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17章 魔法少女と四国大戦
530話 時を越ゆる少女
しおりを挟む夕陽技千種は今日も思う。私はなんのために生きているのだろうと。
過去はそうは思っていなかった。
彼女は、子供の頃から動物が大好きだった。きっかけは、両親の動物好き。家には、ペットが3匹。犬が2匹に、猫が1匹。ペット部屋があるほどだ。
真っ白な犬のさとうと、茶色のちゃこ。猫のあさひ。父が初めての旅行の際に乗った、今はなき思い出の名前という。幼い彼女には分からなかった。
千種はよく動物の図鑑や絵本をねだった。テレビや動画、可愛い映像を見て癒された。彼女自身も小動物のようだった。
将来は、こんな可愛い動物を支える存在になりたいと、心から願った。
初めはペット屋さん。次に動物園の飼育員。その次は保護活動、トレーナー。
最終的には、獣医を務めながら保護活動に勤しむことにした。
6年間専門の大学で勉強し、厳しい試験を突破し免許を得た。幸い、狙っていた大きな動物病院の試験に受かり、様々な知識を学べる場に身を置けた。
悲しいことに身長は伸びなかったが、目的は達成された。
なけなしの貯金を叩き、独自の保護施設を作った。日本中から行き場を失った動物達が集まり、軽い動物園のようになる。
その様子が子供達にウケ、その動物達は優しい引き取り手に巡り会えた。その姿を見ることが人生の楽しみだった。
ある時ふと思い立ち、溜まっていた有給休暇を使い海外へ出た。日本では見られぬ未知の動物と触れ合うためだ。これは4月の終わりの頃。
この歳になれば色々と気づく。自分は特別だということにも。
触れるだけで動物と心が通じ合える。だから、確信を持って保護団体を立ち上げた。
遠い異国の地でも、きっとそれは通用する。そう信じて千種は高度1万メートルの空へと飛んだ。
発展途上国。まだまだ技術力は乏しく、水をきれいにすることもままならない。それどころか、近年は逆。川に何を流してはいけないかなど知らない政府は、汚水を、排水を、川に流した。
水質は悪くなり、死者は増える。工場を止めるわけにもいかない。処理水は溜まる一方。排水する以外手がない。
そんな中生活している動物を、一眼でも目に収めておきたかった。戒めとして。こうはさせないと誓うため。
しかし劣悪な環境に住む動物は甘くなかった。
それはボートの上でのこと。現地の住民が進めていたオール。浅瀬のため気が緩んでいたのか、それが、運悪くワニの真上だった。しかも子持ち。
気が動転しているワニは荒れ狂い、ボートを破壊した。ワニを宥めようと手を伸ばすが、心が通じたとて激怒する相手を宥められるはずもなく、汚泥に満ちた川に沈められた。
ここまで動物に愛を捧げているのに、なんでこんなことになるのか。小さい体は底へと沈み、もう生存は見込めない。もし川から出られても、寄生虫に侵された川に落ちて無事なはずがない。
そして3つ、後悔した。
ここに来たことを後悔した。そして、最後に日本の保護施設の動物達が頭に浮かび、後悔した。最初に後悔してしまったことを後悔した。
最後まで、動物のために抗えた。それだけでもう、よかった。
—————————
王城の一角。他者の立ち入りを厳しく制限されたここが、彼女の部屋だった。
夕陽技千種は、ラビア・イニシスとして新たな生を受けた。彼女は、転生者だ。
艶やかな紅銀のロングヘアをワンサイドアップにし、少し着飾ったような装い。ふんわりとした、年相応の可愛さを押し出しつつ清楚さを忘れさせない落ち着いた色彩をしたドレス。
「ラビア様、本日も。」
「ゼクシー。お見合いなどしたくないといつも、申しているでしょう。」
困ったように呟いた。平均より少し低い身長、透き通った声。ラビアはため息をつく。
どうしてこうなった。内心の自分が両手をプルプルさせて汗を流している。
軽く経緯をなぞるとこうだ。
死んだと思い目を覚ますと、全裸でおぎゃっていた。思考ははっきりするのに、身体機能が追いつかず声も出ない。舌足らずになる。
言葉も分からないし、家が異様に豪華なことしか分からない。ないない祭りだった。
成長するにつれなんとか言語も覚え、困難にぶち当たりながらも何度も九死に一生を得た。
「ゼクシー。」
まるで結婚準備の雑誌のような名前のメイドを呼ぶ。
「いい加減、国王陛下に直訴したいのだけど。」
「謁見の申し出でしょうか。」
「それでいいわ。どうにかしてほしいの。」
そうとだけ言って退出させる。しっかり、見合のカタログを置いていって。
この世界はおかしい。そもそも転生していること自体がおかしいのに、さらにおかしい。
体も何もかも違うはず。それなのに、前世の動物との意思疎通が可能だった。窓を開けて入ってきた鳥を撫でたら、思いが感覚神経に直接突き刺さっていくように感じた。
初めて鏡を見た時。顔面ステータスが高すぎると内心ツッコんだ。その瞬間ステータスが現れた。
目がイカれたのではと思ったが、何度擦っても寝ても起きてもステータスと言えば現れる。一定時間放置か、消去的な言葉で消える。ステータスがラビアにはあった。
そして、スキルもあった。
『ノストラダムスの大予言』という、いかにもな名前。こんなもの、内容など見ずとも分かる。
はずだった。
「オズワルド・レイワルド、21歳。アングランド国立学園高等部をを次席で卒業。現在は専門部3期生、政治経済を貴族から学んでいる……ですか。」
顔写真付きだ。当然白黒ではあるものの、判別はつく。そこそこのイケメン。ラビアをそれほど繋ぎ止めたいのか。
「斜め上すぎなんですよ、発想が。」
スキル欄。王国から重宝される諸悪の根源であるそれをタップし、発動した。
「『ノストラダムスの大予言』」
視界は暗転した。
「ダメですね、あの方は。どちらにせよ断るつもりでしたけど。」
幼い頃から貴族としての教育を受けてきたため、馴染んでしまった堅い言葉遣いでため息を吐く。
大予言と銘打っているが、未来にダイブしその出来事を知ることができるというものだ。こんなの分かるわけがない。
「そもそも戦争が始まるというのに、どうしてこう悠長にしていられるのでしょう。勝つ自信があると……?」
頭によぎった2つの顔。1つは忌々しい国王。そして、もう1人は。
命の恩人。
面識はないが、彼女のおかげで命がここにある。
国王に、彼女を取り込むように助言した。そのおかげで斬首刑を免れた。
「多くの動物達が死んでしまう。罪のない動物の住処は奪われ、死に追いやられて…………無益な戦争は止めないといけない。」
今日も今日とてカタログを放り捨て、ふて寝する。アレは将来商会を立ち上げ、金を私的に横領して潰される。
「なんで私はここにいるのでしょうね。」
惰性と後悔の搾り汁によって動かされるこの体を休めて、沈み込む声を捻り出したまま目を閉じた。
———————————————————————
転生者が赤ちゃんからやり直しとか、なんかこの作品では珍しいですね。
ちなみに転生させた神は露出狂の誰かさん。
空さんに関われば変革の兆しが現れます。
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