魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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15章 魔法少女と帝国活動記

482話 魔法少女ははじめてのお使い

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「一応、帝国府の召使いも帝国軍人の扱いなんですが。そこのあたりをしっかり理解しているのですか?」
紅色の髪を雑に後ろで括った女性、私がメイド長とかクソみたいなあだ名をつけてしまったアングレア指揮官である。

「帝国軍人なら幼子だろうと規律を保つ。あなたはどうでしょう。」
朝っぱら。太陽が上りかけている中で私はメチャクチャに叱られている。後ろに並ぶ別のメイドの列は、多くのメイドが眠そうに欠伸をしてる。

「寝坊?馬鹿にするのもいい加減にしてください。初日からどのようなおつもりで?」
「…………すみません。」
「高官には礼儀を忘れないことです。」
「…………申し訳ございません。」
アルマジロが甲羅に隠れるみたいに、完全に丸まる私にようやく怒りを収め、「仕事に取り掛かってください」と踵を返して手を叩いた。

 ブラック!思ってたよりもブラック!

 手に握られた時刻表と共に脳内で不平不満をぶちまけた。

 なに?日の出と共に整列とか聞いたことないよ!?午前は各部屋の清掃、武器庫の清掃や準備も一任されている。そのまま外の箒掃きに買い出し。そして小休憩の後に戦闘訓練。

 メイドとはどこへ!?メイドってなんなの?戦闘メイドチームでも結成しようって?

 ツッコミが止まぬ中、更に予定表を進める。

 最後に帝国府内の廊下、壁、天井、窓その他諸々の清掃。業務を終えて寝る。そしてまた戻ってきて……

 メイドというより奴隷だなこりゃ。

「いつまでぼさっとしているのです?私はこれから高官の控室の清掃へ向かうので、あなたはこれを。」
「これは?」
「軍人の食事は我々が作るのですから、買い出しがあるのは当然です。こちら、帝国府専用の問屋の位置です。ネインアーレ軍隊長殿から、あなたには空間収納の技能も持つと聞いているので。」
私は呆然と立ち尽くしたままに仕事を受けさせられ、それがまるで義務のように立ちはだかる。

 まぁ掃除よりマシ、かな?アーレも悪気はないんだろうし、文句言えた立場じゃないんだから……

 トボトボと、メイド服のまま初めてのメイド業を始めるのだった。

 それから帝国府を出て、地図の通りに歩を進める。

「帝国って人口どんくらいなんだろう。……明らかに静岡とは比べ物にならないけど。」
出身地と思い出して見比べながら、密度のエグさに悶々とする。

 えっと、位置的に街の外れ?森の方向かな。

 行ってみれば、外界から隔離された地下から地上にまた上がるタイプの特殊な構造になっていた。

「なんかスパイの拠点みたい……」
「ここはかつて皇族の隠れ家としても機能していたと言われておる。」
「うおっ!?」
そこには影の薄いおじさんがいた。気づかなかったけど、地下への入り口の真横に受付のような窓口のようなものが設置されている。

「新人か?」
「ええ、まぁそうです。セレストです。」
ぺっこりと頭を下げ、皇帝からもらった名を口に出す。

「これはまた可愛らしいメイドなことだ。あそこはどいつもこいつも人殺しの目をしておるからな、新鮮じゃ。」
そう言いながら肩につけられたマークを見る。指で進行方向を指し示し、しかしそこは壁。

「あのぅ、どう通れば?」
「魔力を通してみなさい。」
正面の道の半ばの横壁、そこに手を触れて魔力を流す。言われるがままにやると、なぜか一部が透明化する。

「侵入者対策だ。奥に進むと牢獄へ一っ飛びさ。」
かっかっかっ、と大口に笑う。私は引き攣った笑みのままゆっくり慎重に足を進めた。

「怖っ。帝国怖っ。」
常に生きた心地がしない。一層の警戒を持って道を歩む。

 こんなんなら普通に四神集めの方が……いや普通に嫌だな。無理だやりたくない。
 結論、家で寝たい。

 一刻も早く枕を手にしたい気持ちを抑えていると、扉が見えてくる。装飾のついた扉で、いかにもな感じだ。

 扉を開く。と、大きな賑わいが耳を劈いた。

 大きな市のように、それぞれ区画がありその中にブースがあった。他国からの輸入品やら、国内の産出品。違法そうなブツまであった。
 絶対脱法っぽいけど、後ろを見ればいつものマークで国営なんだと気づく。

 帝国府専用じゃなかったの……?

