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17章 魔法少女と四国大戦
541話 魔法少女はジリ貧
しおりを挟む「……はぁ、はぁ…………大丈夫!?ってかいる?」
作戦本部の村(勝手に決めた)に駆け込み、私は声を腹の底から吐き出した。
「……ソラ?何かあったの……?逃げろって聞こえたから戻ってきたけど、何が起こってるの?」
「……エインミール………?ほかの人は?」
「まだ戻ってきていないの。別の5村とも連絡はつけているけど、半数もいないの。」
やっぱりかと眉を顰める。エインミールは落ち着かなさそうにそわそわとしている。
死んでる人を除いてもまだだいぶ戻ってきてない……ただでさえ、質も量も劣ってるのに……
『こういう状態を言葉で表すと?』
『ジリ貧』
『多勢に無勢強化版』
『詰み~』
うるさい。今集中してんの。
「帝国の人らに私の姿も見えてるし……どうなってんのほんとに。ちょっと私、指示役の残り5人探してくる。」
「あ、あたしも行くの!」
「……エインミールも?」
「ダメなの?」
「…………まぁ、いいか。エインミール強いし、とりあえず離れないようにはしよう。何があるかは分からないし。」
エインミールは小さく頷き、小さい体から出るとは思えない速度で私と並走した。
こりゃほんとに見た目以上に生きてるっていうのに信憑性が出てきた。
「それより、聞きたいことがあるの。さっきの声は一体なんだったの?」
「ちょっと待ってそれは後で……」
私は通信用の魔道具を手に取り、四神に事を伝える。
「聞こえてる?聞こえてなくても聞いて!『六将桜』って奴の1人がこっち来てるらしい!もう1人は私がやっといたけど、そっちにもくるかもしれないから、注意しといて!あとは連合国軍の保護お願い、今ヤバい状況かもだから!」
簡単に叫び、残りは四神に全投する。私にはこんな経験なんてない。総騎士長に頼むよそういうの。
……人の気配が薄い。死臭も凄いし、ヤバい相手かも、これ。
トンデモ殺人鬼が頭に浮かび上がり、海外のホラー映画かよとツッコむ。
「聞こえるの。」
突然、エインミールが私のローブを引いた。集中しきった目で、森を見つめる。目を伏すと、またローブを引いた。右側に。
「何かあるの。」
そう言って指を差そうとした。それは言葉を掻き消すように現れた。
「醜い醜い醜い!無駄な足掻きはやめろ。」
私の真横の木が折れた。それを確認する前に、お腹に衝撃を感じた。
「ぬあっ……はあ…これなに……」
地面に転がった私の上には、女性がいた。見覚えがある。
「正騎士長……?」
「私は挫けない…………死さえも私の前には意味を成さない…………王国を汚した貴様ら外道に、屈する訳にはいかない!」
「愚か愚か愚か、可哀想なやつだ。」
私が驚き、瞬く瞬間に彼女は闖入者である男に刃を向け、「穿殺し!」と叫ぶ。その顔は、まさしく鬼の如く。
ん?……それって総騎士長の技じゃん!?
その宣言通り、光速で男を貫いた。と思ったが、そこにはもういない。残像だってやつだ。
「流転星華!円華、双輪!」
1振だったはずの剣が、いつの間にか両手に。目に見えない攻防、というわけではないが、私ですらすごいと思う戦闘。
「付け入る隙がないの。でも、あれは相当やるの。勝てないの。」
私がぶっ飛ばされたせいで距離の空いた先には、険しい顔のエインミール。
「正騎士長も、怒っているの。さっきの声が原因……?」
「そうか……あの声は、疑心を生ませるだけじゃなくて真に王国を愛する相手への牽制でもあったってことか。」
エ○フーンのおきみやげくらいうざい攻撃をしてくれた。なんて物を捨て駒にしてるんだと帝国に殴り込みたい。
……これどうしよう。実力差は歴然だし、死ぬのを分かってて放置するのは無理。でも、正騎士長さんの意思も尊重したい。
「エインミール、これどうする?」
「止めるしかないの。」
「どう?」
「無理矢理しかないんじゃないの?」
「だよね。」
激しい鍔迫り合い。しかし攻撃を受けているのは一方的に正騎士長さん。
百合乃といい勝負じゃない?いや、さすがに百合乃あそこまで速くないな。
正騎士長は1振に戻った剣を左下から持ち上げるように振るう。それを鉄の棒?棍棒のような物の腹で受け流すと、振り払って体勢を屈めた。
正騎士長は切り返しが間に合わないと踏み、剣を手放し蹴り上げようと脚を上げ、左手でそれを掴まれる。
「捕まえたぞ……」
呻くように発した言葉の次に、落ちてくる剣を手で添えるようにして地面に叩きつけた。激しい揺れが起こる。
この世界の人達……すご…………
土埃で見えなくなり、万能感知に切り替える。
