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15章 魔法少女と帝国活動記
470話 魔法少女は立ち向かう
しおりを挟む世の中はいつだって理不尽だ。思った通りにはいかないし、機嫌を伺いながらどうこうもできない。本当に運だ。
だから何が言いたいかというと、それはひとつに回帰する。
「昨日のこと、全く覚えてない……」
きりきりと頭が痛む。どうして毎回こうなのか。
いや、厳密に言うと違うんだけど。朝起きて外に出てギルドまでの記憶はある。ある、と思う。
『お困りのようだね。あんな決め台詞みたいなこと言っちゃったのに、それを忘れちゃうなんて』
……なに?揶揄いたいならよそでやってくれない?
『もう、覚えたからね……』
『忘れてるじゃん』
そんなの私に言われたって、忘れてるもんは仕方ないじゃん。何回もループしてあの女性に接触するようになってから記憶が残ってないんだから。
『ぶっちゃけ私達も覚えてない』
だったらなんでそんな啖呵きってんの!
『私は覚えてる~』
『機転を効かせて深層意識に潜ったんだよ、Dは。バカそうに見えて1番気が効くんだよ私』
『バカとかひどーい』
頭がガンガンする。寝起きの喧騒はうざったい。
まとめるとこうらしい。
そのまま記憶を停留させるとなんらかの能力でごっそり記憶を持ってかれるらしい。だから記憶を持った私が深層意識に潜ったと。他の私達の記憶がなくなっても保存が効くと。
「私、殺されてんのか……2回も。」
気分を変えるために立ち上がる。閉じたカーテンを開け広げ、入り込む朝日を手で遮る。
さて、どうしようか。私はどうやら死ぬらしいし、このまま逃げる?そんな選択肢はない。自分の守ってきた大切な場所をこんな都合よく破棄するなんてことはしたくない。
ロアが将来を謳歌できなくなるのはダメだ。ネルが帰る場所がなくなるのはダメだ。守ってきた大切を壊されるのは癪だ。
守るには力が必要だ。私には神の力がある。理不尽なんてぶち壊せばいい。
「やるだけやってみるか。」
そうして私は、ループを再開した。
扉を開ければ百合乃な愛の巣がと呟く。降りればトーストがあり、齧ればほんのり甘みが広がる。
準備は整った。
2回殺されたことに意味はあった。何故なら2つとも死因が一致している。
魔壊病による再生の不可と呪毒による傷口の拡大と出血多量。1度目の死で帝国のエンブレムを見た。2度目の死は、犯人の顔を見た。
「やっぱりあいつは帝国側ってわけね。」
体に対策を施しながら、目を閉じた。顔を明確に思い出し、心で魔法をぶつけておく。
私に動かれないように殺しにくるはず。そこでやり返しちゃえば勝ちと。
玄関を開け、庭に出る。そのままギルドへ向かえたらどれだけ幸福か。
「……ッ!」
とんでもない圧が私の目の前に降りかかる。なんと言うことか、ナイフが顎のギリギリを素通りした。
「ご都合展開で笑える。」
そんなことをほざく私の顔には1ミリも笑みはなく、強張っている。ステッキの能力が役に立ってくれた。
「そこまで弱点つけるんなら知ってると思うけど、私は美水空。異世界からの転生者。そちらはどこの帝国さん?」
「……不覚。けど、殺せば問題ない。」
「問題大有りだけど!?」
とんでもない凶悪思考をしている。怖い。
「ネインアーレ。仮名。」
手に持ったナイフをまるでおもちゃのように回転させる。刺さったらどうするんだろう。沈黙の時間が続くこと30秒。それを破ったのは、彼女の深い呼吸だった。
「この世は、魔法よりも異能が上だ。きみは神から見放された。」
「何を言って……」
「つまり、こういうこと。」
消えた。正確に言うと、私の目の前にいた。そこからは何が何だか分からなかった。気がついたら、地面が近かった。
「ぐあっ……っ」
本当に苦しいと声は出ない。
「異能は理を超える。魔法は、この世界の中でしか使えない。」
「何を……」
「安心して。足を払った、それだけ。」
本当に何もしていませんと言わんばかりの涼しげは表情。前回のループの動揺からは想像もできない。
「早く殺したい。けど、まだ殺せない。だから殺してループする。」
「殺すか殺さないかどっちかにしてくれない……?」
「殺す。」
「……うわ、ど直球…………」
立ち上がり、土埃を払いながら立ち上がる。確かに痛くはない。
「だからって『はいそうですか』って簡単に死んであげるわけないでしょ。」
「なら力ずくで、殺すだけ。」
フードが揺れる。そして、見えないところからこう囁かれた。
「情報は、どんなに強力な暴力よりも強い。この世を制すのは、情報強者。そして僅かばかりの暴力と権力。」
結局は暴力かよと咄嗟に身を捻るが、訳の分からない動きが私を狙う。ぶれているような、残像が残るような歪な腕の動きで。
もうわけ分からんっ!こんなのどうしろって言うの!
