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15章 魔法少女と帝国活動記

469話 魔法少女は玉響世界 2

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 私はギルドに到着する。早朝だから、いつもより多くの人がギルドに集い仕事を探し取り合っている。
 ランクごとの掲示板、上がるごとに依頼数が減っているのは受けられる冒険者がこの街には少ないからだ。

「さて、このループはどう変わるのか……」
私が観測できる範囲内で4回目のループ。今回はどうなるかと掲示板に足を運ぶ。

「おう、魔法使いの嬢ちゃん。久しぶりだな。」
振り返るとテーデルさん。言葉遣いに似つかない爽やかな顔で、実はギルド内で人気が高いらしい。

 まぁ私はこんなあからさまにモテそんな人は好きじゃないけどね。
 逆張りとか言ったら吹っ飛ばす。

「最近ここらじゃ見ない格好の女が冒険者登録をしてな。この国ではなさそうなんだ。」
「へぇ……そうなんだ。」
軽く流し、同じ依頼を引き剥がすと軽く視線を向ける。そして失敗を悔いる。

 あの時しっかり見てれば反応の違いが分かったのに……!
 もう1回ループするんだった!

 しかし時既にお寿司。仮定であの人を犯人として時点で、行動を変えることはできない。
 基本形を仮定し、それと照らし合わせて確認するとする。

 僅かに視線が向いた。これがただ視線に敏感なのかどうかという問題もある。だとしたら相当なプロだ。

 兎にも角にも特攻あるのみ。なんのために体があるかって?突っ込むためだ!

 私は「どこいくんだ?」というテーデルさんの静止を振り払い、身1つで乗り込んでゆく。

「ねぇ。」
話しかけた瞬間、白を基調とし赤などの混じる軍服?隊服?のようなものに備え付けられたフードを目深に被る。あからさまである。

「……………」
フードの隙間からなんとも言えぬ眼光を感じた。突き抜けるような、刺さるような。

「ねぇ。聞きたいことが……っ」
肩に手を伸ばすと、明らかに駆け出し冒険者ではない身のこなしで肩を引くと、腰を低めて腰に手を添えた。粗暴な雰囲気が、実戦で伸びたタイプを思わせる。私みたいな。

「触るな。」
「っ……」
たった3文字。たった一言。私はたじろぎ、口をつぐんでしまった。女性のものとは思えない低重音を耳に反芻させながら呆然と帰る様を見届ける。

「ほうら、言わんこっちゃない。」
「うるさいなあ。」
バツが悪そうに手に持つ依頼用紙ごと頭を掻き、とりあえず依頼は受けることに。

「白鳴ですか。Bランクですけど、ソラさんならできそうですね。健闘をお祈りします。」
ギルドカードに依頼中の設定にし受け取る。

 白鳴……そうだ、名前の理由聞くことにしよう。

 ファーテルさんに理由を聞いた。
 ちなみに、私の言葉は全て翻訳されて向こうに届いているため、レンの実のことをレモンと言ってもレンの実と言っても通じる。しかし固有名詞である日本、東京、などは通じない。代替となる言葉が存在すれば翻訳してくれるのだ。

『確実に今する話ではないな』
『Cに同意』
『同じく』
『わたしもー』
こういう言葉は場の盛り上げ係として無視するとする。私のルールだ。

「ああ、そのことですね。この魔物は元来別大陸に生息する魔物なんですが、幼体が船に紛れ込んでいたようで。まあ、素材は貴重なのでありがたいですが。」
「別大陸?」
「はい、別大陸です。」
別大陸とか知られてるんだ、とこの世界に失礼なことを考えながら、お礼を言って外へ出た。

 外来種ってことかな。冒険者にとっては旨味になるから結構って考えかな。

 確かにあの毛並みは綺麗だったし。

 4匹中1匹私のにしちゃおうかな。
 でも採取依頼でもあるしなあ。

 とりあえず第一目標にあの謎の建物を加え、あれの調査をするために白鳴を追う。竹林に向けて、歩幅を広げて歩いていく。

 舗装された馬車路を魔法少女の靴でコツコツぴちゃぴちゃと……
 ぴちゃ、ぴちゃ?

 あれ、熱い……?

