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17章 魔法少女と四国大戦
555話 魔法少女は突き進む
しおりを挟む私達は、大慌てで支度を始めた。
用意できる時間は短い。なんとか魔神が食い止めるそうだけど、あの数だ。神に多勢も何もって感じはあるけど、相応の魔力を消費するはずだ。
そんなことはさせたくない。だから、少し温存していてほしい。
騎士達は起き抜けだ。眠そうな顔だったが、やはり訓練を受けた騎士達は顔つきが違う。
状況を理解するや否や、眠気のある顔は一気に凛としたものに変わった。
学園から派遣されている人たちは、そうでなかったようだけど。
「空壊輪、さすがに無理だよね。」
私のお腹も満たされ、イグルの西門の壁に背をもたれる。部隊編成も終わり、アイディン、ルルサール、アルタイン、カヌル、コール、そしてイグルに部隊を設置したところで一息つく。そして、それを思い出した。
レリアリーレたち、間に合ってくれるかな。間に合わなかったら、それはそれで私に負担がダイレクトアタックするけど。
「くうかいりん、ってなんです?」
百合乃が、隣から声をかける。
ああ、そういえば百合乃も呼んでいる。じゃないと作戦は成功しないから。
「突然銃弾発射器。」
「字面がエグいことになってますね。」
サーベルをかちゃかちゃしながら、落ち着きない様子のまま口にした。
「百合乃、なんか落ち着きない?」
「そりゃそうです。わたし達が勝つために、あの騎士たちは身を投じて戦ってくれてるわけなんです。なんか、申し訳ないんですよ。」
「そんなの、考えるだけ無駄だよ。」
「辛辣です。」
百合乃は口を曲げるように言う。
ぶっちゃけ、この戦はどっちにしろやらなきゃいけない。それを導いてるんだから、逆にこっちも感謝されてもいいと思う。
私達の出番。騎士達が交戦を始めてからのそのタイミングを待ちながら、百合乃とぽつりぽつりと会話をしていた時。
前から人影と、走ってくる音。
「せっ、先生……!まに、まっ、に、あっ……た……かな……?」
「部長、何言ってるか分からないから。」
明らかに運動不足そうな見た目をしている、不健康なまでに蒼白い少女は息を荒げて接近した。
レリアリーレ……?え、まさか?
そのまさか。ルービアさんの手には、私の渡した本数ちょうどの、空壊輪があった。
「魔力、回路を、なっ、なんとか、つな、げ……」
「もう黙ってていいよ。」
見ていて、申し訳なくなった。レリアリーレには水を渡して座ってもらう。
「スムーズに魔力を通るように、道を整理しておいた。多分、使える。」
じゃらじゃらと金属輪を手渡される。そこに私がするのは、重力と空間の操作。
外周部に重力を回せるようにしてるのね。
で、中心部には他の空壊輪に繋ぐ空間の道と、私の選定した場所に飛ばせるようにとオンオフの操作で切り分けると。
「よくこんな短い時間でできたね。」
「数はあっても、やることは同じだから。それをするのが、自分らの仕事なんで。」
ルービアさんはカッコよく決め台詞を言った。ルービアさん、かっけぇっす。
見た目もなんか、それっぽくていいし。雰囲気あるよ、やっぱり。
実際に魔力を流してみると、簡単に浮く。6つ全てを浮かせると、そのうちの1つを目の前にやる。
残りは、誤射すると危険なため空にやっておく。
私はラノスを一丁抜くと、その円の空洞に向けて銃弾を放つ。
「おぉ、すごい……すごいよこれ!」
銃弾は綺麗な軌道を保ったまま、空洞を通過した途端消滅。空を向く空壊輪に転移して空へ消えていった。
「なんです?これ。」
「私がレリアリーレとルービアに頼んでた魔導具。ディティーには、普通のじゃ効かない。」
「マジですか。」
「剣で弾いてくるんだよ、それが。」
「銃弾を弾く……やばいですね。」
「そうだよやばいんだよ。」
身のない会話をしつつ、空壊輪の試し使いをしてみる。
逸らされた銃弾を空壊輪に通せばもう一回奇襲攻撃もできそうだね。
別空間に通すやつは……
「結構集中力使うなぁ。」
