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17章 魔法少女と四国大戦
546話 捨てちゃえ
しおりを挟む誰しも夢を見る。
役者になりたければ劇を見て、それを真似てみたり。アイドルになりたいのなら歌って踊って。芸人になってみたいと思えばこれぞというギャグを身につける。
この胸を突き動かすような何かが、人間の生きる希望となって心を燃やす。
それを人を夢と呼ぶ。
それでも普通、理想はそうそう叶わない。だから人は妥協してこのくらいでいいやと決める。それもまた、人は夢と呼ぶ。
西に向かって駆け抜ける少女は、確かな夢を持って紅銀髪を乱暴に揺らす。
ラビアの夢は今も昔も動物が幸せに暮らせる世界、尊重し共存できる世界。
それを叶えようとする自分に酔っているのかもしれないが、確かに心が燃えていた。炎の灯った未来を目指して、ただ走る。
王国の地理は頭に叩き込まれていた。
それはかつての教育の賜物だった。
点在している村、国境付近というに相応しいのは20前後。付近という言葉に厳密な決まりがあるわけでもないため、細かな事は語る人物によって変わってしまう。
未来で見たため、誰がどこにいるのか。重要人物の配置などももう知っている。
目的の人物、何度も見たが1度も「会う」事は叶わなかった命の恩人はイグル村にいる。
イグルは、かつては魔力溜まりが地下にあり豊富な魔法資源に溢れていたと聞く。
だからわざわざ、他と比べても国境に近い場所に作られている。西側に深い森林が、南側に川があることからそこそこに栄えていたと思われる。
他にも、聞き覚えはあるラミアの護り手や、国王直々の騎士団のメンバーが揃っている。
どれも、イグル村のように境に近い場所に位置している。
その代わり、どれも栄えるにたる理由がある。
例えば、ルルサールにはまるで湖を思わせるため池がある。アイディンには、少し北上した先に巨大な山があり、綺麗な湧き水が流れている。土壌も肥えており、良質な小麦が採れる。
こういったことも少しは役に立つのだなと、ラビアは内心感心する。
全て廃村になってしまったのは、少し惜しく感じた。
この調子でいけば到着は夜になる。天気も良好。
「こんな雑な戦争が大戦だなんて、ふざけているとしか思えないけれど……それを引き起こさせているのも彼女なのですよね。」
困り笑いをし、それでも足は止めなかった。
道中、魔物と遭遇し迂回したこともあったが、無事夜明け前にイグル村を捉えることができた。
王国と帝国の国境には深い森林が広がっており、それをバックにする形で広がっているイグル。
人の気配を感じる。広がった緊張をひしひしと感じさせる。
しかし、わざわざこんな辺境に出向いたというのに、村への侵入の仕方に迷っていた。
「普通に通れば止められそうね……」
遠くの木に背をつけて眺めていた。強固そうな外壁に囲まれ、入り口は小さくそこに見える。外から中の様子は伺えない。
「何をしているのでしょうか、ラビア様。」
「何をって、機会を伺っている以外になにが…………私は今誰と会話しているのでしょうか。」
ラビアは手で目を覆ってため息を吐いた。
「何故バレたのですか。」
「逆に聞きたいのですが、何故貴女がここにおられるのでしょうか。」
もたれる木の後ろ側から声をかけた、メイド服の女性。まごうことなきオリーヴ。
「命の恩人に挨拶をしに来ただけですよ。」
ラビアはオリーヴに引っ張っていかれた。
「うーん、何事?」
コーヒーカップを手に持った魔法少女は、隣にアーレを抱えながら困惑の声を上げた。
「私も聞きたいです。」
簀巻きにされ仰向けになったラビアは、隣に悠々と立つオリーヴに視線で文句を伝える。
「彼女は、王国に唯一の転生者にございます。」
「転生者、ね……ちょっと、2人にしてくれない?危険はないんだし、いいよね。」
「ええ、構いません。人払いをしておきましょう。」
オリーヴはその席から退出し、「アーレも、ちょっとだけ」と魔法少女は隣の少女に声をかけた。
