魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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17章 魔法少女と四国大戦

557話 モードリベレイション

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 やばい。単にそう思った。

 ルーアは強い。確かに平均的に見ればどんな人間でも敵うことはないだろう。たとえ王国騎士が全員集まったところで、遠距離から爆発させて仕舞えばそれまでだ。

 けれど、それだけ。平均的に強い。ただその一面だけだ。とてつもなく平凡だった。

 例えば、魔法少女には負けるだろう。
 ステータスという面では、圧倒的だ。負ける要素はない。しかし、前龍神を撃ち倒した決め手である対物ライフル、トロイを向けられたらどうだろう。耐えられるだろうか。

 龍化すれば、耐えられないことはないだろうが、それだけために機動力を失うわけにもいかない。

 スキル面も特殊なものが多い。

 総合力で魔法少女に軍牌が上がるだろう。

 それと同じく理を操る『六将桜』が一将、桔梗に傷を与えられた。

 右肩が抉れていた。一体どんな能力なのか。

 自然治癒能力に身を任せながら、飛翔して距離を取る。

「主、距離を消したな?」
右肩を押さえて、ルーアは聞いた。確信はあった。答えは求めていない。

「それがどうした。」
肯定とも取れるその言葉で、ルーアは納得しておく。

「理を消すなど、常人にはできまい。どんなカラクリを使った……?」
「ただ、己の全てを賭したまで。」
「そうか。ならば、我も本気を出さざるを得なくなったわけかの。」
ルーアは苦い顔で言った。ただ強い、それに意味があるかどうか分からなくなっていた。

 ステータス上強いだけで、実際に勝てなかったならなんの意味もない。ベテラン作家だろうが新人に負けては経歴がどうのなど無意味だ。
 神なのに、四神なのに、勝てませんでしたではお笑い種だ。

 花吹雪が舞う。

 やはり、視界が消される。龍法陣から風を巻き起こしているが、そんな使い方では龍法陣の特性を活かせない。龍の特権を生かしきれない。

 無論、そんな停滞するルーアに桔梗は迫らないわけがない。
 魔力で作られた色とりどりの花が浮かぶ。

「月華!」
月の光のように眩しい光が、レーザーとなって放たれる。

「うざったいのぅ!」
左腕を振るい、防御壁を構築する。早々壊れはしない。

「瓦解、崩壊!混合!」
魔力が弾けた。ルーアは逃げる。

 とことん、相性が悪い。なまじ相手が死ぬ気な分、余計に面倒だ。

 さらに急上昇。
 反撃とばかりに、魔力を練って収縮させた。

「パラライズインパクト!フレアレイズっ!」
電撃の衝撃波で竜巻を消失させ、雷の雨を降らせる。その合間を縫って、小さな太陽のような爆炎を背負って魔力の塊が2人を襲う。

「理を紡ぐ。生まれろ、新たな花よ!」
歯を食いしばって桔梗は耐える。脳が裂けるように痛い。コレが理を生み出す行為なのか。

 手には剣が。
 理の剣。この剣自体が理。

「伏せろ望月!」
菫は声のままに身を屈め、桔梗の影を目で追った。

「こんなものか、神というものは……!」
「主らがそれを定めるべきではない!我は我、神だろうてなんだろうて、我という一個体に相違ない!」
炎の塊を桔梗は切った。空を蹴飛ばして、雷を躱せども雨はやまぬ。体を擦る熱さに身を硬直させながら、魔力を限界まで捻り出して全てを刻んでいく。

「理は、人間が生んでいい存在ではなかろう!…………主か、アーレを、そして皇帝の力を生み出したのは。」
ハッとして、ルーアは言った。

「だからどうした。」
「そのような代物を、よくぞ産み落としてくれたな!」
ルーアは目の前の敵を『敵』と認識した。かつての四神が創滅神を敵としたように、ルーアの今の敵はあれだ。

 そもそも、気に食わんのだ。
 何故自分が龍神などという身の丈に合わぬ称号を背負わねばならぬのか。龍神ルーのようなずば抜けた龍法陣の操作も、卓越したスピードの魔力操作も、何もない。
 平均してすごい。その程度の自分が。

