上 下
571 / 681
17章 魔法少女と四国大戦

544話 魔法少女は一時休息

しおりを挟む

「その名は捨てた。わたしはアーレ。ソラさんを傷つけるなら、わたしはやる。」
アーレは鋭い言葉で刺して、皇帝を見遣る。見た目とのギャップが激しい言動だ。

 見た目と声は小さい子なのに……私は異世界が怖いよ、ほんと。

「そうか、ネインアーレ。は朕を裏切るのか。朕が今までどれだけ、ネインアーレに投資していたと思っている?」
「自分の力にするためでしょ。わたしは、損得なしにわたしを助けてくれたソラさんと、一緒がいい。」
アーレはキッパリと言い張り、皇帝を睨みつける。

「いくら皇帝でも、今私の情報に侵入して書き換えることはできないよね。」
「……アーレってそんなキャラだっけ?」
「はい!わたしは元からこんな感じだよ?」
なんか、飼い犬みたいだと感じた。皇帝にはぐるぐる唸り、私にはぴょこぴょこ。猫を被るならぬ犬を被る。

 もっとクールな感じだったような気がするんだけど……

「気のせいです。」
「気のせいかぁ。」
謎の圧を感じたため、無理矢理納得する。

「3対1です。今の貴方に、軽くそれを相手にする力があるのでしょうか。」
「朕は国のためなら恥をかこうと構わない。目的を果たした今、軍を撤退させるとしよう。どうやら、貴国は我々の願いを聞き届けてはくれないようだ。」
悲しそうなため息をあと、踵を返した。軍は真っ二つに割れ、道を作る。モーセみたい。

「また、近いうちに会うだろうな。」
そう言い残して、暗闇の森へ帰っていく。そうして、目まぐるしく進む急激な戦争は一時休止となった。

「次は、万全の準備で臨もう。」
「2度と会いたくないよ、ガチで……」
それから1時間ほど経ってようやく、他の軍も全てが帝国へ撤退した。


「いやー、ヒヤヒヤしましたねえ。」
混乱冷めやらぬ中。まだ、王国騎士達に疑心や不穏が眠る中、ネイファはにこやかに言う。

 ここは今回の主戦場になったイグル村。ここ曰く付きとかじゃない?色々起こりすぎ。

「笑い事じゃないんだけど?」
「笑い事ですよ、今は。それにしても、アーレは随分ソラさんっ子になりまたね。キャラ変ですか?恥ずかしくないんですねぇ。」
ゲラゲラと笑っている。

 ここ外なのに、恥ずかしくないのかな。

「長い間ソラさんと会えなかったんだから、これが普通!」
「まーいいんじゃない?確かに、色々あって心は強くなってても、感情を思い出したのは最近だし、誰かの温もりって必要でしょ?」
「まぁ……………一理ありますね。」
考え耽ったのち、渋々納得した様子だ。

 はぁー、気が抜けるっていい!
 私はどうやら妹属性が好きらしい。年下ばっか集まってるからそうなった。
 だから小さい子を愛でるのはいい。これでしか得られない栄養がある。

 小学生くらいの子にこんなことしたら、本来なら手に枷が嵌められることになるが、今は合法だ。

「ソラ。……状況を説明してほしい。」
「あー、レイアードさんは初めてか。アーレと会うの。」
アーレと総騎士長の目が合う。気が抜けるなんて思っておきながら、しっかり主力を固めて警戒している。

 それより……四神からの連絡がまだないのがちょっと気がかりかも。

 心配は他所に、アーレは軽く頭を下げた。

「それはそれとして、これからどうするかの方が大事じゃない?影響ない組の私達がわざわざ集まっているわけだし、話し合いでもさ。」
外の簡易空間に、9つある席。何ひとつ影響がなかったのはこれだけだ。

「他はどうしたの?私、見てなかったから知らないんだけど。」
「なんとか耐えられた人を労働力に、別村に移ってもらいました。症状に合わせて、村の位置も考えておいてあるので感謝してくださいよ。」
「酷いのか優しいのかどっちなの。」
「使えるものは使い潰すのがわたし流ですからねぇ。使えないものは遠くに配置してあります。」
いつの間にか手にした石ころで、ネイファは的当て遊びに興じていた。

