魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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17章 魔法少女と四国大戦

543話 魔法少女と救世主

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 私はその言葉を聞いて、正気を疑った。

「皇帝に?この状況で?単独でやれって?」
「言いましたよね、『分かりますよね』って。分かってないなら、説明してあげましょう。」
やれやれとネイファは面倒そうに首を振った。

「この危機を乗り越えるには、外部からの干渉が必要。いくら貴方が変革をもたらす者と言っても、個人には限度があるんです。ドゥーユーアンダスタン?」
どこで覚えたその英語。地味にムカつく発音に内心キレながら、確かにそうかと納得してしまう自分。

「いいですか?今度は、貴方が時間稼ぎをするんですよ。皮肉ですねぇ。」
「そういうのいいから。で、あの呆然としてる騎士達はどうするの?学園の人達も見当たらないし……」
「あの人たちのことはわたしでどうにかしますから、貴方はあの相手を。では。」
小さく微笑んだと思ったら、小さなツインテールが視界の端でチョロついて消える。

 まじか……これ相手にするの……?

『時間稼ぎなんだから、まともに相手にする必要ないよ』

 だね。

 私は数歩ほど歩み寄り、奥にいる軍の威圧を受ける。

「降伏する気にはなってくれたか?」
「いーやまったく。これっぽちも。」
ステッキを肩に乗せた私は、ゆっくり皇帝に近寄る。

 ここが決戦の地……なわけないよね。
 それが1番楽で嬉しくはあるけど……

 魔力を練るついでにそう考える。

 本来戦争は1年とかでやるものだ。でも私は、もうあと数日のうちに片付けたいと思ってる。
 どうやったら皇帝を失墜させられるか、そもそも殺せるかが不安だけど、やらないことには始まらない。

「戦おうか。」
「朕とか?」
「もちろん。」
先手必勝。ステッキを向けた瞬間に流星光槍を放ち、行動を制限させる。

「朕に勝てると思っているのか、愚か者が。」
徐に指を鳴らした。すると、私の魔法はかき消えていた。

「…………は?」
「もう少し研究していたかったが、どうやら逃げられてしまったようだ。」
皇帝の張り付く笑みは、綺麗な顔を台無しにするものだった。

「アーレの……」
「正解だ。案外勘も働くものだな。褒美に、朕のことをディティーと呼ぶ権利をくれよう。」
「絶望的にいらないけど受け取ってあげるよ、ディティー。」
後ろに控える軍は私に威嚇するような視線を送るが、龍の威で睨み返してやれば静かになる。

「私は空ね。おかげで計画がおじゃんだよ。」
「はははっ、この朕を戦場に出したことを誇れ。」
皇帝は豪快に笑い、帯剣していたその得物を引き抜いた。

「ではソラと呼ぼう。朕とこうして語らいあえたこと、あの世で光栄に思うといい。」
その姿が消えた。焦ってはいけない。分かってる。けど、人間の8割を占める視覚情報が欠落した事実は大きい。

 気配察知……は無理か。アーレと同じなら、何もかも情報が消えているはず。

 こうして考えられているのは何かの慈悲なのか。考えていても仕方がない。
 できる限り時間を稼ぎ、皇帝を一度追い出すことができないかに脳のリソースを割く。

 何をしたって意味はない。けれど、攻撃するということはその瞬間にはこの世界と同じ座標軸にいるということ。
 空間魔法や重力魔法を使ってもいいが、手の内は隠しておくのが吉だ。

「見えない敵と戦うとか……せめて存在してて欲しいよ。」
まるで空気と戦っているみたいだ。そう感想を述べている暇がないのは分かっている。

 ここで集中したら分かるなんていう特殊能力はない。あって欲しかったけど。

 左肩に痛みが。出血はない。何かで斬られたような気がして視線を向けたら、ローブは裂けている。やはりだ。

「いるんでしょディティー。」
手当たり次第にラノスを撃つ。残っている弾を全て消費し切ると、マガジンを入れ替えてまた撃つ。

 早く早く早く早く早く!
 こんな準備もなしに勝てる相手じゃないっ!というか、今勝ったって意味ない。相手は皇帝であって、帝国だ。民を相手にしている。

 納得のいく形で、終わらせたい。

 確かに帝国は皇帝の独壇場。初めは首を取れば機能しなくなると思ったけど、そうじゃない。
 あの演説の映像を見て、下の暴動が起こることに気づいた。

「…………ぁ、いったいなもう!斬るんなら斬れ!というか斬るな!」
時々体を襲う謎の斬撃。痛みがあるだけで、魔法少女服のおかげで血は出ない。これがまたもどかしい。

 なんだろう。鞭打ちされてるみたいな。

「情報操作ってチートすぎでしょうがああぁ!」
私が叫んでいても、周りは何かをしてくれるわけではない。助けを求めても手が差し伸べられない世界線、悲しきかな。

 皇帝も攻めあぐねてる感じだし…………
 1回、効くか分からないけどアレやってみる?

