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15章 魔法少女と帝国活動記
493話 それぞれの思惑
しおりを挟む舞台上の駒は続々と揃い始めてきている。
「ルーンよ。準備は進んでいるか?」
「ああ、もちろん。」
男が答えた。声は帝座の正面の扉方面から聞こえてきているが、あいにく皇帝の視界にはいない。
「その力をもって朕を裏切ろうとは思わぬのか?」
「思わんさ。馬鹿にするな。」
「もしや勝てるやもしれんぞ。」
「反旗を翻されたくなければ、そんな淡い期待をもたせないことだ。馬鹿は食い付くぞ。」
男は静かに姿を現す。これも彼の異能のうち。
「『創華理紡』か。実に面白いな。」
「華を創って理を紡ぐ。理を創って華を紡ぐ。陛下のご期待に添える異能か?」
「ああ。素晴らしい。朕の求めていた、理を持つ人間が愛おしくないはずがなかろう。」
皇帝が笑った。笑みがひどく不気味に見える。ルーンと呼ばれた男は身を引いた。
「日が明けるぞルーンよ。火蓋が切られるのだ。開戦の幕が切って落とされるのだ。見ていろ、朕の世界統一の偉業を。」
「お供しよう。」
戦争の灯火は、今燃え上がる。
—————————
他人の部屋となると落ち着かない。
レンは、ネイファ・リンカを引き連れて道すがら宿を探す。
「なんでしょう、わたしを襲う気ですか?純潔は創滅神様に捧げるので嫌ですよ?どうしてもというなら口で……」
「俺はもう女に興味はない。ぶった斬るぞ。」
「なんと、それは恐ろしいですね!」
「思ってもねえこと言うんじゃねえ。」
行く人行く人をビビらせる眼光を、まるでウサギの目でも相手にするように笑みを貼り付ける。
結局、どいつもこいつも私的理由で帝国を潰そうと画策している。
その中でもネイファは、群を抜いて危険思考だと考えている。
こいつは危ない。逃げろ。そう警鐘を鳴らす。心が拒んでいる。しかし、今更逃げるなんて選択肢はない。自分の願いはこいつの敬愛する創滅神。この儚く脆い協力関係が終われば、敵だ。
四神だってそうだ。あのよく分からない女2人は不明だが、確実にこの少女は将来立ちはだかる強敵だ。
レンは、今回の一件で自身の未熟さを知った。
いくらステータスを高めようと、いくら借り物の力を集めようと、それは閉ざされた箱の中で足掻いているに過ぎない。
《神殺し》、これが世界を変革する力だというなら死ぬ気で掴み取ってやる次第だ。
「アーレはいいですね、良き理解者がいてくれたようで。」
「どうした唐突に。」
「いやはや、わたしも立場が違うのならあそこにいたかもしれません。が、わたしはわたしなのですよ。」
キャスケットを深く被る。
「あちら、帝国府の息がかかっていない特殊な宿屋です。泊まるならあそこが良いかと。」
「ああ、そうさせてもらう。」
レンは素直に従った。今は協力関係なのだ。束の間の休息くらい、いいだろう。
「神、逆らうことあたはざる。世界に創滅神の浄化あれ。」
「何か言ったか?」
「少し神に祈りを。」
「聖職者かよ。」
「聖職者ですよ。軍人兼ですが。」
「神に祈りながら戦争に向かうのかよ。欲張りだな、どっちかにしておけ。」
相棒越しにレンはネイファの頭を少しだけ撫でてやり、「気持ち悪いですね」と罵倒を受けながらも止めようとしない。
理解者がいないのは、寂しいことだ。
レンが金と女に溺れたのは、寂しさの空白を埋めるためだった。
—————————
世界が揺れ動く、最期の始まりが訪れようとしていた。
人神は、アーレの部屋で相変わらず紅茶を嗜んでいた。
「他人の部屋にお邪魔しているなら、茶菓子の1つでも用意するのが礼儀では。」
「そうか。余は貢がれる側だった故に忘れていた。」
紅茶を口に含みながら器用に言葉を吐く。だからなんか用意しろと言ってい……
目の前に机とティーセットが現れた。
「どんな能力ですか。」
「さあね。神には秘密がつきものなんだ。」
アーレは頭にある情報を頼りに紅茶を淹れ、軽く角砂糖を混ぜてからそれを口を運ぶ。
自分の好みの味は情報で把握している。
「……どこの茶葉でしょう。」
「余の花園産だ。どこかの魔法少女によって崩壊したけどさ。」
