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17章 魔法少女と四国大戦
554話 魔法少女は戦争再開
しおりを挟む目を覚ますと、もう夜だった。
窓から太陽の光が差し込むこともなく、あるのは天然の光源である星の光だけ。
この綺麗な夜空の下では、血飛沫が舞うことになる。
「寝過ぎた……?時刻が分からないから、なんとも言えない……」
寝過ぎた時に感じる頭痛はない。腹は若干減っている。そこそこな時間眠っている気がするが、妥当と思えた。
「そういえば、ルーアの件と鎮圧部隊の方は……」
「目を覚ましましたか。」
唸るように気になることを呟いていると、横から声をかけられる。相手は、言わずもがな。
「私、どれだけ寝てた?」
「ざっと8時間ほどね。今までの苦労と合わせても、まだお釣りが来るくらいよ。」
「そう……」
「貴方の大好きな情報だけれど、どうする?良い知らせと悪い知らせ、どちらから聞きたいかしら。」
起き抜けに、そんなことを言われてもと思う。しかし、想いを汲んでくれたのは嬉しい。
「じゃ、悪い方から。」
「ショートケーキのいちごは後に食べる派ね。」
「いや先に食べるけど。」
「……この話は置いておきましょう。」
なんとなく、申し訳ないことをしてしまったことを理解した。
「ルーア、と言ったかしら。」
「龍神だよその人。」
「何故ここには神がいるのかしらね。不思議よまったく。」
「四神が協力してるし。世界の存亡が関わることだし。」
帝国との戦争からまさかそんな大事になるとは誰も思わないだろう。私もそうだった。
「彼女の担当していた件だけれど、逃げられたようです。」
「マジ?」
「相手が神では分が悪いと理解しているのでしょうね。」
「危機管理もなってると。どっかで叩いておきたいんだけどな。邪魔だし。」
ルーアに追わせるでも考えたけど、深追いは禁物だ。と、よく色んなところで聞くから先人の知恵には倣っておこう。
実際、魔法でも封じられてルーアがこっちに戻って来れなくなったら結構面倒だ。
四神は万能に見えるけど、同じ戦力。戦力は削がれるものだ。
「で、良い知らせは?」
「無事、鎮圧を完了させたわ。百合乃だったかしら。彼女、得意げに戻ってきていましたよ。」
なんか、想像できてしまった。
「帝国の動きはどんな感じ?」
「もう起きたらどうなの?ちょ、なんで布団に潜るのよ。」
呆れ目など、気にしなければないのと同じなのだ。私は、思うがままに寝具に包まれる。
「1度睡眠の味を知ってしまった人間はもう後戻りできないんだよ!嫌だぁ!もう戦場なんてこりごりだよ~!」
「この戦争の主役が何を言ってるんですか!さっさと起きて、役目を果たしてください!」
「オリーヴさんから聞いたよ!ラビアも婚約を一向に決めないらしいじゃん!それと一緒!」
「そんなものとは一緒にされたくありません!私は、しっかり精査した結果お断りしているだけです!」
と、こんな無駄な叫びあいをしている間にも帝国は刻一刻と侵攻を進めているのであった。
「ま、まぁ。うん。一旦この話は置いておこう。」
ようやくベットから出る決心をした私。昼夜逆転してしまった現在、やることを探していた。
ほとんどの騎士はもう寝てるよね。
うーむ、寝る前はあんなてんてこまいだったのに。知らぬ間にやることがない。
しかし、そんな簡単に仕事は私を逃してはくれない。
「ん?」
私は立ち止まる。目の前に、立ち塞がるように扉が立っていた。もちろん、扉なんだから開く。
え、私何もしてないんだけど。
おかしな点を挙げれば……そう。見ての通り、勝手に扉が開いてること。
『いや、突然目の前に扉の方が不自然でしょうよ』
開かれる扉を見つめていると。少し、険しい顔をした魔神がいた。
「少し、想定外のことが起きた。」
「想定外……?」
「帝国軍が、もう目と鼻の先に迫っている。」
私は後ろを振り返った。ラビアと目が合う。
「「はああああああああああああ!?」」
—————————
ヘルベリスタ帝国一向は、森林をもう直ぐ抜けようとしていた。
