魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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15章 魔法少女と帝国活動記

488話 魔法少女は初日を終える

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「先輩って案外上戸だったんですね……」
帰路を辿り、上機嫌な先輩を煽てる。

 結局酒場で絡まれることはなかったけど……今、何時だろう。

 死んだ目で帝国府に歩を進めていた。

「別に、酔ってませんよ。」
「知ってますよ顔の赤ひとつないじゃないですか。消化器官化け物なんですか?」
ぐったり顔でそう言った。私なんか、空気に溶けたアルコールで酔いそうになった。

「なんでなにも呑んでない後輩の方が酒臭いか不思議ですよまったく。」
「そんなん私が聞きたいですよ……」
「運んであげましょうか?部屋まで。」
「いや、流石にそこまで面倒見てもらうわけには。」
酒場で奢ってもらったことを思い出し、足を数度叩いて喝を入れる。

 私はタフな魔法少女のはずだ。うん、今この格好の時は魔法少女!正真正銘の!

「それにしても後輩の私服、なんか……味がありますね。」
「下に着てる服脱げないんでこれ着るしかないだけです。」
「と言うことはお風呂には……」
「その時は脱ぎますよ!?脱がない馬鹿いるんですか!?」
「いや、入ってないのかと思いました。」
「不潔すぎる!」
ツッコミ合戦が始まった。なんで私はこんな仕事外でツッコミをしなきゃいけないんだろう。しかも先輩に。

 早く帰って寝たい……

 そんな気持ちをグッと押しこらえなんとか帝国府についた。足はフラフラになりつつ、明日の仕事に絶望感を感じて貧血を起こしそうになった。
 てんてこ舞いなんてものじゃない、あれば地獄の釜の中だ。

「じゃあワタシ、こっちなので。」
「いろいろ、ありがとうございました。」
帝国府直轄のホテルのような社宅。そこで別れた私達は、軽い挨拶だけ済ますとそれぞれの部屋に戻っていった。

 これが初日か……密度が濃すぎてもう1ヶ月経った気分。

「ソラさん!お疲れ様でしたっ!」
「うおっ……」
首元に抱きついてきたのはアーレだった。細くて華奢な体に見合わぬ力強さに掴まれて離れない。

「ちょ、疲れたから……休ませて……」
「少しだけ報告をしましょう。報告会です。わたしも今日1日歩きっぱなしで疲れていますからお互い様です。」
「それを言われるとなあ……」
頬をかいて、仕方なく了承する。そんなことくらい、なんか言ってると寝首をかかれかねない。

 ここは慎重にいこう。慎重すぎるくらいでいい。元の作戦のスペアのスペアのスペアぐらいの作戦も考えておいた方が……そんな創作能力ない!

 改めて、自分の無能さに気がついた。私ってただの脳筋チート野郎じゃん。

 隣にあるアーレの部屋にお邪魔し、椅子に座る。

「制圧状況をお知らせします。」
「いきなりだね。」
「帝国全体の2%。これでもかなり死ぬ気でやりましたが、中枢にまで根を届かせるには時間を要するでしょうし、皇帝には不可能と考えてください。」
「うん、そこまで高望みしないよ。アーレはアーレで仕事あるでしょ?」
「……はい。あの皇帝のせいですね。殺しまんぐ。」
速攻で口を塞いだ。むぐぐと無表情で口を動かしているのに狂気を感じ、「やめてネ?」と言ったら「はい」と返される。

 怖っっっっっっっっわ!なにこの子!ここ帝国府だよ?なにこの子!

「場所分かってる?」
「はい。情報は消去するようになっていますので。この部屋に出たら、全ては犬の鳴き声同然です。」
「それはそれでどうかと思うよ?帝国府ペットオッケーなの?」
「禁止ですね。」
「ならダメじゃねえかよ!」
おっと危ない。さっきからツッコミすぎて性格「ツッコミ」になりそうだった。

 どこかのメガネとは一緒にされたくないしね。

 遠い江戸の中心で「オイぃぃぃ!」という声が聞こえてきた気がした。ちょっと時代が違うからやっぱり気のせい。

「ソラさんはどうでした?初めてのメイド業。」
「まーそりゃもう大変だったよ。朝はまだなんとかなった(寝坊?なにそれおいしいの?)けど、戦闘訓練に一斉掃除……私のところは料理とか洗濯とかないだけマシかな。」
「戦闘訓練?」
「うん。なんか午後の初めにあった。」
アーレも細部まで知ってるわけじゃないらしく、申し訳なさそうに謝られた。

