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17章 魔法少女と四国大戦
548話 魔法少女は中途把握
しおりを挟むやってきたのは、普段は使わない王国の中央に近い方の村。ここなら、襲われる心配もないし馬車路も近く、魔物の危険も少ない。
そもそも私達の作った壁があるから、巨人でも来ない限り大丈夫だけど。
「ここに……少し、気が狂っている気配がするわ。……でも…………」
「すご。元日本人でしょ、よく分かるね。」
「貴族は皆、狂っていますので。」
ラビアは自嘲気味に漏らすと、視線を逸らした。
「みんな皇帝の演説の魔力に呑まれて、精神ぶっ飛んでるんじゃないかな。板挟みにされてさ。」
「個人的には貴族社会の闇の方が深く思えますけどね。」
「貴族ってどんな闇深なのよそれ。」
手に持った紙束を見つめながら会話をする。
使えない人数は約1万。傷を負った人は使える人と使えない人で分けるとして、死人は……
村別の死者の数を把握する。紙には事細かに記載されている。
魔神天才でしょ。お国で宰相でもやったらどう?天才宰相としてもてはやされるよ。主に私から。
それくらいには整理されている。
まず分かりやすく表に、何名中何名が死亡しているか。どの村方面の騎士かの内訳、死因やその他諸々まで分けてある。
今のところ動かせる軍は3万近く。そこから死者と私が対応している暇がない重症者や回復薬でどうにもできない人を除いて2万弱。なかなか善戦している。休ませれば全快と遜色ない人は1万強。ここまで削るとだいぶきつい。
とにかく、今欲しいのは情報。この隙間の時間にどれだけ情報で優位を取れるか。
肉壁がない限り、これからは大量に作った銃を解禁する。
魔力弾仕組まれたら困るから魔力に反発するようにして……反発する魔力も使って威力を……
「大丈夫かしら、顔色、だいぶ悪いわ。」
「ソラさん、休んだら?そろそろ大変。」
アーレは片目を光らせている。いつの間にそんな能力開眼したのか。
「情報を直接目に映す力。わたしも成長してるの。」
「私も、貴方はもう休まれた方がいいと思うわ。冗談じゃなく。」
「休めたら休んでるんだよねぇ、それが。」
紙束を収納し、皇帝の影響を受けた人達が住む家々を見つける。
出入り口付近は、気が狂った人達が脱走しないように影響しなかった人が防衛で住んでるからね。
6つの村以外は中央の城は崩して民家にして、上げた土地は戻してある。
「4万ちょいの中で1万しか影響がなかったって喜ぶか、1万も動員できなくなったことに嘆けばいいのか……」
正確な数を計りに来たのはいいが、ぶっちゃけこれよりやるべきことは多い気がする。
「一応、現地視察くらいはして帰ろうか。いいよね?」
2人の返事は待たず、私はフードを被った。
あれこれ、皇帝にズタボロにされたから姿隠せないじゃん。
皇帝に心で愚痴を言いながら、新しいローブに着直した。
「ほら、窓見て。」
「全員、見事に暗い顔。これも皇帝のせい?」
「ほんと、面倒いよ。同じことしてやろうかな……」
「空にそのような力があればいいですね。」
2人も私のローブを着て、窓から状況を覗いていた。
「いつ暴動が起きてもおかしくないよね……王国に対する疑念があるわけだし、それ相応の人数も揃ってる。」
「警戒することないでしょう。」
「そうです、ソラさんなら……」
「てい。」
アーレの頭にチョップを入れた。
「そういう慢心が敗北につながるの。今は不穏分子は少ない方がいい……けど、こればっかにかまけてるわけにもいけないんだよね。」
「とにかく、大変なことは伝わりますよ。」
とても愉快とは思えないような顔で言った。低い声音からは、この戦争の闇について気付いたことが窺える。
一連のことで分かった。
皇帝は明らかに領土侵攻を目的としていない。確かに王国を手中に収める目的もあると思う。
でも、これはアーレの力を試してみる練習。最低限を手にして、この戦争を通じて完璧にコピーしようとしている。
それさえできてしまえば、世界は全て皇帝のもの。思えば、あの演説も軽く情報操作が加えられていた。私は未来を含んだ複雑情報体だから影響しなかった。
強い意志を持つ情報は硬く結合して効果がなかった。
「タイムリミットは皇帝が情報操作をマスターするまで。アーレ、どのくらいだと思う?」
「ソラさんに勝てたら……なんとか?と思う。」
