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15章 魔法少女と帝国活動記
478話 魔法少女in帝国府
しおりを挟むネインアーレ、改めアーレは胸を張って歩いていた。
皇帝陛下からの勅命により謁見に向かうのだ。しかし、敬う気持ちなど砂粒1つありはしない。全ては自身を地獄の底から引きづりあげてくれた少女へ渡しているのだ。
今から少し遡る。
帝国府中枢に、情報をそのまま転移させるという荒技で侵入した2人はその後、上司と部下という形で繋がることにした。
能力の制限上、触れた相手。質は下がるが触れたことのある相手にしか効果はない。一時凌ぎではあるものの、魔法少女をメイドとして帝国府の一員にした。
あとは魔法少女が自由に動けるように、心の不自由の代わりに身体的自由の高いアーレが下地を引く。
それは、帝国民全ての人間に魔法少女という存在を受け入れさせるというもの。
至難の業なんて生温いほどの行為。それを本気でしようとしている。
何のため?そんなこと聞かれるまでもない。
魔法少女ソラのため。彼女が動けるために、全力をかける。
これから、彼女は全てを欺くのだ。
実際には自分の能力が地味に使い勝手が悪いことを勘づかれたくないのとメイド姿を目に焼き付けたいのが6割ほどだが。
しかし彼女は自信に満ちている。それもそのはず、仲間はなにも2人ではないのだ。
—————————
帝国軍やそこで働く者に住む権利を与えられる、帝寮。帝国府直属で、物理的にも繋がっているその寮の外見はほとんどホテルのソレ。パズールの宿屋の魔力蝋燭(魔力を流すと火が灯るやつ)とは異なり、核石を火属性に加工したものがある。
「文明レベルたっか!」
「静かにお願いしますね。」
そこの一室、当然高位に座するアーレも例外ではなく、私は空いた口を開きっぱなしにして感嘆を漏らす。
もちろん日本の方がうん倍と便利だけどさ……あの暮らしをもうかれこれ半年以上経つとね。うん、もう半年というより何年もいる感じだけど。
異世界は濃すぎる。
「ソラさんにはこの隣の空室を使ってもらいます。設定は、異能を持った魔法の使える少女をメイドとして雇ってほしい、というもので。」
「軍隊とかじゃダメなの?」
「男臭い檻に閉じ込めるだなんて、わたしは許せません。それに、軍になると『勘』がいい人も多いので。」
「それじゃあアーレも危ないんじゃ……」
その疑問はアーレの一言でばさっと斬り伏される。
「情報があるのでその通りに行動するのみです。今はソラさんに素を見て欲しいんですが……」
悲しそうに指を咥える。その仕草にグッとくるものがないと言えば大嘘になってしまう。私は首を少し横に向けた。
「わたしの上に情報を被せるだけなので、わたし自身になにも影響はないので安心してくださいね。」
「それならよかった。」
一息吐いた。敵地のど真ん中で1人きりの心配はなさそうというのは中々に心強い。
人間孤独が1番の大敵だからね。孤独は精神破壊も進めるとんでもない悪魔。どん底から這い上がりを体験してみれば分かるよ。
そっちにも湯姫を派遣してあげよう。
お気持ちだけ。
「なのでこれからメイド姿で皇帝に挨拶に行きます。はぁはぁ……メイド服に早く、着替えてください。」
「私情が濃く感じられるんだけどこれって私の気のせいなのかな?」
「気のせいです。」
そう言って広げたのはクラシカルなメイド服。トートルーナさんとは端々が違う感じのメイド服だ。
もしミニスカとかバニーを出したら切り裂いてやろうかと思ってたけど……
チラッとアーレを見る。不思議そうに首を傾げて、手に広げられたブツを押し付けてくる。
こうもまともな服を持ってこられると……拒否しずらい。
というかよく見ると肩に帝国軍のマークが刻まれている。私帝国軍入りすることになるのか。
これ裏切り行為じゃ?
