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17章 魔法少女と四国大戦
528話 成り替わりの果て
しおりを挟む世界は常に理不尽だ。
空気を読まなかっただけで死まで追いやられた青年、櫻川柊はつくづく思う。
現在進行形で理不尽に塗れたこの状況は、悪態をつく間もなく目まぐるしく変わっていく。
柊は両手を振るって荊棘をばら撒き、牽制するがはなから消される。
「ネインアーレ。君は皇帝の助力がないと、干渉程度しかできないはずだ。どうして……」
「……答える義理はない。」
無表情。無感動な顔。その機械じみた、それでも温もりを感じる肌に攻撃を躊躇ってしまう。
ネインアーレは元来、初の成功サンプルでありながら中途半端なままだった。
機械的でありながら、心が空っぽ。
そもそも機械に心はあってはいけない。だというのに、心があった未完成体。しかし、成功は成功。皇帝が舵を切りながら、道を定めていたはず。
「どうして帝国に、皇帝に、叛旗を翻す?君は皇帝のためだけにある被験体…」
「…………黙って。うるさい。」
アーレは、黙々と伝える。手に持たれた帝剣は未だ振るわれず、それは謎に包まれている。
「なんのつもりだ、ネインアーレ!」
「……あなたの知ることではない。」
駆け出した。狭い司令塔の内部では、訓練された人間ならば数瞬のうちに端から端へ駆け寄れる。ネインアーレの帝剣は、まるで嘘ではないというように薙がれていた。
「っ!」
最大硬化させた棘の塊を盾に、防ぐ代わりに飛ばされる。
まだ戦闘と同時並行は厳しいようだ。実力的には、もう申し分ないが。
柊は思う。これはやばいと。確実に殺しにきている。これは、やる気でやらなければ殺される。初手で決めておくべきだったと後悔する始末だ。
「せっかくの異世界だ。なにか詠唱付の魔法でもあるのかと思えば、最弱なんてふざけてる。」
床から荊棘の柱が生え、突き刺そうと天へ昇る。消滅した。
「使えるのはこんな地味なスキル。笑えるよな。」
壁を蹴って天井の出っ張りに手をかけ、勢いのまま足で天窓を破る。
「…………」
アーレは息を吸った。深く肺に酸素が巡るのを感じてから、帝剣を掲げる。走った。
「———………?———!っ!」
柊は勘づく。しかし遅かった。
柊一点を見つめたアーレの刃は、無遠慮にその頬を切り裂いた。背後から生まれた棘の雨霰は消し炭になり、なすすべもなく壁に追いやられた。
世界一嫌な壁ドンを喰らう。剣を顔の真横に突き刺され、腹を蹴られた。うんともすんとも声は出ない。
本当にもう死ぬ。空気がない。
学校で習うだろう。音は空気が振動して伝わっているのだと。伝える空気が存在していないのだから、声も出なければ息をも吸えない。
次の一撃を覚悟し、腹を抱え……
「っはぁっ!はあ、はあ……………はぁっ!は……」
息が戻った。
「…………ふぅ。抵抗、するな。」
少し乾いた声。唐突に吸引された酸素が肺で暴れ、咳き込む柊を側にアーレは再び剣の切先を向ける。
「何があった……?」
「不快。帝国の、何もかも。」
顔を顰めたアーレを目にした瞬間、柊は動いた。
「らあぁぁあっ!」
握った拳を振り上げる。
「っ!」
情報を消す気か。それが得意分野のはずであるし、そうするだろう。
そう思って、柊は転んだ。
「っ!」
不意を突かれたアーレは目を見開き、一歩足を後ろにずらす。そのバランスの崩れを突いて足を突き出し、ただ立ち上がった。
攻略法は考えれば簡単だ。アーレも人間だ。削除されない方向からの攻撃を加えればいい。
他にも、削除しきれない数の情報の塊を押し付けるか、削除できない高度な情報を与えればいい。
柊は勢いのままに腕を振るい、真逆の方向から荊棘の鎖を射出した。
「くぁっ…………!」
「かかった……!」
喜んでいる暇はない。悶えながらも、アーレはその拘束から逃れた。その隙に組み付き、床から棘をばら撒き、破裂させる。
自分の体に棘の破片が突き刺さるが関係ない。さらに爆発させ、棘片と爆発を巻き起こす。
手首を抑え、足首を引っ掛け、地面に押し付ける。野獣の構えで反撃を仕掛けた。してやったという笑顔を薄く貼り付け、問いかける。
「何がしたいんだ、お前。僕を殺してどうなる?お前は、皇帝の配下だろ。」
「………………………………」
荊棘の嵐が吹き荒れる。司令塔内はもうボロボロ。茨の破片がそこらじゅうに落ちている。しかし、徐々に消えていく。
「物量があれば、情報を消すのに時間がかかる。自明の理だ。」
「………………………解析、完了。神の恩恵、スキル『荊棘の嵐』を削除。」
「—————————!!!」
ダンッ!と柊は焦りと共に飛び退いた。
体から汗がダラダラと垂れていく。脂汗と冷や汗が混じり合った、悪寒のするような気持ち悪さを感じた。
これほどまで嫌悪感を抱いたことを人生で見つけることができなかった。例えるなら、自分の臓器をくり抜いたような、そんな抽象的な表現しか出てこない。
(スキルが………使えない……………?)