「あー、それとフィフィアっていう先輩に会ったかな。」
「フィフィア?………………彼女、どうでした?」
「どうって、私が何をするかはわからないけど気に入ったから訓練に付き合うって。」
「ソラさん。今から、メイド業でなくその訓練に腰を据えてください。少しだけ、緩めておきますから。」
唐突に顔つきの変わったアーレが集中した顔で何かをする。情報操作か。

 えっと……多分先輩に反応したんだよね。やっぱ。

「ねぇ、詳しいこと教えてくれない?」
「もちろん!」
「近い!近い!」
頼られたことが心底嬉しいように、喜怒哀楽……喜哀楽を表現する。今まで感情を押し殺されていた反動かな、と思う。

「まず、ここから話しておきましょう。」
切り替えて、両者いつもの表情に戻る。

「帝国府の帝国軍人、その他の協力者や使い人は一枚岩ではありません。暴力と武力で支配されているわけですから、どこかしらに歪みがあります。」
「歪み?」
「わたしのような、と言えば分かりますか?」
「……アーレの性格押し留めてその喋り方にさせてるけど、反旗を翻したりしない?」
「しません!」
素を出して語気を強めた。疑ったのが馬鹿らしいくらいベタベタ触られた。

「戻します。それは地位問わず、どこか狂った人間は必ず何か腹に一物抱えていて、人によっては叛逆を、という人ももちろんいます。」
「へえ……」
「帝国府最高機関には、『六将桜』というものがあるのはご存知ですか?」
「いや知らないけど。」
とりあえず6人グループでありそうなことだけは理解できた。

「六将桜元第六将フィフィア・リスタ。それが彼女の本当の経歴です。」
「……ちょっと、ナニイッテルカワカンナイ。」
脳の処理能力がそんな少量の情報でオーバーヒートした。

「……なんでそんな人がメイドなんか?」
「『帝国は光だ。だから陰のワタシはここにいるべきじゃないんです』と言っていたそうです。」
「帝国が光……」
更に疑問は深まるばかり。体が勝手上を向いて思考を始める。

 帝国は光?完全に悪役方面だけど。帝国の方が陰な気がするんだけど。

『本当に私は分かっていないな。ため息しか出ない』
唐突に私が顔を出し、可哀想な人をみる目をしてきた。説明くらいしろよと思う。

『自分で言っていただろう?私はスポットライトを当てている、と』

 それがどうしたの。

『ふははっ!本格的に私はバカなんじゃないかと感じているぞ私は!』
おかしそうに笑うだけでなにも教えてくれない。

 ちょっとうるさいから帰ってて。

『仕方ない、教えてやろうか』

 いや結構です。遠慮します。おかえりください。

 そういうと、時間が経っても私が首を突っ込んでこなくなる。
 魔法の言葉で楽しい仲間がポポポポーン。それはAとCのCMか。

 同じ私なんだ。Cが分かって本体が分からないなんてことはない。はず。

 脳を稼働させていると、1つの結論が見えてくる。

 演劇で例えてみよう。主人公と悪役がいるが、スポットライトは両者に当たる。悪役が傍若無人に振る舞えば、カメラは追って光が注がれる。Cと先輩の言おうとしてたことはこういうことだ。

「もしかしたら、こちら側についてくれる可能性もあります。」
「いや、多分それはない気がする……」
「あの人は陰を好むはずです。帝国と王国の狭間にある陰であるここに、来てもおかしくないはずでは……」
「なんて言うんだろう、でもあの人、そういう感じじゃない気がする。」
証拠もクソもない感情的な話。アーレに幻滅されても仕方ないと思いながら、思いの丈を語った。

「ソラさんが言うのでしたら、正しいのでしょう。」
「そういう話じゃないよ?……まぁ、教えてもらえる分は教わるよ。私も強くなりたいし。」
重い腰を上げて扉に向かう。もうそろそろ自分を騙すのにも限界なくらい睡魔が来てる。最後に「おやすみ」と残して部屋を出る。ようやく初日の終わりだ。

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 帝国でメイドしていたらもうそろそろ章終盤になって焦っているcoverさんですよろしくお願いします。本当はもっと色々したかったのですが、割愛させて頂います。
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