上 下
493 / 681
15章 魔法少女と帝国活動記

467話 魔法少女は回れ右

しおりを挟む

 森だ。360度どう見たって森だ。魚眼レンズや定点カメラを使おうと森だ。
 魔物を探すため、私達は歩を早めて山道を踏み締めていく。

「Bランクともなると姿も見ないね。」
「低ランクは見るんですけど……」
身を屈めて横に続く百合乃がそう溢し、首を回す。

 高ランクになると低ランクの人のために雑魚の魔物はできる限り討伐しないようにというルールがあるらしい。
 厄介なことだ。

 今回討伐するのは白鳴という白っぽい虎だ。その上位種に白虎というのがいるらしい。「びゃっこ」と思いきや「はく」という読みらしい。

 というか、カタカナじゃない魔物なんて初めてもしれない。
 今度理由聞いてみよう。

「白鳴の毛皮、ですか。上質で、貴族の家のカーペットや布団になるそうですけど……なんでそんな嗜好品のためにわたしはこんなに苦労しなきゃいけないんです?」
「お金もらってるからだよ。」
正当な対価だと頭にチョップし、先を急ぐよう指示する。

 場所は竹林付近らしい。交易のために馬車を走らせていたら発見した。討伐求と。

 久しく竹林の村に顔も出してないし、暇があったら出してみよう。当面の間は普通に仕事して、またいつか忙しくなる日に備えよう。

「空空空さん。」
「空が多い。」
「空、が青いですね。」
「若干曇ってるけどね。」
「青と空。青柳と空。青柳空。つまり私と空は結婚していると言っても過言ではn」
「過言だよ。過言すぎるわ。」
他所から見たら奇妙な会話も、私にとってはなんの変哲もな日常会話だ。それはそれで怖くもあるけど。

 そして百合乃や。私は百合に萌えることはあっても、百合になった記憶はないぞよ。

「百合っていうのは現実であってもおいしくない。二次元になって輝くんだよ。」
「なんですその実写否定理論。空は実写化映画は見ないタイプです?」
「見ないね。二次元だからこそ許せる展開を三次元でやられてもと。日本人顔に多彩な髪はダサい。」
「韻踏んでます?」
少し前に韻を踏ませてきた私の影響が少し残っていた。私が多いのも困りものだ。

『私がいなかったら私はとっくの昔にお陀仏だったことをお忘れなく』
『そうだよ!誰のおかげで原素を獲得したと思ってるの?』

 はいはい、そこは感謝してますよ。
 さあみなさん、私達に感謝の言葉を。

『ありがとーございました!』
『Dを仲間にするんじゃない!あとその小学生みたいなありがとうの言葉やめい』
こういうところなんだよなぁ。と、心でボソッと呟く。きっと聞こえてるであろう。なのになんで言ったかって?言った方がストレスにならないから。

「私は原作至上主義だからねえ。漫画原作なら漫画しか読まないし、ラノベ原作ならラノベしか読まない感じかな。アニメは別腹。」
「わたしは百合百合しければ。」
にっこりはなまる、両腕で丸を作る。手の形が三角だから、腕の丸か手の三角か判断に迷う。いや、百合乃だから迷わない。

「いやこれなんの話。」
ぺし。百合乃が私に攻撃を仕掛けた。

「さーて百合乃はやる気みたいだし、白鳴の元へ一直線にしてあげよう。」
シュッシュっとボクシングポーズ。百合乃は「やめてください!暴力反対!」と慌てふためきながら腕を盾にする。

 おっと、そんな貧弱な盾でどうやって私のパンチを防ごうというのかね。
 百合乃に向かって数歩進み、右ストレート。

「おりゃあ!」
「ぬぐっ!?」
はせずに、弁慶の泣き所にキック。そのまま軍服の襟を掴んで放り投げる。その先は、もちろん1つ。

『おーらいおーらい~。そこにそれっぽい反応ありー』
『百合乃の実力を確かめておくいい機会だな』
『おー、鬼畜なことするね私』
ぶっ飛んでいく百合乃の行く末を、手で日を遮りながら確認する。

 おー、飛ぶねー。追加で飛ばさなきゃかと思ったけどこれでいけそうだ。

 百合乃目線から見たらどうなんだろうとか、他人事で楽観視する。
 というか、落ちたところで百合乃のステータスなら余裕だ。

「あれ、これじゃ私反応見れなくない?」
結局私も百合乃を追いかけてダッシュした。追いついた時には、なんか囲まれていた。

「見てないで助けてくださいよ!」
サーベルを構えた百合乃が、こっちに懇願するように視線を向けた。4匹、白っぽい虎に襲われている。

「木葉舞木葉舞木葉舞ぃ!」
サーベルを遮二無二振り回す。適当に振ってるようにしか見えないのにちゃんと技なのか、と思う。

 もうやけになってるし。ちゃんと戦ってみてほしいんだけどなあ。

「ファイトー。」
「ファイトじゃありません!でも頑張ります!」
輝く瞳を私に向け、デカい虎にサーベルを振り下ろした。それは地面に突き刺さった。

「烈波!」
波動みたいなのが伝い、直撃した。血液シャワー。白鳴の断末魔が響き渡り、残り3匹は後ずさった。

 うおっ、威力高……っ。
 腹に一撃で即死とか、こんなの当たったら私でも結構痛いんじゃない?

