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15章 魔法少女と帝国活動記
481話 魔法少女は謁見へ
しおりを挟む私は人神との対談を終え、自信満々に廊下を歩くアーレの後ろをメイドらしく丁寧な歩調で進む。
「ソラさんは人神と知り合いだったのですか?」
「知り合いというほどじゃないよ。一回殺し合った仲。」
「わたしのライバルということですね。」
「うん違うね。」
瞳に闘志を燃やしたアーレに冷静なツッコミを浴びせ、前を行く。今から、皇帝へ謁見に行くのだ。ちなみに私の顔は情報操作で認識しづらくなっている。
私ってことを気づかれないけど、問われれば分かる程度の認識阻害だ。メイド業には支障はない。らしい。
というかメイド業って何すりゃいいの?料理は人並み掃除はからっきしだけど。
「とりあえずこれが終わればメイド長的な人に挨拶と明日の予定を聞いて今日は終了だよね。」
「そうですね。皇帝に殺されないように頑張ってください。本来なら抱きしめてでもお守りしたいんですけど、人前では『ネインアーレ』でいなくてはいけませんからね。」
「今でも十分饒舌だからこれ以上はやめて?」
私の脳が破壊されそうだから、と注釈をつけて苦笑した。
『第一印象からは想像もつかない流暢な会話だよね』
『私もこのくらいちゃんと喋れるようにならないとだめじゃないの?敬語とか』
私敬語使うと発疹出るし。
『嘘言うなや』
バレてしまった。まあそりゃ私なんだからバレるもバレぬもない。
『私以外でも分かるだろこれ』
私の妄言は置いといて、『おいこら』ちょっと今喋ってるでしょ邪魔しないで。
仕切り直して、私達は皇帝がいるという帝座と呼ばれる場所へ向かう。結構入り組んでいるため、攻めるのには向かなそうだ。逆に、防衛は簡単そうに見える。
「そんなにジロジロ見ていたら怪しまれます。」
「怪しいもんは怪しいんだからいいでしょ。」
小声で注意をしてきたアーレにそう言う。実際、アーレ効果で人は少ないし目立たない。
「ソラさんが空気みたいになっているのは許せませんね。目立つようにし……」
「ないでね?」
「はい。」
こんな調子で大丈夫か、と思いつつも帝座へ辿り着く。荘厳で人の身長をゆうにこす扉を、片手で押す。
「入室を許可した覚えはないぞ、ネインアーレよ。」
まるで超高級ホテルの一室(帝座というよりもうほとんど部屋だ)のようになっており、当の部屋の主は椅子に腰掛け頬杖を突く。
これが、皇帝……
ごくりと固唾を飲む。覇気がえげつない。だからといって、私が負けるとも思えないけど、隙をつかれれば簡単に殺されそうな雰囲気を醸し出している。
「………」
「相変わらず愛想がないな。……して、その娘は?」
ギロリと眼光が向けられる。蛇に睨まれたカエルとはこういう気分なのか。
「見ての通り。」
「メイド以外に形容し難いな。」
仄暗い金髪を靡かせ、問い返す。
「生まれつきの異能持ち。」
「腕はどうした?それをメイドに雇えと?使い捨ての兵ではなく。」
「戦闘に不向き。それだけ。」
事実を淡々と述べる。恐怖や忠誠心などない機械に、敬語を求めないように皇帝はそのタメ口を無視して言葉を続ける。
「仕事はこなしたようだ、その程度は許す。」
「………」
「メイド。前に出て挨拶をしろ。礼儀だ。」
「……っ、はい。」
突然呼ばれて肩を跳ねさせる。演技らしい演技はできないけど、普通でいいや。
ここで実名は言わない方がいいか……?よし、ここは嘘でもほんとでもない中途半端な答えにしよう。
「名乗れ。」
「…………」
沈黙する。しかしこれは無視ではなく、回答できない。回答不可という回答だ。
「名を。」
「そうか、ノーネームか。」
アーレの助け舟に皇帝は小さく頷くと、瞑目したまま適当に告げる。
「セレスト。これからはそう名乗れ。」
「はい。」
できるだけ萎縮したように、仰々しく。そのくらいでちょうどいい。
「朕はディティー・ヘリベリスタ。いずれ世界を手中に収める大女帝の名を魂に刻んでおくのだ。」
不遜極まりない発言も、その威圧感だけでねじ伏せられる。確かに、一度見たら忘れられないなと、フィリオの反応を思い返す。
それより……朕とか使う人、初めて見た。やっぱりお偉いさんって朕って言うんだ。
『そこじゃないでしょうよ』
というツッコミを頂いてしまったため、少しの間思考を中断する。
「では。」
皇帝が左手を挙げた。その手には、小さなナイフが握られていた。食事用の物だ。
「あの世で元気にやるといい、セレスト。」
手が動く一瞬の隙を見逃さない。流石に、この世界の人間がドーピングしたぐらいで遅れをとるようなやわな能力は持っていない。
そもそもこの程度アーレなら余裕……
アーレは上の空で天井のシミ……とかないけど、模様を数えている。
ちょいちょいちょいいいいいいい!何やってんのアーレ!?いや、そうか相手皇帝じゃん。助けられないじゃんよおおおおお!