疲労を顔に滲ませながら、何度か挑戦する。思ったようなところから射出はされない。
『そういう時のための私達でしょ』
『さすがに、今回は嫌がらないよ』
『私の超絶テクニックを披露する時が来たッ!今まで割りを食ってきた分、この私が一世を風靡してやろうではないか!』
『すごーい』
私Dは、ものすごい淡白な物言いでその言葉に拍手した。
「ぶっつけ本番、か。まぁでも、やれないことはないかな。」
マガジンを入れ替えながら、自信を持って言葉にする。
もう、軍が動くみたいだね。
「そういえばですけど、ツララちゃんたちはどこに行ったんです?」
「アイディンに行かせたよ。」
「そうですか……」
「何か心配事でも?」
気掛かりがあるような顔をしている。この際、はっきり言ってもらいたい。
「ただ不安なだけです。わたしの空にちょっかいを出すメス狼ですけど、一応は家族みたいなものです、あの子も。」
「百合乃がそう思ってくれるのは嬉しいよ。でも、いつ私は百合乃のものになったの?」
とりあえず百合乃の足を踏んどいた。魔法少女の靴はブーツだから痛い。はず。
「よし、行こうか。」
「です。」
「2人とも、ありがとう。今度学園にお邪魔して挨拶に行くよ。魔科学部の他の人たちにもよろしくね。」
「せんせも気をつけて。」
正妻感のある雰囲気は置いておき、私は2人と分かれる。彼女らも、イグルの防衛に手を貸すはずだ。邪魔はいけない。
始めよう。最後の戦いを。
そして食い止めるんだ。あの、全てが燃え尽きて無くなってしまう未来を。私が、創滅神の代わりになった未来を。
「いざとなったら使うよ。大切が守れるなら。」
スキル欄に浮かぶ、とある文字を思い出す。
「どうしたんです?」
「いや、なにも。」
私達は、帝国方面。西へ駆け抜けて行った。
—————————
今回、第二陣の組み分けはこうだ。
ネイファと人神。これは、ディティーを殺してしまっても、暴動や反乱が起きないように情報操作の洗脳解除、および鎮圧の担当。
ネイファを、作戦から離す意味合いも兼ねている。
魔神と霊神は補助に回る。霊神は創滅神を地上へ直接干渉することを防ぐ役目を持っている。派手に動かすわけにはいかない。魔神は、四神の中の主戦力。温存しておきたい。
アーレは情報操作を使っての各方面の対処。
また、ディティーの情報操作で何かをやらかされた時の防御壁となってもらう。
蓮は、ルルサール防衛に置いてきた。あれでいて強い。
あとは、現場指揮にそれぞれ騎士団の上位群。拾肆彗のお三方にしてもらい、2万弱に減ってしまった軍をそれぞれで相談させていたように決定した。
今回は帝国軍の殲滅が目的ではない。完全に防衛が目的だ。だから、村の外に列をなす。
「聞こえているか、同胞諸君。」
魔法少女謹製通話魔導具(音波発声器を利用している)にて、最後の指示……鼓舞を開始したのは、総騎士長レイアード。
「短くも長いこの戦争を、今、このすべての力を持って集結へ導こうではないか!少なからず出てしまった、悲しき犠牲や、友の反乱を経て、辛い出来事に身を焼いていることだろう!しかし!それこそを弔いとして、勝利こそを供えとして、グランド・レイト王国騎士として手向けよう!」
その言葉を言い終えると、通話を切る。
ここにいる全員が、死ぬかもしれない。そして、死ぬ気で挑んでいる。
ある人は愛国心から、ある人は王への忠誠から、ある人は義理を果たすために、またある人は家族のため、友人、恋人……だれもかれも、皆、何か大切を抱えている。
これは戦争だ。
奪うか奪われるかが全て。
『大切』を奪われないために、彼らは戦うのだ。
———————————————————————
結局、ディティーを戦場に引き摺り出す術は書けませんでしたね。
とは言ってもめっちゃシンプルで力技なんですけど。別に、結果的に帝国府に戻らせなければいいわけですから。
ちなみに、帝国府ではディティーにバフがかかりまくります。それを引き起こすやつの下位互換が、メタリック建築物です。
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