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15章 魔法少女と帝国活動記

484話 魔法少女は死にたくない

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 その後も第2、3試合と模擬戦は進行していく。私は手に持つ剣を眺め、こんな適当なやつじゃ死ぬなと明後日を見る。

「今からでも武器、変えてきますか?」
「そうさせてもらいます……」
適当に拾った剣を返すべく、第4試合を抜け出して武器の置かれた場所へ戻ってくる。

 改めて見ると種類多いな……前に行ったエンヴェルでももう少し量控えめ……というかあそこは暗器しかないか。

 壁にかけられた小型武器を眺めながら、思ったことを漏らす。

 側だけ銃の形をしたクロスボウ的なやつから、短剣、短刀、食事に使うようなナイフ葉っぱ型のナイフ、両手剣からマチェットまで。その数は多岐に渡る。

 木刀。実際には木剣の密度を高く強固に細くして、殺傷ではなく捕縛目的に使われるであろう、木刀が目に入る。

 日本人としてこれは使ってみたい。でもこれじゃあネタ感強いし……

 しかし誘惑には勝てなかった。私の手には1本の木刀が。あんななんでもありの模擬戦というか殺し合いにこんな馬鹿げた物を。

『いや待って、これ魔力通せるよ』
『これで強度上げまくれ!』
予想外にわたしたちのテンションがぶち上がった。

 私、これでやるのかぁ。魔法は使えないだろうし、他のスキルとかで無理矢理カバーしよう。

 これも日本人の性だと諦める。
 決心すれば諦めはつくもので、戻った時には第5試合、つまり私の前であって先輩の番だった。

「先輩なんだからいいところ見せてくださいよ!」
適当に歓声を送っといた。歓声と言えるかは微妙な内容だけど。先輩はそれにもグーサインを送り返し、拳を構えた。

 確か先輩の武器はアサシンナイフ?硬度はそこそこだけど、殺傷力には欠ける気がするんだよね。
 いやそもそも殺しちゃダメなんだけどね!

 タンっ!床を踏みつける音で我に返る。先輩が何やらこちらを見て、口を動かした。はたから見たら軽く呼吸を整えてるようにしか見えない。さすが先輩だ。

『み、て、お、け』

 刺々しい言葉だ。その棘に刺されたように、私の視点は釘付けとなった。

 そこから先は圧倒的だった。
 沈黙の戦闘で巻き起こるのは、人間が努力で行き着く最高地点と赤子の戦いだ。いや、戦いとも呼べない何か。

 踏み込まれた足は、すでに相手の足の真横に現れていた。驚きに目を見張る相手方は、咄嗟に振りぬいた拳を先輩に向ける。しかし、先輩の瞳はガッチリ相手方をロックして離さない。

「……ぁッ!」
相手方は吹っ飛ぶ。怖いくらい小さな叫びをあげて。顎に一撃。たったそれだけ。

「…………すご。」
ふとそんな呟きが漏れるくらいには凄まじい。

 相手方も目を見張るものはなくとも中々の動きをしている。吹き飛ばされた反動を使って立ち上がり、アイスピックのようなものを中指と薬指の間に挟んで先輩を追う。
 でも、無情な足掻きに終わる。

 流れるようなアイスピックの突きは、少し体を傾けただけで回避される。心理的な何かで攻撃誘導でもしてるのかってくらい綺麗に躱した。
 そのまま片腕で肘関節を捻って、残りの腕で手を弾く。流れで足を払い、背中を打ちつけると思った直後、腕を引っ張って相手の意表をつく。と、そのまま鳩尾のあたりを踏みつけて床に叩きつけた。

『容赦ねえぇ……』
『ふははっ!中々エグいではないか!』
『こわーい』
頭の中は感想はで埋め尽くされ、でも表には何も出てこない。何か膜でも貼られてるみたいだ。

 なんだろう、何かに似てる。アニメや漫画やラノベの世界の何か、異質なものを感じる。
 舞台の主役のようにがある。でも、ような気もする。

 どちらも事実的には同じでも、根本的な違いがある。

 先輩はそのまま胴体に膝をついて動きを止め、呼吸困難に陥った相手方の首の数センチ横に、落ちたアイスピックをダンッと突き立てた。

 アサシンナイフの出番など、もちろんなかった。

 審判役のメイドによる試合終了のゴングにより、ようやく強制的に意識を開かされているような気配が無くなり、肩の力が抜けた。

 先輩は首にかけられたタオルで汗を拭きながらこっちに歩み寄ってくる。

「ワタシ、新入りのこと結構気に入ってるんです。」
「そう……ですか。」
「何か似たものを感じたんですよ。新入りは光になんてなれない、そうでしょ?」
だから、と続けた。

