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15章 魔法少女と帝国活動記
485話 魔法少女は後輩になる
しおりを挟む過去の、異世界に来てからの私の戦い方を思い出してみる。
私の周りで起きた事件は、どれも私が中心で起きているようで主役は私以外にある。私は直接の関係者であり、そして無関係者。
そして、誰かの前で、光の前で本気で戦闘したことはない。
カフェでは、テレスさんの物語。
竹林では、チャールさんの物語。
ティランでは、ルリィの物語。
人神との会合は1人での出来事だし、地龍も1人。奴隷商ではツララの成長と、これまた1人。過去でも、もちろん1人。精霊の森でも学園でも魔力活性化の時も農業の街でも今、ここでも。
全てが他人の物語に重要な展開であり、私は陰で戦っていた。視点を変えれば別だけど、大きく見れば私は陰だ。
私の物語は、他者の物語を進めるための潤滑油。光を際立たせるための陰。
ほら綺麗でしょと、余計なものを排除して彼らの物語にスポットライトを当てる。
決して、主人公なんかじゃない。
—————————
「先輩。先輩って一体なんですか?」
「先輩は、新入りを導く先人のことですよ。」
ポンと頭を撫でる。なんのつもりだと目を細める。
「初めて先輩と呼んでくれましたね。」
「ずっと先輩って呼んでるんですけど。」
「本当の意味でってことです。」
さっきの覇気は何処へやら。まぁ、こっちの方が接しやすくて助かる。
「ならワタシも後輩と呼んであげましょう。先輩は、後輩を育てるものです。」
「なんなんです、それ。」
苦笑混じりに呟いた。でも、私は確かにこの人に魅せられた。
泥水を啜ってでも学んでやるって、自分で思ったんだからやってやんないと。
私は光の横で陰をやってればいい。それで光を際立たせる。もとから、そっちのが向いてるんだ。
失敗した理由を思い出してみる。
それは全部、自分が主人公になろうとした時に限って起こる。私は陰になる時にしか、生を掴めない。
死にそうになった時、決まって私は主人公になろうとしていた。世界を蝕む神を止めようとして……私は、龍神の本当の野望に気づいて、みっともなく生き延びた。本当なら死ぬはずなのは、私だったのに。
世界をループをさせる帝国側の敵にも、主人公なら立ち向かわなければならない。でもそれをやめて、救ったことで生き残った。
結局誰かの下にしか居場所はない。
「そう、それでいい。後輩が何をしたいかなんて先輩は分からないけど、後輩からはワタシと通じるものを感じるんです。」
「だから戦い方を?」
「陰が生きるには少し、厳しい世界ですから。」
ふわっと笑った。普段はこんなふわふわだるだるしてるのに。
……というか、次私先輩と当たることない?これから勝ち進んだ人達で3試合するから……
「3試合目、よろしくね。」
「お手柔らかに……」
死を覚悟して、脱力した。
第1、2試合が終わり、とうとう私達の番になった。クールそうな人の多いメイドではあるけど、歓声はしっかり飛ぶ。みんなストレス溜まってるんだと思う。
「後輩を傷物にはしたくないけど、ちょっと本気で行こうかな。」
「殺さない程度にお願いします……」
ここじゃ魔法は使いにくいから、と注釈をつけたとしても魔法使ったとして勝てる見込みがない。
あの人普通に魔法弾き返してきそうだし。ハッタリでも、可能性が高いならやめておいた方が……いやそもそも魔法使っちゃダメなんだけどね!?
身バレ防止の悪面がここにきて露呈した。私の存在は一応、帝国に知られてるみたいだし。
「後輩、構えて。」
「分かってますよ。」
木刀と素手。いやこれなんの戦いだと言われてもまぁそうだねとしか返せない。
「先輩から来てくださいよ。」
「余裕ですねー。」
「いやそういうんじゃなくて、普通に先輩の動きを見たいんです。」
「でも、陰は自分からは動けない。光が動かないといけないんですよ。」
「そういう屁理屈いりませんから。」
ちぇ、と眉を歪めると、まあいいよ、と軽く言った。そのまま唐突に走り出す。
ちょ聞いてないっ!そんないきなりってあり?