 つまり、王国の中心部に近いほど重症患者と。それはそれでどうなのかな?まぁ、結界もあるしいいか。

「そんなことはどうでもいいの。次に打つ帝国への一手を決めるための話し合いで、どうでもいいことで騒ぐ必要はないの。」
「クワッハッハッ!俺の豪腕で奴らを直接叩けば良い!もう1度、繰り出してやろう!」
「良いわけないの!」
うだうだと喋っている時だった。ふと、気配を感じた。

「いや、帝国ってなかなか厄介だ。圧倒的強者に対する対策が練られているよ。ヘルベリスタは一族揃ってクソ野郎だ。」
ダサいTシャツから一転、アニメで見る魔王衣装を羽織ってだらだら歩いてくる姿があった。

「魔神……他の四神は?」
「さあね。もうじき来るんじゃないかな。ボクに聞かれても困る。」
「勝手にしてて良いけど、あんたらいないうちに大変なことになってたんだから、何してたかの説明くらいはしててって。」
適当に席を用意し、そこに魔神はどっかり座った。みんな、キョトンとした顔をしてる。

「お、そこの3人は拾肆彗の。よっ。」
そのまま座っていたら凛々しい青年なのに、喋るとこれだ。

「あんた、あたしたちを知っているの?」
「おいエインミール、下手な口は開かない方がいいぞ。こいつぁ———」
「魔神さ。ボクは魔神ヴァルディート。この時代に四神を知っている人間は極少数だけど、キミは知ってるようだね。」
エインミールの言葉を切ったニカな顔は、飄々としていたものから鋭いものへと変わった。

「なぜ神がここにいるか、教えてくれやあしませんかね?魔神さん。」
「この戦争を壊しにきた。それだけ。ボクは、静かにゲームができる世界だったらなんでもいい。」
「ぶっ飛びすぎでしょ。」
添える程度にツッコミを置き、「知り合い?」と気になる部分に疑問符を立てる。

「大昔、四神というのは名が知れていたんだよ。その頃はボクら四神が活動していた頃だし。」
「で、何かあったわけ?」
「その頃訳あって合衆国の前の国と対立してね、まだこんなちっちゃかったニカをぶっ飛ばしたわけ。」
自分の腰より低い位置に手を持ってきて、くすくす笑う。

「ニカにもそんな時期があったの……?信じられないの……」
「ハッ!エーミーは当時のニカとそう大して変わらんぞ!」
「カオスもその頃の俺は知らないだろがよ。」
「ハイハイストップ。落ち着こうか。」
宥め役に徹し、そこで消費したエネルギーをかわいいアーレで補給する。席はもう合体して、コアラみたいにしがみついている。

「もう少し静かにしたらどうなのよ?」
「そこの魔法少女も、イチャつくのはそのくらいにしたらどうだ?」
「いで。」
背中を後ろから小突かれた。頭じゃないのは、身長的問題。

「帰ってきてるなら止めてよ、人神。」
呆れた様子の人神は「黙ろうかヴァル」と魔神を諭し、とりあえず事態を落ち着かせた。

 人神も帰ってきたってことは……

「ワタクシもいるわよぉ?」
「もちろん我も。」
みんな、疲れた様子が窺える。なんか、申し訳なくなってきたのでコーヒーを差し入れする。

「皇帝が、来ておったのだろう?」
「分かった?」
「そりゃ、分かんない人がいたらそいつは死んでるね。」
魔神は見かけによらず砂糖マシマシのコーヒーを啜る。邪道だ、邪道。

「あいつら、複製の魔導具を持っていた。余の見立てなら、あれは大量生産できるタイプの簡易型。それで、殺された王国兵の証を複製して体につけていた。」
「それって、戻って行った前衛の?」
「そう。奴らの目的は、こっちの紋章をパクること。其方はまんまと引っかかり、出撃してしまった。」
「……うるさいなぁ。私も反省してるの。」
「そう、ソラさんは反省してる!」
アーレも猛抗議。もういいや、と言いたげな目で人神は自前の椅子を用意した。

