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17章 魔法少女と四国大戦

550話 魔法少女は制作開始

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「これは一体、どうなってるのでしょうね。」
光が収まると、開口一番ラビアが言った。

「未来を消した、かな?起こるはずの未来を無くしたから、その代わりの不確定な未来が差し替えられてる。」
「『ノストラダムスの大予言』に干渉できるだけでもありえないというのに、物理的に未来を消したと。」
辺りを見回すラビアが何か言いたげにしながら、現在に戻ってきたことを確かめていた。

 さて、また別の未来を消しに行くのも手だけど……もう1回あれができる保証なんてない。運命の発動があったかどうかも怪しいし、これでまた未来を弄ろうとして固定でもされたらたまったものじゃない。

 今ある1%の勝率を直接掴むしかない。

「これから、どうすればいいのかしら。」
「百合乃を呼ぶよ。」
「百合乃……あぁ、あの方ですね。」
「分かっちゃうのストーカーみたいでキモいからやめた方がいいよ。」
そうとだけ忠告し、一旦家に帰る。イグルでは、まだやらなきゃいけないことがある。

 今日中になんて無理だけど、やりたいことがある。

 あの未来を見た通り、普通にラノスを使ったんじゃディティーには勝てない。
 普通に、順当にいけば多くは欠けずにディティー戦に持ち込める。だから、注力すべきはどれだけの余裕を残してディティーを下し、その後素早い立て直しができるかだ。

 ディティーを倒した後の猶予は、あって数日。

「どこへ行くのかしら。」
「イグルだよイグル。」
レリアリーレとルービアに協力を求めるため、私は怠い体を動かした。


「お邪魔するよ。」
扉をノックして、こじんまりとした小屋に足を踏み込む。ここは、レリアリーレが所望した2人部屋だ。

「きひっ、何もないところだけど……ゆっくり、していくといい……ひひ。」
「何かしかないと思うんだけど。」
開口一番矛盾したセリフを言うレリアリーレ周辺の床は、踏み場もないほど機械やら何やらで埋め尽くされていた。

 これ、踏んだら爆発したりしない?……しそうだなこれ。

「てっ、適当に、蹴っ飛ばして進めばいい……」
「いいの?え、いいの?爆発しない?」
「かもしれない。」
「大丈夫だよ、そこにはあるのはただの実験用器具だけ。魔導具はないから。」
奥の部屋から現れたのは、ルービア。ルービアさんだ。額にアイマスクみたいなのを付けてる。

「……これ?温めて目につけると、疲れが取れる。そういう薬草や鉱石を練り混ぜて中に入れてる。」
「小豆とかを入れたホットアイマスクみたいなものね。」
1人納得しつつ、物はなるべく踏まないように歩く。

「先生は、まっ、まだ仕事……?」
「そうそう。労働時間の見直しを要求したいよね。」
でも、相手は社長でも学園長でも教育委員会でもない。私は永遠に仕事に縫い止められている。

「そっ、それで……ワタシの、工房に来たということは……ひひっ、出番?」
「私の工房でもあるんだけど?部長。」
苦言を呈しながら、机に並べられた紙束を床に散らしながら「はいどうぞ」とコップを置く。

「なっ、なにを!?ワタシの、せっ、設計図、を……」
「飛ぶ猫耳に設計図も何も要らない。そもそも猫耳を飛ばすなって言ってるの。」
「いっ、いる!飛ばす!」
「猫耳を飛ばすっていうパワーワードに耳を疑ってる。」
レリアリーレが我が儘を言う子供のように騒ぎ出した。ルービアさんは、その口にカヌレを突き刺し黙らせた。

 このカヌレ、どう作ったんだろう。

 私は怪しいそれに目を向ける。レリアリーレは「ひっ、これ……おいしい」と言ってお茶と一緒に食べていくが、こんなものを生成した覚えはない。

 ちょっと、遠慮しておこう。

 私は出されたカヌレの横に置かれた紅茶に手を伸ばした。

「ん、そ、それで……先生は、なっ、何を、作って欲しい……?きひひひっ!惑星掘削機でも、作る………?」
「それは要らない。1つ、私の力と魔科学を組み合わせて見ようと思ってね。」
「組み合わせる……?」
「私じゃ、ちょっと上手くいかなくてね。場所を変えよう。」
そう言って、外を指した。ラビアとの件は、実際には数分の出来事なためまだ日は高い。

