魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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17章 魔法少女と四国大戦

538話 魔法少女は一時撤退

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「あー、テステス。そっちどんな感じ?」
『動きあり。其方の方は?』
「同じく。」
来たねぇ、と私は視線を遠くに飛ばす。待機されていた軍は全て進軍を開始し、こちらに向かう姿が確認できた。

 通信魔導具、これ使えるね。

「行こうか。さっさと帝国と皇帝をぶっ飛ばそう。」
『了解』
魔力を切ると、自然と魔導具はオフ状態になる。それをポケットに押し込むと、後ろを向く。

「準備いい?」
「ああ。」
蓮はぶっきらぼうに返事をすると、スキルを発動させたのか体を浮かせる。私は空中歩行を発動する。空に、高速に飛来する影が2つ。


 私は戦場に着いたことを実感できないまま、ただ森を歩く。

「邪魔しないでね。もしぐずぐずしてたらラノスでごとぶち抜くから。」
「うるせえな。それはこっちのセリフだクソが。そもそもテメェは見えねえんだろ?」
いつも何かキメてる目をしている蓮に訝しげな視線をやりつつ、万能感知で分かっていながら数を確認する。

 えぐい数いるね……

 でも、相手にするのはこの大群を動かせるだけの力がある相手。私じゃ務まりはしないと思ったけど、魔神が言うにはそれでもまだ役不足らしい。

 一体私はどこの女優なのさ。私は一般転生者なのにね。

 と、転生が一般じゃないことを頭から落としている私は笑う。

 北西のあたりからやってくる帝国軍。
 万には届かないが、丁寧な隊列が反応で分かる。ぼちぼち、交戦が始まる。

「来るぞ。」
「分かってる。」
私は即座にステッキを左方向に傾け、ガキンッと音が鳴る。

「そこそこの精鋭ってわけね……」
ステッキを構え直し、地面に落ちた刃物を眺めて呟く。金属の擦れ合う音で甲冑の音を察し、とりあえず、踏み込む。

 そこで気づく。
 

 あいにく、そんな疑問を解決できる脳容量と時間はなかった。

「後ろ頼んだっ!」
私は後ろにそう投げかけながら、本気の地龍魔法を使う。高速回転し赤熱化する、槍ほどの長さのそれを11本、感知に引っかかる方へと投げ飛ばす。

「よし、手応え。」
喜ぶのも束の間、その瞬間に全ての兵が雪崩れ込む。

 くそっ、この数じゃ先輩の技は……

 けれど、足掻く。

 攻撃は全て私の顔面スレスレに当たるようにする。せめて、視認できる位置に光を集める。
 目視できるのは23名。この狭さでこの人数、普通ならやばい。

 後ろで戦闘の音。弾ける炎の音を微かに感じ取りながら、「森で火はダメでしょ……」と愚痴のように吐き出す。
 こんな森林で……火気厳禁でしょ。

「なんでこうなるの……意味分かんない、ほんと!」
神速で木に飛び上がると、狙いを定めて投擲具を次々と投げる。土の盾で防ぐと共にファイボルトを下に円形にして飛ばす。

 そのうちに退散っと。

 向こうは声を出さず位置を把握させづらくしているのだろうけど、万能感知で余裕だ。暗闇を素早く動き回る私、かっこいい。なんて思う暇はなかった。

 アクアサークルからアクアだけを魔法分解で分離させ、水魔法の渦を生み出す。形は魔力喰らいをイメージ。
 全てを洗い流すように、その場を飲み込んだ。

「数人やれた……」
複雑な気になりながら、トールを流す。私は耐性があるから、濡れながら進む。

 さらに数人。水が滴ってるから行き道バレバレだね。

 トールの有効範囲外に出た奴は即座に万属剣で突き刺して殺す。心臓を一突。できるだけ一撃で。

「いたぶる趣味なんてないんだよ、こっちは。」
だというのに、沸き続ける兵達。モンスターかよとツッコみたいのを押し殺し、小さな土槍の嵐を吹かせる。ここら一体、エアリスリップの風が吹き荒れている。

「アースアイス。」
地面が揺れて動きを制限させ、氷の槍で突き刺す。

 こんなのやってらんないって、ほんと。私殲滅力には欠けるんだからさぁ!

 魔法より物理の方が強いという魔法少女にあるまじき能力してる私は、脳筋魔法少女に転身しようかと思っている。

「混合弾乱れ打ち!」
生まれた氷を利用し、高く飛び上がって下に向かって連射する。これで、ある程度片付く。

 3万ね。……多勢に無勢ってこういうことか……

「……っ!ぁっ!」
背中に強烈な一撃が、突然やってきた。感覚的に出血はない。何か飛んできた、という印象。

 感知にかからない速さ……?