強く地を蹴って後退するも、鋭い鉄拳が私の腹部を正確無比に撃ち抜いた。唾液と共に飛ばされる。
痛……くはない。魔法少女服様々だ……
吹っ飛ばされた先。着地して腹をさする。
今までみたいに力技じゃどうにもならない……相手の情報が少なさすぎる。プロだ。動きが洗礼されたプロの技。プロ格闘家が1年アマゾンで修行しましたみたいな動きだ。
ネインアーレはすぅっと目を細めると、ナイフの切先をこちらに向けた。百合乃の仮定未来眼がこの世で1番欲しくなる瞬間だった。
小細工をする隙すらない。
「こんなんこれから相手にしてくの……理不尽すぎる。こんな理不尽この世にあっていいの!」
「ごちゃごちゃうるさい。」
「ちょっと黙って!」
なんかビクッと肩が跳ねた。意識外の口撃には弱いみたいだ。
「こちとら緊張の糸が切れた瞬間死ぬんだよ!?静かにしてくれない?集中できないんだけど!」
「……殺す。」
駆け出してきた。逆鱗に触れたようで、死のビジョンが見えてしまった。
「サンダーサークル!」
ばちぃっと私ごと巻き込んだ雷の半球が出来上がる。ちなみに神雷耐性を持つ私にこんな弱っちぃ雷なんて効かない。
「自分ごと?」
「これなら手出しできないでしょ?……効果時間内だけ。」
ボソッと呟く。仕方ない。魔法にも、制限はあるんだ。今しかないと右手にラノスを握る。腰にステッキはあるため、魔法も完備だ。
よく分からないけど、物は試し。というかこれも意味なかったら戦闘手段皆無!
空間伸縮で空間を縮め、直接その頭を狙った。
「ッ!?」
ネインアーレが目を見開いた。パァァンッ!という破裂音の次、一瞬よろめき鳥が窓ガラスにでもぶつかったようになる。
効い……た?
しかし、数秒後には頭に手を当てぐわんと首を振った。その拍子にフードが外れ、その耳に帝国のエンブレムが刻まれた耳飾りが。
「きみは生きていてはならない。」
ハイライトが消えた、禍々しい瞳で冷たく吐き捨てられた。空気中から、魔力反応が消えた。
—————————
帝国は表には出ない多くの悪事を働いている。
異世界人の拉致や懐柔。異世界人の細胞や血液、魔力を使用した人体実験。日夜研究者は寝る間も惜しみ研究を続け、犠牲者も日を重ねるごとに膨大となる。
そんな中進められている計画。異能発現実験による軍隊の増産。
不可能と思われたその実験。しかし1度だけ、成功した。してしまった。
被験体No.5、0091。
名をネインアーレという。
初の成功者となった彼女は異能を得て、皇帝から直接名を賜り、諜報・防諜部隊部隊長に任命された。
彼女の能力は凄まじいものだ。帝国で一、二を争う凶悪さ。単なる膂力で言えば《六将桜》に敵いはしないが、異能のレベルが違った。
まだ詳しく解明されていないが、分かることと言えば1つ。情報操作。これをどう捉えるかは、人次第だ。
帝国軍最高傑作はこうして生まれた。
———————————————————————
風邪って地味にうざいですよね。執筆遅れてるのも風邪のせいです。東京のため、少し休養をいただいてしまったcoverさんですが、東京で心機一転、遅筆を直したいと思います(無理)
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