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15章 魔法少女と帝国活動記
495話 魔法少女は出発準備
しおりを挟む何故か仕事を強制的に休まされ、謎の森に取り残された昨日を思い出しながら起床し、息を吐く。
「やあ。」
「おはよう……………?」
謎の寒気がした。目を擦り、掠れた視界で周りを見通す。と、なんかいた。
……なんでここに人神がいるのかな。
どこかのネイファのせいで疲労困憊の私に追い打ちをかけるように、人神が佇んでいた。
「そろそろ出発の時だ。」
「準備のじの字もできてないんだけど、それでも?」
「なら、猶予をやろう。」
「それよりどいて。」
ベットの横にいる人神が邪魔で立ち上がれない。そんな状態な私は、切実な思いでそう呟く。
こんな大切な話をするというのにこんな寝起きにとかアホじゃないかと思ったけど、神にアホは流石に失礼かなと、頭のネジが外れていると形容しておいた。
『十分な煽りなの笑える』
『私にしては豪胆じゃないか』
ベットに腰掛け、対話の姿勢をとる。目の前には人神がいる。
「アーレの話だと、もう98%。あとは消化試合とのことだ。其方がいくらはしゃごうと『やばいやついる』と思われるだけで『魔法少女ソラ』としては認識されない。」
「はしゃぐ前提やめようか。私は常識人だと思ってる。」
「はははっ、非常識の塊が常識とか、笑わせないでほしいよ。」
「笑わせるつもり一切なかったんだけど?どこ?どこにツボがあった?」
そんな問いを無視し、笑い涙を指で拭って口を開く。神って自由奔放すぎて困る。
「最後に挨拶でもすればいい。仕事の件はアーレが記憶と記録を消去してくれるそうだ。皇帝に関しては難しいとのことだが。」
「難しいのかーい。」
「余の予想が正しければ、どれだけ頑張ったとしても其方が四神を集わせる前に戦争が起こる。」
聞き逃せない事実がまた判明した。ガクッと、右腕のバランスを崩して布団に転げる。
え?今なんて?戦争?
コレって私達と……
「帝国の戦いじゃないの?」
「心読まないで気持ち悪いから。」
「余、神ぞ?扱い雑くないか?」
どこか悲しみに満ちた顔をしてる。このまま闇堕ちなんてされたら溜まったもんじゃないから、「そうっすねー神っすもんねー」と適当に流しておく。パリンッ、というガラスが割れる音を聞いた。
これはきっとどこかの野球少年が窓を割った音だろう。決して心が割れた音ではない。
責任を別方向へ投げつけた。
そうか、帝国に攻められてるのは王国も一緒か。なら戦争になるのか。
「帝国と神国軍率いる神帝軍、王国と合衆国率いる王衆軍。4カ国を引き連れた大戦が始まる。」
「大戦……?」
「そう大戦。」
「この世界どうなっての、ほんと。」
ため息もつかず、もう乾いた笑みしか出てこない。
「結局どう転ぼうが大戦は避けられない。だから、勝負にはもう負けている。なら、試合に勝つしかない。」
「というと?」
「絶対に帝国を陥落させる。それ以外道はない。」
「まじ……」
「だから用意もなしに早く飛び出してもいい。けど、心の用意もある。だから昼まで待つ。」
人神は立ち上がる。昨日みたいに紅茶を堪能することなく、窓を開けて窓枠に腰をかける。
「あまり王国に肩入れはしない方がいい。どこかで必ず歪みを生む。それに、あそこだって無力なわけではないよ。」
「それってどういう……」
「じゃあ、チャオ。」
「ちょ待っ!」
手を伸ばした先には何もない。窓から顔を覗かせても、また同じく。私はそのまま力を抜いてベットに倒れ込む。
「どこで覚えたその言葉……」
と、面倒ごとばかりおいていく神に対して、嘆きとも取れる言葉を落とした。
とりあえず、アーレんとこいこ。美少女の癒し成分を摂取しに行こう。
「アーレ、いる?」
もちろん部屋にはアーレの姿などなく、挨拶一つかわせずに一旦のお別れを迎えることになる。
そうだよね。人神の唐突な話なんてアーレは知らないんだし、仕事あるんだから……私みたいにサボりじゃないし。
何か、人間の尊厳が傷つけられた気がした。
