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15章 魔法少女と帝国活動記
477話 魔法少女は2度目のジョブチェンジ
しおりを挟む異世界先で異世界転移に合うというのは異世界ものではよくあるお話だ。
私は空を見上げながら呆然とへたり込む。
全く見覚えのない、はためく国旗をただ眺めるだけの私に気遣う民衆などいない。まぁ路地裏みたいなところにいるし。
「中世ヨーロッパ……ザ異世界。別異世界説は薄いかな。」
状況を噛み締めるように口にし、ゆっくり情報整理をしていく。
じゃあここはどこ?スキルは……働く。魔力も他ステータスも完璧。
『どうやらここは』
言い切る前に、目の前に変化が起きた。
「大丈夫……!?」
「……間違えた。目の上だった。」
こりゃ無理だと諦観をもって現実を受け止めた。上空というほどではないものの、空中からアーレがシータしてる。
「受け止めてっ!」
私の腹部に強い衝撃が。もちろん受け止めてなんてない。
まぁチートな服のおかげでノーダメだけど。魔法少女服万歳。
私は仰向けの状態で、お腹の上にドカンと座るアーレに視線をやった。なにしてんの、と聞くまでもなく向こうから口を開く。
「大丈夫?ソラさん、怪我ない?あるのだったらわたしが全身を使って……」
「変態は百合乃で十分だから離れて。」
「……むう。」
小さく頬を膨らませた。クーデレとはこういうことか。
うちの周りには変態が多いからアーレまでソッチに染まったらツッコミ大渋滞だよ。まともな人間が欲しい。
「わたしはあなたに救われました。全身全霊を、この体全てをあなたに注ぎたいと心から思っています。」
「クールに恥ずかしいこと言わないで?というか降りて。」
「敬愛しているのです……!」
「だから降りて?」
一向に私のお腹を下敷きにしたままのアーレ。彼女の敬愛とは一体なんだろう。分からない。
『類は友を呼ぶってね』
『ふはははっ!悪魔が仲間とは楽しいではないか!』
『テンション高いなぁ……それとアーレは人だよ』
『そーいうことじゃないよ~?』
ちなみに変人という枠には私も当てはまっている。これを見て普通という人とは友達になりたくない。
『自分のことだぞーおい』
脳内に私の声が残響するのを流しながら、お尻についた砂埃を払う。
「で、この状況は?」
「彼女にバレてしまったようです。ソラさんの異質さが。」
「ネイファだっけ?」
「そうです。ネイファ・リンカ。せっかくですから、ここで一度情報開示をします。私は丸裸です。」
「脱がんでいいぞー。」
自分の服に手を伸ばしたその腕を私は掴み、平坦に伝える。下手に反応すると変態が広がる。
「まず、ここは帝国なのです。」
「そうそう帝国……帝国!?敵地ど真ん中っ!圧倒的敵地!?」
「落ち着いてくださいよ。」
眉根を曲げて宥められる。いやそんな場合じゃないとツッコミたい。
いや今突っ込んでるの私か。主に敵地に。
「ネイファ・リンカは帝国に協力する神国軍の1つの指導者です。神国の軍隊は教会の役割も果たしているため、彼女は副枢機卿、つまり高官。上下に圧力を与えられる存在。」
「話し続けるんだ。」
と言いつつも耳は働かせる。
「帝国は世界を統一し帝国のものにしようと画作しており、その一環としてわたしのような実験体が生まれてしまった。」
「そしてそれに協力したのが神国?」
「やはりソラさんは天才です。」
「そこまで言う?」
満足げに頷き、何かと褒めてくる。アーレの方が宗教やってるんじゃないかってくらい。
「神国は神創教の拡大を目論んでいるので、神創教を全面的に認めている帝国が戦力を増すのは好都合でしょう。もちろん、わたしは何もしなかった神ではなくソラさんを敬いますが。」
「最後の要らなかったなー。……でも、そうか。ようやく合点がいった。」
顎に指を添えながらもらす。首を傾げるアーレをよそに、少しだけ思考に浸ることにした。
最初神国とか言われて、なんで?って思ったけどそう言うことか。確かに帝国軍の紋章には十字架が入ってた。キリスト教が十字架みたいに、この世界にも似た文化があってもおかしくない。同じ人だ。
帝国は侵攻、神国は信仰。
「ネイファ・リンカは体感したと思いますが影を操る影奏という異能を持っています。」
「質問なんだけど。」
小さく手を挙げる。頼られることが嬉しいのか、すまし顔のまま口角が上がる。
「異能って何?魔法とは違うのは分かるけど、スキルとかとは違うの?」
「少し違います。異能は生まれつき備わっている、神国曰く神に与えられた力。大抵の場合異世界人がこの世界に来た時に保有している能力、となります。」
「じゃあ私には異能はないのか……」
今更ながら残念に思う。私のは異能というより装備だ。
不本意ながらそれに命助けられてるけどね!不本意ながら!
