魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

文字の大きさ
上 下
591 / 681
17章 魔法少女と四国大戦

563話 人を呪わば穴二つ

しおりを挟む

 百鬼夜行。
 人ならざる者が、この帝国の夜を徘徊する。

「これでは民間に被害が出ないか?」
人神、エディレンは檻から魑魅魍魎が溢れ出るのを眺めながら、横で満足げにキャスケットを傾けるネイファに問う。

「ええ、もちろん出ます。」
「出るのか。」
「そりゃもう出ちゃいます。」
何が面白いのか、笑いながらそれを言う。

「しかし、犠牲がないことには本物の恐怖というものを植え付けることは不可能。それらの恐怖に自ら立ち向かうことで、現状に不満を持つ。」
「その不満を皇帝になすりつけるということか?」
「まとめると、そうです。」
ネイファの視線の先には、その悪夢を生み出すであろう悪鬼たちがいる。もちろん、それは外を目指すばかりではない。

 ネイファやエディレンにも魔の手を延ばしている。

 もちろんそれを足蹴りにするネイファ。

 人間を鍋で煮込んで溶かしたようなものや、体の一部が奇形化したもの、皮膚が消滅しているもの。そのどれもが人工的な能力矯正を受けた被害者である。
 ほとんどが意識を奪われ、本能のままに這いずっている。

 ネイファの足によって宙を舞う羽目になったそれの首元には、見覚えのあるエンブレムの焼印が。

「そろそろ警報が出てもおかしく有りませんね。警備は手薄になるでしょうし、早めにやっちゃいましょうか。」
「もう、好きにしたらいい。」
手を出すことを諦めたエディレンは、ただの監視役と成り下がったのだった。

—————————

 とある騎士は帝国府の一室で焦燥に駆られる。
 名をウィリーア・ルーズベルという。

 民間から通報を受け、この手薄すぎる警備体制の中無理矢理動員した騎士たち総出で問題対処に向かっていた。

 その通報内容は、化け物たちが首都を這いずり回っているというものだった。
 化け物、という抽象的な言葉に首を捻るが、実際に見てみたときには言葉を失った。

 確かにこれは、化け物としか形容できない生物だった。それが生物かどうかすら判断に迷った。
 しかし、動いているのだから確かに生きているのであろう。

 化け物たちにも性格があるようで、積極的に出会う人間に危害を加えるもの、家屋を襲うもの、ただただ歩くだけのものもいた。

 それを、この少ない手勢でどうしろと?
 もう範囲は拡大しており、簡単に行き来なんてできない。先に対処に向かった仲間によると、個体差はあるがどれも強力とのこと。
 一筋縄で勝てるものではなかった。

 それに加えて……住民から多くの苦情や不満の言葉が絶えない。
 密かに魔科学の発展を遂げている帝国には、一家に一台通話機が存在する。魔力を登録することで、そこにつながる電話だ。

 帝国は自他共に認める強国。
 しかし戦争についてはなんの報道もなく、起こった悲劇に対処もまともにしてくれない。帝国にいる意味を徐々に失いつつある。

 皇帝ディティー・ヘルベリスタへの信仰は圧倒的な力と信頼、それを生み出しもたらしてくれるいわば神のような存在。
 軽い情報操作で思考制限がかけられているものの、皇帝へでなくても帝国へ不満が募っていく。

 では、その帝国を生み出しているのは?皇帝だ。直接結びつくのではなく、回り道をしてそこへ結びついた。
 1度募った不満は無くなることはない。どこかにそれを放出しないといけない。そうすることで、必然的にその感情を表に出すこととなる。