目の前に見えている存在が、信じられなかった。
「……わたしは…………じゃない。」
「……なんだって?」
「わたしは……皇帝の犬じゃ、ない。」
むくりと立ち上がった。一体自分は何と対峙しているのかわからなくなる。
「永遠に、さようなら。」
帝剣が真横に振り抜かれたのを最後に、意識を手放した。
最後は少し、怒りが見えた。感情が見えた。
そうか、彼女はソレを持ってしまったのか。
柊は死ぬ直前に思う。また空気を読まないせいで死んだのかと。
—————————
「ようやく終わった~……」
バタンと、床に手を広げた。さながら帰宅した小学生のようにゴロゴロとする。
空の前では少し堅くなってしまうが、本来こんなもんなのである。
「どうしようかな、ホリー。」
目の前に転がる、『六将桜』第三将ホリーがいた。
殺してはいない。意識という情報を奪い、生命活動のみが行われている植物人間状態だ。生物学的には生きているが、人間的には死んでいる。
魔法少女は積極的な人殺しはしな……しない……?時と場合によっては。
だから、それに倣う。
「これで第三将の立場はわたしのもの。」
司令塔内部は綺麗さっぱり元通り。自分の顔も、ホリーそのもの。
「口調も真似ないと。やることいっぱいで大変だけど…………」
頭に浮かぶは、自分を抱きしめてくれた少女の姿。彼女の背を押すと決めた今、救われるお姫様ではなく隣に立つヒロインになる。
「僕が内部から崩壊を起こす。茨の出し方ももう覚えた。戦争を始めるぞ。」
—————————
「……………分体からの返事がありませんね。」
呟いたのは、帝国府の一角にあるとある部屋で足を組む女性。『六将桜』第二将、バイオレットだった。
21の分体を放ったはずが、そのうちの1つですら連絡がない。死亡した場合でもこちらに連絡が行くはず。なにもないのに連絡されない。異様な状況。
「どうした?」
「ルーン……いえ、花宮くん。」
「桔梗でいい。」
「なら、桔梗くん。私の能力はご存知ですよね?」
藪から棒に聞く。しかし、なんの戸惑いもなしに「その程度」と頷く。
「風による幻影。それを無限に具現化させてしまう。恐ろしい能力だ。1人で軍隊が作れる。」
「魔力が足りませんよ、そんな大それたこと。」
苦笑で答え、天井を仰ぐ。
「一体、この世界はどこへ向かっているのでしょう。」
「皇帝陛下の望むまま、だ。」
「本当に、そうでしょうか。」
「……なにが言いたい?」
鋭く目を細める。他意はないことを伝え、ほっと息を吐く。
「私は不安なんです。風が、騒いでいる。」
「それがどうした?」
「革命の日が訪れると、何度も呟くのです。頭の中に響くのです。」
「革命……」
それが何を示すのか、今は知る由もない。
ただ分かることは、世界は無常ということだけ。
———————————————————————
なんか深そうで浅そうでアサリの化石がありそうな感じですね。あ、これあたたかく浅いって意味です。つまり浅いっちゃ浅いけどちょっと含みがある感じです。
自分で言っていて意味が分かりません。
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