本来ならあと1日かかるはずの進軍。なぜ、こんなにも早くことが進んでいるのか。それは、全て『六将桜』が1人、第一将のルーンの仕業である。
「時間稼ぎ、助かった。」
「それが役目ですから。」
ルーンの言葉に、その女性は頷いて答える。
「桔梗くんこそ、よくこんな大それたことをしましたね。神にでもなれるんではないでしょうか?」
「望月も、戦ったはずだ。神の次元は更に上だ。皇帝陛下が仰るには、あれすら不完全らしい。」
「あれで、ですか。」
バイオレットは目を伏せる。あの戦い、6人の幻影を一瞬で粉微塵にしてしまったあの龍の少女を思い出して、苦笑する。
「我々には、まだ早いようですね。」
「いずれ、皇帝陛下がやってみせるさ。」
異世界には不似合いな、メタリックな外装をした半球状の建築物に花を添え、ルーンは笑った。
—————————
「突然転移してきたように、姿が消えた。魔力反応で追ってみれば、そこにいつの間にかいたんだ。ボクにもさっぱり。」
「他の四神には心当たりは?」
「エディは今、ネイファと一緒に帝国に潜入を試みているよ。キミの言った策を為すために。」
「お、凄い。何しでかすんだろう。」
そんな感想も程々に、話を進ませた。
「露出狂は休ませてやるといいよ。鎮圧を手伝ったようだし。1番怪しいのは、ルーアの取り逃した謎の2名。」
「やっぱそれだよね。」
「それにもうひとつ。王国全体に、何か気配を感じる。」
「そりゃ、どこかしこに生物はいるし。」
なんておとぼけ回答は望まれていないことは分かってる。
「で、何か分かったの?」
「どうやら、ボクらは最初から皇帝に踊らされていたみたいだ。」
「どういうこと?」
「王国全域に細かな魔力を噴霧して、領域を作り出されていた。」
魔神は深刻そうな顔で言った。実際深刻なんだろう。
「パズールから少し行った、森のはずれ。人の訪れることのない空間に建物型の魔道具を発見した。今から壊しても、もう遅いだろうね。」
「パズール、森のはずれ、建物……」
このワードで脳内検索にかけると、ふと何かを思い出したような気がした。私は、ちょっとそっぽを向く。
「どうしてキミは目線を逸らした?」
無論、魔神は目ざとく気づく。
「いやぁ、ね。ちょっと……」
「心当たり、あるようだね。」
にっこり笑顔の魔神を、私は初めて見たかもしれない。
「世界がループした前日?その日?なんて言ったら良いか分からないけど、メタリックな建物を見かけたんだけど……」
確か、その時は百合乃と一緒に『触らぬ神には祟りなし』とか言って引き返したような気がする。
「あれ自体に魔力はない……くそっ、発見が遅れた……今直ぐどうこうという話ではない。けど、確実に後手に回されている。それが問題だ。」
「魔神パワーは?」
「ボクにだってできることの限界はあるさ。」
「……ちょっと待って。」
「無理だ待てない。」
私は無視して話を頭で巻き戻す。
つまり、それって……
もう戦争再開されるってことじゃん!
「魔神はこれからどうする?」
「ぼちぼち、引き止めるさ。一応、少しはボクの責任もあるからね。その分は活躍しよう。」
「じゃあ私はレイアードさん起こしてくる。村に警報音と鳴らしてくれない?」
「了解。」
見事なコンビネーションで確認をとっていく。寝ぼけた頭に喝を入れるため、とりあえず何か口にしたい。
「あの、私は。」
「ラビアは、ここにいて。危ないから。」
「ひとつ、よろしいですか?」
「ん?」
ラビアは真剣そうに胸で片手を握りしめ、「皇帝を追い詰める方法を考えました」と言った。
———————————————————————
現在執筆しているのは朝です。9月1日の朝。
4時に起きている変態のcoverさんは、そんな時間に起きてせっせこ執筆をしております。
多くの学生さんが始業式であろうこの日に、1秒でも長く寝ていたいであろうその日に、朝っぱらから執筆を。
……はぁ。
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