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17章 魔法少女と四国大戦

542話 魔法少女と皇帝

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 そこからの私達の仕事は、本村に全軍を引き戻す事だった。
 感覚的に悲しくも5分の1くらいの人達は死んでいる。さすがに、あの数と質の帝国相手に犠牲なしとはいかない。

 でも、さすがに展開が早すぎる。1日足らずで、これ。準備の方がうん100倍大変だ。

 帝国は前衛軍が後退して、精鋭グループが突撃してきているが、どうやら四神達が食い止めてくれているようだ。

「一応全員に持たせた通信装置もどきにも連絡入れたから……捜索漏れはそれ持ってたら帰って来れると思う。」
本村に戻ってきた私は、頭を悩ませながら作戦を立てる。

 四神もまだ帰ってこないし……

「主戦力は残っているの。時間はもう少しあるから、ゆっくりすればいいの。」
「そうも言ってられまい。何しろ、敵は強大のようだ。」
視線をずらして、息を荒げて倒れているヒビアさんを一瞥した。

「私、治してくる。」
会話の席からはずれ、近寄る。雲が少し月を隠した夜。ここだけ見たら、異世界感は微塵もない。

「悪いけど、心の方まではどうにもできないからね。」
手をかざし、身体中ボロボロの彼女を介抱する。

「…………私は、どうするべきなんでしょうか………果たすべきことも、果たせずに……」
「大丈夫大丈夫。世の中そんなもん。正解なんてないし完璧もない。」
打撲や青あざだらけの体に、滲んだ血を再生創々で元に戻していきながら、小娘の私は言う。

 こういうのは、ぶっちゃけ適当のほうがいい。深刻になると、その分傷つける。

「人は完璧の基準を自分で定めて、納得する。私だってそんな感じで生きてるし。何でもかんでもやろうとしなくていいでしょ。」
「…………王国を、守れない私が生きている価値なんて、ない……!」
まだ治してない腕を自分の目にやって、静かに涙をこぼす。

 私より年上でも、やっぱり女の子なことには変わらないね。

 こういう風に慰められるのは、あの私があってこそだ。その手をでいうと、あの世界線を生き抜いてくれた私には感謝しかない。
 今までなら、かける言葉なんて見当たらなかった。

 だからと言って、その補助をするとは言ってない。個人的な罪悪感を切り落とすためだ。

『少しくらい慰めてあげてもいいんじゃないかな?』
『目の前で号泣してる人を堂々と放っておけるその心、実にいい』
『いいの!』
『いいの~?』

 ちょい黙って。今左耳で会議の声、右耳でヒビアさんの声を聞くミニ聖徳太子してるから。

『ミニ聖徳太子ってなに?』
『いっちょんわからんな』

「生きる価値とか知らないよ、私が決めることじゃないし。私に大層な慰めは期待しないでね。彼氏にでもしてもらって。」
「かれ、………そ、そんな不埒な相手は……」
「えー、彼氏が不埒?なに、韻でも踏みたくなった?」
「そんなことは……」
「はい完治。私は医者じゃないからどうなってたとか分かんないけど、治ってはいるから。」
私は「うんしょ」と言って立ち上がり、肩を回す。疲れが溜まっている。

 私は主人公みたいに「生きていること自体が価値なんだよ!」とか「君の笑顔が生きている価値だ」なんて痛いセリフは吐けない。気持ち悪い。
 なにそれ、人生舐めてる?って思う。

 ヒビアさんは毎日泥を啜る思いでやって、私はそれを邪魔した。私が悪いのには変わりはないけど、それで死ぬのはなんというか……勿体無い。
 泥啜ってんなら、それに見合う報酬があっていいじゃん、って思う。

『つまりあれだ。価値とか知らんけど生きるだけ生きろってこと?』

 まぁ、うん。そうなるね。

『クソ野郎じゃん』

 し、知らない!私知らない!別に生きろなんて言ってないし?

 この話は一旦脳の隅に追いやって、蓋をしておく。見たくないものには蓋をしろ。

「で、作戦決まった感じ?というかネイファ、いたんだ。」
「貴方がド派手に動いてるから陰に隠れているだけですよ。わたしは、しっかり身のある行動を心がけていましたから。」
「はいはい。で、作戦は?」
ネイファは非常な残念そうな顔で、ため息のようにその言葉を発した。

「全員、心を強く持ってくださいとしか言いようないですね。」
「………………!」
私は咄嗟に身を翻した。身の毛もよだつ気配を感じたのだ。

「キミか。我が国を脅かす蛆虫は。」
かつ、かつ、と1歩ずつ詰め寄る人間がいた。そこにいるはずがない、いてはいけない人間。

 皇帝…………ディティー・ヘルベリスタ……!

