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16章 魔法少女と四神集結
521話 局所的戦争 1
しおりを挟む目が覚めるのと同時に、悪寒を感じた。憎悪をたっぷりと含んだ、嫌な雰囲気を。
ネイファ・リンカの目覚めは悪かった。
この気持ちは、唯一神であり創滅を司る創滅神、アヌズレリアル様に対する反抗心を持った者が近くにいる時に感じる。
「あの半端な変革者……?いえ、これは違いますね。彼女は今四神を捜索に出たはず。」
それでも、強い。強い憎悪が肌を撫でる。
いつもなら、我が神を侮辱する愚族がと怒るだけだが、今日は違う。まるで向こうの怒りを知ったように感じる。別種の憎悪を感じる。
そして、一段と強くなる。
違う。増えた。
「これは、皇帝ですね。ついに動きましたか。殺戮ショーでも始める気ですかね?」
あはは、と分かり切ったことで笑う。
「わたしのやることはただひとつ。創滅神様に反旗を翻す輩を、殺す。」
大事なキャスケットに触れ深く息を吸った。
「さ!起きてください!お仕事に参りますよ!あれ?もしや死んでしまいましたかな?」
「……死んでねぇよ。殺すぞ。」
「では、殺されたくないのでわたしはここらで。」
「待て。着いていく。」
不機嫌100%で体を起こすは、転生者レン。ネイファの腕を掴み、睨んだ。
清い体に醜い手を、と思う気持ちは抑え、さっさと用意をしろとオブラートを何重も重ねて伝える。
「頭痛え……いい枕ねえのかよ。」
「文句言うんじゃないですよ。オブラートの在庫足りてますかぁ?」
「そもそも俺にはオブラートの入荷がないもんでな。黙って待っとけ。」
立ち上がると、備え付けの洗面台へ行き顔を洗い始めた。
「そのままその厳つい顔も流してきては?」
「うるせえ殺すぞ。」
本日2度目の殺害予告。これにはさすがのネイファも恐怖する。
「コワイデスネー。」
「棒読みなら反応すんな。」
タオルで顔を拭いて、湿った顔をネイファに向ける。
水も滴るいい男というが、水を滴らせたところでいい男になるわけはない。一般よりいい方といっても、好みからは離れている。
いい男に水が滴ってもいい男にしかならない。水にはなんの効力もない。
「で、どこにいくんだ?」
「始まったんですよ、戦争が。怖いなら逃げ出しても構わないんですが———」
「誰が逃げるか。」
「そうですか。しかしまぁ、宣戦もなしに戦争開始とは。それはもう侵略でしかないというのに。愚かですねぇ、皇帝も。」
準備の遅い(ネイファ基準)レンを置いていくように出口のドアノブに手をかける。
「だから、どこに行くんだよ。質問に答えろ。」
「国境です。あの皇帝なら、国境付近の村にでも侵攻して、乗っ取ってから開戦なんて言いやがる可能性もありますしねぇ。」
「性格悪いな。」
「本当、クソ野郎ですよ。」
「お前もな。」
「ありがとうございます。でも、貴方から褒められても1ミリたりとも嬉しくないです。」
「そもそも褒めてねえよ。」
軽口を叩き合う気でもないが、少しだけ遊んで部屋を出た。もう2度とここに戻ってくることはない。
帝国は私利私欲のため創滅神様の威光を利用し、宗教で人をまとめた。国教にし、皇帝の動きやすように仕組まれた。
反吐が出る。
何故、創滅神様のお力をそのような帝国風情に与えなくてはならないのか。慈悲など与えず罰を与えればいい。
憂さ晴らしをしに行こう。帝国兵を、1人残らず駆逐して。
「目処は付いてんのか?」
「そんなものあるとお思いで?」
「なんで来たんだよ。」
ネイファの影に包まれながら、国境へ向けて歩き出す。
正式軍ではない。迂回して進むだろう。襲うなら村の方向のため、そちらを少し外れて歩けばなんの問題もない。
「国境付近の村、だったか?数はどれくらいある。」
「付近、と言えるのは21ですねぇ。多すぎてわたしたちじゃ不可能です。」
