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15章 魔法少女と帝国活動記
492話 魔法少女と歪な協力
しおりを挟む「じゃあ、条件。」
「はてなんのことやら。」
「数秒前の記憶がないとか病院言ったらどう?」
アーレのベットに腰掛けるネイファに、私は先輩から教わった病院を勧める。
「それ義肢職人。」
「あいにく私は腕以外健康体なんで。」
「それはそれはすごいですね。」
棒読みだ。まあ特に反応なんか求めちゃないけど。
「で、条件。まず互いの詮索をしないこと。能力は最低限秘匿していこう。」
「わたしの能力を探るチャンスでは?棒に振るんですね。」
「私の方の能力が露呈するのは嫌だしね。」
私は2本目の指を立てる。
「そして帝国滅亡を確認するまで絶対に裏切らない。この協力関係が続く限り、裏切りは絶対になし。」
「わたしが力尽くで殺そうとしたらどうするんでしょうね。ザルですよザル。」
「そん時はそん時。強いて言えることがあるなら、私も死ぬ気で殺すよ。」
ネイファは少し黙りこくり、仕方ないと言った感じで頷いた。
いくらネイファでも、私を敵に回すのにはリスクが高すぎるからね。神の後ろ盾があるかもしれないのに、わざわざ見え透いた地雷を踏み抜くほど馬鹿じゃないでしょ。
「ではではこちらからもひとつ。」
「ひとつ?」
「と思ったんですけど特に思いつかないんで保留にしましょう。特段、あなたに何か脅威は感じてませんし。」
「だってよ。よかったな。」
男が小馬鹿にした感じで笑ってきた。ラノスの銃口を向けると、小さく手を上げて肩を竦めた。
「お前、今更だが日本人でいいんだよな。」
「そうだけど……そっちも?」
「ああ。俺は嫉妬に狂った女に刺されて死んだ。」
「クズ男の末路草。」
「だったらお前はなんなんだ?死因行ってみろよ。」
「トラックに轢かれた。」
「轢殺かよ(草)」
嘲笑された。なんだこいつ、と中々にウザいなとキレてしまった。どこぞの誠のように刺して今度はあの世に送ってやりたい。
「知ってる?」
人神が間に入って満面の笑みを湛えた。
「争いは同レベルの者同士しか起こらないんだよ。」
「「……………」」
こんな奴と一緒になりたくない、という思いから私は黙った。多分相手も一緒だから、なんとか言葉を捻り出して「アーレ!」と全投した。
『我ながら最低だな』
いっちょんわからんね。
『それ好きだね私』
語感いいし。
「不本意ながら協力関係が成立しましたが、報告は変わらず続けましょう。」
「同じ帝国の破滅を望んでいるというのに、不本意なんて。酷いですねえ。」
「ネイファはどうでもいいから早く報告していいよ。」
「なんと。」
驚きの声をあげてるようであげてない。無感情なのかなんなのか、分からない。
あと、これ言おうか迷ってたんだけど……
1人部屋に5人は狭いよ!?狭いよ!?
「帝国の侵食度は95%。貧困層や国境沿いまでは手が回りませんでしたが、もうほぼ完璧と言ってもいい状況でしょう。」
「ほほう。すごいですなあ。さすが情報を司るだけはありますね。」
「ちょっとうるさいから黙ってて。」
邪魔ばかりするこの二人を一旦別室、というか私の部屋に詰め込んだ。
「ふぅ……これで静かになった。」
額の汗を拭って椅子に腰掛けた。
「この歪な協力が吉と出ればいいけどね。其方の働き次第だよ。」
「ソラさんならできます。舐めてもらっては困ります!」
「あの子が四神を集められなければ帝国は崩せない。このままでは死ぬ。」
「おーい、当人の前でそんな重大こと言うなー。」
人神がとんでもない事実を明かしたことに異議を唱えた。
「どっちみち伝えなければならないことだったし、余だってそれは気に食わない。とりあえず言えることと言えば。」
「言えば?」
「ネイファ・リンカに創滅神と敵対するような話はするな。計画の全貌を打ち明けるな。其方は、ネイファを通じて創滅神に監視されている。」
唐突なまじめ腐った顔。その視線がアーレと私の瞳を射抜く。
創滅神に監視?
いやまあ、ネイファが神ラブなのは今に始まったことじゃないけど、なにそのありがちなやつ。瞳を通して映像が伝わる的な。感覚共有的な。
「もちろん常に監視されているわけじゃない。が、ネイファに創滅神が命令一つ下せば簡単に裏切る。創滅神を害すると知れば裏切る。」
「だから注意しろってこと?」
「簡単に言えばそうなる。」
「努力しましょう。しかし、ソラさんはそろそろ四神の元へ行かなければならないのでは。」
「確かに。」
少し肩の荷が降りた。私に何か隠し事させると8割がたバレるからやめておいたほうがいい。
「じゃ、明日か明後日にでも出るから魔神の居場所詳しく教えて。」
「そのくらい余が送ろう。後の2人はどうしようもない時以外は其方でどうにかするんだ。」
「はいはい。」
「はいは1回。」
「神に叱られる内容じゃない気がするんだけど。」
そろそろかな、と重い腰をあげる。
「どこへ?」
「仕事。抜け出してきてるから。」
「さては給料泥棒だな其方。」
「うるさい。もうやめるんだしいいでしょ。」
部屋を出て、急足で帝国府に戻っていく。
「重役出勤ですか。いいご身分ですね。」
「ゴミとご身分をかけたんですか?」
「あまりふざけていると叩き潰しますよ。」
「ひっ!」
そそくさと仕事に戻る。能力値どうこうより恐怖が勝る。怖いもんは怖い。
『そんなんでどうやって神と話すの』
『確かに。私って普通にメンタル豆腐だよね』
「締まりがないというか、こう……緩い?」
『なんだろう。いつも私もノっている身だが、あまりにも私が可哀想に見えてきた』
ボコボコに罵倒される私を見て、Cが小さく呟きを漏らした。
いいんだよもう……私達の方が優秀なんだから……
『卑屈になるんじゃない!私は私だろう!』
はは、ははは……
外側の窓を拭き拭きしながらの思考である。
「セレスト、水出して。」
「雑用に使わないでくださいよ。」
先輩とは違う普通の先輩がバケツを突き出す。水魔法(笑)使えるのがバレてこうさせられてる。
核創造で酸素原子と水素原子をくっつけて水分子に変換させる実験を見られたんだよ。悲しいことに。
「異能も使えて魔法も使える。天才メイド。」
不思議系(クール)の先輩がバケツを受け取り廊下に降りる。窓開けてできるあの小さな足場に乗って水取りにくるとかここのメイドはおかしい。
「ワタシの後輩が何やら悩み事ですか?」
「………ないと言えば嘘になりますけど。……って先輩!?」
「やっほー。」
片手で手を振ってくる。もう片手といえば、わずかな出っ張りをがっちり掴んで宙ぶらりん。
ほんとにおかしいよこのメイド!戦闘屋にでも雇われたらいいよほんと!
化け物じみた先輩に心で本音をぶつける。
「今日って警備の仕事じゃなかったんですか。」
「つまんないから抜け出してきました。」
「バレますよ。」
「バレませんよそう簡単に。ワタシを誰だと思ってるんです?」
「人外。」
先輩はいつものようにふざけて「ひどい」なんて口にしながら、笑って会話を続けようとする。
仕事戻ろうよ先輩。
「後輩も大変ですね。こんな酷使されて。」
「窓の外とか拭きずらいのは分かりきったことですしね。仕方ないんじゃないですか。」
「割り切れるのはいいことです。世渡りの基本ですよ。」
そんな先輩は状況とは正反対の笑みを浮かべて「上ったはいいけど、どうしよう」と呟いた。
笑って言うことじゃないと思うよ、先輩。
仕方なく、私は先輩を抱えて降りる。
「ちゃんと仕事してください。」
「えー、めんどくさいじゃないですか。それよりご飯食べたいです。」
「働かざる者食うべからずってそのままこう言う意味なんでしょうね。」
「後輩のくせに先輩に説教なんておかしいですよ。」
「ならされないような先輩でいてくださいよ。」
ぷんすかと怒り出す先輩に、この茶番いつまで続くんだろうと思いながら接する。
ほんと、この茶番いつ終わるんだか。
———————————————————————
そろそろ今章も終わらせていきたいと思います。
あまり深く姿を現さない、未知数な帝国と王国軍並びに空チーム。戦力は圧倒的に帝国の方が上ですけど……
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