再び紅茶を啜る。子供のようなのに気取った態度が鼻につくが、それも実力に裏打ちされたもの。文句は言えまい。
魔法少女のため、一刻も早く帝国を支配しなければならない……が、今はそんな気分にはなれなかった。
「其方の目的を聞いておこう。」
「わたし。」
「そう、其方さ。」
人神は瞑目した。紅茶を嗜む間に考えろということか。意図を汲み、アーレは言葉をこねくり回した。
「わたしはソラさんを守れたらそれで結構です。本当にそれだけです。帝国にはもちろん恨みはあるはずです。しかし、今はソラさんが重要で……」
「ソラさんソラさんと。面倒臭い。やっぱり聞くんじゃなかった。」
自分から聞いておいて?と、怒りと呆れを半々に、それっぽい顔で人神を見た。
彼は、恐ろしく冷たい目をしていた。
「其方はアーレだ。まだネインアーレのつもりでいるのか?それはネインアーレを救った彼女にも、ネインアーレにも失礼だと思わないか、アーレ。」
「なにを……」
「救われた其方がまだ無のネインアーレに足を置くなら、余が奈落の底へ突き落とそう。」
この部屋に入って、初めてティーカップをソーサーに戻した。まだ、数口残っているのに。
「予言しよう。最後の最後、魔法少女は皇帝を殺害することに躊躇するだろう。そして、殺される。それは余にとっても不都合だ。だから、四神の召集など決意する。」
「それがなんでしょう。」
「気持ち悪いな、その喋り方。其方はアーレだ。アーレでいろ。」
「ですがこれはソラさんが……!」
「そろそろ黙れ。誰の前だと思っている?」
時が止まったと錯覚するように、体が動かない。細胞が、その動きを停止しているように思えた。
一帯に覇気が充満する。皇帝ですら負けるかもしれない重圧が。
「先程から聞いていれば、ソラさんソラさんソラさんと。其方はなんだ?魔法少女の操り人形か?金魚のフンか?そんな役立たずな阿呆を彼女は命を賭して救い出したというのか?」
反論したくても、思うように口が動かない。
「其方はネインアーレでなくアーレ。思考も何もかも自由じゃないか。魔法少女第一の思考のせいで、其方の思いは伝わらない。魔法少女は其方のために帝国を潰そうとしているにも関わらず、其方がはっきりとしないのでは決意は揺らいでしまう。」
人神は淡々と言葉を並べる。積み重なった言葉の上に、最後の一言を添えた。
「其方が背中を押せ。そのためには、其方はアーレである必要がある。」
「…………そう、ですね。」
苦笑して、声色を変えた。いや、戻した。
自分の代わりに背負ってくれた魔法少女の背中を押す。それがアーレの目的になった。
—————————
「帝国に潜伏中の者からの通達です。」
「言ってみよ。」
「はっ。曰く、戦争の火蓋が切られようとしているとか。いかがいたしますか。」
グランド・レイト王国。謁見の間ではなく、魔法少女と対話する際使用する部屋にて国王とメイドが密談する。
「オリーヴ。あの少女の動向はどうなっている。」
「申し訳ございません。パズールにて追っていましたが、突如として消息を絶ったとのことで。」
「なんだと。」
「帝国の連中は我々が異界の人間を保有していることを存じていないかと。」
「数は劣るのだろう。慢心は弱点だ。」
国王は厳しい表情を浮かべている。
「確実に帝国の戦力は大きい。同盟の件はどうなっている?」
「ラミア合衆国との一件は、パズール領主婦人フェルネール・ブリスレイによって締結されました。」
「王国と合衆国、帝国と神国との戦争か。4カ国の戦争となれば……」
「大戦の始まりですか。……犠牲者も、増えてしまいますね。今のうちに生活必需品の製造を増やし大戦時武器類の製造に尽力できるよう手配いたします。」
「申し訳ないな。」
王国は対帝国の準備を着実に進めていた。
———————————————————————
ぶっちゃけフィリオよりフェルネールさんの方がすごくないですか?他国相手にしてる分肝が据わってるんだと思いますけど、フィリオよりも凄いことしてる気が……
いや、フィリオは領地経営頑張ってますし!フィリオも十分すごいですよ!
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