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15章 魔法少女と帝国活動記

490話 魔法少女は完全メイド

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 初日のメイド業を終了させ、月日が経つ。アーレも人神もなにやら忙しそうにしている。多忙極まりないと言った様子だ。

 私も私で、先輩に扱かれている。

 これは、あれから1ヶ月後のこと。
 訓練場にて。週一の模擬戦の時間だ。

「先輩(笑)なんですから手加減くらいしてくれますよね?いや、煽ってるわけじゃないですけど。」
「そんな露骨に煽んなくてもわたしゃあんたに勝てねえよ。」
細めで睨んでくる。それでも練習に付き合うぜ程度に駆け抜けてくる。

 私はこの1ヶ月、みっちり先輩から教わった。アーレ効果で私と先輩の自由時間が増え、それを不思議に思わない同僚。怖い。
 まぁそれは置いといて。私が教わったの今のところ3段階。

 まず、1段階目。

「……相変わらず当たんねえな。」
「喋らずに攻撃してくださいよ。」
鉤爪が容赦なく迫ってくる。が、どれも少し首を傾げたり腕を傾ける程度で避けれてしまう。

 これが『縮光』。基本の基本らしい。毒を以て毒を制す、陰を扱うなら光からということらしい。
 均等に広がる光は認識点としての役目がどうたらこうたら。その光を収縮させて強く印象付けさせ、攻撃を集中させる。意識的に攻撃させるという技。

 そして2段階目。

「……ぁっ……っ!痛みにゃ慣れてんだよ!」
相手からは私の足が唐突に目の前に現れて殴られたように感じるだろう。それでもふらつきながら、鉤爪を振るって……そこには誰もいない。

 『陰縮地』。光を完全に消して陰を際立たせる。そこにいないように思わせ、視覚外からの唐突な攻撃が可能。脳がそこにいると処理しない。
 でも、これは完全に陰を消すだけだからまだ簡単。
 気配が分かれば目を瞑ってでも対処できる。身で持って体験してる。

 最後に、3段階目。

「少しは長く試合を持たせたいんだよ、こっちは。」
さっきの鉤爪は距離を取るための行動だったらしい。荒い息を整えるように体を上下させる。

「来いよ、全力で!」
ちなみに言うとこれは第一試合で特に盛り上がりどころもない試合だ。熱入ってるのは当人だけ。

 言われなくてもそうするって。もともと完成度を確かめるための模擬戦だし。

 視界を外に向ける。先輩が腕を組んで笑ってる。

 私はとうとう木刀を取り出し、歩いた。

 これは、本当に至難の業だった。やることが多すぎてもう死ぬかと思った。

 相手は歩いてくる私ではなく、さっきまで私のいた虚空を睨んでいる。睨ませているんだ。

 これは光と陰と相手の盲点、感覚全てを騙す荒唐無稽な荒技。

「ゲームセット。グッドゲーム。」
「な、……ぁ…………」
目の前に来てようやく気付いたようだった。木刀を首に突きつけ、試合を完璧に終わらせた。

 残留魔力に光を集め、私を陰で覆う。私自身が盲点になることで動いたところでバレやしない。どっちみち気配は2つあるから混乱させられるし、しかもいつでも出現できるから視覚的にも意外性のある技。『陰像』とかなんとか。虚像の亜種?

「さすがは後輩、やると思っていました。」
「先輩のおかげですけどね。」
相変わらず敬語の先輩に、舞台から降りて話しかける。相変わらずのふわふわっぷりだ。

 あと何戦もしなきゃなんないの面倒い。普通に先輩と戦って潔く負けて終わりたい。

 グッタリしながら迎えた2階戦目。もちろん勝利を収めた。その次も、危なげなく。

「4戦目が先輩とか、運ないですね。」
「決勝で相対したかったんですけどねぇ。とことん、陰というものは光から見放されてますね。」
「潔く負けを認めたいところですけど、まぁやれるだけやりますよ。」
体をほぐして舞台に上がる。そういえば、私模擬戦で先輩以外負けことない気がする。向こう側の決勝者ってどんくらい強いんだろう。

