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17章 魔法少女と四国大戦
526話 魔法少女は制作する
しおりを挟む転移したのは隣村。といっても、そこそこの距離はある。少しだけ北上したあたり。
その木陰のあたりに転移して、木に背を預けていた。
「菫が生きてるのはまあ、百歩譲って理解するとして……どう見る?これ。」
「転生者特有のスキルか何か以外なかろうて。我が直接目にして、生死の判別を見紛うことなどありはせん。」
「どうだかな。」
ルーアとの間に水を差すは、蓮。さっきから邪魔ばっか。
「さっき言った通り、蓮は囮ね。別に攻撃していいけど邪魔はやめて。面倒い。」
「黙っとけ。好きにやらせてもらう。」
「だって。ルーア、面倒だけど手伝ってくれる?」
「仕方ないの……我が直接手を下すとするかの。」
重いを腰を上げたような口ぶりで息を吐き、ニヤリとする。
ああは言ったけど、四神に全部任せきりにするのはアレだしね。私も働かないと。
「んじゃ、俺は行く。」
「ふぁいとー。」
適当に手を振った。目線はもちろん外れている。私はラノスを抜くと、右手の指にかけてくるくるする。
「これ、案外左腕ないのキツいね。」
「体の一部が欠損するというのは、大きなダメージに決まっておろう。それを、何事もないようにしている主がおかしい。」
「別に、慣れるし。」
「慣れてしまうのが主の恐ろしいところだのぅ。」
呆れた目が向けられる。しかし、慣れるものは慣れる。
でも、それだけなんだよねぇ。いつも、不便に感じることは多い。バランスは崩しやすいは、細かい作業しずらいは。
だるいだるいって家で何度騒いだか。雨音よりうるさいよ。
「だから、義手を作ろうかと。」
「侵入者!報告と伝令を……ぐはっ!」
私のにっこり笑顔に重ねて、ありがちな叫び声で血潮を上げる敵。叫ぶ蓮。
……ここじゃないね、多分。
TPOを見極められていなかった。
「空間操作。」
空間の壁を立てた。他者から見えないように。
「恐ろしいの……」
「のじゃろりは要らないから。そんな中途半端だと「の」が語尾と勘違いされるよ?」
「逆に聞くがの、「のじゃ」とか言っておる奴がいるとでも思っておるのか?」
「確かに……よく考えたらやばい奴だねそれ。」
真横で死合が行われているとは思えない会話だ。これが姿の見えないもの同士の所業。
「まあそれは置いておいて。義手を作る。簡易的だからこれから調整する羽目になるだろうけど、一応は決まってる。」
右手に握られたラノスを、横に向けながら言う。蓮の後ろに、真剣を握る男が。
「ばん。」
なんて言う弱そうな音は当然なく、パァァンッ!と乾いた音が響く。これは聞こえるようで、視線が集まる。
私、一応精度良くなってるよ。こんな風に。
視線の先には血溜まり。うわキモ。吐きそう。
慣れたとはいえ、まだ体がゾワゾワする感覚はあるのだ。
「誰か隠れているぞ!探せぇ!」
「落ち着いてください。罠かも知れません。」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
「落ち着いてください!」
100人弱の隊列は、見事にこちらにやってくる。残りは向こうに。流石に囲まれてるのは可哀想。
「ちょっと移動しようか。」
「我がしろということかの?」
「正解。」
はいはい、と言って翼を生やした。私の壁の意味は消え、ルーアは私の脇に手を伸ばして空を舞った。見えないからといって、向こうの認識とか感覚が無いだけで、刺されれば死ぬし痛い。
「あー、そっちそっち。」
「注文が多いのぅ……」
運ばれるままに、私は反対側の木々の隙間に降り立った。そんな遠くに逃げても、どうせまた来るんだから手間だ。
「ほら、やりやすいようにしたんだからちゃっちゃとやっちゃって。」
「話が違え。」
聖剣を薙ぎ、いくつもの鎧が砕かれ血が飛び散る。
やることできちゃったし仕方ない。ファイト。
しかし、当の蓮の口元は弧を描いてきた。
「じゃ、手も空いたところで義手作りと行きますか。」
「そんな呑気でいいのかの……?」
ルーアの心配を他所に、私はまず土台となる素材、地龍魔法の岩を生成する。
「そして、物質変換~。」
作られた岩はみるみるうちに硬化していく。イメージは、世界一硬いくらいの感じ。金属じゃないと加工できないから、その点も含めて。
そもそもなんだっけ、地球で1番硬いやつって。
『ウルツァイト窒化ホウ素』
いや何で知ってんの。怖い怖い。
これ以上深掘りすると、闇が見えてきそうなので遠慮しておく。流石にまだ死にたくない。
「はい完成。……後は、これ上手く着脱できるようにと、戦闘中取れないようにと。私の腕から魔導法で繋いで手指の感覚共有とかもしなきゃいけないし、関節とかの稼働部はしっかり作んないと……」
自分の体のことだ。ここは大真面目に、真剣に。1ミリ単位の操作で、加工を開始する。
本来なら型取りが必要って福祉の授業でやった記憶が彼方にある。けど、そこは魔法の力で何とかするよ。
「う~む……なんか違う。」
大雑把な形ができ、両肩で支えるタイプのやつを作ってみたけど、どうにも邪魔。
「もっと、磁石でくっつくぐらいだったら邪魔にならないんだけど……」
「空間で縫い止めればどうかの?その義手だけ、空間に干渉できる別空間の存在として選定し、座標同士を繋ぎ止めれば何をしようと壊れることはない。」
「それだ!天才!」
私は早速試してみることに。別空間にある義手を、私の腕に合わせて接合。この空間に干渉できるようにし、何度か振ってみる。魔導法が空間を跨いで入っているため、しっかり感覚はある。魔力を通せば動く。
もっと何か搭載したいな……せっかく魔法とかいうチートがあるんだし。
ということで、魔法少女服の手袋をつけて魔力を通して魔法が使えるようにしたよ!