チートがなくても野生み溢れるチーターがいた。現地のチーター、現地ーター。
「エインミール、正騎士長さんの方頼める?」
「分かったの。」
エインミールもどうやら状況を理解したらしく、私達は逆方向に弾かれるように走った。
今の攻撃、避けられてる。
「ぁあ……か……はあっ!」
棍棒で腹を突き刺され、一瞬呼吸が止まる。多分、血を吐き出しながら、よろめいた。
「帝国は世界の未来のために、必死で必死で必死で動いている。それを先に貶めたお前たちが滅びるべきだ。」
「…………罪なき、人々を……殺し、領地を奪う理由には、ならない……!」
「犠牲はつきもの、という。王国だってそうだろう?」
「それは…………努力という過程の果ての結果に過ぎない……!過程を捨てたらそれは、それは……」
だんだんと薄くなり、視界が開けてくる。チラリと見えたその顔は、怒りと悲しみに震えていた。
これ大爆発するやつ……
思っていた通り、私が間に立つより速く剣を振り翳し……
「それ以上はやめるの!」
行こうとする方向とは逆に力を加えられ、バランスを崩して剣を握る手が緩む。
「今!」
「分かってる……っ!」
するべき事をするために、目の前の『六将桜』らしい男に飛び込む。
「トール!」
「無粋だ無粋だ無粋だ。心の、魂の、情熱の死闘に水を差すほど愚かしいことはない!」
棍棒を振り抜いてトールをかき消す。なんで鉄なのに電気を通さないのか謎だ。
「無粋でもなんでも、我を通すのにだって命が必要なんだよ!そもそもさぁ、意志なんてものは生きてなきゃないんだよ!」
飛び込んだ私は着地はせず、空間を蹴って加速した。予想外の動きに少し戸惑いが見える。
命が軽いこの世界で、意志を通すことは難しい。だから、守ってやらなきゃいけない。それらを。私は大切なものしか守れないけど、その過程で誰かを救えるなら、そうしたい。
普通、誰ってそうだ。
でも、それじゃあきっと正騎士長さんは納得しない。意志をかけて、自分の全てを剣に乗せて、それでも勝てないなら潔く殺させておけと、ラノベの女騎士のような事を言うのだろう。
なら私も、同じ意志で貫こう。
「こんな劣勢時に、大事な戦力失うなんてしたくないっ!」
渾身のパンチは、私の拍子抜けの言葉と共に男の顔面を捉えた。威力抜群、数メートル吹っ飛んだ。
死んで詫びろクソ野郎!うちの大切な戦力を傷つけやがって!
ノーモーションでラノスを取り出すと、迷うなく引き金に指をかける。こっちのラノスはまだ、6発ある。
「それは私の獲物だ!私は死んでもいい……悔いることは何ひとつない!ああぁぁ……!」
「そんな怪我じゃどうにもならないの!」
力が抜けて左足がぷらぷらしている。多分、興奮で気づいていないが折れている。
「それは私の心を、芯を、全てを否定した下劣な帝国民だ!私がこの手で、この手で……!」
「正騎士長さん……じゃなくて、ヒビアさんだっけ?そっちか意志を貫くように、私も同じ意志でこれをしてる。」
言葉はヒビアさんに、敵意は男に。重力世界を展開し、動けなくする。
「私はこの戦争に勝つ。確実に勝って……」
「私は死んででもその男の首を刎ねる。」
「その悔しさと怒りを覚えておいて。そういうのは、生きるための枷になる。」
私は空間を縮めて男の右肩に銃弾を打ち込む。こんなもの、屋台の中に入って射的するのと変わらない。
「聞いておくけど、このままじゃジリ貧だし負けに近づく一方だよ。」
嘘は言っていない。ただ、私がちょ~っと本気出せば変わるもしれないってだけだ。
「それでも死ぬ?王国を見捨ててまで。」
「…………………それと、これとは……」
「そう。ならいいや。その悔しい気持ちは悔しいって言えばいい。帝国軍をぶったぎっちゃえ。その気持ちの整理は、それからでもいいと思うけど。」
そうとだけ言って、エインミールに任せる。私はこの男の処理がある。
「ねえ、名前は?」
黙り込んで喋らない。
まぁ、『六将桜』ってことには間違いなさそうかな。
モリモリ重力で蹴り上げて、重力の挟み揚げを完成させる。
これ以上不快な思いはしたくない。重力でそのまま遠くへ投げ飛ばし、トマトケチャップにした。
「ふぅ……一仕事終えたぁ。」
「まだあるの。他の騎士達を本部の村に集めるの。」
「げぇ。」
仕事って、ダンジョンのモンスターみたいだ。
———————————————————————
空さんは仕事をモンスターって言ってますが、執筆はデイリーミッションです。
いくらクリアしても翌日には湧いてくる。そこにいる。クリアせども、次の日にはリセットされている。
もっと執筆に取れる時間があればいいんですが……
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