口調が荒ぶり、しかし外から見ては何にも気づかない哀れなメイド。
くそ、これどうすれば……
都合よく高速で働く思考を利用し、知恵熱が出るほどに回転数を早める。
「ははっ、そう怯えるな。ジョークだ。」
そのナイフを手早く手中に収める。豪快に笑うと、はよ帰れと言わんばかりにしっしと手を払う。
これ……なんだったんだ?
私はアーレが歩く後ろをついていき、何故か自動で扉が閉まる。科学の代わりに魔法がとてつもない発達を見せてる。
『これ滅ぼすのもったいないな。技術者くらいは捕えた方がいいんじゃない?』
まぁ確かに。私も思った。
にしても、バイオレンスな皇帝だった。フィリオの事前情報通りというかなんというか、すごかったね色々。
「ソラさん、いい演技でした。」
「うん。アーレはなんというか、まぁ。」
完全に機械的な態度だったなと頭で浮かべる。でも、1人の少女のアーレにそういうのは失礼な気がしてはぐらかす。
「別に私は演技してないよ。マジでビビってた。」
「もし平然としてたら、多分ソラさんは殺されていた。」
「マジかぁ……」
自分の臆病さを初めて好きになれた。ありがとう私。
「じゃあ次は職場挨拶……だけど、またあんなふうになったりしない?」
「多分大丈夫です。」
「その不確定さなんか怖い。やめて?ねぇ大丈夫だよね?」
不安6割恐怖4割の気持ちで廊下を歩く。アーレの肩にでも掴まりたいけど、そんなことしたら不安も恐怖も感じる前に捕まりそう。
ドナドナっていく先に、目的地はあった。いくつかのメイド服と、胸元にちょっと豪華(?)な装飾のあるメイド服が1人。
「新入り。」
そっけなくアーレが私を差し出す。
「これはこれは。ネインアーレ部隊長。本日はどのような御用向きで。」
目元が鋭いメイド長らしき人が、恭しく頭を下げる。
アーレって部隊長なんだ。初耳。
「……これを。」
「……ふむ、新人ですか。何故?」
「異能持ち。」
「そうですか。ならば、試してみてください。」
「えっ!」
さっきまで見向きもしなかったのに、突然私を見つめた(ほとんど睨みつけられてる)その人にビクッとする。
試してみてって……何すりゃいいの?戦闘系はダメだけど、メイドに使える魔法?
頭をぐるぐる回して考える。さっきから考えてばっかだ。
「あの、そんなすごいのは無理ですよ?浅く広くって感じで。」
「上官の命令には黙って従うものです。」
「はいぃ!」
反応してしまった。圧とは凄い。
何しよ何しよう何しよう!ほんとに!
とりあえず今すぐ発動できて戦力にはならずともメイドにはなれそうな能力を……そんな便利なものないよ!実践に生きてきた私に都合のいい魔法はない!
もう消去法で空中歩行にした。軽くジャンプすると、おお、という感嘆の声が聞こえてきた。
「高所の作業も可能なようですね。確かに、これだけでは戦闘に向いていないにも関わらず軍事利用するには十分ですね」
その言葉を聞いた私は、もう他の魔法はここでは控えようと考えるのだった。
———————————————————————
夢って知ってることしか出てこないらしいんですけど、たまに出てくるマジでよく分からないやつってなんなんでしょう。
小さい頃は見覚えのある景色の夢が多かった記憶なんですけど、最近は、お前誰だよ。どうなってんだよ。ってやつが多いんですよ。
怖いですよね。(?)
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