そして更には。
「プローター発射機能もつけちゃいましたー。」
「楽しんでおるの。」
「いやあんまり。テンション無理矢理上げてるだけ。」
個人的にいい記憶でもない。自分の腕を楽しみながら作る人間とか、普通に嫌。
『という割には楽しそう』
ステッキで眠っていた指開き手袋を見つめ、グッパーしている私に言う。
「あとは、人間の手っぽい感じに細工して……」
自分の右腕と見比べて、なかなかの質感になってきたなと思えたところで完成だ。
「お、いい感じ。」
「それなら十分だと我も思うぞ。」
ルーアから称賛の言葉を貰い、感謝しつつボロボロローブを新品ローブに着替える。鮮やかな魔法少女服はなんと見事に封じられた。
ちょっと魔力効率下がるけど、マシ。あの姿を晒すよりマシ。
左腕を曲げたり伸ばしたり。ラノスを掴んだり離したりして、感覚を確かめる。
「お、お……?し、新鮮だなぁ……なんか遠隔操作してる気分……?」
私とそ同じく細い腕。削り過ぎた?
「よし。じゃあ、いっちょ菫を殺しますか。」
「もう抵抗無くなっておるの。」
「いやあるよ。」
「ある人間のセリフではないの。確実に。」
言葉を聞き終える前に木陰から姿を出し、「我の手伝いは不要か?」とルーアからの提案を「いいよ」と否定で返す。
「文字通り腕慣らししてみよう。そろそろ、私のターンだよ。」
左手にステッキ、右手にラノス。ステッキを握った手から、まずプローターを射出。
「一旦退却を!」
「っと、流れ弾に気をつけないと。」
向こうでまだ蓮が数人と戦っていた。さっきの村より、多少手応えがあるみたい。
「さっさとしろ。でなきゃ、雑魚狩り終わっちまうぞ。」
「わざわざ報告ありがと。でも、菫にやられて上手くやれないだけじゃん。」
「うるせえ殺すぞ。」
ほんとにわざわざ私の背後にバックステップでやってきていた。
「誰と会話しているのでしょう。そんな暇があるのですか?」
疾風が私と蓮の間を貫く。
うわっぶなっ!……死ぬかと思った。
「……神速。」
蓮の方向を見つめる菫に、神の如くスピードで駆け寄る。
あんなに向こう見て、蓮のこと大好きじゃん。
なんて頭で遊べる余裕を見せつつ、左足で方向転換。体を宙に舞わせ、左腕を伸ばす。
「トール。」
「………………なっ!」
驚愕。顔が驚きに満ち、突然現れた魔力に防御が手一杯。私は流れのまま右腕をピンと張り、人差し指を引いた。パァァンッ!
「く……ぁ……」
短い悲鳴。
「次の村、早く行こう。」
左手からプローターを射出。ドカンと耳を劈く音。私は両手で耳を塞ぐ。
両手揃ってるって神だ。素晴らしい。天才だ。
「…………先に雑魚だろ。」
「あーはいはい。手伝えばいいでしょ。」
ラノスに変わり、パクトの銃口は雑兵に向いていた。
———————————————————————
左腕、復活☆
当分外さないでしょうね。
普通の人間は義手の作り方とか知らないわけですから、使えるだけの義手です。魔法が使えるんです。不可思議なことが可能でも不思議はありません。ありません!
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