 首を回して歩き始める。前までこのアホみたいな量をどうやって運んでたんだろう、なんて考えていると、視線が刺さる。

「その格好、帝国府のメイドか?」
上から下、下から上。いつしかの検問の時みたいに、ジロジロと。

「そもそも、初めてで何を運ぶのかわからないんですけど……」
「新人の雑務にしてはちと厳しいな。」
「ちょっと寝坊しまして……」
そっぽをむいて呟いた。

「……帝国軍人としてどうだ?」
なんて言われながら、男は物資の詰められた木箱の山を指差した。

「あそこの連中、午前のうちにこれを全部運んじまう超人集団だからな。まあ頑張れ。」
「マジでメイドなの?あの人達……」
自分の身長をゆうに越す山を眺めて、人としての格の違いを感じる。

 実は軍人ですとかないよね。いやあっても驚きはしないけど。

 任された荷物をひとつひとつ収納しながら、ぼーっと考え事に耽る。

 私は結局どうするのが正解なんだろう。四神、人神は手を出すなというし、あの時の龍神は託すような真似をした。(あの殺し合いの最中に嘘がつける強情さはないだろうと信じたい)
 アーレは今でも何かと頑張ってるはず。それまで私は待つしかないのかな。

 とりあえず、この上手くいかないけどなんとかなってる状況は、よくない。

 それが1番良くない気がする。
 アーレに殺されかけて、なんとか奇跡が起きて助かった。ネイファにも、殺されかけて……なんとか生還した。メイド業だって初日から全然うまくはいかない、なのに自分のできる仕事が回ってくる。

「何か呪いでもかけられてるの……?」
そう疑うくらいの不調を感じとった。

「……帝国府ってのは新人まで超人なのか。」
「別に戦いには使えませんけどね。」
大嘘だ。収納の中に武器が大量にセットされている。

「じゃあ、お邪魔しました。」
靄が晴れない中、帰路を辿っていく。


「……予想以上ですね。あなたに武器を持たせれば、補給要らずじゃないですか。」
歩く物資庫、などと命名されてしまった。普通に名誉毀損とかで訴えようかな。

 帝国にそんな法律ないだろうけど。

「お疲れ様です。いつもなら最低3名は動員して半日かけて運んでいたのですが。」
「あの量を3人で、ですか……」
「人手は足りていませんので。清掃に、これから軍人たちの昼の用意もしなくては。」
そこに運び出しておいてください、とだけ言い残すと再び廊下の向こうに消えていく。

 メイド使いが荒いメイドだ。
 あれをメイドと言っていいか分からないけど。

 それから、荷物整理を終わらせた私に昼休憩の一報が届く。嬉々として休憩部屋に向かうと、ギッチリとメイドたちがつまっていて昼ごはんを食べていた。

 休憩所というよりご飯部屋……
 確か次は戦闘訓練だっけ。しっかり食って体力つけろってこと?

 部屋の前で立ち尽くす。空き机が見当たらない。

「おーっ、新入りさんこっちこっち!」
銀髪を軽ーく波打たせたメイドさんが、手を挙げた。新入りといえば私しかいないから、勘違いすることなくそちらに向かう。

「初日から遅刻なんてワタシがメイドになって以来初めての経験ですよー。ほら、ここ座って。」
「あ、はぁ。」
足置きのように使われていた席に座る。扱いが雑な気もしないでもないが、初日なんてこんなものだ。

「ワタシはフィフィア。フィフィア先輩でもフィーア先輩でもフィフ先輩でも、好きに呼んでくださいよ。」
「絶対先輩はつけなきゃいけないんですか……」
「先輩ですから。」
「そんなに先輩が好きなら先輩でいいですよ。」
「そうそう、新入りは素直の方が可愛いですよ!」
なんか腕を組んで嬉しそうに言ってる。ちょっと勘違いしてそうだけど、見て見ぬ振り。

「ちょっと呼んでみて。」
「何をですか?」
「名前だよ名前。」
「先輩。」
先輩は何故か悲しそうな目をした。

「名前は?」
「ですから、先輩が好きな先輩は先輩って呼びますよ。」
「ちょっと言語を理解できない。」
うちの職場はキャラの濃い人間が多くてく困りそう、と1番キャラの濃いだろう私が思う。

 というか、お腹空いたから早く食べさせてくれないかな。

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 私は冬眠春眠夏眠秋眠と1年間眠り続けないと死ぬ動物なので寝たいです。悪魔の手により眠れなくされた私は早く執筆をやめて眠りたい衝動に駆られながらも今話を書いております。
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