けるってどんな化け物よ……光って速いよ?めっちゃ速いよ?
それを完全に見切って一瞥すらなしに避ける、ディティーの化け物ぶりを再実感させられる。
しかし、次第に厄介になってきたのか、剣を片手にレフへ接近した。
「木葉舞。」
風が舞って、そして砕かれる。その光景を見ていたはずなのに、何故か剣を振る瞬間が見えなかった。
小さな隙でも突いていかないとすぐ死ぬ……
「龍化。」
悪影響のないステータス向上を図る。
今はこれが限界。
覚醒なんか使ったら大変なことになるし、消耗も避けたい。
未来の私は多分理紡剣で斬られて自然治癒しかできない状態になってて、その隙を突かれた。
その危険がないだけマシか。
連射された弾丸を空壊輪に通す。半々の割合でそのまま繋げる。
これだけ戦えば分かる。その圧倒的な身体能力もさることながら、攻撃を観察し、慣れる力がずば抜けている。
だから、攻撃の仕方を工夫しないとすぐに看破される。
「くっ、面倒な攻撃だ!」
直接空壊輪を狙い、剣を振り下ろす。が、頑丈に作ってあるため早々壊れない。
2発ね……ディティーあんまり痛がらないから分からないんだよ、ダメージの具合が!
また生まれた、ほんの小さな隙。これを神速で、一瞬にして距離というアドバンテージに変換する。
「エスカー、発射!」
その言葉につられて私を見た。その手にはステッキもラノスもなかった。
私の努力の結晶、存分に食らえ!斬られるって痛いんだぞ!
ディティーの動き出す前に発射され、爆発を始めたエスカー。爆弾ガトリングという、とんでもマシンだ。その代わりに、私の血と涙が流れ出る。嘘だけど。いや、前半はほんと。
流血の痛みに若干悶えながら、反動を耐える。
「らあああぁぁぁぁぁ!」
ほとんどヤケクソ状態で、叫ぶ。これは弾丸ではなく、爆弾。切ったとて爆発、避けたとて爆発。範囲内に入った時点でおしまいだ。
火薬の代わりに光を散らす魔力に、金属が回転し擦れる音、強い振動に腕が痺れ始め、硝煙に似た煙が上がる。
こんな詩人みたいな言葉しか、今の脳では出てこない。気持ちが変なふうに抑圧されているみたいだ。
「とんでもない武器を隠していたようだ。はっはっはっ!そうでなくてはな。なぁ、ソラ!」
「ふっざけんな!」
ずっと過敏に働いていた五感は、嫌な言葉をしっかりとキャッチしてしまった。エスカーをその辺に投げ捨ててしまうほどキレた。
なんで生きてるの……いや、別に殺せるとも思ってなかったけど高笑いできるくらいの余力残ってるとか私泣くよ?泣いていい?
その姿は、ところどころ服が焦げつき体に赤みが見える程度の傷しか見えない。
それ以前の銃痕は置いておいてだ。
「マジで意味不明っ!」
時間稼ぎなんて柄じゃない。攻撃は最大の防御とも言うし、神速で一気に踏み込み、一足一刀の間合いなんてものを度外視する。
「慣れたな。」
神速の速度に合わせ、紫色が視界を走る。しかし、当たらない。
縮光っ!からの陰縮地!
私の数寸前を撫でた剣は出来る限り気にせず、速度は変えない。髪が風で靡くのを感じながら、敵の死角から踏み込んで、私の握り拳を突き出した。
が、ブラフだ。
「…………ッ、んがっ!」
その言葉は、私が発したものではない。ディティーが、何かを言おうとして物理的に遮られた声だった。
「卑怯なんて言わないよね?」
さらに追い討ちとばかりに、胴に回し蹴りの要領でキックを浴びせた。
さっきの全部、脛蹴りの前振りだとは思わないよね。さすがに。
私は、右腕振った瞬間に右足で右脛を蹴り上げた。突然現れ、殴りを仕掛けた私が突然足を出した。いくらなんでも、そこまで反応されてしまったら困る。
ま、もう使えそうにないけど。
弁慶の泣き所とも呼ばれるそこを気にする様子を一瞬見せながら、「物理攻撃がどうのと言っていたがあれは嘘か?」と痛みを抑えるように言葉を口にした。
ディティーは距離を空けることなく、近接戦に持ち込んできた。剣の柄が武器となり、刺突を繰り出す。私は、避けるそぶりすら見せずに右足を前に突き出す。
怪訝な顔が最後に見えて、右足を軸に私は跳んだ。
「ぉりゃッ!」
可愛らしい叫び声で、回転をつけたターンキック首に決める。我ながら、上手くいった。
「脚が、お留守だ……!」
「なっ、ぃったぁ……!掴むな……!」
確かに蹴った、感触もあった。それでも、肉食獣すら恐れ慄く眼圧は衰えない。
ちょ、まっ!これ振り下ろす気じゃ……
まるでツルハシで地面を砕くような、ガァッン!という音が私の体から鳴る。
1度や2度ならず、私が血を吐くまでそれは続いた。
そのまま私は遠くへ投げ捨てられる。
よくアニメで、掴んで投げ飛ばすシーンを見て『これ意味あんの?』と思っていたが、実際にやられると風圧か何かで上手く身動きが取れない。
「っ、ぁぁっ、やば、痛ぁ。」
ゴロゴロと転がり、意識を保つためにその言葉をなんとか残す。
「少しは、休ませてよ。」
ごろっとそこから身を回転させて、真上にドロップキックを繰り出すディティーから距離を取る。苦し紛れのトールと、プローターをプレゼントすることも忘れない。
「戦闘開始で、そろそろ30分か。朕とここまで戦闘が続いた人間は初めて見た。誇れ、後世まで語り継がせてやろう。」
「いらないよ、そんなの。」
それと、と、ディティーの言葉を訂正する。
「29分48秒だから。」
「細かいな。」
「細かいくらいがちょうどいいんだよ。」
もう勝敗がついたかのように、ディティーの顔色は晴れやかだ。
「ソラの敗因を告げよう。」
「聞いてあげるよ。」
「それはありがたい。」
「思ってないくせに。」
戦争中とは思えない言葉で濁し、先の言葉が紡がれる。
「最後まで、朕に全力を見せなかったことだ。」
「そう?私は満身創痍なんだけどな。」
「朕は、ソラが何をしたかったか最後まで理解できなかった。」
まるで、もう勝ち戦気分で私の冥土の土産でも用意しているように話す。
「じゃあ、最後に教えてあげるよ。ディティーの敗因を。」
「面白い妄言を吐くようになったな。」
「確かめてみればいいよ。」
出来るだけ時間を稼ぐように、ボロボロの体から言葉を発する。
「もっと周りに気を向けるべきだったね。」
先程までのお返しとばかりに、私は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「な…………?」
ディティーは、突然膝をついた。
「完璧だよ、百合乃。」
「それほどでもあります。」
それと同時に、カンッ、とサーベルを鞘に収める百合乃が。そして、私に背を向け自信たっぷりに立っていた。
———————————————————————
そろそろラストスパートですかね。いや、やっぱまだもう少し続きそうです。
これが終わればあとは神国戦となりますが……一旦休憩を挟むかもしれません。一章分は使いませんけど、フィリオやら国王やらと空さんにはOHANASHIすることが色々ありますからね……
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