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15章 魔法少女と帝国活動記

466話 魔法少女は働きに出る

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 森が幾らか焼滅したあの日から1日が経った。どこかのCのせいでは私は2人から厨二病判定を受け、可哀想な人を見る目をされた。
 無事に家に帰れたことだけは喜ぼうと思う。

「わたしと空の愛の巣がどんどん侵食されていきます……」
「そもそも百合乃は3番目でしょ。」
「アタシが1番。」
起き抜けにやってきたツララが、縄張りを主張するようににひひと笑う。そのすぐに、トートルーナさんが「朝食ですよ」と声を張る。

「むぅ……メイドならわたしがやるというのに。酷いです。わたしのメイド姿は嫌いなんです?」
「好きではない。」
「嫌いではないと。」
「やっぱ嫌い。」
百合乃の横を通ってダイニングに向かう。契約の翌日からいきなり働いてくれるとかいう神に挨拶に行こう。

「おはよー。ってテーブルくそ綺麗。」
何故か失笑する。いつもの汚さを思い出したせいだ。

「机の上にコップの水跡やらコップが置きっぱなしになってるのやらを片付けましたから。」
「ねぇ、家事をそれでやるのキツくない?」
「はぁ……?わたしは物心ついた頃からこれだったので。」
手慣れた様子でスカートを摘んで少しあげる。エロ漫画ならこのままたくしあげてパンツに手を伸ばし、手取り足取りコウノトリな展開の幕開けだが、ここは異世界。ファンシーでファンタジーなふわふわ世界だ。

「あの、言っておきますけど制服みたいなものなので脱ぎませんよ?正装です。」
「脱げとは言ってないでしょ。」 
「目がエロかったです。スカートジロジロ見ないでくれませんか?」
「私が見てるのはスカートの奥のパンツだよ。」
「尚更変態です!」
顔をぽっと真っ赤にさせ、スカートの上からパンツを隠すように手で塞いだ。その時にツララが降りてきて、「セクハラ?」と呟いたのはまた別のお話だ。

 だけどなんだろう。この違和感。

 いや毎日が違和感だらけかと首を振り、思考を通常に戻す。

 私は善良な冒険者。オタクである前に一端の社会人なのだ。その辺は弁えてるよ。

 百合乃もきたことを確認すると、着席する。私の要望で、トートルーナさんも食事を共にすることに。

「お邪魔します、ソラさん。」
手を合わせた音に合わせるように、扉がガチャリと開かれる。クルミルさんであることは間違いない。トートルーナさんの雇用条件その1だ。

 クルミルさんとの食事、一緒の時間を最低6時間。アホかこいつ、って思ったのは内緒だ。

 契約作成者は、ダンッとテーブルを叩いて飛び跳ねるように立つと「クルミル様!」と忙しなく走っていく。

「行儀悪い。給料減らすよ。」
「空を差し置いて他人に様呼びなんて許されざる愚行だと知るが良いです。」
「百合乃は黙って。」
カリカリに焼かれたパンを齧り、そう言った。ちなみに原材料私の食材生成、捏ねて発酵させたのは百合乃だ。

 ここまで食生活が豊かになってるのはぶっちゃけ百合乃のおかげだからバカにできないんだよね。
 持つべきものは料理が得意な友人に限る。

 どこかの、オーブンに入れたもの全てを暗黒物質に生まれ変わらせるる能力の持ち主(湯姫)がにょきっと生えて睨みを効かせてくる。

「これ食べたらギルド行くけど、百合乃どうする?」
「最近顔出してなかった気がしますしついてきます。ランク上げです!」
「ってわけだから2人で留守番と子守り頼むね。」
困った顔したクルミルさんを引っ張ってきたトートルーナさんに視線をやる。小さく瞬きを返され、仕方なくその返事を了承する。

「百合乃ー用意できたら呼んで。」
「ほはひはひは!」
「食べてから言って。」
水道用の核石でコップを水で満たし、百合乃の口に突っ込んだ。気管に入ったとしても気にしない。

「おぼ、おぼれまず……」
「時を戻せばどうにかなる。」
「概念を超越してます……」
ケホッケホッと水を吐き出す百合乃の背中を仕方なく叩いてやり、そのまま外に連れてゆく。

