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17章 魔法少女と四国大戦

558話 泥沼に向かって

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 6つの村の、6つの戦い。
 それぞれが死力を尽くした防衛戦が始まっていた。

 アイディンにて、2人の戦闘がよく目立った。

 現場指揮は騎士長エルゼナが務め、主に《低位騎士ローナイト》と《中位騎士ミドルナイト》を中心としたメンバーとなっている。

 数は3000強とやや少なめ。戦争にしては少なすぎる量ではあるが、善戦をしている。

 レイアードも、ヒビアも、エルゼナも、カオスエリーヴも、エインミールも、ニカも。全員が、この戦はあと耐えるだけということを知っている。

 一瞬の泥沼を耐えさえすれば、この戦には勝利が待っている。

「雪原展開!」
アイディンを少し出れば、この辺りには似つかわしくない一面の銀世界が広がる。触っても、冷たい。ヒリヒリと肌を焼くような雪。そして戦場。

 戦場はもはや雪上戦となる。

 ここで主に特攻するのは、雪の中でも動きの鈍くなりずらい騎士たち。
 冷所での戦闘が苦手な者もいる。それらは、魔法少女から支給されたレールガン式魔弾発射器を使って援護射撃をすることとなった。

 レリアリーレ主導で、現在散らばった魔科学武装動員でその魔導具の大量改良を行なっている。
 そのままでは誤射で味方に当たる可能性もあるため、魔法少女の残していった魔力球によって空間伸縮を施していっている。

「交代しましょうツララ様、そろそろ後方へ。だいぶ、雪も広まっていきました。」
「……了解。気をつけて。」
「ご心配痛み入ります。ツララ様こそ、お気をつけて。」
オリーヴは木々を伝って敵陣へ進む。ヒットアンドアウェイ。攻撃からの即座の撤退を繰り返し、確実に着実に数を減らす。

「ソラ様は、本当に面白い方ですね。」
オリーヴ爆笑する。ツララもそうだが、このナイフも。

 魔力を流して振るう。風のような何かが飛び、雪に刃痕が残る。
 適当に作った魔道具がこの威力だ。とんでもないセンスを感じている。

 突然の積雪に困惑の色を見せる帝国兵。

 魔神からの報告で言えば3万程度の軍らしいが、6分の1というわけではないだろう。
 本村、イグルへの侵攻が主となっている可能性が高い。
 ディティーを追うにも最短の位置にあり、防御は手厚だ。

「何人であろうが、王国は負けません。」
信ずるものを信じ抜くため、オリーヴは再度そのナイフを振るう。

「敵襲!」
「落ち着いて対処しろ、我々には皇帝陛下のご加護がついているのだ!」
「我々の信念を貫け!」
しかし、訓練されていればこの程度の対応を自然と取ってしまう。雪が突然積もり出すなんて予想はしていなかったろうが、緊急時の対処という意味では同じこと。

「帝国は帝国の正義が、ということですか。ベタですね。陳腐ですが、得てして国とはそういうものです。王国だって、そのうちのひとつ…….そういう心は、世界でいちばん美しい陳腐なのでしょうね。」
独り言をぼやきながら、陰る月光と白銀の世界へ身を置いた。

「どのような手合いであろうと、ここを通すわけには参りません。」
メイド服が風に揺られた。それは合図として、オリーヴへ敵を引き寄せる爆弾となる。

「5、いえ10ですか。随分と大所帯な。」
遠足ですか?と団体で行動する彼らに問いかける。

 流石に多すぎやしないか。この広大な森で、奇襲するではなく数でゴリ押す。

 しかし、絶妙に悪い組み合わせ。
 それぞれが、人間離れした強さがあるのは分かる。それでも互いを低め合ってしまっている。

 何故こんな組み合わせに。まさか、この本軍ですら捨て駒だというのか。
 考えていても仕方がない。

 迫る敵は強いのだ。

 2人の剣が左右から斜めに落とされようとする。当然のように魔力が宿っており、オリーヴは右手側の剣の軌道をナイフで弾いて横にずらす。
 空いた横側に体を滑り込ませ、剣の持ち主に掌底打ちで吹き飛ばす。