「で、名前は?」
「感動の初対面が巻かれた状態なのは嫌ですので、まずは縄を解いてもらえないかしら。」
「初対面なのに図々しいなこの子。」
魔法少女は面倒そうな顔で、縄を引きちぎった。これがステータス格差か……と、ラビアは心が沈む。
「で、名前は?」
「ボットですか。……どちらの名を言えばいいのでしょう。」
「どちらって?」
「私、転生してこうなっているので。」
魔法少女が視線を上げると、月光に照らされた紅銀髪が視界に入る。控えめな身長に対し、しっかり主張のある胸部。
「敵……」
「それはこの体に言ってもらえないかしら?」
こほんと咳払いで場を取り戻す。
「夕陽技千種が前世の名、ラビア・イニシスが現世の名。私は、貴方に命を助けられたの。」
優しく微笑まれ、魔法少女は閉口した。
「え……なに?宗教勧誘……?怖い怖い、初対面だよね。」
「その反応は傷つくのだけど。」
「いやだって怖いものは怖いしさ。」
数歩後ろに逃げた魔法少女に詰め寄り、仕方なくスキルの話を切り出す。
「私は『ノストラダムスの大予言』というスキルを持ってこの世界に生まれました。」
「ノストラ……なに、地球滅亡?」
「予言の方には着目しないのね。」
「あ、予言ね予言」と言って魔法少女は頭にそれを思い浮かべる。何度か本を開いたり閉じたりする仕草をする。
「そういうのではないの。実際に未来に飛んで、それを見てくる。貴方が国王にすんなり受け入れられたのは、私の予言のおかげなんですよ。」
「お、そう……なんだ?確かに普通国王にタメ口したら殺されそうなものだし……」
「貴方国王にタメ口で話しているの……?」
話せば話すほど予想外な面が……いや、これは元から勘づいていた。
「それはそれとして、えっと、ラビアさん?は、何しに来たの?」
「ラビアで構わないわ。……目的なんて、私がしたいからではダメなのですか?」
「いやダメじゃないけどさ。」
少し考えるようなそぶりをして、空を見上げた。
「戦闘タイプじゃさそうっていうかさ。ちょっとステータス見せられる?」
言われるがままにステータスを開き、干渉されるのを許可する。
「冒険者でそこそこ……くらいかな。高くもなく低くもなく……スキルも戦闘用はないね。」
「未来を変えに来たので。戦うつもりはありませんよ。」
「でもそれ、未来を知れるだけじゃん。」
「……………………!」
その言葉は鋭い槍のように心を突き刺した。燃えていた心が燃え尽きそうになっている。
確かにそうだ。
森を出て、自分で言った。無駄足は嫌だから確認して行くと。確かに、ことが悪くなる事はないようだった。けれど、好転するかどうかまでは見えなかった。
未来を知って、それでどうする?
一方の魔法少女は面白そうにステータス画面をいじくり回している。
「でもこれ、未来を取捨選択出来るようになれば結構強いんじゃない?百合乃も仮定した未来が見えるけど……要らない未来を捨てちゃえば……」
魔法少女は初めて見るものに、キラキラと目を輝かせる。
さっきまで戦闘していたはずなのに、こんな自分のために時間を使って、真摯(?)に話している。
やはり彼女は命の恩人だ。思っていた通りの人物だ。
「……そうね。要らない未来は、捨てちゃえばいいの。」
ラビアは確認するように言葉を紡いだ。燃え尽きかけた心に再度思いを注ぎ足す。
「2人で、未来を捨てに行く旅をしましょう。」
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地球では原油、異世界では魔力です。
魔力は核石に貯蔵もでき、それを使って擬似的な魔法も行使できるため便利です。
実を言うと、金を稼ぐために帝国にそれを売り払っていたり……
森林を越える必要があるとはいえ、距離的には帝国の方が近いですし。
応援ありがとうございます!
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