「あっけらかんと言うな。」
「だから、足止め兼情報収集を行うんですよっと。」
指鉄砲をレンの背中に突きつけた。
「背後から狙われた時の対処法、分かります?」
「力でねじ伏せる。」
「相手は自分の格上とします。」
「人間はチンパンジーじゃねえんだ。頭使えばどうにでもなる。」
「その頭があればいいんですがねぇ。」
ネイファはレンの頭部を見る。残念そうな目で。
「殺すぞ。」
「わたしのオブラート貸しましょうか?」
「いらねえよ。」
指鉄砲の方の腕をレンは掴み、振り払った。
「背後から狙われなければいいんですよ、極論。」
「なんの話だよ。」
「さっきの続きですけど。あれれぇ?貴方の頭、ダチョウだったりします?」
「黙れ。」
お怒りの様子なので、揶揄うのはこの辺で。
「背後から狙われたくないなら、最初から背後を気にしていればいいんです。相手はそうしている。襲われる可能性もある中、21も軍を分散して敵陣に突っ込む馬鹿は帝国府には存在しない。この意味、お分かりで?」
「数を絞っていると?」
「馬鹿ですねえ。馬鹿馬鹿です。」
脳ついてるんですかぁ?と疑わしい瞳を向けた。
確かに、普通の国ならばそうする。村人が多くいる中、外出している可能性もある中、1人も取り逃がさない自信があるのならそうするのも一手だ。
しかし、これは戦争。不確定要素の多すぎるそんな悪手に手を染めるなんてあるはずがない。
「相手は帝国。転生者の宝庫ですよ~。」
腕を天に向かって伸ばし、ぐるぐる回る。どれだけ大声を出そうが、影にかき消されるから問題ない。
「転生者を用意していると考えるのは、当然の帰結。」
「そうか。物理的に無理なら、スキルを使えば……」
「そういうことなんですねぇ。ようやく分かりました?」
もう国境だというのに、理解が遅い。ちなみに、レンはそのことを知らない。
影を通して、村の木杭が見える程度には近い。
「止まって。」
ネイファはレンを制し、その場でしゃがんだ。
影は熱源探知などではない。しっかりと視認して、伝える。これが良点だ。
「もう、時間がないかもしれない。」
いつにも増して、いつもとは正反対な声音で呟いた。
紫がかった黒髪をした少女を先頭に、村への進軍を遂行する帝国軍がいた。
—————————
帝国軍は、21すべての村に侵攻を進めていた。
「ここでしょうか、ルーンの言っていたエキナ村というのは。」
光が当たると薄紫に見える、美しい黒髪をハーフアップにした少女は、動きやすいようアレンジされた着物をその身に着け、そう漏らす。
彼女は『六将桜』第二将、バイオレット。
バイオレットというには和装すぎるが、細かいことは気にしてはいけない。
「この数で十分でしょうか。ああ見えて、抜けていますからね。」
各所200程の兵を率いて侵攻するバイオレットは、眉に皺を寄せて言う。
「愚考ながら、村一つに多すぎるほどと私は思います。」
「ええ、確かにそうではあるのですが。」
そう簡単にいくとは思えず、と小音の声で吐き出す。
「風が狂っています。何事もないと願う事に意味はありませんが、神とやらに願いましょうか。討ち漏らしは許しませんよ。」
「何事も、バイオレット様がおられれば困難などないに等しいのです。我々にお導きを。」
「ええ。勝戦への花道を手向けましょう。」
風に舞い、花が散る。
21人のバイオレットは、それぞれの村への進軍を続ける。
ただの村人が、彼女に勝てようはずがない。
———————————————————————
そろそろ、大戦が始まります。
ちなみにですがバイオレットさん、作中に出たことはありませんが一度だけ違う名前が出たことはあります。
まあ日本語に直すだけですけど。
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