 腹部を触る。何か生暖かい、液体の感触が。呆然と立ち尽くし、何が起こったと頭を働かせるが考えが纏まらない。フラフラしている。思いっきり殴られたみたいな感覚。

 近場の木に片手をつき、瞑目しかける。しかし目を閉じてしまったら死ぬと直感した。

「……血?ブラッド……血液?」
なんでやねんと小さく漏らし、視線を彷徨わせる。状況把握ができない。

『少し前から出血が』
『内臓が一部損傷、腹部が刃物で貫通してる』
『魔壊病!?魔力を無理矢理供給されながら刺されてる』
『重力魔法!出血を止めて、圧迫!』
『流すんだ私!毒が含まれている!この間見た呪毒の類だ!』
『B、C、D!スキルで対処を!』
『『了解』』
脳内で私は忙しなく動き回る。しかし肝心の本体である私が動けないのが難点だ。

 いつ、どうやって……?

 薄れていく意識の中で、血の温もりが冷え切った身体に染み渡るのを感じながら目を閉じ、最後の足掻きとばかりに少しでも状況を把握しようと振り向く。

 視界のほんの一部に、王座に王冠と十字架の設られたエンブレムが目に入り、そして完全に瞼が閉じ切る。

 帝国、かよ…………


「うぁぉッ!」
ベット上で飛び起きた。自分でも状況がよく分からない。外を見ると朝日が差し、咄嗟に腹部を触るもツルツルスベスベな白い肌。不健康そうなことこの上ない。

 昨日の記憶が……いや昨日というか今日か。私的には昨日なんだけど。

 頭がこんがらがり、はあっと強く息を吐いた。

 何があったっけ……ギルド行って逃げられて、外に出てそっから……

 記憶がない。誰がに消されたか。となれば、気付かれた可能性が高い。

「終わった……ぁ」
目を右手で覆う。もう現実を直視できない。

 もし何か工作するためにやってるんならやばいよね。逃げられる確率とか、仕留められる確率とか上がるし、向こうも悠長にしたいだろうし……

「時間はループするのに時間が足りないとはこれいかに。」
仕方ないかと、もう一度同じようにしてみることに。抜けた記憶の正体を探るために。

「わたしとs」
「はいはい分かったからどいて。」
何度聞いたかわからないそのセリフを無視し、階段を降りる。トーストは百合乃の皿に移し、水だけを飲み干すと足早にギルトに向かう。

 私の記憶がない?ループに影響されてる?こんなピンポイントに?これを確かめないで終えるとか三流の仕事だ。

 私はプロのオタク。何かあるだろう時に何も行動しないのは愚策中の愚策!下も下な最低行為だ。命大事にと行きたいのは山々だけど、それどころではない。

 私の勘が言ってる。これを見逃せば、私に輝かしい未来はないと。

 勇み足でギルドへ向かい、今回はきっちり捕まえようと決意し掲示板へ。いや、掲示板にいればバレるため端にはける。

 いつも通りにやってくるテーデルさん。場所が違っても律儀に教えてくれる。
 ほらと、指を差されるが同時に私は小走りで駆け寄り、その腕を鷲掴みにした。

「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど。」
「…………はなせ。」
「あなたって何者?」
「はなせ。」
人を射抜き殺せるような眼光。およそ人の出せる圧ではないものの、神との試練を打ち勝ってきた私の敵じゃない。龍の威を、少し。

「…………ッ!!」
その眼光がより深くなった。それを超えて、お前はなんなんだと怯える様子すら見てとれる。その瞬間、覚えのある違和を感じた。

「………ぐふっ……かはっ、かはっ……!」
変化はすぐに訪れた。目の焦点が定まらず、血を吐いた。刺された位置的に胃か十二指腸が損傷している。吐血はそのせいだ。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
誰かが悲鳴をあげた。目の前の女性は眉間にものすごい皺を作りながら、青ざめた顔で数歩、後ろによろめいた。

「これ、か……ぁ、忘れてた、記憶って……」
どくどくと流れ出る血液を押さえつけ、朦朧とする意識を覚そうと膝を叩くも、小学生並みの力しか出ない。

 呪毒に魔壊病。うん、思い出した。

「ばけもの……」
「どっちがよ……」
毒虫でも食べてるかのように苦い顔をしているであろう私は、ただ汚していることを申し訳なく思いながらもカウンターに腰をつく。

「もう、覚えたからね……」
私とコンタクトを取る。小さく微笑むと、やはり私は瞑目した。呪毒による傷口の拡大に、出血多量。

 私は、死ぬんだ。

 痛い痛い痛い。でも、今までもっと辛いことを耐えてきた。それがなかったら折れてたかもね。

 薄れ遠のく意識を手放し、直前までそう思うのだった。

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 空が2度も死にました。これは事件ですね。

 お相手もお相手で空の弱点を確実に突いて殺す気満々。魔法とステータスに依存している空に、魔壊病と呪毒と刺傷は流石にって感じです。
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