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17章 魔法少女と四国大戦
545話 よし、戦争に行こう
しおりを挟む見る者が見れば、恐れ慄き逃げてしまうほどの魔力を、ラビアは放っていた。魔法は使えないハリボテだが、それでも身体強化には使える。
軽く家を殴り飛ばすくらいは可能だ。魔力に頼り切った脳筋ならぬ脳魔な方法だが。
「私は、助けられる動物が死ぬのをみすみす見ていられるような薄情な人間になったつもりはありませんよ、ゼクシー。ですから、いかせてもらいます。」
家の方針で習わされていた剣。部屋に立て掛けられた剣を帯剣し、調整する。
「個人的に、息苦しかったので。」
「貴族としての生活が、でしょうか。」
「ええ。特にゼクシー、貴女のような仏頂面の使用人が多いこと多いこと。息が詰まるったらないわ。」
「それは失礼いたしました。」
そう言いながらも、無表情を貫く。これが仕事で、プロの対応。
生まれた時から貴族の生まれだった。
イニシス家は王城で働く官僚などといった役に、代々就いている、所謂名家だ。
そんな名家であるイニシスの長女になってしまったラビアは、それはもう大層な英才教育を受けている。
楽器、武術、文学、算術、生物、社会。数えればキリがない。様々な専門家が家を訪ね、家庭教師のように毎日毎日頭に叩き込まれた。
会いた時間は従者による、言葉遣いや立ち振る舞い、所作といった貴族たらしめる行動についての稽古。
休まる時がない。
動物と会話する暇すら与えられず、てんやわんやと時間が過ぎていた。
それでも、無理矢理時間を作って試していたことが少しだけあった。
ステータス。
基準が何かは分からないが、高くはないことはなんとなく察しがついていた。
平均400程度。転生特典も、使う機会がない。
しかし、他にも指輪と、ストックというものがあった。30個のものを大きさ関係なく収納し、同じものならまとめて換算させられるという、マ○クラのような機能。
そんなこんなで過ごした幼少期。
そして年を重ね、お披露目という名の初めての茶会。貴族同士の茶会は、それはそれは趣向を凝らしたものとなっていた。
初めての茶会は、王家主催のものだった。
そしてこれが分岐点。
イニシス家に取り入ろうと、必死の貴族の子息たち。顔はイケメンばかりだが、触れられればその真意を理解してしまう。人もまた動物なのだから、当然だ。
夜風にあたり、一休みしていた。
ふと気づく。誰もいない。自由な時間。
初めて、『ノストラダムスの大予言』を使った。
結果から言えば、驚きで未来を観測するどころではなかった。
特に気になる未来もないからと、なんとなく茶会の終了間際にダイブした。
誰にも触れられず、誰からも見られない。自由気ままなのは良かったが、事件は起こった。
『何故、何故取り潰した!あんなでっちあげの不正を信じたんだ!俺は何もしていない!何もしていない!何もしていないッ!』
男が入ってきた。
その手には剣が握られており、わずかに震えている。返り血と、剣にべったりこびりついた血の跡からもう何人人を殺しているか分からない。
周りに剣を向け、人質を取りながら接近する。
男はゆっくり、国王へ向かう。その狂気を、振り翳そうとして……
ラビアはやめた。
目が覚めると、夜景が見えた。夢?いや、現実だった。
そこからのラビアの行動は簡単だった。
対処方法を考えた結果、それが1番だった。
あの殺人鬼を相手にするのは嫌だった。血を見れば吐きたくなるし、死臭も嫌いだ。脅したって、あれは襲いかかるだろう。
だから、あれが起こる前に避難させればいい。国王を逃がせばいい。そしてあの殺人鬼と、追ってきた騎士達を鉢合わせれば、完璧。
とにかくなんとしなければ、という意識が勝った。
一応、身の安全のために指輪を嵌めた。護衛の騎士から剣を強奪し、捕まりそうになりながらも国王を剣で捉えた。そして、そのまま脱走。一目散に会場の正面出入り口に突っ込んだ。