 そのまま私は木々を薙ぎ倒して停止し、本来なら背骨の1、2本折れているだろう状態で立ち上がる。
 魔法少女は硬いのだ。

「なに、今度は……」
「こんばんわ、王国の犬さん。あら?違った?」
ゆっくり歩いてくる妖艶な女性。月明かりに加えて目を細めて、なんとかその顔を認識する。足音は、西側から。

「『六将桜』第四将プロヘイスよ。」
雰囲気が違った。何もかもが他の兵とは違う。魯鈍を殺そうとした時に現れた男とどことなく似ている彼女の雰囲気は、確信に変わる。

 肩に、帝国の紋章が付いていた。

「別に、私は王国の完全な味方ってわけでもないけどね。」
「どうでもいいわ。ちなみに、貴方のお仲間は逃げたみたいだけど。ふふっ、不憫で、哀れで、惨めね。」
「逃げたのあの人。まあいいけど。」
実際クソほど役に立ってると感じない。強いんだろうけど、この先を生き抜くという点で言うと雑魚雑魚だ。

 そもそもどっち行ったの?ま、いっか。

「これも成長する機会ね……やるっきゃない。」
目の前で今相対する敵は相当な実力者で、過去戦った相手で上から数えた方がいいくらいの敵だ。

 そんな敵がまだいるかもなのね……
 りっしょうおう。六花の六か。組織名的に6人いる。

 『六将桜』……聞き覚えある、かな?こう言う時に記憶力ってないと困るよね。

 ラノスを引き抜いた。

「わたし、戦闘は得意じゃないの。」
「だから、どうしたの?」
「貴方たちは見落としたようだけど、実はー、もう1人隠れてまーす!」
拍手を始め、笑いながら私を見つめてくる。少し恐怖をくすぐられる。嗜虐的な目で笑うと、「貴方たちは嵌められたの」と口にする。

 ……そんなことってあり?

 わざわざあれだけの兵力を消費してまで、大掛かりな罠を?そんな考えもよぎる。が、今しなきゃいけないのはそんなことじゃない。
 きっと四神なら大丈夫。だから、今私がすることは。

「全軍、撤退!いいからとっとと村に戻れ!」
全ての作戦を放棄して、逃げを伝達すること。

「絶対にここを通すわけにはいかない。」
私は彼女の前に立ちはだかり、両腕を伸ばす。

「望むところね。」
嘲笑するように、突然現れた小さな鉄球を指に挟んだ。

—————————

 細長い棍棒のような鉄塊を持つ男は、笑いながら森を駆け抜けていた。

 側には山が見え、月光に照らされた美しい光景の中殺戮が行われている。

「死ね死ね死ね死ね、死ねぇ!ひはっ、はっふぁっは!潰れろ!」
その姿は猟奇殺人鬼も裸足で逃げ出す程だ。13日の金曜日も訪れるのを拒むくらいには、惨状だった。

 逃げ惑う連合国軍。1人の怪物により、戦場は混沌と化す。

「待て怪物、それ以上好きにはさせない。」
それを止めたのは、煌めく剣を掲げた凛とした騎士。ヒビア・リーブ。

「このオレを止めにきたのかあ?お前程度が?身の程を弁えろよぉ、なあなあなあなあなあ!」
鼓膜が潰れそうな威圧のこもった声量に耐えながら、剣をまっすぐ向ける。

「メスが騒ぐな。」
「どいつもこいつも、性別でものを測るのですか。もう、うんざりですよ。」
構えをとった。その剣は光を発し。

「流転昇華!」
「遅い遅い遅い遅い。」
「輪華。」
男は後ろに回り込み、しかしその剣は回転するように後ろの彼を狙い撃つ。

 が、棍棒が行手を阻む。

「……訂正しておきましょう。私は女は捨てた。身は女でも、心の芯は男と同じ。」
棍棒を肩まで上げた男は目を細めた。

「心に意志を宿せない者に私の剣を砕くことはできない!」
「陳腐だ陳腐だ陳腐だ。面白くもない台詞で時間稼ぎか?つまらないつまらないつまらない!」
棍棒と剣の撃ち合いが始まる。

 剣がブレたと思うと男の頭上を捉え、男は首を捻って回避。その反動を使って棍棒はヒビアの腹部を突き刺し、唾液が漏れる。

「捕まえたぞ……」
しかし、その鉄の塊を鷲掴みにするとそう豪語し、一気に引き寄せると頭突きを喰らわせた。互いの距離は空き、ヒビアはバネのように飛ぶ。

 意志も、強さも、次期総騎士長の座も狙えるほどの実力。彼女の鉄の意志は全てを弾く。

「落瀧っ。」
突如加速する。重力の概念を超えた動きの先に、男はいる。

「安直安直安直!そんな攻撃は通らない。」
切先は真っ直ぐ男を狙う。しかし、その威力をまるで意に介さないように棍棒を掲げると。

 軌道は捻じ曲げられ、そのまま頭を殴られた。

「ぐあぁっ!」
地面を何度も転がる。それでも剣は離さず、絶対に立つという意思のもと膝を殴る。

「命ある限り、立ち続けるのが騎士の本望です。」
痛みを捨てたような口ぶりで、血を滲ませながらまた剣を向ける。

 その頑固を超えた強烈な自我を相手に、少し評価を改める男は、『六将桜』第六将、エインズだった。

———————————————————————

 もっと、もっと戦闘描写を……
 1番描いてて楽しいんですよ、戦闘描写。そのくせ裏で書いてるのはばちばちラブコメなんですけどね。

 ちなみに次回は短めです。その代わり今話が長いわけです。
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