『うちはどんな卑怯な手を使っても、勝てればそれでいいんですよ』
惨敗や言葉を思い出す。強者だろうが弱者だろうがそれは適応する。
郷に入っては郷に従え、なんてずいぶん無責任な言葉だと思った。横暴もいいところだ。
でも、そのくらい乗り越えないとこの先輩には……!
「ぁぁあっ!」
「光みたいに叫ぶんですね。」
「物語の主人公にでも憧れてるのかもですね。」
苦し紛れに笑った。
試合中はほぼ全ての試合は無言で行われていた。ちょっと歪で、ちょっと違う試合にしよう。
木刀の腹で先輩の拳を受け止めながら、そう思う。
先輩は直ちに腕を引き、足を動かした。見えない。なら、感覚にでも縋ればいい。直感の下、私は正面に飛び出して雑な受け身を取った。
「あれれ、避けられちってますね。」
指の第二関節までを折り曲げて突き出す先輩を横目に、怖えと浅い感想を持ちながら立ち上がる。
魔法使わないし魔力は有り余ってる……なら。
神速と気配察知を同時に使う。私にコントロールを任せ、死なないことを運命に頼む。
先輩は変わらぬ笑みで闇に沈むように踏み込み、気づいたらワープしたように足が真横にある。気配は後ろ。思い切りしゃがんだ。
「ぐっ……」
蹴られた。多分立っていたら後頭部を殴られていたと思う。
「勘がいい後輩は嫌いじゃないです。さぁ、来てください。」
その言葉に呼応するように神速で立ち上がり、木刀を斜めに振りかぶる。
世の中ハッタリ使えなきゃ生きてけないんだよ。今思い知っただけだけど。
学べただけ収穫だ。公平公正が許されるのは遊びの舞台だけ。
私に大層なプライドがないのが功を奏してる。やったね!
飛び上がって腕を上げて、これを振るわなければただの無防備な姿勢。無論、先輩はその隙を逃さずに突きの構えになり、私は木刀を手放した。
「……?」
先輩が、困惑した。
感情の起伏が先輩の弱点、かな?まぁ言うほどではないけど。
飛ぶのではなく、空を駆けている私が次先輩の視界に入るのは先輩が床に背をつく頃。
ここはちょっとズルさせてもらおう。
空中から飛び降り馬乗りになる。私の重力は通常の何倍にも膨れ上がっている。
「本当に、後輩は向いてますよ。」
好戦的に笑った。
「この状況でそんなこと言うんですか?」
「確かに、この状況じゃ一方的ですね。」
次の瞬間、体が揺れた。
「後輩にいい思いをさせてあげるのも先輩ですから。」
床が抉れていた。これの勢いが私に伝わってきて、重心がズレた。先輩は楽しそうにアサシンナイフを抜いている。
木刀っ!武器なしでただでさえ強い先輩(武器あり)に勝てるわけない!
床に転がる木刀に手を伸ばし、振り返る瞬間に悟った。
アサシンナイフが目の前に、目の下にあった。このままの軌道じゃ首が掻っ切られる。それを避けても、重心がズレて転ぶ。そのうちに切り返しでもなんでもくるし、完璧に避けたとしてもまだ空いている右腕は追随する。
「……負けました。」
両手を上げて降参宣言をする。それに対応して先輩のナイフも私の首元で止まる。
2回戦敗退ね。まぁ一勝もできないよりかはマシだし、うん。マシだから!マシだから!大事なことだから何度でも言うよ!?
『悔しいなら悔しいって言えよ』
『素直じゃないねぇ』
……いっちょんわからん。
先輩の手に引かれて立ち上がる。
「今の後輩に重心がブレやすい動きは向いてないです。言いましたよね、腕がないのはハンデなんてものじゃないって。」
「まぁ一生付き合っていくしかないんで。……次も勝ってくださいよちゃんと。」
「分かってますよ。」
そう言って、アサシンナイフを懐にしまった。
後の3戦、先輩は一度も武器を抜くことなく勝利を収めた。
———————————————————————
なんか闇落ち感出てますけど全然闇落ちしてませんよ。ただ成長してるだけです。変化とも言いますね。
空さんは今まで否定しながらも主人公っぽいことをやろうと前に出てた感じですけど、これからは他人の物語に深く関らず解決させる役、に徹するようです。
まぁ空さんがどう足掻こうがこの物語の主人公はどうやったって空さんなので私がしつこくスポットライトを照射し続けますけど。ほらほら、綺麗ですよ。
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