耳でわずかに捉えた男の声を聞いて、やってやったと叫びたくなった。
そこで気持ちが途絶えた。
あれ、これから私どうしましょう。
冷静になると馬鹿なことをしている。
未来に行けても過去には戻れないのに。このままでは、ただの暗殺を企ててるだけ叛逆令嬢だ。
この時、ラビアは思考を放棄した。
この後の事を簡単に話すとこうだ。
なんとか無実を訴えようと努力しても、そんなことあるわけないと首を振られ、ラビアの斬首刑が刻一刻と進んでいた。普通に家族とも早々に縁を切られ、どうにもできなかった。
そこに降りた、蜘蛛の糸。
国王の命令で、その力の証明をしてみせよとのことだった。
その過程で、見つけたのがその少女、魔法少女。
その魔法少女を味方にすればいいと教え、つい最近ようやく斬首刑は回避され、このように城に匿われることと相なった。
「その話は何度もお聞きしました。ラビア様は、その御仁にお会いになろうとしているのですか?危険地帯に踏み出してまで。」
「ええ、もちろんよ。戦争に行くのよ。」
旅支度というほどの支度物はない。もう、開け放たれた窓枠に足をかけていた。
オシャレに気を遣ったサイドアップではなく梳かしていた意味を無に帰すような、強引に縛りまとめ上げたポニーテール。
普段着には到底見えないワンピースタイプのドレスはどこにもなく、ガーター付きの白ニーソックスに、広がりにくく制服のような、余裕を持たせつつぴっちりとした装い。
「私は私のために行くのです。止めないでください。」
「国王陛下にはどうお伝えすればよろしいのでしょうか。縁談もまだ決まっていないというのに……」
「こう言ってもらえれば結構よ。結婚なんて、一生しないわ。」
ラビアは未来を駆け抜ける。今まで見ることしかできなかった未来を、その足で駆け抜けるために、戦争に向かう。
それはとある昼下がりの頃の話だった。
まず初めにするのは、未来予言。未来を見なければ、ラビアは素人に毛が生えた程度の実力。
目的を達するためには、必要不可欠。
2つ未来を見た。
このまま駆け付けなかった場合の未来。そして、自身が戦場に現れた場合の未来。
1度目は王都を出て、西に向かう前に停止して発動した。2度目は一直線に走りながらの発動。
無駄足だったらたまったものじゃない。あの日だって、国王は初めの挨拶以外は偽物だった。
その日以来何かある際は、必ず観察し確実な証拠を用意して行動する。その決まりに則って、仕方なく見合い相手の将来を見ているのだ。
以前の横領もそう。貴族というのは、99%闇の塊に1%の建前を塗った怪物だとラビアは思っている。
今まで紹介された人間も皆、不倫や殺し、叛逆や違法な商売を行っていたものだ。
未来の結果は……どうやら、ラビアが来ることで事が悪い方向に傾くことはないらしい。
なぜか胸がざわめく。これは歓喜なのか、悪い予感なのか。
それも今のラビアにとっては思いを爆発させる燃料にしかならなかった。
「無駄足じゃない……!ならっ!」
ラビアの足はさらに加速する。できるだけ走りやすい靴を選んだが、履かなさすぎて少々痛い。
この行為を無駄だと咎める者がいたら、ラビアは令嬢ビンタで吹き飛ばしてやろうと意気込む。
なんで行くかなんて、自分が納得できればいいんだ。
気に食わない未来を捨て去るために、どうしてか先の見ることができなかった2度目の未来を確かめるために、ラビアはひた走る。
———————————————————————
現在、戦争開始から537話程度まで少しいじっております。あまり変わらない気もしますね……
これからはどうにかしていきたいです。
それはそうとスマホの液晶が故障して見づらいという事件が発生しているので助けて欲しいです。修理……?ちょっとよく分かりません。
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