505 / 681
15章 魔法少女と帝国活動記
479話 不錠の鉄檻
しおりを挟む硬い感触で目が覚める。
とても気持ち良いと呼べる目覚めではない。もっと、木々のざわめきや川のせせらぎで目を覚したかった。
しかし悲しいことに冷たさと硬さ以外に目を覚まさせるに足るものはここには存在しない。
何故ならここは、帝国府直属の牢獄であるから。
「いってぇ……」
苦い声と共にレンは、腰を摩った。
状況を見るに、確実に捕縛されたことは確認できる。記憶もはっきりしている。手に手錠がかけられてるでもない。
すると、ガシャっと扉が開く音がした。厳重な重さを感じた。
「やあやあ、鉄の家の住み心地はどうだい?」
キャスケットを被った少女だった。錆と黴臭いここには全くもって似合わない。
「逃げようと思っても無駄ですよ。影が四六時中見守っていますから。」
「それはまた。……何が目的だ?」
「お教えするとお思いで?いいご身分ですね。今あなたはゴミ以下なのをお忘れなく~。」
ニヨニヨと口角を上げる彼女に若干青筋が浮き立つのを感じながら、フッと息を吐いた。
頭の中はどう脱出するかを考えていた。彼のスキルはご都合主義も手を挙げて逃げ出すレベルのチーターだ。
「まあ、何も知らずに崩壊してしまうのは可哀想なので、何をするかくらいは教えましょうかぁ。」
「ムカつくな。」
「それは何より。褒め言葉として受け取るよ。」
「腐った感性してんな。」
「まともな人間がココにいると思っていることに驚きを禁じ得ませんねえ。」
くるくると牢獄内を歩き回る。まるで警戒していない。
「貴方は実験動物用のサンプルになります。」
「その言いようだと裏があるな?」
「ええ。人体実験と言い換えできますね。」
「この国の倫理観はどこに置いてきた?」
「赤子の頃に溝川に沈めてきたので、どこかしらに埋まってるんじゃないですかねえ。」
くつくつ笑う。しかしどこか無邪気というより悪意を感じてしまう。
サンプルということはレン自身どうこう、というわけではなさそうだ。
「こちら側に堕ちれば軍隊入り、そうでなければサンプル。どちらを選びますか?」
「はっ。つまらん選択肢だ。」
「どちらも選ばないと。」
「もちろん。」
嘲笑するように吐き捨てた。
「俺は俺のしたいようにする。それがこの世界に来てからのモットーだ。」
「その意見が変わらないといいですねえ。」
煽るように笑うと、踵を返す。どうやら、ここから去るようだ。
「世の中には容量があるんですよ。あなたはそこからあぶれないといいですな。」
ははっとまた笑う。背中を見つめ、取っ手に手を伸ばす瞬間、彼女は小さく首を回した。
「しばらくは、牢獄ライフをエンジョイしておくのがいいかと。」
ガシャン。重く鈍い音を聞き終わり、壁に背をつける。
意味がなさそうで含みのある言い方をする奴だ。
帝国と神国の関係の深いところは未知。両者の目的や腹の中も分からない。
やることもなく、魔力を練ってみる。
「……消される?」
魔力を発した瞬間何かに弾かれるように消え失せてしまう。
ステータスは健在だ。片っ端からスキルを使うも、使えるものと使えないものがある。
例えば、内で発動するようなスキル。思考加速や鑑定等の内部完結型のスキルは使える。が、攻撃や外に影響のあるものは発動した瞬間に存在を否定でもされてるみたいに消えてしまう。
「…………クソ。」
こんなところで終わってたまるか。そう心で決意を固め、あのキャスケットの少女に呪詛を吐く。
帝国をぶっ壊してやる。神の前にまず帝国だ。レンはそう強く思う。
「どいつもこいつも舐め腐ってるな、この世界は。」
こうして、図らずとも世界を揺るがす4者の目的が一致してしまった。
これがどのような方向に向かうのか。まだ誰も知らない。
—————————
ネイファ・リンカは帝国の手助けをする神国軍指導者である。
しかし、帝国にも神国にも忠誠を誓うわけではない。
ただ、自身を救ってくれた創滅神様を信仰している人間だから、手を貸しているのだ。
全ては神の御心のままに。
神がおっしゃることが全て。どんな命令より優先されるべきなのだ。