 さてさて……今日はどのくらい粘れるかな。
 そろそろ魔法合戦もしたくなってきた頃だけど……もうちょいメイドでいておこう。

 メイドさんの合図で構える。両者最初から武器持ち。何故かもう愛用になってる木刀と、アサシンナイフ。

 次のシーンには互いの武器が交差して、拮抗していた。互いに陰縮地を発動し、陰を踏破した。

「師弟対決ってなんかいいですよね。」
「弟子の後輩には負けられませんね。」
そう言って、同時に跳躍して後退した。


「結局負けちゃったか。」
あーあ、と落胆気味な声を出す。

 でも1ヶ月前よりは確実に強くなってる。魔法戦闘の面は逆に弱くなってそうだけど。

「たった1ヶ月でそれなら十二分の評価ですよ。同じ土俵ならあと1ヶ月もあればほぼ互角でしょう。」
「同じ土俵……ってことは、まだ先があるのか……道のりって長いなぁ。」
「そう簡単にマスターできていたら世の中全員陰だらけですよ。」
ケラケラ笑い出した。なにが面白いのかさっぱりだ。

 というかこの人、なんでそうもあっさり優勝してくるのかわけわかんない。

「その一挙手一投足がこの技では大切にされます。後輩も、常に光と陰を意識した行動をとってみては?」
「先輩みたいにホワホワしろってことですか?」
「そうとは言ってません。ワタシのは、光と陰の合間にいるだけですから。染まりやすい、という面で優秀ですよ?」
「そんな風に性格とか決めませんから普通。」
これからのメイド業に向けての準備をしながらツッコミを担当する。私にボケる隙を与えてくれない。

 素でボケてるしね先輩は。

「先輩ってなんでそんな強くなろうと思ったんですか。」
「唐突になんですか?」
「いやちょっと、気になって。」
訝しげに眉を顰めた先輩は、すぐにふわっとした姿に戻って思案する素振りを見せる。

「別に、強くなろうと思って強くなったわけじゃない。強くならなきゃいけないから勝手に強くなった感じなんですよ、ほんとーは。」
両腕を背中に回して間延びしたように言う。

「元軍人、って言ったら驚きます?」
「驚きませんよそんなアホみたいに強くて。今どき魔物でも握力もっと低いですって。」
「そんなワタシを人外みたいに……」
「先輩って、もはやこの世界外の生命体とかじゃないんですか?」
「人外より酷い扱いをされる先輩ってどう思います?」
アニメみたいなハの字の眉にし、しょんぼり効果音がつきそうな顔で聞かれる。質問に答えると、先輩だし仕方ない。

「ならなんでまだ帝国に執着してるんですか。」
「別に執着はしてないんですよ?陰が生きるには、光が必要なだけです。」
「もし私の仲間になってくださいって言ったらどうしますか?」
「後輩からの嬉しい誘いの言葉ですけど、遠慮させてもらいますね。」
「なんでですか」と聞こうとして、やめた。先輩の心のうちは、あまり深掘りしないほうがいい気がした。

 『六将桜』の元第六将、ね……
 確かにそんな機関に入れたくなるほど強いけど、先輩にはあんま似合ってない気がする。

 先輩はもっとこう、田舎の若村長の嫁やってそうなおおらかさというか包容力がある。

「先輩も、いっそ陰も光考えずに生きてみたらどうですか?」
「無理ですよ。運命というか宿命というか、ワタシはどうやっても陰ですから。」
「そう、ですか。じゃあそろそろ仕事の時間なんで、またいつか。」
「ええ。」
いつもなら最後まで手を振る先輩を、今日はなんだか怖くて振り向けずに廊下を進んだ。本来ならこのまま仕事に向かわなきゃいけないけど、私は帝国府の専用寮に向かった。

 とうとう最終仕上げらしい。少し名残惜しさはあるけど、まだメイドを辞める段階ではない。悲しむのは時期尚早だ。

 アーレの部屋のドアノブに手をかけ、ぐっと力を込めた。

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 最近、遅筆が良くなったり悪くなったりの繰り返しで疲れましたね。
 こんなど素人の作品でも作者も素人だから時間もそれなりにかかるんですよ!寝たい!
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