魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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15章 魔法少女と帝国活動記

483話 魔法少女は武闘派メイド

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 先輩の猛口を掻い潜り、なんとか食堂的な場所でご飯を貰い、席に着くことができた。あの先輩、なかなかに手強い。ってか力強い。

 握力マジでゴリラ並みだ。こんなの魔物とか言葉のまんま一捻りでしょ。

 心で苦い笑いを漏らした。冒険者が武器を使ってせっせこしているというのに、なんと超人的なことか。

「先輩、この後戦闘訓練ですけど……メイドにそんなもの必要なんですか?」
ぐつぐつ煮込まれたコクのあるシチューをスプーンで掬い、口に運ぶ。口にまろやかさがじんわり広がり、熱が舌を焼いた。つまり火傷だ。

「指揮官の話を聞いてなかったんですか?ほんと、凄いんだか凄くないんだか分からない後輩ですよ。」
カンカンと自身の食器を叩いて言った。私は火傷が痛くて水を飲む。

「メイドは軍人。忘れちゃいけませんよ?」
「そうですね。」
再びシチューに挑む。1度、2度、保険に3度。ふーふー息を吹きかけて一口。美味しい。

 というか、先輩全然先輩感ないんだよね。見た目、18くらいだし。「胸」は除いて。
 この世界の人間の巨乳率は異常だ。

 ドヤった感じ……なんか調子乗るとミスが目立つけどガチになるとやるタイプみたいな。

「聞いてる?」
「はい。」
「本当?」
ずいっと顔を寄せた。

「顔、近いですよ先輩。」
「おっとごめんです。」
少し離れて、足を伸ばしてくつろいだ。食器は空なのに、何故かほんのちょっと残った水をちまちま口にしている。

 何がしたいんだろう、この先輩。

 硬いパンを噛みちぎり、咀嚼して思った。先輩のこともそうだけど、この硬いパンはシチューに浸すためにわざと硬くしている事実に。

「考えられてるなぁ……」
メイドの唯一の楽しみを見つけた。うん、美味しい。真似してみよう。

「ねぇ新入りさん。」
「セレストです。」
「新入りが先輩って呼ぶからワタシも新入りです。」
私はジト目で先輩……のメイド服を見つめ、「で、なんですか?」と首を傾げる。

「後5分で休憩終わりですよ。」
「はい?」
驚きでシチューがエプロンについた。メイド服って……勝手が悪い!


 ふわふわな印象のある銀髪の先輩。私の目の前を歩く彼女、というか歩いてるのについていく私は多分これから悲惨な戦闘を体験することになる。

 こっそり再生創々で染み抜きしたエプロンを凝視しながら、歩く。ゆっくりと。じゃないとスカートを踏みそうになる。

「口、大丈夫ですか?」
「なんですか急に。」
「後輩の心配くらいしてもいいと思わない?」
「知りませんよそんなの。」
どうやら火傷のことを言ってるみたいで、先輩自身の口を開けて指を指す。

 なんやかんや言っても優しいところはあるんだね。だからと言ってどうというわけでもないけど。

「新入りは戦闘は得意じゃない系?」
「いえ、まあ。それなりには戦えますけどそれは魔物とか、必要があって戦ってたやつとかですけど。」
「それでその腕?」
「まあ、そうなります。」
前から流される質問をひとつひとつ受け取り、答えていく。その都度回答は、嘘に本当を混ぜた脚色された事実。

「帝国には腕利きの魔導具職人がごまんといますし、そこで治しては?」
「それもいいんですけど、私の生きていた証を残したくて。」
腕に触れた。というより、二の腕あたりから先からひらひらと舞ってるメイド服だ。

 まぁそれっぽいこと言っとけば誤魔化せるかな。なんか感情論通じそうな顔してるし。

『どんな顔だよ』

「片腕なしの訓練はハンデなんてものじゃないハンデを抱えることになりますけど。」
「そこは、私の浅く広い異能とやらで頑張りますよ。」
「そう。明日から、ここで毎日扱かれるけど頑張って。」
先輩が扉を開けた。そこには、変わらずメイド服を着たメイド達が、各々武器を持って準備している様子が広がっていたを

 あ、間違えました。

 私に扉の主導権があれば閉めてた。けどドアノブは先輩の手の中。閉めたくても閉められず、私は強制入室させられた。

「セレスト。初日から遅刻したというのにギリギリとは、相当仕事をなめているようですね。」
背筋が凍った。咄嗟に首を回すと、そこには案の定指揮官が。

「遅刻するということは相当な余裕があると認識してよろしいですね。」
不気味な笑みに気圧されて一歩下がる。指揮官はそのまま全員に「本日は対人戦を行います」と声を張った。

 対人?人と人。ここにいる人と戦うってこと?