「こんなん着ちゃって大丈夫?王国側の人間だよ私。完全に王国サイド。」
「逆に着なければ捕まります。」
「着ます着させてください。」
にっこり微笑んだアーレが、衣装……制服をバンバン取り出してくる。
うぉ……近くで見るとよりメイドメイドしてる……あれ、これ背中開きじゃなくて前開きなんだ。よく見るワンピース系じゃなくてセパレートタイプのロングスカートと長袖。
メイド服のアクセントの襟と袖の白も完璧。エプロンもロングだ。
「実際に着てみてください。サイズは合っています。」
「それはそれで怖いんだけど。」
目が輝くアーレに気圧され、コスプレ衣装を着させられる。私が着るとどうしてネタにしか見えない。
重っ……総重量エグいことになりそう。こんなの着てよく家事できるね。
「この服とステッキはないと外さないよ?あと靴と手袋。」
「それ全部じゃあ……」
「そうだよ全部だよ全部ないと私はナメクジレベルの運動能力0女なんだよ!」
ヤケクソじゃと裾を通し、ボタンを閉めていく。襟のホックと袖のボタンも留め、ロングスカートとエプロンを……
エプロンややこしいな。フリルが鬱陶しい。
肩紐はボタン式のようで、腰紐の部分と接合して取れないようにするみたいだ。
腰紐にボタンを入れ、あとはリボン結び。最後の仕上げにフリル付きのカチューシャ(どこもかしこもフリルだらけでもう見たくない)紐のリボンで首下を飾ったら終了。
「何これ……」
腕やスカートを上げたり、触ったりしてみて哀愁を覚える。
絶妙に似合わないなぁ。
こう、メイドといったら凹凸のある体じゃないと。
私と来たらあれだよ。つるぷにぺったん。
「似合ってますよ!かわっ、かわいいぃ……」
「生き恥だ……生き恥を晒してる……私はとうとう変質者の仲間入りか……」
「それは仕事着なので問題はないです。」
「世の中のメイドさん舐めてた。これからはお疲れ様ですと声をかけよう。」
椅子にドカンと座る。いちいちロングスカートが邪魔だ。戦いずらいったらありゃしない。
そもそもメイドって戦闘するものだっけ?戦闘メイドとか二次元だけか。
ならいいのか、と自己完結させた。
「にしても、これどうにかならない?」
立ち上がって、後ろ足の方を見た。少し屈めば床に擦れる。間違って踏みそうだ。
「かわいいですよ。なのでポーズを。」
「しないよ。」
「ほら、ピース。」
「…………ぴーす。」
苦い顔をした私が2つ指を立てている。その時。
「へ?」
「え?」
突然白い光が部屋を覆い尽くし、2つの声が響いた。もう1つは、アーレのものじゃない。
「ソラさん、可愛い。」
「いやいや今じゃないでしょ……」
何故か満足そうに笑うアーレにツッコむと、今起きた現象に目を向ける。
何でこんなことになるのかなぁ……
「何してんですか、人神様は。」
「さぁ、余が聴きたいよ。」
両者呆れ顔のまま時が刻まれていく。
—————————
少女らと人神は偶然にも一致した。
帝国の起こそうとする危機(どちらかというとその後の創滅神の動きによって)を止めようとする人神と、帝国に復讐(明らかに魔法少女と一緒にいたいだけ)しようとするアーレ、戦争を止めたい魔法少女。
結果は違くとも、帝国を止めるという点に関しては一致している。手を組むには十分な理由だった。
異色のトリオはこの場でのみ手を組み、世界を守っていく。
時には従順なフリをして、時にはメイドのフリをして、そしてそれぞれ支え合う。神と人々が対等に足を並べ、歩み始める姿は……かつて四神が目指した姿に近いのかもしれない。
———————————————————————
再開しておきながらなんですが、まだ風邪治ってません。咳がげっほげっほ日進月歩。あ、日が経っても咳が止まらないってことを伝えたかっただけです気にしないでください。
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