 そういえば、ご飯まだか……後で食べよ。

 私達は3人で、小屋のすぐそこにやってきた。そして、適当にパッと作ってみた試作品を数個投げてみる。

「浮いたす部長。」
「うっ、浮いたな、ルービア。」
魔法少女パワーで赤色になった、リング状の金属輪。重力魔法を付与して、浮かせてある。

「実は、この中にラノスの銃弾をくぐらせて別空間からの射撃、別リングへの移動の両方をしたいの。」
「きひ、きひひひっ!面白い……凄いことを、考える……」
「空間を飛び越える……確かに、普通の理論では思いつかないぶっ飛びよう。」
試しに、ラノスを取り出してトリガーを引く。いつも通りにパァァンッ!と破裂音を響かせる。その銃弾は確かに中を通った。

「消えた?」
レリアリーレの疑問通り、銃弾は消えた。

「そ、そうか……たっ、単純化されている、その輪の中では、複雑な動きを内包することが、で、できない……魔力の駆動限界を超している……」
「飽和魔力量はあっても、魔導具自体にはそこまでの魔力はない、ただ魔力を送るわけだから関係ないのでは?」
「そっ、そうじゃ、ない。魔力で圧迫しすぎると、ほっ、他の機能の妨げに、なる。魔力の流れが、ぎゃ、逆に、起動の邪魔をしている。」
さすが魔科学部。私じゃ理解不能な単語を使って、高レベルな会話をしている。

「この仕組みを解説すると、魔力導体オンリーで作った輪っかで、この本体に重力魔法と内側に空間魔法を入れて、魔力の流す速さで重力の操作、魔力の量で空間位置の選定を行うようにしてるんだけど……」
「動きの重複がしすぎ……ほっ、本体性能に見合っていない……」
何か、考えふけるようにレリアリーレは言葉を止めた。そのうちに輪っかを回収し、2人の元に答えを聞きに行く。

「でっ、できなくは、ない。」
「というと?」
「それを、あっ、預けてくれないだろうか?必要数、全部。」
「いいけど……どうするの?」
「ひ、ひひひひっ、やった、やった……魔科学の先進となる技術を……きひひひっ!」
いつもの控えめな声音とは違い、甲高い笑い声を継続的に漏らす。だめだ、これ。

「私から説明するよ、せんせ。」
「そうしてくれると助かる。」
やはり気が効くルービアさん。ぱないっす。

「これは、魔力が大渋滞している状態で……2台が限界の馬車路に10台の馬車が我先にと駆け抜けているような感じ。です。」
「タメ口でいいよ。」
「じゃあ、そうする。」
きひきひ笑うレリアリーレは手がつけられないため、私は金属輪を6つ、ルービアさんに預ける。

「こっちじゃ重力空間を操るなんてできないんで、仕上げはせんせに任せるから。」
「おっけ。できたら家に来て、悪いけど。」
頷くルービアは輪を受け取り、レリアリーレの首根っこを引っ張っていった。

 なんか、保護者って感じ。

 安心感が違う背中を見つめながら、私は次の仕事を始めようと小屋を離れる。

 四神は現在待機中だけど、多分好き勝手に動いてる。ネイファは家にいたり街にいたりと、民衆を納得させるシナリオを組んでいる。
 蓮には肉体労働を命じておいた。そうしないと飯抜きと言ったら渋々働いた。

「主。」
「どうしたの、ルーア。」
「帝国軍が動き出しておる。明日の夜には着きそうな状態かの。」
「夜好きすぎでしょ。夜行性?」
そう文句を言っても、明日の夜にはこっちに来てしまう。

 思ってたより準備期間が短いけど……まぁ、ないよりマシ。

 武器の整理は……流石にやってられない。

 レリアリーレ達、間に合うといいけど……そんな心配したって私じゃどうもできないか。
 とりあえず、百合乃を呼ぼう。

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 どこか遠くの星で満足するまで寝てたい人生です。
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