そんな不本意の塊に魔法もスキルも依存している。溜め込んだ色々を小さなため息として吐いていると、「ありますよ」とアーレはズバッと言う。
「あるの!?」
「ヒミツです。」
人差し指を手につけて微笑む。そういうのはキャラが違う。
「……まぁいいや。で、その異能に目をつけて実験が始まったと。」
「そしてその確保をするのがネイファ。話を戻しましょう。ネイファには、神が宿っています。」
「ぶっ飛ぶねぇ……」
いきなり飛び出た神とかいうワード。しかし、これから『神』が重要になっていくことはなんとなく分かる。
今のところ知ってる神は人神、龍神の2人と霊神。それと……
「正確に言うとかけら。人間の細胞の情報体一欠片にも相当しない量のほんの微弱なかけら。」
「その情報はやっぱりアーレの異能?」
「いいえ。本人から直接。」
「本人の自覚ありなのか……キャスケット帽を外すと突然雰囲気が変わった感じがあったけどあれ?」
「あれは『解放』と呼んでいます。」
「なるほど」と呟く。
力を解放というより外部からの干渉を解放してるって感じか。予想が正しければ。
「大雑把なことは分かった。細かいことはまた落ち着いたらにして。ここ、路地裏。」
「そうですね。帝国に不法入国してしまってるので、これから変装していただきますがいいですよね?」
「うん、びっくりな事実が多すぎてどこをツッコめばいい?」
もう笑うしかなくなり、動じなさすぎるアーレに笑みを向ける。微笑み返してくる笑顔に関しては120点だ。
「わたしの異能を仮に『情報操作』と名付けるとして、それを使用して偽造した身分証は発行したのでそれをお使いください。」
「そうだそれ!情報を消せば……」
「ソラさんの存在を消すなんてそんな……!それに、ソラさんの可愛いメイドすが、いえなんでも。」
「ねぇ、メイドがなんだって?メイドがなんだって!?」
「じゃあ、いきましょうか。」
「え?」
私の意識はそこで途絶えた。
目が覚めると、今度は堅苦しい見るからに高位の人がわんさかいそうな建物……というより多分城にいた。
「城ではなく帝国府———皇帝が政治を取り仕切る施設です。」
「うおっ!」
飛び退いて声の主を探すと、そこには予想通りの人物が立っている。
「……一体どうやってんの、それ。」
「生体情報を全て移動させてるだけ。1ミリでもずれれば人間として機能しなくなるかも。」
「こっっっわ。」
なんか変な汗出てきた。平然と言ってのけるアーレに恐ろしげな目を向けるが、TPOは弁える。
「まず、隠れようか。」
「そして変装ですね。」
「しないよ?」
ふふっと笑う。え?ほんとにしないからね?
———————————————————————
キャラ迷走を防ぐために軽くアーレについてまとめましょう。
まず元敵。しかし、壮絶な過去があり存在を認めてもらった末に救われた。そして敬愛。KとI。生徒会。しょうもないギャグ申し訳ございません。
冷静で有能なタイプだけど空にだけはとことん甘く他へのあたりは強い。空の言う事だけは聞く。百合乃は好きじゃない。
一旦これでいったりましょう。
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