 その拍子に手放した剣を掴み、逆にそれを左にいる帝国兵に向けて投げ飛ばし、正面に駆け出す。

 空に浮かぶ光を受ける。戦いは始まった。

—————————

 一方、ルルサールでは。

「何故俺がこんな雑用をやらなきゃならない。」
そう文句を垂れるのは、蓮。

「うるさいの。面倒ならやらなきゃいいの。邪魔だけはやめて。」
「うるせえなやるよ。」
現場指揮を任された拾肆彗伍彗エインミールは、そんな蓮に辟易していた。

 ルルサールには合衆国の兵たちを導入している。カオスエリーヴの元には脳筋集団、ニカの元には理解のある兵たちを配置。
 できるならニカのところに行きたかった。

「……ニカのところもそれはそれで嫌。」
結局、どこも合う場所はないらしい。それがエインミールの定めらしい。

「ボーッとしてないで防衛するの。」
「お前もちったあ働け。」
「こうしてここにいること自体が仕事。お前とは違うの。」
事実、今こうしているうちも通信用の魔導具で連絡をとっている。

『きひひひひひっ!まっ、待て……もう直ぐ、届ける……』
「気味悪いの。耳元でそんな声出すんじゃないの。」
武器の補充の件。他にも、命令を出すために切り替えをして指示をしなくてはならない。

「戦闘の方が楽……」
と、死んだ目で漏らした。その姿を見て、蓮はそっとその場から逃げた。


 敵方の人数はざっと1000あればいいところ。
 これは、イグルへ一極集中させるためか。

 向こうは、数も質も上回っている。この程度でも苦戦に値する。圧倒的ジリ貧。もし本村を落されれば、と思うとゾッとする。

 蓮はそんなことは微塵も考えていないが。
 それより気になることを最近考えている。

「……あの女、どこかで会った気がするんだけどな。」
あの女とはエインミールのことではない。魔法少女のことだ。

 いつの日か、あの青髪をどこかで見た記憶がある。

 そんな思考を邪魔する者が現れる。
 帝国兵だ。

 明らかに王国兵とは質が違う。そのくせ甲冑に身を包み、目のひとつも合わせられない。
 対面殺しブレイカーも使えない。

「大雷槌。」
名の通り雷で形成された槌。プレス機で粉砕するか如く数人の敵兵にそれを片手間で落とす。

「な———ッ!」
言葉を発する暇もない。

 その場には、焦げた肉の匂いが広がった。

「それでも原型は留めんのか。」
帝国は人体実験大国だな、と嫌味のように言う。

「本当、この既視感なんなんだ……」
しれっと話を戻しつつ、空を見上げた。閃光が瞬いていた。

—————————

 アーレは、情報操作で身をさまざまな位置に移しながら戦況を見守っていた。

 アルタインで、ヒビアは愛国心の強い騎士たちを集わせ手腕を振るっていた。
 カヌルではニカが、的確な防御スタイルで防衛戦を守っていた。支給された銃を適切に扱い、壁の中から穴を開けて遠距離射撃できる改造を安全地帯にいる魔科学部の皆に頼んでいた。
 コールではカオスエリーヴが、攻撃は最大の防御だと言わんばかりの突撃をしていた。その分死者は多いが、討ち取った首の数は測り知れない。

「うまくやれてるのかな……」
確信はできないが、今のところはいい調子だ。

 あとは、ネイファと魔法少女次第。

 ネイファに頼るのは少々複雑な気分でもあるが、頼れるものはなんでも頼る。今だけは目を瞑ろう。

 討って討たれて。まだ本軍の動きはないため、少々こちらが有利という程度。

 ただ勝てることだけを信じて、魔法少女がディティー・ヘルベリスタを討ち取ることだけを信じて、ゆったりと下り坂な防衛戦にしがみつく。

 空が光る。

「勝たなきゃ。」
そう思う心が芽生えた。

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 本来ならアーレは小学校にでも通っててもおかしくない年齢なんですけどね。
 世の中は非情ですね。それを決めてるのは私ですけど。
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