「くそっ!どうしてこうなっているのです……!」
市民対応に駆り出されているウィリーアは、机を叩いて文句を吐いた。

「大体、何故私は鎮圧に出向くことができない?指揮だからなんだ、現場に向かってはいけないなど……そんな決まりはないはずでは……!」
何度も机を殴った。

 今まで肩を並べて戦争に挑もうと言っていた帝国民は、自身の精神を蝕む敵となっている。守らなければいけない相手が、こちらを責めている。訳が分からない。

「本当に今の帝国は、美しいんですか……?」
ネイファの言葉を思い出した。

 『帝国は、美しいですか?』

 本当に美しいのだろうか。
 帝国全土を目で見た訳ではない。もちろん、全てが全て綺麗であるとも思わない。
 それでも美しいと思っていた。

「帝国は醜いんですか……?」
今の帝国を見て、そう思わざる得ない。

 混乱はまだ小さい。しかし、夜が明ければ人は活発なり、更に襲われる事件が多発するだろう。

「ルーズベル司令、報告です。」
「どうしました?また何か問題でも……」
ダン、と1枚の紙が机に乗せられた。周りの資料や積み重なった本が崩れ落ちる。電話の光が点る。
 
「これは、なんの冗談ですか。」
「いえ。これは、奴らの完璧な模写です。」
首の裏に、己の鎧にも印された紋章がはっきりと描かれていた。

—————————

「ビンゴ、研究資料がたっぷり眠っていますね。」
場所は移って帝国府地下。牢屋は放置しておいても問題ないという判断だ。

 完璧な防御システム。もし、万全の帝国府であったら確実に突破はできなかったが、真上では事件、外では戦争で動員できる兵など徴兵した一般人くらいだろう。

 ここは地下。帝国府が潰れればそのままお陀仏になるというわけだ。テロの王道として帝国府大爆発も視野に入れていたが、決行しなくて良かったと内心安堵を浮かべた。

「こっちが転生者から『レベル』という概念を抽出するための試験、こっちが転生者を発見する装置の実験と実証、転生者からステータスを抜き出す方法の模索やらなんやら……見事に全部人体実験がらみですねぇ!」
はっはっはっ!と、完全防音だからと大笑いする。

「面白いくらいにわんさか出てきますねぇ。面白い!」
「それを口に出していう奴がいるか。」
控えめなエディレンのツッコミにも耳を傾けすらせず、空き巣の常習犯のように小慣れた手つきで物色していく。

 外見は単なる倉庫、資料庫といったところか。

「こんな量全てを回収するのは不可能だ。どうするんだ?」
「別に、持って帰ってどうこうするとかはしませんよ?え、逆何かするとお思いだったとか?」
「煽りは効かない。」
「あの転生者なら、簡単に挑発に乗ってくれるんですがねぇ。期待外れです。」
「余は神だ。そう易々と心は動かない。」
黙々と……姦しく作業するネイファの隣で呟いて、エディレンもついでに手頃なファイルに手を伸ばした。

「年齢による魔力成長度の計測。子供に無理矢理魔法を行使させる?まだ、魔力吸着が安定しない子供に大量の魔力を使わせるなんて、今後魔力が使えなくなる可能性も十分にあり得るというのに……」
「感情、動きましたね。」
「余はこれでも人神だ。人の事についてなら多少の知見があるものでね。」
すると、横からスルッと何かにファイルを奪われた。影が盗んでいた。

「これも利用させてもらいますよ。」
「結局、其方は何をする気なんだ?」
「これをばら撒きます。」
手に渡った資料から紙を抜き去り、空中に投げ出した。

「今、帝国民はジワジワと不満と不安が募り重なり、器で例えるならヒタヒタの状態。そこに、大量の氷を投げつければ堤防が決壊するように溢れ出すでしょうねぇ。」
「つまり、其方は民間人に帝国を敵視する風潮を作って、王国を同じ敵を討つ同士という認識にさせるつもりなのか?」
「その認識で構いません。」
そう答えてから、また作業に戻った。大量の、試験結果と試験内容を吟味しながら、撒き散らすタイミングを図っていた。

 利己的な感情に従って他者を虐げるならば、いつかその行いは返ってくる。因果応報というやつだ。
 それがちょっとばかり、過剰なだけ。

———————————————————————

 流石に戦闘しすぎるのも胃にもたれますし、個人的に楽しいですけど執筆も大変なので、遅筆矯正のためにも一旦息抜きをと。
 ネイファも頑張ってます。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...