「陰の戦い方を教えてあげますよ。」
そのまま先輩は通り過ぎた。次は、第6試合目だ。


「両者、用意。」
審判役のメイドの声が左耳から右耳へ突き抜ける。私は、先輩の言葉の意味を考えていた。試合準備の短い合間に。

 光にはなれない、陰の戦い方。
 何を伝えたかったの?先輩は。いやほんとに。

『光になれない。つまり私は陰キャと』

 確かに陰キャだけどだからどうしたの?あんな含みある言い方しといて、ってそもそもあの先輩絶対陽キャだし。

『ふっ、鈍い奴め。同じ私として恥ずかしい』
Cが肘をついて顎を手に乗せるような姿で脳内に現れる。呆れ返っている様が妙に腹立たしい。

『陽と陰。よくある設定だ。こういうものには必ず対極があり、勇者がいれば魔王がいて、主役がいれば脇役がいる』
『つまり何が言いたいの?』
『本当に、私は硬いな。Dはもう分かったようだぞ?』
脳内で小さな私が手を振ってる。何これかわいい。

『私贔屓だぞ、贔屓反対!』

 だったら大人しくしてよ。

 文句を垂れつつ、考える。

『光と陰っていうのは~対極の総称!』
『思い返してみろ、私のスタイルを』
くくく、と含笑いをする。何かとつけてカッコつけないと喋れない厨二病の癖に、と毒突く。おそらく聞こえてる。

「少し猶予をあげる。新人イジメをするほどわたしも子供じゃないから。」
チャラそうなメイドさんが言った。服装は同じでも個性は出るものだ。ぱっと見、人生舐め腐ってるクソガキ感が見て取れる。

 私もそのうちの1人だけどね。

「そうですね、先輩(笑)の顔を立てるのが後輩なので。その言葉……負けた時の言い訳ができますし便利な言葉ですね。」
「んだと?」
ギロッと厳しい視線が送られる。

 いやはや、こんな可愛らしいお嬢さんでも帝国府のメイドさんは怖いね。
 まぁ龍神とかナギアの方がよっぽど怖い。

「ボッコボコにしてやんよ!」
据わった目をして駆け出した。

 いや、感情に任せて全力疾走て。バカでしょ。

『でも威力は十二分な気がするけど』

 それが怖いんだよねぇ。

 私は嘆息をついた。めんどくさいなぁ、と思う。早くこのモヤモヤを解決したいのに。

 先輩、なんか戦い方教えるとか言ってたよね。なら、パクっていいのかな。

 一瞬汚いかなと思ったけど、私は綺麗事の塊で生きてる勇者でも正義の主人公様でもない。大切を守って生きていければいい人間だ。汚くたって、死なないためならやってやる、と思える。

「そうだ、私は主人公じゃない。美水空、生粋の日本人だ。」
一度瞑目し、集中する。

 泥水を啜って、学べるものを学ぼう。

 先輩の言いたいことが分かった気がする。確かに、彼女は先輩だ。
 これからはちゃんと先輩と呼ぼう。

 目を開けて、周りを耳だけで観察する。どうやら目の前の相手はキレると手がつかない狂犬らしい。普段は単純でいなしやすい、センスの人間。

 私はタンっ、と音を鳴らして踏み込んだ。
 懐に仕舞われた木刀を振り抜くと、振り上げる。嘲笑うように口角を上げた先輩(笑)は、鉤爪を振り上げるため強く踏み込もうと足を上げる。

「ぁ……ァっ……」
先輩(笑)は呻いた。床に木刀。喉仏に私の拳があった。息ができず咽せている。何が起こったかはご想像にお任せする。

 勝ちを確信し、私はやることやって舞台を降りる。

———————————————————————

 急にまじめ腐った……というより暗い?重い?雰囲気の文体になったような気がしますね。
 いくら空がチーターでも、ネイファや皇帝のような技能派に勝つことは無理です。あの時のようになります。
 時には教えも必要、ということですね。
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