ネイファ・リンカは今日も忠実に仕事をこなす。しかしそれはガワだけだ。
もし神が滅ぼせと言えば滅ぼす。死ねと言えば死んでやる。
彼女はアーレ……いいや。ネインアーレと似ている。だからこそ彼女に自分のことを時たま教える。
惰性で帝国で働いている。共通点はそれだけでいい。
両者の決定的な違いは縋る先があるかないかだ。ネインアーレはそれを見つけて、救われた。そしてアーレとなった。
ネイファは既に創滅神に救われている。だからこそ厄介なのだ。もう魔法少女の手に負える状態を通り過ぎているのだから。
—————————
捕縛されて体感何日か経つ。最近外が騒がしい気がするが、内側からそれを知る術はない。
それから、ここの名も知った。
不錠の鉄檻というらしい。名の通りここには鍵はかかっていない。しかし、裏の意味では鍵をつける必要もないという傲慢が見てとれる。
「子供騙しか。」
レンは小さな声で呟きを漏らす。
ネイファは、何のつもりかヒントなんて残していった。
『世の中には容量があるんですよ。あなたはそこからあぶれないといいですな。』
この空間は言うなれば小さな世界。その世界に容量いっぱいの力を先に封じているために、自身の能力はこの世界に存在できずに弾かれる。飽和状態だ。
飽和水蒸気量を上回ってあぶれて水になるように、能力はあぶれて別のものに変わってしまう。なら、元々の水蒸気を消してしまえば。
「宵闇。」
仄暗い闇に、引力でも宿っているかのように何かが吸い寄せられる。
その場に存在する力を根こそぎ喰らい尽くし、貯蔵することのできる神定魔法。
「そろそろこの窮屈な檻から出させてもらおう。」
手にしたのは聖剣ファリス。砕けるごとに強度を増すという、謎の性質を持っている。ドMな聖剣だ。
口角を上げた。ファリスを構えると、そこに雷を纏わせる。聖剣には炎というより雷の方がマッチする。(物による)
「ここまですりゃ、ただの箱だな。」
腕を鞭のようにしならせ、剣を叩きつける。普通の剣なら鉄が威力に耐えかねて折れるが、これは聖剣だ。
扉ごと地面が抉られた。
「何が目的か知らないが、やるべきことをやるだけだ。利用させてもらう。」
外が騒がしい。人が駆けつける。その前にさっさと退散するべく、適当に壁を切りつけ穴を開けて、逃走したフリを醸し出す。
ここは帝国府。それはもう調査済みだ。
目の前に本拠地があるというのに、乗り込まないバカがどこにいる。
「指を咥えてみておけ。お前の世界を崩壊する様をな。」
首をもたげて空を見る。その先にいるであろう創滅神に不幸あれ。そう願って牢を出た。
誰にも見られることはない。透過のスキルで誰からも観測されることはない。事実上消滅していると言っても過言ではない。
「脱走したぞ!」「なんてことだ……檻も壁もめちゃくちゃだ」「誰かリンカ副機卿を呼んでくれ!」「お前らは外を探せ!そう遠くには逃げていないはずだ!」「紛れていないかよく探せ!」
ギャーギャーうるさいことだとため息を吐く。こんな猿同然の奴らに捕まるなんて御免だ。
少し歩けば、静寂が待っていた。捜索に出ているのだから、ここに人がいようはずがない。
「さて、と。皇帝とやらは、どこにいるんだ?」
「ここにはいませんよ。」
「っ!」
勢いよく振り返る。そこには、見慣れたキャスケットが。
「こんにちは。わたしは神を愛する軍人ですが、あなたは罪人さんですか?」
「……捕まえにでもきたのか?」
目を細める。すると、ネイファはくつくつ笑い声を漏らしながら、一言。
「お話がありまして。」
———————————————————————
レンって登場すると文面がめっちゃ厨二病になりますね。なんか小っ恥ずかしくなってきます。
まぁレンですし仕方ないです。主人公が魔法少女とかいうネタですから。
死に方も雑ですよね。トラックに轢かれるだけなんて。
今時、トラクターをトラックと間違え轢かれたと勘違いした挙句失禁しながらショック死ぐらいしないと。あれ、これこのすb……ナンデモナイデス。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる