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17章 魔法少女と四国大戦
551話 魔法少女は久々の帰宅
しおりを挟むイグルの村本家食卓にて、私は料理を作っている。料理と言えるかは微妙なラインだけど。
「腹が減ってはなんとやら。時間は限られてるし、簡単なもので済ませるけど。」
だから、作っているのはサンドイッチ。卵を薄く焼いてペラペラな卵焼きを作り、それを重ねてソースを塗って挟む。簡単なお仕事。
朝ごはんも食べてないし、流石に……たくさん作ろ。
以前食べかけだったピザも思い出し、ステッキから取り出す。
これから消費するカロリーのことを考えると、これでも少ないくらいだ。
考えても見てよ。
あの百合乃のことだ。絶対怒る。怒らないわけがない。十中八九、九割九分九厘怒る。
しかも、数日数週間じゃない。もう1ヶ月は余裕で経ってるわけだし、前回みたいに捜索依頼が出てるかもしれない。
「やっば、どう言い訳しよう。」
別の問題もここにきて浮上してきて、一体私は何と戦っているんだろうかと一瞬戸惑いそうになる。
サンドイッチを作りながら食べるという究極の作業を行う。
レタスやハム、チーズをぶっ込んだ普通のよく見るサンドイッチや、ポテサラもどきをぶち込んだサンドイッチ。腹が満たされるまでそれを続ける。
「行儀悪いな。」
「えんにいわえあくあい。」
「せめて日本語で喋れよ。」
口うるさい蓮にはサンドイッチの刑。あっまあまの砂糖と蜂蜜と生クリームたっぷりのソレを、まるで武器のように投擲して開いた口にゴールイン。
「じゃ、私行ってくる。」
「……おおいあお。」
「帝国に勝つための人員をね。百合乃さえいれば、ディティーに余裕を持って勝てる可能性がある。不本意だけどね。」
私はそれだけ言って玄関扉を開いた。
とりあえず、行って帰るために転移石を使う。ここにひとつ転移石を置いておき、百合乃の持つ転移石まで転移する。
「百合乃魔力持ってないから見つけづらいんだよ…………お、あった。発見。」
魔導法にかかり、居場所を特定。後はそこに自分ごと持っていく。視界が一瞬、ブレる。
空間魔法も使えるようになったことだし、ちょっと改良しようかな。
そう思える余裕くらいはあった。
次の瞬間には、普通に視界は元に戻る。初めての時はちょっと混乱はないでもなかったけど、流石に慣れ……
「……………………………………」
「……………………………………」
「……………………………………」
そこは、静寂の塊だった。
『説明しよう!今、目の前には百合乃とツララがいる。私の家のリビングで座っている』
『じゃあどんな状況なの~?』
『ぽへぇ~、って感じ』
『ぽへぇ?』
頭の中の私は、何やら元気だ。
確かに、2人は机を前に椅子に座りながら、完全に背を預けて『ぽへぇ~』としている。
あふぉ~、でも、ぐでー、でもない。圧力鍋で煮込まれた後の葉菜くらいぽへぇ~としている。
「……………………………………えっと、久し……ぶり?でいいかな。」
困惑を多分に含んだ声音で、疑問形になりながらも声を捻り出す。
「そ、そ、そそそそそそそそそそそそそ……」
「え、ちょ、まっ、それ以上近づくな、ああああああああああああああ!」
「空あああああああああっ!」
百合乃はトップスピードで立ち上がると、目にも止まらぬ速さで椅子の座面を蹴り上げ、机を飛び越えて私に飛びついた。椅子は蹴られた力のままに、後方に吹き飛ぶ。
「主ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ツララはこの状況にダブルで困惑しており、目を回した。
「何事ですか!」
扉が勢いよく開け放たれた。その声は、クルミルさん。
「たす、けて……」
百合乃に顔面から抱きつかれている私、抱きついている百合乃、倒れているツララ。
「……………」
「どうにかしてくれない、これ。」
「はい。」
クルミルさんは、意外にも冷静に命令を受け取ってくれたのだった。
円卓会議とはこのことか。食卓でソレっぽい雰囲気を出しながら、私は椅子に座る。
左に百合乃、右にツララ、百合乃正面にクルミルさん、ツララ正面にトートルーナさんが座っていた。
「あの、急いでるんだけど……早く終わらせられない?」
「では、私たちは口を挟みません。最後に質問をする形で終わりにします。」
「お願い。」
百合乃とツララには口にテープと手に縄をかけている。
理由?騒ぐから。
「簡潔に説明するよ。全部説明するの終わってからね。…………色々あって、帝国と戦争してそれに協力してる感じ?百合乃にはついてきてほしい。」
そんな短い言葉で、今までのことをまとめた。でもそうとしか言えない。
「よし、終わり。」
「いや終わりじゃないです。クルミル様もそう思いますよね。」
「ええそうですね。……戦争、とおっしゃいましたか?」
クルミルさんは遠慮がちに聞いてくる。
「そう。しかももう始まってるし時間がない。」
「いえ、戦争が始まっていること自体はもう聞き及んでいます。そこに協力している、というのは?」
「ちょっと色々あってね、ほんと。私は余裕でディティーを殺さなくちゃならないの。」
という物騒な発言に、「おかしくなったんですかねソラさん」とトートルーナは呟いた。
「おかしくなんてなってない。これはこの世界の存亡を賭けた、一大事。納得できないっていうなら、もうちょっと話すけど……」
右からツンツンと腕を突かれる。
「主、大変。そんな時間ない……でしょ?」
「いつの間に。」
左を見ると、百合乃もロープを外していた。化け物だ。
「……そうだね。遅くとも明日の夜には帝国軍はやってくる。できるなら、もうこれで決め切りたい。」
「一つ、よろしいですか?」
もう1度クルミルさんが発言する。それを許すと、小さく咳払いから始めた。
「その場合、ヘルベリスタ帝国は王国に合併されるか、合衆国と分けて植民地となるでしょう。帝国民の皇帝支持率は、9割に届くと聞き及んでおります。謀反が起こりはしないでしょうか。」
「それ、わたしも気になってました。そう簡単に殺していい相手でも、殺せる相手でもないと思う。」
クルミルさんの言葉に同意するトートルーナは、私の無謀さを指摘した。
「ちゃんとシナリオは用意してある。と思う。」
「思うって、ソラさんは戦をなんだと思ってるの。」
「しょうがないでしょ、他の人に頼んでるんだから。」
「空!それ女ですね……女ですね!」
「それがどうしたの女だよだからなに!?」
「なんでです?なんで空はそうやって次から次へと女の子を連れ込むんです?」
メンヘラ化した百合乃は誰も手がつけられない。精神が安定するまで待つしかない。
どーどー、よしよし。よーし。
適当に頭を撫でていると、雰囲気が柔らかくなった。百合乃の攻略法、私。
「本当は迷惑かけたくなかったんだけど……事情が変わって、百合乃に助けて欲しい。」
頭を下げる。百合乃の方を向いて、しっかり。
「お願い。」
「…………ずるいです、空は。」
私の言葉を聞いて、百合乃は沈んだ言葉を放った。
「わたしが空の真剣なお願いを、断れるわけないじゃないですか。」
「主、アタシも。」
「では、私たちも同行させていただけませんか?」
全員の顔が真剣になる。私は、一呼吸だけ置いて答える。
「2人は、この家を守っててほしい。」
まず、トートルーナさんとクルミルさんに。
2人は戦闘能力が高いわけじゃない。戦争になんて連れて行けない。
「……ですが。」
「そもそも、2人とも本業以上の仕事されても困るよ?それに報えないし。だから、お願い。」
「……はい。」
納得したのか、口を閉じた。
「ツララは…………覚悟は、ある?」
「ある。」
真っ直ぐな瞳。言っちゃあれだけど、さすが元奴隷。肝の据わり方が違う。
「なら、百合乃とツララを連れてく。ツララは、ディティー戦に連れてくことはできないけど……できる範囲で手伝ってほしい。」
「了解……!」
「終わったら、諸々話してもらうのが条件です。」
「話す話す。終わったらね。」
百合乃は少し不満そうにしながらも、2人の許可を得た。
終わったら……か。なら、絶対終わらせないと。この世界が終わるなんてエンドにはしたくない。
「じゃあ行こう。」
転移石の指輪を嵌めた指に、魔力を送った。
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その魔力、私にください。
応援ありがとうございます!
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