 空間操作のとある技を稼働させる。仕方ない。今は出し惜しみしているわけにもいかない。
 適当に配置することぐらいしかできないけど、やってみるしかない。

『私達~出番みたいだよ』
『やっほーい』
『待ち侘びていたぞ』
『やればいいんでしょ、はいはい』
感動詞の倒置法という意味分かんない手法を扱う私は、空間魔法の制御を始めた。

 正確で細かな制御が必要だからね。

「空間隔離。 」
見えない壁が、小規模ながらあたりを覆い隔離していく。重力世界のように何か影響を及ぼさせるわけではなく、無に帰す。そして干渉をさせない。そういう世界だ。

「おっ、ビンゴ。」
先程までどこにいるか分からなかった、気配すらなかった皇帝の気配がつかめる。

「そこか。」
ステッキから交代し手に収められたラノスは、弾丸を放った。

 …………まあね、知ってた。

 キンッという金属音を聞いて、銃口をの先に視線を釘のように突き刺す。

「まさかここまでの脅威とは思っていなかったよ。ソラのその武器は、なかなかに厄介だ。」
「だからそっちの手に渡らないように最初は使わなかったんだけどね。対策されたらおしまいだし。」
根底を覆された。もうあーだこーだ議論する段階はとっくに過ぎている。

 あとはもう、泥沼のようにズブズブと戦争を進めるしかない。多少強引でも。

「最初からそれで特攻していればよかったのではないのか?ん?」
「馬鹿じゃない?こんなちゃちな拳銃、あんな肉壁に敵うとでも?」
じわじわと、逆再生をしているように姿が見え始めた。

「朕よりも優先度の高い技……か。まさか、神ではあるまいな?」
「なわけないない。私が神なら世も末だよ。」
手を振る。ネイファが時間稼ぎ、と言った。つまり、その言葉のままの意図を組めばいい。ネイファはああ見えて、伝えたいことをはっきりいうタイプだ。

 この隔離を使った意味も半分くらいはそこにあるしね。

「神っていうのは、もっとやばいから。」
中身のない薄っぺらい会話に、皇帝も半ば気づいているようだ。この隔離は、もう保たない。

 時間さえ稼げれば、それでいいんだから。

 私はこれから、次の攻撃をどう防ごうかと冷や汗をかく。皇帝はこの隔離が消えるまで、雑談に乗ってくれるらしい。

「あとどれだけだ?」
「さぁね。」
「惚けずとも分かっているぞ。」
「はいはい。もう切れますよー。」
まだ完璧ではないこの空間操作の魔法。重力魔法と本当に変わらない。大雑把な事なら完璧にこなせるけど、その先がまだ無理。

 さて、ここからどうしよう。魔力はお陰様でたっぷりと残ってるけど、ぜんっぜん策とかない。

 ヒーローとか主人公とかいないかなー、なんて思いつつ、徐々に情報が欠落して消えていく皇帝を見て察する。

「短い時間だったが、この朕を楽しませてくれた事は感謝しよう。誉に思え。」
最後の抵抗に万能感知を使うが、やはり皇帝は見えない。斬られる覚悟を整え…………。やがて聞こえたのは金属音。

「ソラさん、待たせてごめんなさい。」
そこにいたのは予想通りの人物。

「おつかれ、アーレ。」
「少し痛いけど、大丈夫。」
皇帝の姿は見えない。が、アーレは見えている。

 向こうが情報を消すなら、こっちは復元すればいい。

「ソラ様。お久しぶりでございます。」
地面にナイフが3つ刺さる。その軌道をなぞるように着地した女性は、凛とした佇まいとメイド服を併せて凶器を引き抜く。

ドM超弩級のメイドさん!?」
「恐らく、その認識で間違いないかと。」
腕輪をつけ、動きやすいスカートが広がらないタイプのメイド服を着た彼女は、困ったように微笑む。

「形勢逆転ですね。ソラさんは後ろへ。」
ドMさんの言う通りに下がる。

「『プロテクト展開。ログアウト実行、ブロック実行』」
アーレはぶつぶつと言葉を漏らす。その意味は、自ずと理解できた。

「早かったな、ネインアーレよ。」
皇帝は薄ら笑い、アーレの剣を弾いて言った。

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 クーデレ卒業後初の会合ですね。なかなか長い間出番が少なかったアーレですが、百合乃とかロアとかサキとかもっと出番ないので、そろそろパズールに返してあげないと可哀想なことになりそうです。
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