 なんか脳がバグってる気もしないでもないけど、きっと気のせいだ。

「あなたも武器を選んでください。」
「え、あの。この服のままやるんですか?動きにくくないですか?」
「襲撃はいつ来るか不明です。いつ何があってもいいよう、メイド服での戦闘は義務です。」
「せめて短くするとk」
「何故スカートやエプロンが長いと思います?」
私の言葉を遮って言われた。人の話は最後まで聞きましょうと習わなかったのだろうか。

「知りませんけど……」
「武器を隠せるようにです。」
だから早くとってきてください、と何がだからなのかよく分からない命令をされる。

 権力の行使は良くないと思う。私には人権が……人権ってこの世界あるのかな。

 政治関係を知らなさすぎて怖くなってきた。

「トーナメント制で行きましょう。」
バン!私が武器を取りに背を向けたら、壁からそんな音がした。振り向けば、指揮官がぶっ叩いてた。

 何?ストレス過多ですか?

 とは口が裂けても言えない。

「半分に分かれ、この通りに試合を進行してください。よろしいですね。」
「「「「「了解です!」」」」」
声を揃え、綺麗に敬礼する。私は壁にかけられた様々な種類の武器のうち、剣を選んだ。普通の。

 だってさ、異世界に来てまだ1度も剣使ってないんだよ?異世界といえば剣と魔法。魔法はチートで使えるとして、剣はまだ触ったことない。自作の刀ならあるけど。

「新入りは……なんというかパッとしない武器を選びますね。」
「剣とか使う機会なくて。逆に先輩の武器はなんなんですか?」
「ワタシはこれだよ。」
私に突き出してきた。見てみると、アサシンナイフのような刃物があった。持ち手にいくつか穴があり、指でコンコンしてみると意外な硬度を感じた。

 確かにメイドが帯剣するとかみるからに怪しいか。

「先輩は何番目なんです?」
「5戦目だね。新入りは6戦目。もし、2人とも勝ち上がったらぶつかることになりますよ。」
ニヤニヤ目を細める。その銀髪掻っ捌いてやろうかと思った。

「まぁ見てるといいですよ。うちのスタイルを。」
訓練場の半分で、ひとつの試合が始まった。両者、武器を構える。一方は小刀、もう一方はメリケンサック的なやつだ。

 おー、なんか本格的。
 こういうプロの戦闘とか見る機会少ないし、観戦って形になると初めてかも。

 期待に心躍らせながら、戦況を見守る。

 審判役のメイドさんは、「構え」と言って合図を出す。

 まず、動いたのは小刀の子。軽い身のこなしで懐に潜り込み、下から斜めに掻っ捌く。それをギリギリ身を捩って回避し、回し蹴りで距離をとる。

 軽くジャブを牽制で打ち、メリケンサックの子は走り出した。小刀の子は身を屈め、飛び出すであろうパンチに備えた。

「っ!」
大きく後ろによろめいた。

 攻撃を喰らったのは小刀の子だった。彼女は蹴られた。最初のジャブも相まって、メリケンサックを使うという固定観念に囚われていたみたいだった。

「うちはどんな卑怯な手を使っても、勝てればそれでいいんですよ。」
メリケンサックの子は倒れる前にその子のスカートを強く踏み、体がぐわんと起き上がったところでエプロンに隠された警棒らしき棒を叩きつけた。そのままKO。

「これがうちのやり方。帝国府の裏側ってやつです。」

———————————————————————

 空さんまったく先輩に対して尊敬の念はありません。先輩<<越えられない壁<<シチューって感じの優先度です。
 空にとって先輩は杏仁豆腐の上に乗っかる赤いアレやプッチンプリンの蓋の端につく糸状のやつと同じかそれ以下の価値です。
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