 魔物を即死させる攻撃を「痛い」と形容する私も私で相当だけど、異世界に染まるのならこれくらい慣れなくては。

「わたしだって寝てたわけじゃないんですよ!」
百合乃が消えた。すると、真反対の白鳴の背後にいた。

「縮地、です。」
サーベルが仄かに緑光を発した。

「灯柳。」
技名を宣言した時には、胴体が真っ二つ。綺麗に捌かれてしまった。臓器がこんにちは。

 気持ち悪……っ!中身見せないでよ。目に悪い。私の脳髄にこの光景を焼き付けさせないでほしい。

 剣のデメリットは、こういうところだ。

「ふっふっふっ、あと2匹ですよ……次はどの子から相手ですか?可愛がってあげますよ……」
「怖いよ、怖いよー百合乃。子供が見たら確実に泣く笑顔だよそれ。」
陰のある薄ら笑いにゾッとする。目覚めさせてはいけない何かを目覚めさせてしまったかもしれない。

 ほら、白鳴も怖がって唸っちゃってるよ。え?これは威嚇だって?似たようなものでしょ。

 しかし白鳴も、やられてばかりではないみたいだった。その前足を空中に置くと、立ち上がったのだ。

「空歩いちゃう系です!?」
「さすがBランク。一筋縄じゃいかなそうだね。」
「空も手伝ってくださいよ!」
「白鳴って魔法耐性があるらしいから無理カナ。」
「いける口ぶりじゃないです?それ!空の魔法が効かないならどんな攻撃も通りませんよ!」
右手にいつの間にか、スポーツ観戦のメガホンを持ってカンカンしながら声を届ける。

 フレーフレー百合乃。頑張れ頑張れ百合乃。

 棒読みだ。

 2匹の白鳴は器用に空を舞い、空の上から空弾を放ってきた。そういう特殊能力持ちらしい。タンクが必要そうだ。

 けれど百合乃は、それを回避する。魔断も衝撃断使わない理由は、魔力のこもってない、さらに他者の力によって働く運動ではないためだ。

 百合乃のスキルは謎が多いから実験をたまにするんだけど、衝撃断、これは結構穴がある。
 重力によって動く自由落下の衝撃とか、人の力の加わってない風やら電気やらで働く衝撃は消せない。
 誰かが真下に向かってボールを投げた場合、純粋な落下運動になるまでは効果範囲内だ。

「こんな特殊な相手聞いてませんよ!」
白鳴はこれが効果的だと気付いたのか、攻撃方法を変えない。ゲームじゃないんだから、攻撃方法がランダムなんてあるわけない。

「もう、こうなりゃとことんやってやりますよおおおおお!穿殺しいいいい!」
逃げる足に急ブレーキをかけ、土に足跡を強く残す。そのまま力を前に押し出し、光るサーベルを突き出した。《醒華閃》穿殺し。一撃必殺、堅実の剣だ。

『私、そろそろ抜かれそうな気がするんだけど気のせい?』
『それは真っ当な考えだと思う』
『さすがの私もこれには正直驚いたな』
『びっくりド○キー!』
呆然と柱のように太い光を眺める。心はいつも通り騒がしい。その呑気さを分けてほしい。

「ふぅ……勝利、です!」
Vサイン。光が消え、あたりには何もなくってから百合乃は腰に手を当て声を上げた。

 ……って、木数本消滅してる!?白鳴も……

「何やってんの?素材ごと消滅させたら何も残んないじゃん!」
「空中戦をさせた空が悪いんです。」
「もっとやりようあったでしょ?」
素材を回収しつつ、百合乃に迫る。落ち着いてと両手で制してくるが、気にしない。

「ほらっ、ほら!あそこに変な建物が!」
「気を逸らさせようとしない。」
「本当なんですってぇ……」
渋々振り返る。どんな古めかしい建物か小屋が建っているのだろうと思い、視界に入れた。

「……帰ろう。」
「……そうしましょう。」
それを見て、瞑目した。スゥーっと息を吐き、2人で見なかったことにする。

 こんなところにメタリックな丸形施設なんてなかった。そう、何もなかった。

 再生創々で隠すように木々を再生させ、知らぬ存ぜぬを突き通す。

 触らぬ神に祟りなし、だ。

 私達は、白い虎2匹を戦利品に街へ戻っていった。

———————————————————————

 最近弛んでいる気がするので気を引き締めたいんですけど、どこかに私を叱ってくれそうなバニーガールの先輩っていたりしませんか?しませんよね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...