ここ最近、また冒険者業ができてない。つまり私は半ニート。百合乃とツララどうしてるかな……
人神から与えられた時間を、なにもできずに自室で潰す。心の準備はもうとっくにできてるけど、気になることはたくさんある。
でも、これを終わらせれば何の気なしに解消できる。じっちゃんが言ってた。
『私にしてはプラス思考じゃん』
『Cじゃないけど、茶番を終わらせよう。もうこんな遊びに付き合う必要はない』
『さっさと帝国つぶそー!』
『『『『おおおおおおおお!』』』』
私の心の中は帝国破壊の大合唱が始まっている。目が覚めるという点では悪くないけど、正直クソうるさい。
『私も参加すれば気にならないぞ?』
『たまには傍観者じゃなくて私の輪に混ざったら?ぼっちになるよ』
ぼっちじゃないやい。
「ちょっと、気分転換しよう。」
そう独りごつ。人神が開きっぱなしにした窓から、私は落下した。もちろんそのまま落下死なんてバカな結果にはならない。
帝国観光なんてする気分じゃないし、かと言って外に出る時間もない。日向ぼっこでもしとく?何が楽しいか分からないけども。
「…………はぁ。人神んとこ行くか………」
何となく、人神のしたいことが分かった気がして帝国の出口へ向かう。今の私なら、門から出られるはずだ。
多分誰も挨拶する人も準備もないのくらい人神も気づいてる。その上で昼まで、ってことは覚悟を見せろってこと。
『これで外れてたらめっちゃ恥ずかしいやつじゃん』
やめて?なるべく考えないように言ったんだから!こういうセリフってラノベの主人公どんな気持ちで言ってるの?
名言やら真面目な言葉ってどんな顔して言えばいいの?客観的に見たら超恥ずいよ?
『あーもう分かった分かった。セリフは私達が添削してあげるから』
『いちいちこっちにセリフ持ってこなきゃとか面倒すぎないかな?』
会話相手のいない私は寂しく自分と会話して、帝国府から帝国の門へ進む。こう見ると、少しだけ文明の発達した王都って感じだ。
『あまり王国に肩入れはしない方がいい。どこかで必ず歪みを生む。それに、あそこだって無力なわけではないよ』
人神の言葉を思い出す。私は王国側だし、王国にはネルもみんなもいる。協力するのは当然だと思うんだけど。
それでも人神は釘を刺した。つまり、何か起きる可能性がある。少しだけ、気をつけよう。
「お、もう来たんだ。」
国家転覆を企むテロリストのはずの私すら、門番は数多いる帝国民の1人と同じように接した。そして、目の前にはやはり人神が。
「私がほんとに昼まで来なかったらどうする気だったの?」
「その時は仕方なく迎えにいってあげようとね。」
「じゃあわざわざ先に来なくてもよかったじゃん。帝国観光してきていい?」
「そんなことより、本題だ。」
人の休息をそんなことと言ってのけた人神に、1発拳をキメたい。
「世界を変革する覚悟は決まった、ということでいね。」
「いや全く?」
「そうか…………え?」
決めゼリフを吐こうと思ったようで、しかし気取った態度が一気に崩れた。
「覚悟もないのにここに?」
「私にある覚悟は大切な人を守る覚悟。そんな世界がどうたらとか言われても、この世界に関係ない私が首突っ込む問題じゃないでしょ、そこ。」
「いや、まあ確かにそうではあるが……其方は異世界人。こういう展開は好きではないのか?」
不思議なものを見る目をされる。それは私はがしたい。
「好きだよ?でも自分でやるのは違うじゃん。命かかってるわけだし、そんな簡単に覚悟ととか言われてもさ。でも、」
「でも?」
「助けたい人がいるから、その人達を助ける覚悟ならある。だからきた。」
人神は見たこともないため息ついて、呆れ返る。
「もう、好きにしな。」
新たな一歩を、私は歩み出す。
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今章もう終了ということで、執筆終わったので寝ます。眠いです。安眠快眠をください。
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