 つまり、あの大軍は放置してたら帝国に戻って、関係のない民間人を殺そうとしていた……

「やはり、帝国は民のことなど想ってはいなかったのですね。」
「ヒビアさん、もういいの?」
怪我は治したとはいえ、まだ安静にしておく必要はある。それでも、これはヒビアさんにとって大切なことなのかもしれない。

「私のしていることは間違いではなかった。」
「元からそうだと言っているだろう。」
「ヒビアさんは色んな意味で考えすぎなんですよ。自分みたいに、気楽に生きていいんですって。」
王国側は王国側で励まし合う。仲間想いだ。

 だからと言ってエルゼナさん?私、あなたに魔封の鎖つけられたこと根に持ってるからね?許さないよ?

「魔法少女ちゃんにプラスで報告よ。」
「ん?」
私の手が空き、暇になったタイミングで声がかかる。

「一応、危険そうな子たちは保護して会いている村に置いてきたわぁ。北部に死傷者、東部にさっきのでやられちゃった子、南部は居住圏というふうになってるわねぇ。」
「めっちゃまとまってる。」
ありがたい報告に、少し頬が緩む。死人の数だけは、まだ聞かないでおく。

「それと、この子達も保護しておいたんだけどぉ、どうしればいいかしらぁ?」
そこには、裏切り者の蓮と学園の魔科学の人達が。

「生きてたんだ、てっきり死んだと思ってた。」
「人を勝手に殺すな。」

 ようやく、一仕事終えたって感じだ……

 私は、多少楽にはなった気を落ち着かせようと、ブラックのコーヒーを胃に流し込んだ。
 まだ、寝てられない。

—————————

 夕陽技千種こと、ラビア・イニシスは鏡の前で髪を梳かされながら口にした。

「私、戦争に出たいわ。国王に直訴させてもらえないかしら。」
「お気を確かに、ラビア様。」
いつ聞いても結婚準備の雑誌のメイド、ゼクシーは冷淡な口調で言った。

「私、このままでは本当に気が狂いそうです。」
「では、気が狂われた方がよろしいのかもしれませんね。」
「貴方本当に私の従者なのかしら。」
綺麗な紅銀髪をなぞる彼女の顔を鏡越しに見て、ため息をつく。

「私の能力はご存知ですよね。」
「未来を見てくる、というものと聞き及んでおりますが。」
「その認識でいいわ。私は、干渉できない代わりに未来にダイブしその体験を記憶したまま現在に戻ってくることができる。」
「それで、何をするとおっしゃるのですか?」
「間接的にとはいえ、私を助けてくれたあの方を今度は私が助けるのですよ。」
「ラビア様が。」
「私がよ。文句があるかしら。」
冬の寒風を開け放たれた窓から感じ、小鳥も鳴かない悲しい季節。ラビアはやはり、彼女に会いたい。

「気に入らない未来は捨てればいいのよ。私はその予言ができるわ。」
普段は絶対に手にしない、小指用の指輪を嵌めて笑う。

 彼女の魔力量は、その魔導具の原素量にて換算される。
 指輪の原素量は5000。つまり、50000もの魔力を保有している。

———————————————————————

 本当にありがたいことに、コメントをいただきました。感謝の極みです。
「誤字の前に、誰が何してるかまず分からねえんだよ」(本来はもっと優しい文体です)
とのことです。耳が痛い話ですね。

 自分でももう何が何やらという話数だけ増えていっている状態で、この1番厄介な状態になっている戦争パートを、数日に分けて手を入れるようにします。
 最初はもう最初として、あのままの文章で読解してください。手に終えません。

 ツッコミどころ、私も読み返しながら感じまくっております。キャラの名前とか思い出すためにたまに見返していますが、こりゃもう手遅れですね、と。

 多少厳しい言葉を貰った方が私のためにもなりますので、ガンガン言ってやってください。とても嬉しいので。
 ただ「つまらない」と言うだけなら、他でやってほしいですが。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...