「適当だなぁ……というか私負ける前提。」
「いえ、空が皇帝に勝てばいいんですよ。」
手で銃の形を作り、もう片手で底を押さえて「ばん」と言った。
「ねぇ。」
「はい?」
「最近の銃……私のラノスもそうだけど、底に手を添えても意味ないし邪魔なだけだよ。」
「そこはどうでもいいんですよ。」
ラビアは窓から離れた。
「皇帝は、どちらにしても放っては置けないのは分かったわ。」
「何しでかすか分からないし、早めに仕留めないとやばいし……もう、なんなのさ。」
私もアーレを連れてラビアに続く。もうここに用はない。
「作戦会議をしよう。分かったことを踏まえて、今後に備えるよ。」
—————————
「全員いるねー。」
イグル村の拠点に、アーレとラビアを連れて乗り込む。道場破りみたいに、ドーンと。
「もっと静かに開けろ。」
「蓮いたんだ。」
「全員いるか聞いたのテメェだろうが。」
いつも通りソファで横になる蓮を無視し、テーブルに着く。四神はいないが魔導具で強制送還させる。
「これから振り分けするから、みんなそこ座って。」
帝国戦について大切なのは3点。
強力すぎる皇帝の目論見を防ぎ、情報操作を防ぐこと。および殺害。帝国民の反乱を防ぐ。綺麗に神国戦への着地を済ませる。
多分、帝国戦が終わり疲弊した隙を狙われる。神国軍は神軍へと変わり、神の炎で世界は燃やし尽くされる。その前に、止めなければならない。
「帝国民の納得できるシナリオ作りを、ネイファに任せたい。作戦の立案とか任せてたから、いけない?」
「その方が楽そうですし、別にいいですよ。そこまで頼まれちゃったら仕方ないですしねぇ。」
煽るような口調は変わらず、見事に乗ってくれる。
ネイファに首を突っ込まれちゃうと、私達が動きずらい。本当の狙いが神国、創滅神なことを知られたら一体何をされるか分かったものじゃない。
だから遠く離れさせておく。そして1人、監視を置く。
「人神、いける?」
「分かった。これは、余が適任であるからな。」
私の思惑を知ってか知らずか、素直に頷いた。
「ルーアは、もしまた『六将桜』が現れた時に対処して。私はやってらんない。霊神は補助に徹して。さすがに軍の数が少ない。」
「了解した。」
「分かったわぁ。」
四神の動向を決めたところで、次に考えるべきは余った蓮。
「ま、普通に暴れて。撹乱でもしてくれたら及第点。」
「俺だけ適当だな……」
「実際、私はいち早くあのディティーの顔面をぶん殴ってやらなきゃいけない。アーレはそれについてきて。」
隣に座る彼女は「もちろん!」と笑顔で言う。
「確かに、アーレの能力を完全体にしてしまえばそれはほとんど神と違わない。神の代わりに世界を統治する存在、と言って構わない。」
「魔神はその能力に対して何か対策できないの?」
「火の粉を払うのが精一杯だね。ボクはこの世界外のことについてはよく分からない。キミの変革についてもね。」
私を見て言った。あの魔神が、分からないと言うのだから……私の体はどうなってるのやら。
「あの、よろしいですか。」
ラビアが丁寧に挙手をして尋ねた。
「変革と言うのは、具体的に何を意味するのでしょう?よく分からないのだけど。」
「だから、ボクにも分からない。分かるのは、この世界を書き換えることができる異分子、腐った世界を変えられる唯一の存在ということ。」
雰囲気的に、ラビアは息を呑む。これから、その領域に踏み込もうとしているからだ。
今からやるのは未来を捨てる変革。
世界を揺るがす私は、本当に何なんだろう。
話し合いもほどほどに、ラビアを連れて外に出る。わざわざ呼び出された四神は、若干不満そうな様子だ。
「じゃ、始めよっか……寝たいし。」
「本音漏れていますよ。」
過去とか現在とか未来とかもうわけ分かんないけど、とりあえず、見たくないものには蓋をしたいよねって話だ。
何をしたらいいかなんて分からない。発動することを信じて運命を起動し、ラビアの肩に手を置いて様子を見ると、ラビアは困ったように笑ってたった一言口にする。
「『ノストラダムスの大予言』」
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やばいです……遅筆が……遅筆が……
急いで見返しているので、この回も一応今後手を入れます。
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