 これが圧というやつか。四神も本気出せばこのくらいできるのかな、とどうでもいいことで気を紛らわせ、私が前に出る。
 みんなを、約3万ちょいの軍を後ろに引き下がらせる。

 時間あると思ってたけど……皇帝がいるってことは。

 万能感知を使う。綺麗な隊列を組んだ2万ほどの軍がこちらに迫っている。後ろにいるはずの軍が消されているのは、きっと四神の仕業か。

 こっちより雑魚を優先させた理由……?

 考えても仕方ない。それは何度も打ちのめされているから分かっている。理不尽に理屈は通らない。

「聞け、王国兵、及び合衆国兵士よ!」
その声は森を揺るがすほどの声量で、その声だけが全員の耳朶を打った。

「我々は非常に失望している。何故か分かるか?」
誰も答えはしない。皆、警戒心をあらわにしている。

「我々帝国は貴国に何をした?確かに、此度の戦争にて多少の被害を出したのは事実だが、それはこちらも同じだ。大切な部下が、2名も死んだ。軍は総勢3万2459人、死亡した。」
瞼を閉じ、ディ○ニープリンセスもかくやというほどの磨きのかかった演技力。

「先程の部下の声、聞こえていたか?皆、どこか思うところはあったのではないか?……しかし、彼女は殺されてしまった。これはどういうことだ?」
尋ねるような言葉だが、空けるのは一拍。

「口封じ、とは思えないか?確かに我々は、貴国らから見れば非道とも思える行為をしているかもしれない。しかし、こちらにも信念があり、夢がある!」
壮大に言って見せ、流れるように、押し出すように言葉を並べる。

「愛するものと肩を並べて街を歩きたい。美味しい食事で腹一杯に満たしたい。好きなものを好きなように買ってみたい。そんな、平和な願いが叶えられる世界を、望みを、朕は代表して叶えると言っているのだ。」
最後の一言一言までが魔力を持ったように耳に届き、耳心地の良いものとなって浸透する。私ですらこうなっているのだから、周りがどうなっているかなど想像に容易い。

 誰か、何か言ってよ……これじゃあ完全に皇帝に呑まれてる……

 寒気を耐えるのが限界で、言葉の恐ろしさを痛感する。

「我々は悪役になってでも、世界を統一しそんな夢物語を現実とする!それを知っているからこそ、我が帝国は強固な絆で結ばれている。貴国らは、どうだ?」
ん?と、村全体を見渡すように首を回した。少しだけ、気の緩む間が生まれる。いけないと分かっていても、生まれてしまう。

「この場にいる全員に聞く。この朕に、任せてはみないか?きっと、永劫の幸福をお送りしよう。」
言葉がまるで魔力を持つように、人々を魅了していった。緩んだ気に、滑り込んでいく。

 失敗した…………完全に、これは私の落ち度だ。どうやってもひっくり返しようがない……

 私は頭を抱えるそぶりすらできず、皇帝の言葉を耳に流していた。
 辺りからは武器手放す人間が大勢いた。これは、深く考えてしまう人ほど陥りやすい。本当の信仰心でもない限り。

「声に騙されるな!出鱈目な言葉で惑わそうとしているだけだ!耐えようとするな、信じるものを口に出し、不要なものを捨てろ!」
総騎士長さんはそう叫ぶが、耳には入ってこないようだ。

「クワッハッハッハッ!なかなかどうして、面白い。建前というやつか?信じるに足りんな。」
「建前でなく半分嘘だ。事実と織り合わさった嘘は、見分けずれぇんだよ。」
「恐ろしいの。」
合衆国の3人はあまり効果はないようで、横にいるネイファは「あらら」と残念そうに笑う。

「集めるべきじゃなかった……?」
「いや、そうでもないですよ。どっちみち、統率も取れてなかったらただの木偶の坊。畑に刺さる案山子ですし。」
ネイファは端的に、淡々と答えた。しかし。

「これをどうにかする方法、ひとつだけありますよ。どうしますぅ?」
そう言って、私を見た。

「……なに?」
「あの人、殺せばいいんですよ。分かりますよね?」
いきなり、大将戦が始まろうとしていた。

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 私、知っての通り誤字大量生産機です。
 もし、もし心優しき天使のような読者様がいらっしゃれば、「仕方ねえな」と言う気持ちがあったとしたら、誤字の指摘なんかをしてくださると当方たいへん嬉しく思いましてですね。
 是非ご検討を。
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