『思えばこの時から、歯車は狂っていたのかもしれない』

 変なナレーションやめい。

 一方で私は、ドナドナした百合乃をギルドまで運び、ダイナミックお邪魔しますを決め込む。わざわざ1回開けて、その上で思いっきり蹴飛ばすあれだ。

「壊れたら、弁償ですよ?」
「すみません。」
ファーテルさんのお怒りを受け、反省する私であった。

「ソラさんがギルドにいらっしゃるのは珍しいですね。」
「色々あったからね最近。ギルドによる暇がなかったんだよ。」
伸びた百合乃を抱えて、世間話をするかのように言葉を交わす。

「そこのユリノさんは最近よくきていますよね。もうすぐソラさんに追いつくかもしれませんよ?」
「私はランク1回下げられてるからノーカン。」
「その節は大変申し訳ありませんでした。原因ってなんだったんでしょうか……?」
「そ、そうです、ネ。」
過去改編してきましたとか言えるわけないため、笑って誤魔化す。

 あ、百合乃が目を覚ました。
 ってやば!早く手を離さないと酷い目に……

 時すでに遅し。腰に手を回され、私は自衛のために握り拳を作る。

「分かってます。ここから先はパンチラインということを。でも女には……越えなきゃならない壁ってものがあるんです!」
一気に揉み込んだ。私は殴った。

「そんな名言チックに言ったって変わらん。」
受付を通り抜け、掲示板に向かう。百合乃にいちいち構っていたら、時間がいくらあっても足りない。

「なんかいい依頼ない?」
「首締めるのやめてもらっていいですか?地味に苦しいんですけど。」
「百合乃の胸が邪魔だから首にしてるだけ。嫌ならこの脂肪抜いてきて。」
「知っていますか?おっぱいは、夢と希望と、ロマンが詰まっているんです。」
明後日の方向を見つめ、クールに呟く。言っていることはゲスいのに、言ってる人のせいで綺麗な言葉に聞こえるのはこの世の不思議である。

「時間がかからないやつがいいですね。」
「危険度は低いけど金額が高いやつとかは?」
「人生、そんな楽な道はないんですよ。……答えるなら高ランクの商人の護衛ですかね。」
「時間かかりそー。」
視線を左右に動かしながら、掲示板に張られた依頼を流し見する。2人並んで探す。朝っぱらだから、冒険者がごった返している。

「おう、魔法使いの嬢ちゃん。久しぶりだな。」
「久しぶりです。テーデルさん。」
ギルドで何故よく会う冒険者さんに挨拶する。同じく掲示板の前に立つと、小声で話しかけてくる。

「最近ここらじゃ見ない格好の女が冒険者登録をしてな。この国ではなさそうなんだ。」
「へぇ……そうなんだ。」
「他国の人ですか?」
「多分な。」
ほうほう、と百合乃が頷く。会話は百合乃に任せておく。

 他国……と聞くと、印象が良くないね。
 ヘルベリスタ帝国。ケイス。……うぅむ、頭が痛い。

 苦虫を噛み潰したように口元を歪め、こめかみを人差し指の第一関節でぐりぐりする。

「ほら、あれだ。」
そちらに、一瞥をくれる。百合乃にも注意をし、注視しないよう努めた。

「私みたいな奇抜な格好……ではないか。」
「私みたいな格好ですねぇ。」
自身の軍服を見下げ、現れた人物を瞳に映す。確かに珍しいと言えば珍しい。けど、私みたいなのが他にもいるかもしれない。

 気にしたら負けだよ、こういうのは。

「私達も酔狂でこんな格好してるわけじゃない。人にはその人なりの事情ってものがあるでしょ。」
「そんなもんですかねえ。」
「そうだといいんだが。どうも冒険者としての勘がな。」
そう言う彼はCランクである。そこそこベテランだ。1つ、信じてみるのも良いかもしれないけど、気にするほどのことではないようにも思える。

「とりあえず私達は依頼、受けようか。」
Bランクの魔物討伐を仮パーティーとして受け、百合乃のお守りをするのだった。

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 遅筆が混沌を極めました。誰かタスケテ。
 どこかに時間を増やしてくれる妖怪とか居ないでしょうか。
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