 本来なら、前龍神を撃ち倒したあの娘が龍神たるに相応しい。龍の血でも強引に飲ませれば解決だ。
 半人半龍の神。新たな道も開そうではないか。

 心には、不満と愚痴が溜まる。この何千と過ごした歳月の中で、ぽつりぽつりと溜まっていった不満が溢れ出したような気持ちになる。

「我も龍神だろうて、何を弱気になっておる。」
一度、ピシャリと己の頬を叩く。

 しかし最後に、もうひとつだけ言いたいことを言っておこう。

「我は、我は……龍神様の下でごろごろしていたかったのだああああああ!」
そう身の丈を叫び、全てを解放する。

「何もない?平均的?そんなもの我の知ったことではないわ!我のしたいことなど我が掴んでやれば良い!」

 目の前の相手が全てを振り絞っている?
 よかろう。なら、こちらも全てを解放すればいい。

 モードリベレイション。

 全身に魔力が流れ、飛躍的に能力が向上する。
 淡く紅色の魔力光を纏ったルーアの周囲の空には、全てを覆い尽くすが如く龍法陣が展開される。

「強くなれぬのなら、数で押せばいい。それなら我でもできないことではなかろう。」
手を、ゆっくり前に伸ばす。

「おい、望月。あれ。どうなると思う。」
「やばいと思いますね。」
「それは見れば分かる。」
「陛下のお助けは期待できるでしょうか。」
「ないな。初めから、『六将桜』ですら捨て駒だ。やるべきことが終わればお役御免、それが臨時チームというものだ。」
何やら話しているが、聞こえない。どうせ丸ごと消し炭にしてやるのだからどうでもいい。

 龍法陣は光を放ち、瞬時に凝縮された炎の槍に変わる。槍というより大きな針のような形状だが、それは群れをなして側から見れば巨大な一個体のように見える。これぞスイミー。

 そんなスイミーアタックが向かうは、理そのもの。1つの理ですら、破壊は難しい。そんなことは分かっている。しかし、スイミーはそれを可能にする。

 強力より多数を選んだルーアの奥義。
 ループザフレイズ。

 身を焼き尽くすまで終わらない無限の炎。

 炎が放たれると同時に再構築されまた砲撃を繰り返す。これだけではない。魔力が通るならどこまでも展開できる龍法陣は、桔梗と菫の後方にも生み出される。

「死ぬ気で防ぐぞ。」
「ええ。」
2人は背中を合わせるように逆を向き、目の前に迫った炎に立ち向かう。

 暴風が立ち上る。

 しかし、炎はそれらを突き破って勢いを緩めることなく進んでいく。
 魔力のうねりを上げるたびに龍法陣によって空間を埋め尽くす魔力に染まる。

 ルーアはその光景をただ眺めた。
 四神として新たな力を得たルーアは、標的が滅びるまで攻撃をやめなかった。


「こんなものかの。」
体から溢れることなく循環し続けた魔力はなりを潜め、残ったのは辺りに漂う攻撃の残骸。

 おそらく死亡した。消滅し切って答えの是非を判断することは叶わないが、細かいことはいい。

 ルーアはゆっくり下降すると、地面にそっと立つ。目の前には今回の目的の建築物がある。

「バースト。」
爆風を伴う爆発を起こした。その龍法陣は建物全域を覆い尽くして放たれ、木っ端微塵に破壊される。

「これで我の出番もおしまいかの。今回の帝国戦は、我は傍観者に徹することにしよう。」
振り絞りすぎた魔力と集中力を取り戻すためにもと、ルーアはその場で背をついた。

 地面に寝転がるなんて何百年ぶりか。
 そんな何百年で世界は変わり果てた。

 側で創滅神との戦いを見ていたからこそ、この戦には負けられないと分かる。
 世界は神の意思によって操られるべきではない。

 そう言う今も創滅神によって作り出されたものだと思うと、少し皮肉に思えた。

 ルーアは今本当の意味で四神になれた気がした。

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 最近休みがちです。遅筆と不健康のコラボレーション。毎日がデイリーミッション。
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